【華の乱】難波屋籠城事件

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月28日〜05月03日

リプレイ公開日:2007年05月07日

●オープニング

 混沌とした状況下に揺れる江戸市中。
 当然冒険者ギルドはそれどころの騒ぎではなく、あちらでもこちらでも大騒ぎが起きています。
 その男がギルドに駆け込んできたのは、そんな誰もが殺気だって慌ただしく動いていた、とある日のお昼前でした。
「てっ‥‥てっ‥‥ていへっ‥‥大変でぃっ!! 誰か、誰か助けてくれっ!!」
 真っ青になって駆け込んできた男が手近なギルドの人間の胸ぐらを掴んで泡を食って言えば、捕まったギルドの受付の青年はとにかくギルドの隅っこへと男を連れて行き順を追って話すように宥めて。
「んな悠長なこと言ってられるかいってんだっ! 難波屋がっ、難波屋が大変なんだよっ!」
「‥‥は?」
「だからっ! なんか訛った田舎もんの浪人達があの辺りで暴れやがったらしくて、俺たちが行った時にゃ難波屋で立て籠もっちまったんだよっ!」
「ええええっ!?」
 聞けば男はおきたの兄と連んでいる、ちょっと遊び人な男なのですが、普段はどちらかと言えば腹の据わった太々しい所のある男なのですが、その男が泡を食うぐらいにとんでもない事態へと発展していたようで。
「あの辺りは連れ出しも含めた店が多い分、普通の茶屋とはまぁ、違わぁな。どうも連中、近くの店一つを襲って、女と金で味を占めたらしい‥‥で、あの辺りで評判の難波屋と看板娘に目を付けたってぇわけだ」
 忌々しげに田舎浪人風情が、と男が言う程男達は酷いらしく、どうやらその男達は難波屋に押し込んだようで。
「で、では‥‥難波屋さん達や、おきたちゃんは‥‥」
「難波屋にゃ奥の方と店の方できっかりと分けられるようになっててな‥‥奥に逃げ込めずに表に逃げた女の話じゃ、そこに逃げ込んでいるらしくてな‥‥遠目から見た限りじゃ、奥から誰か引っ張り出すのに成功した様子もねぇようなんだが‥‥」
 何とか逃れてきた女の話では、おきたや難波屋主人達は店奥の方で籠城しているようではあるのですが、それがいつまでも持つとは限りません。
「だから、彼奴はあそこで張ってて機会を窺って居るんだが、1人2人で乗り込んで返り討ちになったら助ける可能性が消えちまう。頼む、難波屋を何とかしてやってくれっ!」
 頭を下げる男に受付の青年も、どこか慌てたように依頼書へと聞いた話を書き付けていくのでした。

●今回の参加者

 ea0592 木賊 崔軌(35歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5980 大宗院 謙(44歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb0862 リノルディア・カインハーツ(20歳・♀・レンジャー・シフール・イギリス王国)
 eb1044 九十九 刹那(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb2872 李 連琥(32歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 eb5401 天堂 蒼紫(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5402 加賀美 祐基(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb5761 刈萱 菫(35歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

天堂 朔耶(eb5534

●リプレイ本文

●亀裂
「‥‥これ以上面倒事増やしてんじゃねぇーぞ‥‥。つか――」
 戦渦に巻き込まれた江戸、そう言いながら離れたところから難波屋へと目を向けると緩やかに息を吐くのは木賊崔軌(ea0592)。
 木賊の視線の先には遠くに見える難波屋の店先にどっかりと腰を下ろして何やら大声で喚き散らしている男の姿が。
「力ずくで女モノにして何が楽しんだか‥‥」
 呆れを僅かに滲ませた声の木賊ですが、全く違う意識の者も居るようで。
「この前は邪魔をされて出入り禁止になったが、こんな状況ならおきた殿に会っても問題ないだろ」
「手前ぇっ!!」
 ギルド自体の信用問題‥‥色は売らない看板娘のおきたを仕事で必要だと騙し無理矢理嫌がるのを連れ込み茶屋に引き摺って中に入ろうとしたのはナンパではなく只の犯罪。
 一行と合流して状況を確認する手筈だったおきたの兄も、自分の都合の良いことだけしか目にも耳にも入らない大宗院謙(ea5980)の言葉と、妹から話を聞いていたことも相まって短刀を抜きざまに斬り掛かり、それを受け鼻で笑う謙。
「このような時にナンパなんて‥‥反省してください」
「‥‥ん?」
 冷ややかなリノルディア・カインハーツ(eb0862)の声と共に足下の影が絡みつき謙の身体の自由を奪うのと、怒りに顔を赤く染めた李連琥(eb2872)が殴りつけるのとはほぼ同時。
「‥‥出すぎた真似かもしれないが、これ以上おきた殿にひどい思いをさせぬためにも! 軟派な男には近寄らせないようにさせていただこうっ‥‥!」
 拳の連撃に、怒りにまかせた投げ。
 前回泣いて嫌がる姿を見ていればこそ、そしてリノルディアにしてもその話を聞いていればこその怒りに倒れ伏す謙。
「あらー‥‥」
 想い人を助けに行けずに歯痒い思いをしていた加賀美祐基(eb5402)も、流石にこの状態に目を瞬かせますが、依頼人たちの怒りを思えば刺激をしないようにそっとする事にしたようで。
「‥‥戦場を求めて渡ってきたならまだ分かります。でもこれでは‥‥」
 なんとも言えない空気の中、騒ぎとは別に先程から難波屋の様子を窺い眉を寄せる九十九刹那(eb1044)がただの賊ではないですか、悔しげに唇を噛み締めるのに、ふんと鼻を鳴らす天堂蒼紫(eb5401)。
「フッ‥‥所詮はその程度の者達と言うことだ」
「‥‥難波屋さんは知らぬ仲でもないですし‥‥早く助けて差し上げたいですわ」
 天堂が言う言葉に表情を心配そうに曇らせる刈萱菫(eb5761)。
「‥‥で、とりあえずあいつらの様子を窺っていたってんだったら少しは状況もわかってんだろ?」
 今にも謙へ止めを刺しかねないおきたの兄を止めながら聞く木賊の言葉に、漸く難波屋へと目を戻して裏に2人から3人が余り間を置かずに回る様子である事、表の浪人たちは店の中で表にあった酒などを開けて酒盛りをしたり、店の金目の物を持ち出して酒を買いに出る者が居たり。
「店内には常に7〜8人ほど居るようだな」
 日に二度ほど、付近へ食べ物を奪いに行っているようだと付け加える兄に頷いて難しそうな顔をする木賊。
「やっぱ表で騒ぎを起こしている間に裏から逃がすっきゃねぇな」
 言いながら難波屋の方へと目を向けて、木賊は呟くのでした。

●救出
「オラァ!聞こえるか田舎浪人ども!! 江戸の混乱に乗じて略奪行為とは、芯まで腐った人間のクズだな!」
 半ば自棄っぱちの大声が難波屋表の道から上がるのに、それまで難波屋の店内で沢山の徳利を転がしながら酒を飲んでいた男達は顔を上げて。
「ああ゛っ!? んだ、おらっ、やかましいぞ餓鬼っ!!」
「がっ‥‥」
 帰ってきた言葉に一瞬言葉を途切れさせる加賀美は‥‥。
「言うに事欠いて餓鬼だとっ!? テメェ一人の力じゃ何も出来ないくせに、集団になったら強気になるってか? あぁっ!?」
「‥‥何やら色々と熱くなっているわね‥‥こほんっ。――略奪以外では見向きもされない腐れ浪人さんっ! いい加減になさいませんと、今以上に恥を掻くことになりますわよ!」
 ちょっぴり菫の言葉の方が威力がある気がしなくもないですが、何はともあれ大声で呼ばわることで目障りにもなったよう、ちらりと店ののれんを押し広げてぎろりと睨む浪人者の姿が。
『弱い者虐めしかできねーくせに‥‥だから田舎者だっつてんだよ! おまけに、自己中で頭も悪いときたもんだ‥‥救いようのない田舎者だな! そんな頭で江戸まで出てくるとは笑っちまうよ!』
「‥‥派手にやっているな」
 下の方から響いてくる声に口の中で小さく呟く天堂は、二階の屋根伝いに身を潜めて進み、屋根より壁にぴたりと張り付くようにして息を殺し中の様子を窺って。
『この餓鬼ゃあっ!!』
 下の階での怒声、それに対して五月蠅いなどと怒鳴りつけてから、改めて酒に向き合う男が二階には2人。
「‥‥いつまで奥を許してんだ? さっさと破って頂くもんはいただいちまおうぜ、金も女も」
「ふん‥‥町人風情が立て籠もりなど‥‥そろそろ裏を大八になんか括り付けてぶち破ってやろうか」
 聞こえてくる言葉、天堂は男達の死角と力量を見定めようと息を殺して様子を窺っているのでした。
 そして、裏口。
『聞こえてんのかー田舎者! ここまで言われて反論もできねーのかよ、この臆病者共が! この加賀美祐基様が相手してやっから、出て来いこの田舎者! 出てこれねえのか田舎者! 田舎者! 田舎者―――っ!!』
『ぶっ殺―――すッ!!』
 表から聞こえてくる挑発‥‥? 兎にも角にもその声に逆上した男達が出たのはまぁ当然のこと、これで大人しくしていられるのならば逆に達観しているというか、それほど思慮深ければこのような事件も起こさないわけで。
「おい、表はなんなんだ?」
「ちと見てくる‥‥――がッ!? ぐえっ‥‥」
 角を曲がるのとほぼ同時に奇妙な声を上げて崩れ落ちる男、そしてその男を踏み越えて姿を現すのは、鬼面に顔を覆わせた、鬼の形相の僧形。
 表から聞こえる声が気になるのか店の裏口を凝視して、まるで向こう側を透し見られるかのようにしていた男がはっとしたように顔を上げるのと金色に輝く何かを身に付けた右腕が繰り出されるのはほぼ同時。
 戸の向こう側では、がさがさと何かを外すような音が聞こえてきますが、男がその意味を知る暇も連琥は与えずに叩き潰し。
「おいおい、流石にちと同情するぞ、こいつらに」
 小さく笑いを含んだ言葉の木賊ですが、戸の前に崩れ落ちた男をていと蹴って適当に寄せて戸へと歩み寄り、金色のナックルを撫でる連琥。
「今、裏と表の戸の積んでいたものを外して貰っています」
 裏の明かり取りの窓から顔を覗かせて中にいた人々と意思の疎通をして頼んだリノルディアが戸の前まで戻ってきて言えば、中の様子を確認するかのように耳を澄ませる木賊と連琥。
 さて、店内では。
 二階にいた男達は、下で騒ぎが起こったのを聞きつけ、刀を手に荒々しい足音を立てて階段を下りていきます。
「さて‥‥難波屋。聞こえるか? 何かが戸板を押さえているのだが、少しずらせ」
 実に簡潔に伝えられる言葉、聞き覚えのある声と判断したのでしょう、がたがたと聞こえてくる物音、天堂が屋根裏から近づき籠城している奥へと通じる戸板をずらせば、するりと滑り込む室内。
 息苦しくなるからと最小限の灯り、閉じこめられていた娘達は小さく鼻を啜っており、女将さんがその2人を宥め、天井裏の戸板を押さえ込んでしまっていた板をずらしていたのはおきたと難波屋の主人。
 裏の戸を押さえているのは力の強そうな純朴そうな男で、何が起きたのかとぱちくり目を瞬かせています。
「あ‥‥あぁ、助け‥‥助けが‥‥?」
 すっかり疲れ切った様子で難波屋が縋るような目を向ければ、中へと降り立つ天堂。
「救出が来る、裏の戸と店側への戸を開けられるように物をどかせ」
「は、はいっ」
 積み上げられた物をあわあわと裏口の方をどかし始めるも、どこか不安そうな目を向ける難波屋ですが、聞こえてきた声に半ば一心不乱に卓やら米びつやら水瓶やらを下働きの男に手伝わせ裏の戸口から動かして。
 その間に表の戸の酒樽をずりずりと引き摺って退かしていたおきたの側により戸へと耳を済ませる天堂の耳に、刹那の声が飛び込んできて。
『‥‥この奥には、行かせません‥‥』
 刹那のその声に戸を背に確保した事を確認すれば、表戸を塞いでいた物を取り除くおきたに手を貸し手早く戸の前を空けていく天堂。
「おきた殿! 無事かっ!」
 そこへ飛び込んでくる声、おきたが振り向けば重い閂を外した下働きの男に、裏戸が開き飛び出した娘さん2人と女将さん・難波屋主人と入れ違いに木賊が中へと入ると表戸へと駆け寄り、直ぐ後から血相を変えて飛び込んできた連琥の姿。
「李さん‥‥」
 飛び込んできた顔と良く知っている声に張り詰めていたものが切れたかのように目に涙を浮かべるおきたに、ほっとしたような泣かせた事に怒るかのような不思議な表情を浮かべる連琥。
「リノ殿について兄君の所へ‥‥」
「はい‥‥来て下さって本当に‥‥」
 目元を拭って微笑を浮かべると、待っていたリノルディアの元へと急ぎ足で向かうおきたを見送り表戸へと目を戻す連琥に、にやりと目が合って笑い表戸を開けるぞ、と合図をする木賊。
「ご無事ですか? 救出に参りました。‥‥さ、こちらに‥‥お兄さんたちが待っていますからね」
 リノルディアの先導の下、側の寺へと向かう一行の表情には、漸く安堵の色が浮かぶのでした。

●撃破
 難波屋の一行が救出された、ほんの少し前のこと。
「この餓鬼、言わせておけばっ!!」
 逆上した男たちが飛び出してくるのとほぼ同時にその男たちの横をするり擦り抜けて奥へと駆け込む影。
「なっ!?」
 声を上げた男が手を伸ばすよりも早く、その手を掻い潜り、立ちはだかる男を軍配で払い小太刀で力強く突き入れながら庭に面した廊下を駆け抜けた刹那は、表戸の前へと駆け寄ると足を止め振り返り、戸を背に守り男たちへと向き直って。
「あなた達は武士ではない‥‥ただの賊だ! ‥‥あなた達のような賊を‥‥この奥には、行かせません‥‥」
 静かな表情のままも厳しい怒りの色を目に浮かべた刹那に告げられる一言、ぴたりと突きつけられる小太刀に刀を抜く2人の男、視界の端では階段を下りてくる男たちの姿があります。
「田舎者の癖に生意気なっ!!」
 青黒い刃を煌かせ小さく舌打ちをするのは加賀美。
 力任せの一刀が襲い来るのを辛うじて受ける加賀美は、なかなか反撃の糸口がつかめずに居ます。
 同じくもう一人の浪人の刀を戦扇子と小太刀で捌いていた菫も同じく上手くきっかけがつかめないで居たのですが‥‥。
「残念でしたわね‥‥」
 強く踏み込んだ大上段からの一撃を紙一重でかわしきった菫の、素早く繰り出す小太刀を捉えきれずに切り裂かれる男が声を上げ、それに意識を取られた男の刀を、強く踏み入れて叩き折る加賀美。
「俺もむしゃくしゃしてんだよ! うがー!!!」
「なっ‥‥畜生ッ! 訳わからねぇこと言いやがってっ!!」
 脇差を抜きざまに斬りつける男の、その切っ先が頬を掠めるのに飛び退って距離をとると、加賀美は改めて刀を構え直して。
「何だ、こいつらっ!」
 店の外での喧騒に今一人が表へ出てくるのには店へと近づいた菫が斬りかかり。
 難波屋の店内では二階から降りてきた男たちに刹那が苦戦を強いられていました。
「‥‥強い‥‥それでもっ! ここは絶対通しません! 私の命に代えても!!」
 横薙ぎに切り込まれた刀を小太刀で受け止めるも弾き飛ばされるかのように庭へと押し出された刹那が、倒れそうになるのを踏み止まり戸の前に立つ男へとキッと視線を戻した、そのとき。
「ぐがっ!?」
 戸から吹き飛ばされるかのように廊下から庭の刹那へ追撃しようとしていた男たちの下へ吹き飛ばされる男、そして裏戸が内側から開かれ、そこに立っていたのはたった今撃ち出した手を引き戻す木賊。
「俺は二本差しじゃねえしな、不意打ち卑怯技上等だ」
 低く笑って爪を拳へと装着し踏み出す木賊は駆け抜けざま振り回される刀を掻い潜って懐へと飛び込むと、足へと繰り出される蹴りに男は耐え切れずにしりもちをついて。
「畜生、中の奴らは‥‥」
「もう既に安全なところへ逃れている‥‥だが、外道ども‥‥貴様ら生かしてはおかんぞ!」
 中へと踏み込む連琥の形相にたじっと退く男も居るには居るのですが、そんなに都合良く逃げ出せるわけも無く。
「いまさら逃げるなんて出来ませんわ」
 表に居た男達を引っ括って踏み込んでくる菫と加賀美、更に木戸から出てくる天堂に、完全に挟まれた形となり。
「くっ!」
「小さな塵ではお天道様の輝きを遮る事など出来ないように‥‥お前らに俺を捕らえる事など不可能だ」
 逃れるために刀を振るい斬りかかってきた男の連劇をいとも容易くかわして言う天堂、斬りかかった男は即座に木賊に叩き伏せられて。
「捨て身で受け、武器の重さと意思の力で返す‥‥これぞ、捨身之重撃・改!」
 庭から逃げようとでも言うのか、壁へと駆け寄ろうとして刹那に阻まれ斬り付けた男は、それを軍配で受け流すと同時に懇親の力を込めて撃ち込む小太刀によって容赦なく斬り伏せられて崩れ落ち。
「‥‥奉行所がどれほど機能しているかわかりませんが、そちらに引き渡せば完了ですね」
 そこへ、おきた達を寺へと預けて戻ってきたリノルディアが声をかけて。
 残らず捕らえられた賊たちが引き渡されるとき、少々同情を禁じ得ないほどに可哀想な状態で引き渡されたのは、言うまでも無い事なのでした。

●一心地ついて‥‥
 寺で湯を借りさっぱりとした難波屋の各人、娘さん方やおきたは菫に髪を結って貰い、リノルディアの用意した暖かく栄養たっぷりの粥を口にして、漸く一心地付いたようで。
「生き返ったようなとは、こういうことを言うのかと‥‥」
 難波屋夫婦が何度も礼を言う側では、菫に身だしなみを整えて貰ってほっとしていたのか泣き笑いでお粥を口へと運ぶ娘さんたちに、お代わりはたっぷりありますよ、そう言って微笑むリノルディア。
「くぅう、せめて‥‥せめて琥珀ちゃんに俺の言葉だけでも――っ!」
「煩い、少しは落ち着け」
 そして天堂の妹・朔耶に頼んでおいた伝言が上手く伝わっているか、泣きながら空に叫ぶ加賀美ですが、きっと彼の伝言と思いは伝わっている事でしょう。
「ま、なんにせよ、大事が無くて良かったな」
 木賊がかける言葉は、果たしておきたに言ったのか連琥に言ったのか。
 ともあれ妹の無事を母親に伝えに戻った兄を見送ってから、にこりと笑うおきた。
「本当に‥‥助けに来てくださってありがとうございます」
 気にするなと笑う木賊と、僅かに顔を赤らめながら当然のことをしたまでと答える連琥。
 そんな様子を、刹那は僅かに口元を綻ばせて見ているのでした。