【華の乱】略奪に消えた村

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 36 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月28日〜05月03日

リプレイ公開日:2007年05月09日

●オープニング

 乱世の時代、戦は武将達の華やかな場と思われることは非常に多いことでしょう。
 しかし、その本質は相手に勝つ物ではなく、奪うこと。
 武将ならば地位と名誉、権力と土地。
 そして、兵士達は‥‥農民から徴兵された物や功を上げようと集まってきた浪人達は‥‥。

「‥‥村が、無い?」
 恐る恐るといった様子で騒がしいギルドを覗き込んでいた女性を招き入れた受付の青年は、女性の言葉にぽかんとあっけにとられた表情を浮かべて。
「え、ええっと、それは、そのまま村が消えて無くなっていると言うことですか?」
「あ、い、いえ‥‥申し訳ありません、言葉が足りませんでした‥‥村に生きている人が見あたらず、無我夢中で逃げてきたのです‥‥」
 詳しい話を聞けば、江戸の付近の村のようで、女性はその村から江戸へと嫁いできており、不安定な情勢にお里へ戻るようにと告げられ向かっていたそうで。
 日も高い内に他の旅人と共に途中まで向かって、村の手前でその人達と別れたのですが、その頃から嫌な雰囲気はあったそうで。
「辺りの作物は踏み荒らされ、村に近付くにつれて何やら虫が知らせて‥‥」
 嫌な予感がしたようでそっと物陰に隠れながら村に近付けば、火の気もなく人のいる様子も見えない村にますます不安を掻き立てられながら手近な家へとそっと寄り、声をかけても反応もなく。
「‥‥それで‥‥?」
「はい、戸も開いておりそっと中へと入ってみると、昔、可愛がってくれたおばさん夫婦が‥‥」
 辛そうに目を伏せる女性、殺されていた親しい人に叫び出したくなるのを堪えて他の家を確認すれば、どこも同じような状況で、しかもそれぞれの家の穀物などを閉まっていた納屋やら馬やら、すっかりと無くなっていたそうで。
 あられもない姿で自害したであろう女も居たようで、男達は大抵が槍などで突かれ殺されていたのを目の当たりにし、その中で女性は暫く呆然としていたようですが、ふと気が付いたことがあったようで。
「気が付いたこと‥‥?」
「はい、私の年の離れた弟を含めた、子供達の遺体が無かったんです‥‥」
 それからどうにか生きている者がいないかどうか、必死になって捜したところ、酷い傷で助からないであろう老人がかすかに息をしており、途切れ途切れに発する言葉で、戦場に向かう途中でこの村に通りかかり略奪をしたで他国の者達がいた事を知り。
 その中で大人達は子供達を森へ逃がしたそう。
「お願いでございます‥‥森で子供達だけでどれほど生きられることか‥‥せめて、せめて子供達だけでも助けたいのです! どうか‥‥どうか、弟たちを、見つけてください‥‥」
 顔を覆って泣き崩れる女性の言葉を聞いて、目を僅かに赤くしながら受付の青年は依頼書へと筆を走らせるのでした。

●今回の参加者

 eb0112 ジョシュア・アンキセス(27歳・♂・レンジャー・人間・ビザンチン帝国)
 eb2810 レフィル・ウォーレグ(20歳・♀・ジプシー・シフール・イスパニア王国)
 eb2963 所所楽 銀杏(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb5820 夜木 蜜華(30歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 eb9825 ラーダ・ゲルツェン(27歳・♀・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ec2350 武者小路 実篤(36歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

霧島 小夜(ea8703

●リプレイ本文

●想いはあれど
「悪いが、今戻れば危ない。何かあれば子供たちだって悲しむ、江戸で無事を待っていてくれるのが一番だぞ」
 夜木蜜華(eb5820)の言葉に目を伏せる依頼人。
 一行は江戸に戻ってきた依頼人の婚家である材木商の寮へと集まっていました。
「村をそのままにしておけない気持ちはとっても分かる、ですよ‥‥でも‥‥山賊たちが村に来ないとは‥‥限らない、ですよ‥‥」
 目を伏せ小さく言う所所楽銀杏(eb2963)に俯く依頼人。
「大丈夫だよ、弟さんたちを見つけて連れ帰ったら、また行く機会はきっと来るよ☆」
「そうだな、それが一番確実だと思うぜ?」
 レフィル・ウォーレグ(eb2810)が、ね? と納得させようと首を小さく傾けながら言えば、ジョシュア・アンキセス(eb0112)も、気持ちは分かるけどな、小さく苦笑すると軽く頭を掻いて。
「ただな、まずはとにかく子供達を無事に見つけ出す必要があるからな、村の方を放っておけないのは分かるが、手が回りきらない可能性があっから‥‥」
「私たちに任せて。きっとみんな無事に救い出して見せるから」
 ジョシュアが宥めるように言えば、依頼人の手を取ってきゅっと握ると力強く頷いてみせるラーダ・ゲルツェン(eb9825)に、まだどこか未練がありそうだった依頼人も頷いて弱々しくですが微笑み。
「‥‥わかりました、どうか、子供達のこと、宜しくお願いいたします」
「必ず連れて帰るからな。‥‥で、だ‥‥奈都さん、弟さんと親御さんの名前、教えて貰えねーか?」
「あと‥‥弟さんが、貴女のものだとわかるようなもの‥‥ありません、か?」
「弟は沢と言います‥‥父は稲吉、母はなほと‥‥」
「たくで、いなきちになほ、っと‥‥」
 確認するように反芻して頷く蜜華に頷きながら、簪を外して銀杏に差し出す依頼人。
「これは嫁ぐときに母が持たせてくれた物なので‥‥見せれば分かると思います」
「はい‥‥では、お預かり‥‥します、ね」
 依頼人・お奈都の簪を預かって銀杏は大切に仕舞まうと小さく頷いて見せて。
「‥‥皆様、何卒宜しくお願いいたします」
 深々と頭を下げるお奈都に頷いて、一行はそれぞれ荷を手に立ち上がると寮を出て行くのでした。

●山賊襲来
 長閑な‥‥まるで乱など無関係のような長閑で人気のない‥‥むしろ人気がなさ過ぎる山道を行く一行。
 見た目からしてお金持ってそうだなーっといった様子の、細工など手の込んだ衣服を、軽く首元を指で広げて少し窮屈そうに小さく息をつきつつ周囲に目を向けているジョシュアは、時折ちらりと木々の間へと目を上げて。
 ジョシュアの視界にはレフィルが木を掻い潜って周囲を警戒しつつ飛んでおり、木に紛れて猟で慣れているジョシュアですら時折見失いそうで。
「‥‥そろそろ‥‥村の側、ですね‥‥」
 風呂敷の大きな包みを背負って歩く銀杏が時折よろめくのを蜜華が荷に手を添え支えてやりながらの道行きで、ラーダは時折後ろを振り返りながら少し落ち着かなげですが、それもその筈、山賊に狙われる事を前提とした道行きだからです。
 残念ながら連絡の行き違いが合ったのか、一人出発に間に合わなかったようで予定よりも少ない人数で歩いていれば不安になるのも頷ける事。
「道沿いにある村だと言っていたな」
 ちらりと上へ目を向けたジョシュアに蜜華が言えば、ジョシュアは上を向いたまま軽く手を振ってから口を開いて。
「大したこたぁないさ、山賊なんてよ」
「‥‥! 優秀な護衛役が居る、ですから‥‥この荷物も、安全です、ねっ?」
 ジョシュアの言葉に目を瞬かせると直ぐに言葉を返して蜜華に頷き返す銀杏、蜜華も察してか軽く伸びをしながら少し声を大きくして続きます。
「第一、逆らえないような弱っちーのばっか相手にしているような奴、俺だけでも十分十分」
「? あぁ、うん、そうだねー、群れるしかない人たちって言うんだっけ? 弱者相手だけに強者気取るんだよねー」
 一瞬皆が何を言い出したのだろうか、と首を傾げかけたラーダもなるほど、と頷きながら声を上げて。
「‥‥怒ってる怒ってる‥‥」
 木の陰から妙な男達を見かけて指差してジョシュアに合図を送ったレフィルは、それによってわざわざ声を上げながら進む一行に目を留めて気や岩の陰に隠れて様子を窺う男達を見て浮かんできた笑いを噛み殺して。
 ぞろぞろ物陰に隠れて近づき始めた賊たちも、前もって上から隠れて窺われているのに気が付く物もおらず、あえて挙げられているお約束とも言える挑発に分かりやすいと言いますか、すっかりと頭に血が上ってしまっているようで、その分警戒も疎かになっています。
 逆に一行はレフィルとジョシュアの連携で怪しい者をいち早く見つけることが出来たわけで。
「おい、手前ぇら‥‥」
「金目のもん持ってんだろぉよ? こっち寄越しな‥‥いい子にしてりゃ、いい目を見させてやるぜ?」
 下卑た笑いを浮かべて出てきた男たち、どうやらジョシュアが子供達を不安がらせないように当たり柔らかに見えるよう髪を結った姿をしていたためか、一行が全員女性と判断したようで。
「山賊か。悪者は大人しく成敗された方が身のためだぞ」
「何言ってやがる、女子供に何が出来るってんだよ」
 蜜華が銀杏を後ろに庇い立てば、さも面白い冗談を聞いたとばかりにげはげは笑う男たちですが、次の瞬間飛び退ったジョシュアの構える弓に笑った顔も固まって。
「こんの×××が――っ!」
 略奪者と山賊、どこに違いがあるのでしょう。
 ただでさえ聞いた話の酷さに憤っていたのですが、こともあろうにのこのこ誘き寄せられた山賊たちが荷を奪う以外にも何を求めているのかに咄嗟に射掛けながら、ちょっと人前では言えないような言葉での悪態を投げ付けるジョシュア。
「このっ!!」
 下っ端らしき男がもんどりうって倒れるのと、上空から打ち出される光に焼かれてもう一人の男から上がる絶叫、日の光を背にレフィルが撃ち込んだサンレーザーです。
「畜生、近づけば‥‥」
「させんぞ。近づくな、鬱陶しい見苦しい煩い不愉快だ」
 懐へでも入り込もうとでも言うかのように姿勢低く突進する男の野太刀を軍配で捌き様、しれっと一息で言いつつ鉄扇で顔面を殴打する蜜華、あれは痛そう。
「このアマッ!!」
 横から飛び込んで、蜜華に手斧で斬りかかろうとした男は、不意に身動きを封じされて顔面から着地の後そのまま砂利道を滑り込み。
「っと、蜜華さん避けてー」
 直ぐ後ろから聞こえるラーダの声に蜜華が身をよじれば、その横を擦り抜けるかのように撃ち込まれる一条の雷撃が、鉄扇のあとを顔にくっきりと残し逆上して野太刀を大上段に振り上げた男に直撃。
「‥‥二人がかりは‥‥卑怯だと思う、ですよ」
「それに戦争に乗じて好き勝手するなんて最低だね!! 天罰覿面だよ!!」
 蜜華の後ろに控えた銀杏とラーダのコアギュレイト・ライトニングサンダーボルトで倒れこみ、悶絶する男たち、一番後ろにいた大柄の男は厄介と見て取ったのでしょうか、物も言わずに身を翻そうとしますが、その男の足に突き立つ矢。
「ここまでしておいて、手前ぇ逃げる気じゃねーよな?」
 直ぐに次の矢を打ち出せるよう狙いを男の喉下にぴたりを合わせつつ言うジョシュア。
 引っ括った男達を、近くの街道にある宿場に知らせにレフィルが行き、そこの役人に――乱のごたごたで大変そうではありましたが――山賊を任せて、一行は再び依頼人の村へと山道を行くのでした。

●薄暗い森の中
 僅かに日が傾き始めた頃、一行は悲惨な姿を現していた村をちらと確認してから森へと分け入っていました。 
「日が暮れる前に何とか救出したいな‥‥村からそんなに離れるとは思えねーけど、変な奴らが大勢で押しかけてきて逃げろって言われたんだったら人気が無くなっていたら戻るか、逆に近付かないかが‥‥」
「‥‥大人が探しに来るまで‥‥隠れている、ですよ」
 事態が事態なので子供達も怯えてなかなか戻れないでしょうし、何より大人達が逃げろと言ったのです、村人がどうなったかをはっきり知らずとも、恐らくは斬りつけられたり突かれたりした姿を逃げるときに全く見ていないとは思えないからです。
 先頭を草を分け入り鼻を効かせるのは、ミミクリーで犬へと変じた蜜華で、蜜華はとある物を目印として捜しています。
「‥‥微かに、赤ん坊の様な匂いがした」
 幾度目かの後、銀杏が布で着替えをする場所を確保すると、蜜華はそこで着物を身に纏いながらそう告げて。
 おしめの匂いもそう、けれどそれとも違った、独特の匂いを感じた蜜華が言うのに、ジョシュアが小さく声を上げて。
「足跡がある‥‥それもこれは子供の‥‥一つだけ他の子供よりも足跡が深い」
「近くにいるのかな?」
 辺りを見回しながら一行の頭上でレフィルが言えば、足跡の様子を窺っていたジョシュアが頷いて。
「まだ比較的新しい。近くに居るぞ」
「‥‥沢くーん!」
 ジョシュアの言葉に一瞬迷う様子を見せたラーダですが、直ぐにすっと息を吸い込むと声を上げて依頼人の弟の名を呼び。
「ん‥‥居たら返事をしろっ! はな、次郎ー」
 着替えを済ませた蜜華も聞いていた名前を確認して子供達の名を呼んで、じっと辺りを注意深く見る銀杏、ジョシュアは足跡を辿りながら一行を先導します。
「あっ‥‥そこに‥‥何か引っかかってる、ですよっ」
 銀杏が声を上げると、木の枝に青い布の切れ端が引っかかっており、見ればその側には坑とも言えなくもない所を塞ぐように枝が幾つか、これまた何とか隠しているつもりにも見えなくもない様子で置かれていて。
「‥‥沢、居るのか? 俺たち、姉ちゃんから助けて欲しいって頼まれたんだよ」
 足跡はこの付近でぷっつりと消えており、怯えたような息を殺した息遣いに気が付いて、やんわりと宥めるように告げるジョシュア。
「皆が安心して帰ってこられるよう、俺達は悪い奴らをやっつけて迎えにいってくれ、ってな」
「お姉ちゃん、江戸で待ってるよ。ね、みんな、一緒に行こう?」
 蜜華、ラーダが言えば、微かに動いた木の枝と共に依頼人の面影を感じさせる少年が顔を出し、どこかまだ警戒するように一行を見ますと、銀杏が荷から布の包みを取り出して。
「これ‥‥預かってきた、ですよ‥‥」
 そっと差し出される簪を見てぐっと泣きそうな顔をする少年は、目元を擦ってから木の枝を取り払って引っ込むと、直ぐに中から5人の子供と、その中の女の子が小さな赤ん坊をだっこしており。
「ちぃちゃん、泣かないの‥‥ちぃちゃん、返事、しなくて‥‥」
 しゃくり上げる女の子の言葉、直ぐに様子を見れば弱っていて泣くことが出来なく案って居るようではありますが、手遅れというわけではなく。
 既に薄暗くなってきた辺り、子供達を連れて村と少し離れたが移動まで戻ると、火を起こして子供達や赤ん坊の様子を見ることにする一行。
 銀杏が怪我をしていた子供を治してやってから、ジョシュアの差し出す保存食を受け取りたっぷりと沸かすお湯で口に含ませ安くすると、赤ん坊をだっこして少しずつお湯で溶けて薄められたそれを乳を吸うかのように弱々しくではありますが、飲み込む赤ん坊。
 おずおずと受け取った食料を口にしても、暫く録に食べていなかったこともあり、ちびちびと食べ勧める子供達も、漸く一心地ついたようで。
「‥‥僕たちの、村は‥‥?」
 やがてぽつり、小さく聞く子供達に首を振る蜜華に、それが理解できる年かさの少年達の目には涙が浮かんで。
「おっとうも、おっかぁも‥‥?」
 泣き出しそうになる少年へと、小さく息をついて蜜華は口を開きます。
「今は泣いてもいい。これからはもっと辛い事があるかもしれないしな‥‥だが」
 言って厳しいとも優しいとも取れる目を向けて言い聞かせるように続ける蜜華。
「だがお前の姉の奈都達もいる‥‥独りではないということを忘れるな」
 その言葉に食事を啜りながら泣く子供達。
 日が開けて次の日になると、江戸へと向けて出立ですが、ぐずる子もおらず、一行は江戸へと急ぐのでした。

●これから
 江戸へとはいるのに大騒ぎが起きて少々大変ではありましたが、やがて奈都の待つ寮へと戻ってきた一行。
「あぁ‥‥良かった‥‥本当にみんな‥‥」
 泣きながら奈都にしがみつく子供達を見る一行、銀杏はそっとそれまで大事そうに抱いていた赤ん坊を差し出して。
「‥‥ありがとうございます。村は‥‥少し落ち着いたら、そう思っております。この子達も、私が、うちの人と一緒に、必ず‥‥」
 目を赤く染めながら何度も礼を言うと、奈都はぎゅっと、無事に生きながらえた子供達を抱きしめて涙を流すのでした。