●リプレイ本文
●少年の証言
「はい、それはもう、こう、僕よりも少し小さいくらいの影が、三つ程‥‥はっきりとは聞き取れませんでしたが、確かに僕たちと同じ言葉を話していました」
少年はそう、思い出すように言います。
「化け物で人語を解するのだった場合、もっと御供えを盗むだけ、とか可愛い物じゃ済まないわよねぇ」
自分の知識の範疇で思いつく化け物を思い浮かべながら水神楽八千夜(ea2036)はそう言いました。場所は村長宅で、茶などを振る舞われながら、一行は兄弟の話をもう一度よく聞いて考えようとなったらしく、休むために用意された部屋に荷物を置くと、こうして居間に集まったのでした。
「ふ〜む‥‥まあ、何者かは分からんが、辻堂からお供えをくすねるなんてのは許せないぜ。捕まえて諭すか、懲らしめないといけないな」
「うん、他人の物をとって食べるなんて、いくらなんでも許せないな。一度痛い目に遭わさないとだめだな」
西中島導仁(ea2741)の言葉に李雷龍(ea2756)が頷きます。
「お供え物を盗むだなんてとんでもないですね! 絶対にこのわたくしが捕まえてみせますっ!!」
導仁達の言葉に少年へと力の入った様子で言う大曽根浅葱(ea5164)の横では、朔良翠(ea2805)と甲斐さくや(ea2482)が少し考えるように話し合っています。
「お子でも不審な者の様子を伺うことができたようですので、そう敏感な相手ではないのでしょうか?」
「ふむ、小さき者‥‥同胞のパラでござろうか‥‥御供えを盗むとなると、お腹が空いているのでござろうか?」
「そんなに凶悪な者では無い気がしますね‥‥血を流さずに解決出来る事を祈りましょう‥‥」
クリス・ウェルロッド(ea5708)がさくやと翠が話しているのを聞いてそう言います。クリスの言葉に頷く2人。
「村で、その子供のような者を見たとか変な物を見たとか、そう言う話は有りませんか?」
「村の近くに来るというのはありませんね。御供えが無くなったというので、気味悪がって、夜に出歩く者は今はおりませんし」
浅葱が聞くのに兄はそう考えるようにして答えます。
「私と弟が見ていた範囲では、少なくとも辻堂のすぐ側の林‥‥村の反対側ですね。そちらから出てきて、こちらに注意を向ける様子はありませんでした」
「お堂の中にこもるのは流石に不味いのでござろうな‥‥軒下に隠れるのは大丈夫でござろうか?」
さくやが聞くのに少年の兄は頷きます。
「はい、お堂自体には、こんなに小さな村ですし迷信などが色々と有りまして、悪い事が起きると思う者もおりましょう。ただ、軒下でしたら普通に雨宿りをなさる方もいらっしゃいますし。どうしても潜む場合、縁の下辺りならば、まだ大丈夫でしょう」
少し考えるように兄が言う言葉に、一行は暫く行動についてを相談しているようでした。
●御馳走設置準備
方針が決まった後から、なんだか村長宅は慌ただしくなります。村の何人かにも声をかけて、御供えを少しずつで良いので増やしてくれ、と申し入れて、村長宅自体はいっそのこと目一杯お供え物を出してしまおう、と思った様子です。
「あ、お味見なさいますか?」
少年がお団子を捏ねながら八千代と浅葱に声をかけます。なんだか、ちょっとした宴会の準備のようにも見えたので、村人達がついでにと集まることにした様子です。
「なんだか少し活気が出てきて良いわねぇ」
八千代がそう言って笑います。
「村では、これが隠し味なんですよ〜」
浅葱が覗き込むのに笑いながらお団子の材料を見せる少年。浅葱はと言うと、感心したように頷いて、時折少年に手を貸したりしています。
「小豆と袋はこのような感じで宜しいでしょうか?」
兄がさくやと翠に話しかけて聞いている横では、村の外に出たことがない男の子達が導仁や雷龍のことをなんだか憧れの眼差しで見上げつつ、冒険者についての話を強請ったりしているようで、時折村人達に『迷惑をかけるな』と子供達が怒られたりしています。
「わ、異人さんだ〜髪の毛きらきらしてるね〜」
クリスはと言うと、村人達は異国の人間を見たことがないのか、ちっちゃな子達が髪の毛に触りたがったりと、なんだか大騒ぎです。
着々と御供え作戦の準備が整う中で、なんだかすっかり村人達に取り囲まれている一行なのでした。
ちなみに、墨を撒いたり道へ水を撒いて泥だらけにするのは止めて下さいと兄に泣いて頼まれて、小麦粉をお堂に撒いたりと言う風にしたそうです。
●3人組の正体
一行は村よりの軒下で、交代しながら出来るだけ静かに小さな生き物がやってくるのを待っていました。夜も更けた頃、ひそひそと小さな声が聞こえてきます。
「兄ちゃ、たまには温かいもの食べたいなのね〜」
「僕たち、こっそりご飯貰ってるから、そんなこと言ってられないなのね‥‥」
「うう、お家に帰りたいなのね‥‥」
そんな風に言いながら、ぽてぽてと、隠密をするでもなくやってくる3人の影。月明かりでうっすらと見えるのを見ると、どうやら3人組のパラの男の子達のようです。
「ね、ね、今日、なんだか美味しそうな匂いがするなのね〜」
中で他の2人よりもほんの少し小さなパラの少年がぱたぱたとお堂へと上がると、お供え物の山に目を輝かせます。
「凄いなのね〜美味しそうなのね〜」
手を伸ばそうとするのに、すぐに2人も追いついてきて、こつんと軽く頭を小突きます。
「ちゃんと手を合わせて、頂きます言ってからなのね〜」
「うにゅにゅ、分かってるなのね、ごつん嫌なのね〜」
頭を抑えてから、手を合わせてぺこっとお堂へと頭を下げてから、嬉しそうにお団子などに手を伸ばすと、一つ銜えてから、おにぎりなどと言った、お腹に溜まりそうな物をそれぞれ抱え始めます。
「兄ちゃ、小豆があるよ、頑張って火を焚けば、煮たりできるなのよ〜」
そう言って、嬉しそうに一番小さなパラが袋を抱えて笑うのに、しっかりと食料を抱えて、3人は来たときと同じようにぽてぽてと歩きだします。
「あれが、御供え泥棒の正体か‥‥」
どこか毒気を抜かれたように導仁がぼそっと呟きます。すぐに追跡が始まりますが、パラ達が全く警戒していないと言うこともあり、林の中にある、小さな洞穴とも呼べ無くない穴の入口で、ちょこんと腰を下ろしながら、年嵩らしいパラが一生懸命火をおこそうとしています。
声をかけようとしたとき、なにやら低いうなり声がするのに、気がついたパラがわたわたと一方を見て他の2人へと声をかけています。そちらの方向には、野犬が3匹、パラ達が抱えて持ってきた食べ物に引き寄せられてか、じりっと近づいていきます。
怯えて竦んでしまって動けないパラ達を見て、見捨てられなかったのでしょうか、さくやがパラ達の元へと駆け寄り、それを見て、導仁、雷龍は野犬へと向かい、クリスが威嚇のために野犬の目の前に矢を放ちます。
「み〜〜っ怖いなのね〜っ」
出てきたさくやにべそべそ泣きながらしがみつく一番小さなパラに、残りの2人は御供え泥棒の自覚があるのかびくっと怯えたような目で見ます。
「御供えを盗むなんて、どうしてそんなことをするのかしら? 村の人達が困っているのよ?」
「日陰を歩くは辛いでしょう。焦らず、話し合うことで開ける道もございます」
近づいてきてそう言う八千代と翠に、年嵩のパラが決まり悪げに目を落とします。
「だって、お腹空いてたのね。とうちゃとかあちゃ居なくなってから、住んでた村追い出されたから、人間怖いと思ったのね〜‥‥」
「村出てすぐに、通りかかった怖い感じのおじちゃん達に『命が惜しかったら、金品っていうやつと、特に食べ物を置いていくのね』ってやったら食べてけるって教えて貰ったけど、僕たち全然上手く行かなかったのね‥‥」
野犬を簡単に追い払って戻ってきた導仁と雷龍を見て、観念したかのようにぼそぼそと言うパラの少年達。
「恐いことなどございません。人々は、思っているよりずっと優しゅうございますよ」
翠の言葉に、小さなパラと同じようにべそべそと泣き出す2人。村へと連れて行かれるときも、大人しくついてきます。小さなパラの少年はその間も、何故かさくやの服の裾をぎゅっと握って離さなかったそうです。
●お腹一杯で幸せなのね〜♪
「はぁ、なんと、この子達が御供えを盗んでいたのですか」
夜遅くに戻ってきた一行を出迎えて、何も言わずに一行が起き出してくるまで待っていた村長は、驚いたように3人のパラを見ています。
「お腹が空いて死にそうだったのね〜お祈りして、断ってから貰えば、仏様に許して貰えると思ったのね〜」
年嵩のパラがしょぼんとして頭を下げます。一行のうちの何人かがこの村において貰えないかと口添えするのに、村長は思いもよらずあっさりと了承します。
「うちの末には弟が出来るようなもの。ちゃんと村の子供達がやるような仕事を手伝うなら、うちは幸いにも余裕がありますからな」
「着物は、僕のお下がりがありますからね。まずはご飯ですかね?」
言われる言葉に顔を上げるパラ達に、なんだか嬉しそうにいそいそと立ち上がって食事を用意し始める少年。
「これで『お堂の御供えが無くなるのは悪いことが起きる前触れ』と不安がる物もいなくなりましょう。皆様、有り難うございます。本日はごゆるりと‥‥精一杯おもてなしさせていただきます」
そう言って頭を下げる村長。
パラの少年達は着替えを貰ってさっぱりした様子で、出されたご飯をえぐえぐ泣きながら食べています。
「お腹いっぱいで、幸せなのね〜♪」
小さなパラの少年だけが、良く分からずに幸せそうな顔をしているのでした。