【凶賊盗賊改方】帰るべき者

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 0 C

参加人数:8人

サポート参加人数:7人

冒険期間:05月16日〜05月23日

リプレイ公開日:2007年05月28日

●オープニング

 その日、あの騒乱以降会わなかった人物に呼び止められて、受付の青年は目を瞬かせて見返しますが、何かを言うより早くその古びたお堂へと引っ張り込まれたのは、少々日差しの強い昼下がりの事でした。
「‥‥旨い具合に通りがかっていただけ助かりました‥‥」
 そう言って笑うのは凶賊盗賊改方の同心で、消息知れずでもあった荻田。
「お‥‥荻田さん‥‥? ぶ、無事だったんですね!?」
 笑いかけようとした受付の青年がはっと改めてみれば、裾に隠れていた左手に巻かれた包帯の歪さに問うように荻田の顔へと目を戻す受付の青年。
 改めてみれば町人風体の旅装束、受付の青年の表情に小さく笑う荻田。
「ちょっと左手をやられましてね、何、指の二本、大したことではないですよ」
 万が一傷口が、と言う事で包帯はしてあるものの既に出血の方も治まり、余り支障はないという荻田。
「それで‥‥」
「‥‥あまり表立って頼めない仕事なのですが‥‥信頼できる方をお願いしたく」
「‥‥と、言いますと、関係者?」
 受付の青年が尋ねるのに少し考える様子を見せる荻田。
「‥‥頼みたいのは、江戸へと戻る手引きなのですよ。勿論、私のように単身で入り込むならば、各々手を打つことも出来ましょう。しかし‥‥」
 そう言って目を伏せる荻田は、小さく溜息をついて。
「‥‥遺体が3人分‥‥これは、戦地から離れ手当をしたが助からなかった者です。せめて、江戸に連れ帰り眠らせてやりたく‥‥津村さんも同意見です」
「‥‥‥津村さんは無事なんですね? でも、助からなかったというのは‥‥」
「共に戦地へ向かった、同心です」
 荻田の言葉に言葉を失う受付の青年。
「御頭は‥‥我らの指揮を津村さんに任せ、逃れる対象を守り戦地を切り抜け逃せ、と‥‥自ら殿を勤められ‥‥」
「‥‥消息知れず、と言うことですね」
「浅間さんは‥‥立派な最期でした‥‥。戦地から、連れて帰ることが出来ず、それが、口惜しく‥‥」
 捕り物の指揮を任され先陣を切って打ち込むことの多かった与力を思い返し、僅かに顔を歪ませるも、すぐに表情を引き締める荻田同心。
「敵陣突破のどさくさに紛れて散り散りに鳴ってしまった仲間も、何らかの手立てを使って江戸へと戻ると思います。ですが、私も津村さんも、亡骸を置いていくことは‥‥」
「‥‥」
 荻田の言葉に苦しげに顔を歪めると、受付の青年は依頼書へと手を伸ばして。
「関係者や、その推薦、口添えのある方などに、当たってみます」
「‥‥なにとぞ、お願いします」
 荻田が頭を下げるのに、受付の青年は依頼書へとぼたぼたと涙を零しながら筆を走らせ続けるのでした。

●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2806 光月 羽澄(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8922 ゼラ・アンキセス(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb1555 所所楽 林檎(30歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb2004 北天 満(35歳・♀・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb2719 南天 陣(63歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

風羽 真(ea0270)/ グラス・ライン(ea2480)/ 風斬 乱(ea7394)/ ジーン・アウラ(ea7743)/ ジョシュア・アンキセス(eb0112)/ 瓜生 ひむか(eb1872)/ 木下 茜(eb5817

●リプレイ本文

●江戸
「荻田さん‥‥良かった‥‥」
 ほっとした様子で息を吐いて言う光月羽澄(ea2806)に、見知った顔を見て荻田もほっとしたような表情で頷きます。
 そこは綾藤の離れの一室、荻田は商人の姿で綾藤へとやって来ると一行と顔を合わせることとなり。
「そっか、改方もあの戦に借り出されてたのか。又顔を合わせるのを楽しみにしてたってのに、こんな事になっちまって‥‥」
 額に手を当てるようにして深く溜息を吐く御神村茉織(ea4653)、今回連れ帰る同心達も、生き残った津村武兵衛や早田祐一郎同心もよく見知った相手なだけに何とも言えない痛みに目を落として。
「津村さんや早田さんの様子はどうかしら?」
「早田さんは怪我はしていましたが、かすり傷ぐらいかと‥‥津村さんは肩口に槍を受けたようでしたが、幸いな事に骨にも筋にも異常はなく、痕が残る程度とか‥‥」
 ゼラ・アンキセス(ea8922)が尋ねれば答える荻田、他にも話題に上るのは現状と、そしてやはり行方不明と思われる凶賊盗賊改方長官・長谷川平蔵その人のこと。
「鬼平の旦那の行方不明も、な‥‥捜しに行きてぇところだが、闇雲に探し回ってもどうにもならねぇしな。‥‥ちっ、しかし遣り切れねぇな」
 くしゃっと髪を掻くように僅かに呻く御神村に、沖田光(ea0029)は考えるように目を伏せて。
「先程改方役宅に寄らせていただきましたが、未だ情報らしい情報は寄せられていないそうでした」
 光は役宅で現在仕事をしているモンドへと口添えを頼みに行ったらしく、その時に互いに情報を交換し合ったようで。
「何にせよ、まずは連れ帰ってやんねぇとな‥‥」
「伊達兵が何処まで徹底して取り締まるのかはっきりしない点があるけれど‥‥慎重に進めないといけないわね」
 御神村と羽澄の言葉に、先程からじっと座っていた所所楽林檎(eb1555)も口を開いて。
「‥‥‥‥帰る場所があるならば、帰そうと思うは道理‥‥試練に立ち向かった者を見捨てるなどできましょうか‥‥」
「ええ、モンドさんにお願いされたのもありますが‥‥亡くなった方々も、暮らした土地の仲間やご遺族の元へ、きっと帰りたいでしょうから」
 光が頷くと改めて荻田から場所を確認する一行。
「俺たちが責任を持って連れ帰るから、難波屋の方で養生していて貰えねぇかと‥‥」
「分かりました‥‥怪しまれたりしたら事ですからね。先方へはその辺りへとついてみれば直ぐに分かると思いますよ」
 万が一のことも考え、手の怪我も完治とは言えない為、江戸で待って貰うことを選択した一行に、自身がついていく事による危険性を良く理解している荻田も素直にそれに同意して。
「ちょうど良かったです、しっかりとした調査までとはいきませんが、幾つか候補が絞れました」
 そこへ南天陣(eb2719)と共に部屋へと入ってきた北天満(eb2004)が言えば広げられる絵図に一行は目を落とし、ジーン・アウラやグラス・ラインが調べて来てくれた情報を満が一行へと伝え。
「この絵図ではこの辺りの関は2つあるけれど、確かこちらの方を閉じて見張りを交代で立てて、こちらの関に絞っているそうよ」
 ゼラもジョシュア・アンキセスの確認してきた関の規模などを補足で説明して。
「江戸に入る道が一番厳しいらしいけど‥‥途中の宿場を通る分には、そこまで伊達の方でも手が回らないらしいから‥‥」
「江戸入りにさえ引き留められれねば問題はないと言うことだな」
 陣が言うのに頷くゼラ。
「‥‥では、連れ帰りにいきましょう」
 その言葉に一同は互いの思いを抱えながら頷くのでした。

●再会
 時折刺すような強い日差しの混じる道を行けば、やがて見えてくるのは高く長い兵と、そして大きな木の門、表札には達筆でその家の主の名が記されていて。
「おお、よくぞ来てくれた‥‥」
「‥‥生きていて、何よりです。貴由もきっと喜ぶと思います」
 荻田からの書状を出し家人に案内されて客間へと入れば、そこにいるのは津村武兵衛筆頭与力と同心の早田。
 羽澄が微笑みかければ頷いて微笑を浮かべる武兵衛。
「早田同心も無事で何よりだな。心配したんだぜ?」
「まぁ、うん、俺なんだかんだ言って悪運強いみたいだしな。それにしても、江戸の方もそうだし、他の皆も無事なのか?」
「ええ、ほぼ皆無事と見て間違いないわ。役宅の留守を守っている人たちもいるし」
 早田は御神村やゼラといった見知った顔を見て随分とほっとしたような笑みを浮かべ。
「‥‥‥‥この度は‥‥姉の石榴の代理と‥‥あと、風斬さんから書状を預かっています‥‥」
 一通り再会を喜び合うと、それまで控えていた林檎がすと頭を下げてから武兵衛へと書状を渡し。
「お力添え、感謝いたしますぞ。南天殿も、良く来てくださった」
「何、自分の関わった者を護るのは南天家家長として当然の勤め」
 書状を受け取り呼んだ武兵衛が感謝を込め軽く礼をすれば、陣にも改めて声をかけて。
「‥‥え、えっと‥‥その、顔は‥‥?」
「お気になさらず、他意はございませんので‥‥」
 再会を喜び合っていた早田は、ふと初めて見る顔である宿奈芳純(eb5475)――もっとも、顔と言って良いのかは何とも言えないところではありますが、ゼラの口利きで早田もとりあえずは納得することにしたよう。
 戦の直後というわけでもなく、取りあえずは大分落ち着いている様子の武兵衛と早田、一行は少し休んだ後、後回しにしていた遺体との体面を果たします。
「‥‥これは‥‥」
 ゼラにとっても御神村にとっても‥‥そして何度か石川島で連絡の遣り取りに顔を合わせたこともある同心も混じって居るため、羽澄にとっても、物悲しい再会となりました。
 それは共に事件を追った陣にしても、そして僧として彼らと対面した林檎にしても辛いもので。
「‥‥」
 感情が揺さぶられそうになるのをグッと息を飲み込むように肩を震わせてから緩やかに息を吐いたゼラは、屋敷の離れ、少しひんやりとした土蔵に綺麗に安置されていた3人の同心の姿に帽子をぐいと引き下げて。
「‥‥‥‥遣る瀬ないわね‥‥」
 何とか息をついてそう言うゼラに、羽澄も小さく頷くと手を合わせ。
「必ず、江戸に連れ帰ってやっからな‥‥」
 御神村が言えば、一行は早田の手を借りつつ着物を脱がせ、用意して貰ったお湯で改めて綺麗に遺体を清め、衣服を変え、念のために髷を町人のように結い直します。
「こちらの荷台に‥‥そうね、他の荷で出来るだけ目立たないように‥‥」
 荷台を用意すれば遺体を入れた棺桶をどのように置くか、羽澄と石榴が着物や身に付けていたものを他の着物に縫い止めている間、ゼラと御神村はそれぞれの位置を確認し。
「あとは‥‥実際に何処まで調べられるか、だな」
 荷台の具合を確認しながら陣は呟くようにそう言うのでした。

●関
 実際の所、江戸入りの関までは御神村の偵察なども相まって上手く躱して進むことが出来ており。
 そろそろ江戸入り手前の、とある休憩所。
「通るときに若めの関守の方に対応して貰えれば、比較的楽に入れるようですね‥‥逆に言えば、年配の方に対応されれば、問題が無くとも言いがかりを付けられることもあるようです」
 先に関の江戸側・街道側で十分情報を確認した満が言えば一同は互いに顔を見合わせて。
「街道沿いをひとけがあるときに通れば、夜盗の被害には遭わないだろうと言うことと、あとは兎に角、伊達兵と遭遇しないよう、刺激を与えないようにと言うことのようですね」
 どうやら色々とややこしくはあるものの、余程顔が割れていると言うことや監視を受けていると言うことでない限りは、その場で目を付けられない限り潜り抜けるのはそこまで厳しいものではないよう。
「我々は単独で戻る方が良さそうだな‥‥単独でならばいくらでも誤魔化しようがあるが、共に行けば足手纏いになりかねぬ」
 一緒に江戸入りできるならばそれに越したことはないのだが、そう痛感しているのは武兵衛。
「では、先に役宅側のそのお寺に‥‥そこから役宅へと知らせを入れて貰う形になるんですね?」
「ああ。俺は荻田さんと難波屋で合流してから直ぐに役宅に戻ることにするよ。‥‥出来れば、付き添って江戸に入りたいが‥‥」
「大丈夫だ、俺たちに任せとけって」
 安心させるようにいう御神村に頷く早田。
 早田も武兵衛もすっかりと姿を商人や町人と言った姿に変えており、確かに別行動を取った方が互いに安全とも思え。
「‥‥では、御武運を‥‥」
 改めて一行へと早田が言えば、こっくり頷き歩き出す林檎。
 遺体の入った荷を他の荷で囲むように乗せた荷車は、瓜生ひむかが用意した香の匂いでだいぶ匂いは緩和されており。
 やがて、江戸入りの門の側。
「待て、お前ら」
 他の出入りする旅人達に混じって入ろうとすれば、呼び止められる一行。
「荷ぃ改める」
 ぴしゃりと言うのは中年の伊達兵らしき男。
「形式上のことすから‥‥」
 物々しい護衛がついていることもあってか、中年男の目は金目の物でも探るかのように不躾な視線を荷へと投げつけ続けており、それを若い伊達兵が苦笑気味に声を差し入れて。
「おい、こいつはどういうことだ? あぁ?」
 荷の中に遺体が入っているのを見て、見たところ引率の様子が見える林檎の胸ぐらを掴もうとすれば、割って入るのは陣。
「この方がたは菩提寺が江戸内に有る者達で、ご遺族から頼まれ引き取りに参りました‥‥しかし私1人では運べず、このご時世ですので護衛を雇わせていただきました‥‥」
 林檎がそう説明すれば、棺を蹴るようにして声を荒上げる男。
「なら何でこんな隠すようにこそこそと運び込むんだ? 疚しいからに決まっている」
「御役人殿、少しよろしいか。自分は行く際にもいったがこの者達の護衛だが事は構える気は無いんでね。穏やかに話をしようではないか、此処に見てのとおり遺体がある。勿論先の乱によるものだ家に連れて帰りたいのだ」
「だから何だ」
「ちょ‥‥話ぐらいは聞きましょう」
 陣が口を開けば、ぴしゃりと切ろうとする男に若い男が口添えをして。
「偽装は乱を忘れて立ち直ろうとする者達に対する配慮も含まれている。どうだろう? 彼らに罪は無い通しては貰えないだろうか」
「実際に今棺桶を露骨に運び込めば‥‥」
「俺の知ったこっちゃねぇな。積み荷を全てここに置いていって貰おう、当然お前らは牢行きだがな」
 頭を下げる陣に同意しかけた男を制してせせら笑うように言う男の前に、ぬっと進み出たのは宿奈。
 とは言っても、先にはいるのに怪しまれた時に話を聞こうとしてとっとと追い払われた後ではあるのですが。
「何かあるのでしたらば、私が伺いましょう」
「何だ手前ぇ、さっきも訳の和からねぇことを――」
 宿奈へと中年男の意識が向いたのを見て、小さく溜息をつくと、棺の中を見て改めて小さく息をつく若い伊達兵。
「‥‥先程は申し訳ねす。棺桶を足蹴にするなど‥‥」
「僕たちはこの方々の亡骸を寺に運び、ゆっくり休ませて差し上げたいのです」
「私たちは疚しいことなど何もない。誰でも、生まれ育った土地に眠りたいと思うのは当然のことだと思うから」
 光と羽澄の言葉に僅かに目を伏せる若い伊達兵は、小さく息をついて。
「‥‥見たところ、貴方々の荷で、他に不審なものは見あたらない。僧が先導して運ぶことが可笑しいとも思えないす‥‥」
 それを彼が何処まで本気で思っているのか、半ば自身とまわりへの言い訳のように言う若い伊達兵は微苦笑を浮かべ。
「私個人としては、死者の尊厳は護られるべきと思うすから‥‥」
 それは彼自身が再び戦場に向かい散ったとすれば、帰れないのを良く理解しているからとも感じ、目を伏せて小さく頭を下げる林檎。
「後々面倒になるす。他の者に気を取られている今のうちに、通りなさい」
 その言葉と共に先へと促す若い伊達兵に会釈をすると一行は無事に江戸へと一歩、又一歩と足を踏み入れ。
「―――っ‥‥ふぅ‥‥冷や冷やさせやがって‥‥」
 いつでも術をかけられるようにと息を殺して側に身を伏せていた御神村は、漸く安心したかのように微かに息を吐いて、ゆっくりとその場を後にするのでした。

●帰り着いた者達
 役宅側の側、その寺に別れて江戸入りした一行は再び集まって。
「皆さん、本当に有り難うございます」
 荻田が早田と共に戻り頭を下げれば、寺では直ぐに通夜の支度を始めて。
 やがて、駆けつけるのは護衛に石榴が付き添う、久栄夫人。
「本当に、皆には忝なく‥‥そして、良く戻られました」
 連れ帰った一行へと労ると、生きて戻った武兵衛や早田・荻田へ。
 そして、変わり果てた姿で戻った3人の同心へ。
「よく‥‥本当に良く戻られました‥‥」
 僅かに声を震わせ、目元を軽く押さえると、物悲しげな微笑を浮かべる久栄。
 3人の同心は、一行と久栄の見守る中、漸く帰り着いた江戸の地で眠ることが出来るのでした。