難波屋復旧のお手伝い

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 72 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月16日〜05月23日

リプレイ公開日:2007年05月25日

●オープニング

「おや、おきたちゃんにお兄さん、どうしましたか?」
 その日、じりじりと暑さが厳しくなってきたとある日の昼下がり、おきたと、ちょっと傾いた様子の男性が入ってくるのに、慌ただしく依頼書や整理する物品を積み上げていた受付の青年が顔を上げて声をかけます。
「あ、お仕事をお願いしたいと思いまして‥‥」
 そう声を返すおきたに、頷いて卓の上のものを抱えて寄せると、改めて席を勧める受付の青年。
「暫く人の出入りが激しいお客様が滞在することになったので‥‥」
「あぁ、そう言えば‥‥難波屋さんにご厄介になると言っていましたね、あの方は‥‥」
 心当たりがあるのか頷く受付の青年に、おきたも頷き返して。
「それでですね、この間の事で‥‥うちのお店もそうですし、他のお店の方々も、その、迷惑な方々のお陰で、ごたごたしてしまって‥‥」
 北の方から流れてきたろくでもない浪人者達にお店を占拠されてしまい大変な思いをしていたおきた、その件について言っているよう、その事件では他のお店でも酷い被害を受けてしまい、難波屋は大事に至らなかっただけまだ運が良い方だったのでしょう。
「それでですね、それぞれのお店が今後を考えたり、またお店が開けるようにと手を入れたりすることになったのですが‥‥近頃は治安があの乱以降酷く悪くなってきていますので、付近の見回りをしていただける方をと、皆さん希望していて‥‥」
 そう言うおきた、どうやら付近のお店の、特に被害のあったお店などは当然警護を雇うお金どころかと言った有様。
 浪人達が使い潰した盗まれたお金を誰が保証してくれるというのでもないので、お店を売りに出すところもあれば何とかひっそりと出もやり直そうというお店もあり。
「それで、うちのお店の旦那様が言うには、お店の中を、あの浪人達が大分汚したり壊したりしたもので、店内の掃除や壊れたものの入替などで手が居るので、一緒にお願いしてみようと‥‥」
 どうも難波屋はついでだから色々と直すついでに変えてみようと言うことも相まって、何やら難波屋は復旧と言うよりは、新装開店に向けての準備に近いものがありそうで。
「どうか、付近の警備のための見回りと、うちのお店の開店準備のお手伝い、お願いできないでしょうか?」
 おきたの言葉に頷くと、受付の青年は依頼書へと筆を走らせるのでした。

●今回の参加者

 ea7675 岩峰 君影(40歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 eb1044 九十九 刹那(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb2872 李 連琥(32歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 eb3701 上杉 藤政(26歳・♂・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb5401 天堂 蒼紫(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5402 加賀美 祐基(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb5761 刈萱 菫(35歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec1132 ラスティ・セイバー(32歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

アスタルテ・ヘリウッド(ec1103)/ 霧鳴 正宗(ec1531

●リプレイ本文

●見回り開始
 その日、難波屋のある一体の裏通り、叩き付けられた勢いで砂利道を頭から滑っていく襤褸屑‥‥もとい、破落戸の姿があります。
「嫌いなんだよね、破落戸」
 その一言を言い放つと、すっかりと目を回して昏倒している破落戸を置いてぶらりぶらり、次の獲物を求め見回りに戻ろうとするのは岩峰君影(ea7675)。
 岩峰は難波屋へと顔は出さず付近を巡回しているようで、あまり特定の所へと長くいないよう。
 ちょうど通りがかった裏道で屯していた男達は付近の下働きの男をひっつかまえておどしつけていたようで、そこへ鬼面と桜吹雪をあしらった羽織をはためかせ現れた岩峰。
「き、貴様ぁ‥‥何者‥‥いや、むしろどう言うつもりで‥‥」
 背を向けて置いていこうとした男が呻きつつ言うのにきっぱり『大江戸桜』と名乗り踵を返す岩峰に、恨めしげに唸り声を上げると、男は岩峰の後ろ姿を睨め付けているのでした。
 そして、ラスティ・セイバー(ec1132)も店内の手伝いというよりはとあまり店に寄りつかず、裏通りを主として見回り中。
「‥‥‥‥‥‥‥‥なんだ、これは?」
 見れば、明らかに破落戸と分かる男が、見るも無残な襤褸雑巾状態で顔面から倒れ伏しているのを見て首を捻るラスティの手には難波屋の笠、それを手にしていることで、付近の店も何者かを理解して時折会釈などされたり。
「なんでぇ、異人の兄さんよぅ、何様のつもりだ、あぁ? 用心棒にでもなったつもりかよ」
「煩い。‥‥お前たちは破落戸か?」
 まぁ、確認するまでもないことではありますが、わざわざ確認をするラスティにばかにしやがってと掴みかかるのですが、柄で思い切り殴り倒されて、もんどりうって転がっていき道脇の溝へと転げ落ちる破落戸。
 岩峰といいラスティといい、ところの人たちにしてみればぎゃんぎゃん噛み付いてくる破落戸達をいとも容易く倒している様に、どこか頼もしさを覚えたように離れたところで見ていたり。
 さてその間に、他の一行は見回りの割り振りや改装についてを難波屋さんと相談を始めているようで。
「勘違い男を最初から寄せ付けぬよう、奥座敷など廃止してしまえば良い」
「入れ込み座敷どまりにして、やはりそちらのお客さんには連れ出し料で手を売って貰いますかねぇ」
 きっぱりと言い放つ天堂蒼紫(eb5401)に考えるように首を傾げる難波屋、ですが続く言葉に一瞬固まって。
「店内を更に開放的にして女子供が寄り付きやすい雰囲気にしてみるとかだな」
「‥‥い、いきなり水茶屋の存在意義を問われる提案になりましたな‥‥」
「これからの季節柄、涼やかで清しげな物を用意するといいかもしれませんね‥‥たとえば、簾、など‥‥」
 根本のところから話し合っている比良屋主人達の隣では、おきたと女将さんを相手に内装のほうへと相談は広がって行っており。
「ということは‥‥季節柄に合わせて色を変えたり飾りを変えたりということですね」
 九十九刹那(eb1044)が少し考えるように言えば、おきたも店内を見渡して頷き。
「後は見た目の様子とか色合いとかを上手く組み合わせないとなぁ」
 小物の色合いを考えたら、見た目でどの色にも合わせられそうな内装にしておいたほうがいいだろうし、と加賀美祐基(eb5402)も軽く首を傾げてそう言って。
「地脈、家相などから考えれば、そちらのほうは出来るだけ物を積まずに開け、門前のあの木は切るか移すかするほうがいいであろうな、この家に子が出来ればその子に害する恐れもある」
 上杉藤政(eb3701)が言う言葉に真剣に聞く女将さん、上杉は更に風水に基づいた家具の配置などを色々と助言していたり。
「不穏な現状故、もっとしっかりおきた殿を‥‥あ、いや、難波屋を守れればいいのだが」
「? どうしたんですか?」
 赤くなって僅かに目を彷徨わせながら小さく言う李連琥(eb2872)に、看板娘のおきたはきょとんとした様子で首を傾げます。
「それにしても、お店の被害が小さかったのは不幸中の幸いですわね」
「本当に‥‥お片付けをして手を入れれば直ぐにお仕事に戻れるみたいでほっとしました」
 刈萱菫(eb5761)が微笑を浮かべて言えば、おきたもにっこり笑って頷いて。
「あとは着物や髪やお化粧など、私で良ければ助言させていただきますわね」
 菫が言う言葉に、おきたはどこか嬉しそうに頷くと、暫し楽しそうに会話は盛り上がるのでした。

●宣伝・買い物・見回り中
「ちくしょー‥‥やっぱ、あいつ根に持ってるな」
 どこかぼやくように言う加賀美は、なんと言うか、色々な意味合いで目立っていました。
 道を行けば振り返る人々、ぎょっとした顔にくすくすと笑う人、そして、きゃっきゃと囃し立てる子供達。
 それもそのはずで、加賀美は幟を背負って首から下げる前と後ろの看板、またそれのどれもが派手派手しい色彩に、景気が良いような気がしなくもない文字が躍っています。
 『不審者警戒見回り中』の幟に、ちょっと角のお店の影から見ている若い男は舌打ちを、『難波屋近日新装開店!』という前後の板看板はなんだか難波屋がどこかの見世物小屋にでもなったのかと心配する人の姿が見られてみたり。
「これじゃ、俺が不審者だろうが! ちくしょう、俺はただ連琥さんとおきたちゃんを羨ましそうに見てただけじゃねぇか‥‥」
 正しく、加賀美が現状で道を練り歩く羽目になったのは、不穏な情勢だから一緒に買い物を、などと赤くなる連琥ににこにこしながら頷くおきたの姿がなんだか幸せそうに見えて、ぼーっ羨ましそうに見ていたことが発端。
 暇ならば仕事をして来いと天堂に言われた原因が、前のお仕事で天堂の妹さんをちょっとこき使った事が関わっているようなのですが、それにしても手の込んだ幟と看板を考えれば、結構天堂の自信作なのかもしれません。
『お前が困った人々を助けていると評判になれば、琥珀嬢の耳に届くかも知れんな』
 加賀美が素敵に人々の注目を浴びている中、当の天堂はと言えば、夜なべして作った幟と看板で寝不足のようで、ちょっと休憩、長椅子で夢の中。
 時を同じくして、道をのんびりと行きながら必要な物の確認をしあっているのは連琥とおきた。
「とりあえずはこれからの季節に合うような雰囲気の良いお皿を、と言う事でしたね」
「うむ‥‥淡い色合いが良いようであるな。青などが濃い物よりも淡い物なら清しい雰囲気が楽しめる」
 軽く首を傾げるおきたに答える連琥は、こっそり刹那が用意してくれたお買い物用の助言を認めたものを確認して答え、ちょっとどきどきしているようにもみえましたり。
 そんな連琥、ちょっとぱりッとした羽織を身に着けており、いつもよりもちょっとお洒落をしているよう。
 どうやら菫が立派にピシッと、それで居てお洒落にと連琥へ助言してくれたようで、おきたも菫が綺麗に可愛らしく結ってくれた髪に、前に連琥に貰った真珠のかんざしで、お買い物を楽しんでいるよう。
「‥‥」
 なんだかほんわか幸せそうな連琥は、刹那と菫に心の中で手を合わせて感謝しているようなのでした。
 ちりんちりーん、小さな鈴の音が耳に心地良く響き、店先の長椅子で寝っ転がって昼寝と洒落込んでいた天堂がちらりと目を開ければ、店先の戸を開けて出てきた菫と刹那。
「では、見回りに行ってきますね」
「ああ、了解した」
 頷いて見送る天堂を置いて店内の改装について話をしながら菫と刹那は辺りを見回っていましたが、時折話題は買い物に出ているおきたと連琥のことへと及んで。
「今頃どんな様子で買い物されているのか、何とはなしに想像がつきますわね」
 くすりと笑って言う菫に、刹那はこっくりと頷いて。
「‥‥渡した買い物の極意が役に立って居ればいいのですが‥‥」
 言葉を交わしつつ辺りを見れば、時折不穏な視線を受けるものの、妙な具合に様子を窺うだけの者たちに些か気味悪さを感じもします。
「今のところ連絡口は難波屋となっている、怪しい様子の者や所場代とたかりに来る者達が現れれば、直ぐに連絡して欲しい」
「私どもの方でもこうして見回りの方がいらしてくれるだけでどんなに心強いか‥‥どうぞ宜しくお願いいたします。怪しい者を見かけたりしたら、直ぐにでも連絡させていただきます」
 上杉が難波屋と同じ通りの茶屋を幾つか回れば、何処も不安だったようでそれぞれほっとしたり何度もお礼を言ったり、不審者についての連絡を約束してくれます。
「今時分はどうにも物騒ですからねぇ‥‥難波屋さんのように冒険者の方々と繋がりがあると色々と心強いでしょうね」
 難波屋と同じ通りにある茶屋の女将さんはしみじみと、上杉にそう頷きながら言うのでした。
「そこ行くお嬢さん、一つどう?」
 昼下がりの茶屋近く、とあるお寺の境内で石段に腰を下ろして子供達を相手にしているのは岩峰。
 岩峰は側を何やら願掛けの様子の娘さんが通りかかるのに気が付いて声をかけて。
「何をされて居るんですか?」
「厄よけを配っているんだよ。持つも良し軒下に下げるも良し、まさにご利益満開」
 そう言って差し出すのは薄い木片で、桜の桜花を彫り上げたお手製のお守り。
 娘さんが受け取りお礼を言って立ち去ると、再び子供達を相手にしながら再び木札を作り始めて。
 岩峰はそうやってあちこちを転々として警戒をしながらも、暫くの間は平穏な時間を過ごすのでした。

●逆恨み返り撃たれて
 その日の前日、ラスティは夜間の警戒中に店の方を入れ替わり立ち替わりで伺っていた男達を見ていた為か、男達の嫌がらせの襲撃は、不意を打つものではありませんでした。
 ラスティが見たのは、前日のうちに難波屋を伺っていた男達が、何やら後から駆けつけた者について立ち去る姿。
「き、貴様っ! ようやっと見つけたぞこの野郎!!」
 彼らが何処へと向かったかと言えば、近くの橋の下、そう言ってわらわらと集まってくる男達を前に、特に慌てる様子もなく子供達を返す岩峰に余計に男達は逆上するのですが‥‥。
「ぉっ‥‥覚えてろっ!!」
 結局ずたぼろに成りながら逃げ出した男達、それを見つけたのは刹那と上杉でした。
 半刻後、刹那は茶屋立ち並ぶ通りの外れにある小屋にこそっと裏から見つからないように気をつけて戻っていく男達の姿を捕らえることとなります。
 そこから慌ただしくなったのを見て、姿を消して近付いて中の様子を窺った上杉は、ほぼ逆恨みと冒険者が今駐屯しているのは難波屋らしいという、彼らにとっては不確定な情報に乗っ取って目に物を見せてくれようというもので。
 難波屋に戻って迎え撃つ準備をしたのですが、当然男達はそんなこと考えもしないで、殺気だった状態のまま乗り込んで来たのが先程までのこと。
 岩峰が大江戸桜として屋根から現れたのを皮切りに、難波屋店先の大人数での出入りは、案外あっさりと、しかも一方的に終わりました。
 ちょっと加賀美が宣伝の格好から着替える余裕がなかったため、派手派手しい姿で渡り合って可哀相な部分はありましたが、それはそれ。
 何よりほぼ全てを薙ぎ払ったのは、狂化したラスティであり、最後にラスティを止めるのが一番大変だったとか。
 店に近付こうとした者は李が転がした挙げ句に叩き付けられてあっさりと気絶して、泡を食って逃げ出した男達の前に立ちはだかったのは、刹那と菫。
「ここまでしておいて、逃げるのはどうかと思いますわ」
「‥‥こんな混乱した状況下でも、奉行所や改方は無くなっていませんよ‥‥」
 それはつまり、大怪我をしたり死ぬよりはずっとましなこと。
 彼らを突き出すとき、被害を訴えて名乗り出たお店はその通りのほぼ全て。
「‥‥終わったようだな」
 のんびりとお店の中で難波屋の皆さんとお茶を飲んでいた天堂が言えば、お店の中ではほっとした雰囲気が流れ。
 何はともあれ、一行は破落戸達を一網打尽に、似たような様子でこの付近をうろついていた他の者達も、どうやら確実に当面はここに悪意と金づるとして近寄ることはないのでした。

●のんびりまったりお茶の時間
「そこにおしろいを少し塗ることでお顔がすっきりとして見えるのですわ」
 難波屋の女性陣は菫にお化粧のさいのちょっとしたこつを習って嬉しげに言葉を交わして。
 難波屋で恒例のお茶の時間。
 そこにはそれまで難波屋に寄りつかずに付近を回っていた岩峰の姿もあり、一行はのんびりとお茶とお茶菓子を楽しんでいました。
「では皆様、難波屋さん、お世話になりました」
 そこへ、柔和な雰囲気を持つ二階の客が荷を持って降りてくると頭を下げて出て行き。
 どうやら彼にも待ち望んでいた連絡が来たようで、難波屋の主人や沖田に見送られて出て行く男。
「これで心おきなく新装開店が出来るというものであるな」
 お客さんも無事に滞在期間は過ぎて、そしてこの辺りに迷惑をかけていた破落戸は今頃奉行所で反省しているであろうということ。
 上杉が茶を啜りそう言えば、刹那も頷いて、涼やかな簾が揺れる店内を見て微かに微笑を浮かべて。
「な、何か困ったことが有ればいつでも言って貰いたく‥‥」
 そして赤くなりながらおきたへと話しかける連琥。
「はい、その時はまた、宜しくお願いいたしますね」
 にっこり笑っておきたが言って。
 まだまだ江戸内はごたごたが続くようではありますが、一行は、今暫くはのんびりとした時間を過ごすのでした。