●リプレイ本文
●いろんな人をご招待
「このような情勢だからこそ子供達や比良屋殿にひと時のんびり過ごして欲しいでござるな」
沖鷹又三郎(ea5927)が言えば、ゼラ・アンキセス(ea8922)は頷いて子供達の方へと目を向けます。
そこは比良屋の一室で、どうも荘吉・清之輔・お雪ら子供3人は先の戦で家を内側からしっかり閉め切り、怖い伊達兵相手に彦坂家の次男・兵庫が追っ払ったりしていたことを良く憶えているようで、ちょっと神妙な様子でちょこんと座っています。
敷地の中でならば安全と思えても、外に出かけるとなるとちょっと戸惑うようで、流石にしっかり者の荘吉でも戦の後では勝手が違うようで。
「お雪ちゃんも清之輔君も荘吉君も、お久し振りですー♪」
そんなちょっと大人しかった子供達の所に飛び込んで元気良く声をかけるのは天堂朔耶(eb5534)、そしてわふんと首を傾げる朔耶の愛犬・総司朗です。
そこへ歩み寄ってちょこっと首を傾げながら子供達に微笑みかける所所楽石榴(eb1098)。
「みんなっ、菖蒲園で一緒にのんびり楽しもうねっ♪」
にこりと笑いかけてお雪の頭を優しく撫でる石榴に、お雪もはにかみながらこっくりと頷いて。
「あの、父上が江戸の町‥‥特に武家の家では何があるか分からないし、父上の屋敷の方にいると危ないかもしれないからとこちらにいるのですが‥‥その、町の方は大分落ち着いたのでしょうか?」
比良屋の屋敷内での生活には余り不自由はしていないようなのですが、念のためにとやはり暫く敷地の外には出ていなかったようで心配そうに尋ねる清之輔には石榴は頷いて。
「今まで通りとは行かないけど、大丈夫っ! 僕たちが付いてるからねっ♪」
にっこり笑いながら請け負う石榴に清之輔もこっくり頷いて。
「石榴さんや沖鷹さんに教わりながら一緒にお弁当作るんですよー♪ お雪ちゃんも一緒に作りましょうねー♪」
「うん‥‥ゆき、がんばるの‥‥」
朔耶がにこにこお雪の手を取って楽しげに言えば、お雪もこっくり頷いて、ぐっとちょっとだけ表情に気合いが入った様子で。
「‥‥ところで、彦坂家の方はどうなっている?」
「は‥‥兄のことですか? 色々と動き辛い立場にいるようですが‥‥今のところ無理な締め付けがある訳ではないようです。ただ‥‥」
隣の間では一度道場の様子を見に戻ろうとしていた兵庫に九十九嵐童(ea3220)が尋ねれば、僅かに表情を曇らせる兵庫。
「どうしたぃ? なんか気になる事でもあんのか?」
嵐山虎彦(ea3269)が尋ねれば、昭衛と兵庫の生母が出家先の寺に留め置かれていて、軟禁ほど厳しいものではないにしろ心配であることを告げて。
「だからこそ、清之輔を念のため比良屋に戻していたままこちらでわたくしが付いているようにとなったわけで‥‥」
「そうか‥‥では、昭衛殿は出かけるには‥‥」
「いえ、それは大丈夫と思います。表向き寄場の維持に力を注ぎ、対立するようにも見せていませんし、協力自体も寄場の方で手一杯だからとのらくらかわしているようですし‥‥」
「‥‥伊達はそこまで手が回らないから反意を見せていない分にはと言うことだな‥‥」
嵐童の言葉に頷く兵庫は、昭衛を誘うのは1日ぐらいならば平気だろうと答えるのでした。
「さてと、では拙者は少し出かけてくるでござるよ」
沖鷹は少し考えた事があるようで綾藤へと出かけていき。
「うんっ、じゃあ、朔耶ちゃん、先に下拵えとか準備とかしてこよっかっ?」
「はーい♪」
「くぅん」
元気良く返事をする朔耶にこっくりと頷くお雪、何故か総司朗は鼻を鳴らして心配そう。
「さて、ちと俺は材料の調達に行ってくる‥‥お雪ちゃん、伏姫と八房を頼めるか?」
「う、うん‥‥」
こっくりと頷いてなでなでと嵐童の愛犬たちを撫でるお雪に頷くとこちらも出かけていく嵐童。
「さってと、俺もちぃとばっか改方に顔出してくっかねぇ」
忠次あたりは暇そうだ、笑いながら言って出かけていくのを見送ると、ゼラが子供達の方へと歩み寄り。
「さて‥‥ちょっと採寸をさせてもらうわね」
それぞれがお出かけの準備を始め、外に出かけた人たちは比良屋と付き合いの有る人々を誘いに行くのでした。
●お弁当やお出かけの準備
「さて、ではお弁当を作るでござるよ」
「はーいっ! お雪ちゃん、頑張ろうね♪」
沖鷹が言えば楽しげににこにこ笑って返事をした朔耶に、お雪も襷を何とか掛けようと四苦八苦。
「お雪ちゃん手をこうあげていてねっ?」
「は、はい‥‥っ」
そんな様子を見て石榴は笑みを浮かべると、袖を軽く持って手をあげるようにお雪に言い、屈んで抱きかかえるかのように手を回してお雪の襷を掛けてやり。
「あ‥‥ありがとう‥‥なの‥‥」
何だかちょっぴり嬉しそうにはにかんでお礼を言うお雪、何はともあれ早速お弁当作りのお手伝いです。
「やはりまずは希望があった梅干しを使った料理でござるの」
そう言って壷を取り出す沖鷹、中には良く漬かった梅干しがいっぱい。
「お米を磨いで、梅干しを‥‥あぁ、お水は少し少なめにするでござるよ」
「はーいっ、少し少なめですねー♪」
お釜にお水を入れる際に沖鷹に教わりながら水加減を確認する朔耶に、お雪にお米の磨ぎ方などを側について教えている石榴。
「うん、そこをお手々で押さえて、一気に傾けないでゆっくりで大丈夫だよっ」
「は、はい、なの‥‥」
ちょっぴりお母さんの予行練習、と言ったようすの石榴にならって一生懸命憶えようと頑張るお雪、石榴も思わず嬉しそうに微笑みながら、一層指導にも、また比良屋のお弓に聞きながらの家庭料理の味付け練習にも力も入り。
「さて‥‥俺もつまみの支度をしておくか」
楽しそうにわいわいとお弁当を作っている姿を見ながら嵐童は、手に入れてきていた材料を前に呟いて。
「‥‥最近色々忙しかったからな‥‥たまにはこういうのも良いか‥‥」
蒲鉾に梅干しを手にとっていえば、朔耶を心配そうに見ている総司朗に気が付いて。
「‥‥‥‥ほら」
「わふん♪」
ちょっぴりおかずのお裾分けを嵐童から貰って尻尾をぱたぱた振る総司朗は、気合いも十分、朔耶が1人で作ろうとしている危険な準備への監視に余念がないのでした。
「拙者の料理の師匠は華国の人での。酸梅湯など作った物を持ってきたでござるが、如何でござるか?」
「へぇっ、楽しみだなっ♪ そう言えば妹が昨日一足先に見に行ったらしいけど、花の中でこういうのを飲みながらのんびりするって言うのも良いかなっ?」
ちょっぴり味見をして貰いながら言う石榴は、前もって出かけて言っていた妹の所所楽柊から聞いた話を思い出して楽しげに言い。
因みに柊は人を誘う誘わないはちょっぴり煮え切らなかったとか。
「楽しそうで良いねぃっと」
「そうね、どんなお弁当になるかが楽しみだわね」
包みを抱えて戻ってきた嵐山が賑やかな様子を聞いて言えば、針仕事の最中だったゼラも顔を上げて微笑を浮かべ。
「これで良いわ、丈もばっちり。お出かけに間に合ったわね」
にっこり笑って言うゼラの手には紺の麻の着物が。
「おう、涼やかで良いじゃねぇか」
そう言う嵐山の包みに、どんなものを買ってきたのかと問うように見るゼラ。
「おっと、こっちも見せておかねぇとな。お雪嬢にゃこっちの藤色、んでもって天堂の嬢ちゃんにはこれでっと‥‥帯は揃いで黄色だな」
にと笑って開けた包みの中から出てきたのは、お雪のための淡い藤色の着物と、朔耶用の淡い紅色のもの。
よく見れば細かい絞りの小紋で、黄色い帯には同色で綺麗な花がうっすらと散りばめられているのが分かり。
「可愛いわね。お出かけ前のおめかし、腕の奮い甲斐がありそうね」
「おう、着付けは任せたぜ〜。向こうじゃそろそろ弁当詰め始めてる頃かねぃっと」
「沖鷹さんの料理ってとっても美味しいのよねー‥‥石榴さんと朔耶ちゃんも作ると言っていたわね。楽しみだわ」
ゼラに着物を渡してから部屋を出て行く嵐山。
「そこの盗み食いしてる奴、味見は結構だが持ってく分全部喰うなよ?」
お弁当を詰め始めていれば、ひょっこり顔を出した巨体、嵐山に声をかければ、ちょうど摘んでいた蒲鉾で紫蘇と梅干しを挟んだ嵐童お手製のおつまみを表と口の中に放り込んで。
「おぅ、楽しみはちゃんと取っておかねぇとな」
これでお終い、笑って言う嵐山は、ふと妙な様子の鍋と、それをぷるぷる震えつつ見ている総司朗の姿に軽く首を傾げ。
「あ、あらしやまのおじちゃん、おにぎり、にぎったの‥‥」
ちょっと形は歪ではありますが、石榴に教わりちゃんとしたお結びらしく握ったそれを見せるお雪に嵐山は鍋のことは忘れて笑って頷いて。
「おう、弁当を開けるのが楽しみだな」
「味付けは苦手ですけど、おにぎりは練習したからばっちりなのです♪」
えっへんと胸を張って同じようにおにぎりを見せる朔耶に、くぅんと鼻を鳴らす総司朗、どうやらおにぎりは沖鷹に教わって炊いた梅の炊き込みにじゃこを混ぜ込み、それを握ったもののようで。
「朔耶ちゃんもお雪ちゃんも、お重に詰めないと持って行かれないんじゃないかなっ?」
石榴に言われてあわあわとお重の所に揃って戻る2人に、沖鷹も笑いながら煮物をお重へとよそって。
「お雪嬢ちゃんも天堂の嬢ちゃんも、それが終わったら居間においでなーっと」
そう言って嵐山はもう一つだけっと、ひょいと煮物を摘んでから居間の方へと戻っていくのでした。
●菖蒲園での1日
「みんな、よく似合っているわ‥‥」
やり遂げた男‥‥基、女の顔で爽やかな笑みを浮かべて子供達を見るゼラ。
清之輔には紺に藍墨茶、荘吉には木賊色の着物に浅葱の帯と、涼やかでいて落ち着いた装いの男の子達はちょっと照れながら互いの着物をまじまじ見ており、お雪と朔耶は丁寧に梳かれた髪を可愛らしく結い上げて、そこにちょんと挿された簪が愛らしく。
「ゼラおねえちゃんも、はい、なの‥‥」
すっかりと子供達の出来に自信もほれぼれと見ていたゼラは、お雪がはいと手を伸ばしてセラの髪に白い花を差すのににっこり笑うとそっと髪を撫でてあげ。
「じゃ、行きましょうか?」
「うん、菖蒲園へしゅぱーつっ♪」
嬉しそうに声を上げて言う朔耶、お弁当の包みを沖鷹と嵐山が持っててくてく集団で出かければ、やがて付く菖蒲園の入口には見覚えのある武家の男性が2人で、見たところ何か片方の男性がもう片方の男性にお説教を受けている様子で。
「あっ、父上!」
清之輔が声を上げれば呼びかけられた男性、彦坂昭衛はすぐに顔を向けて早足で駆け寄る清之輔を迎えて。
「うむ、元気そうで何より。比良屋のこと、不自由はしておらなんだろうが‥‥」
「はいっ、ちゃんと勉学も稽古も欠かさず行っています」
ちょっと会話がちぐはぐですが、2人は再会を喜んでいる様子。
「いやいや、お招きいただき有難く〜」
そしてお小言を喰らっていたのは改方の同心・木下忠次で。
「そうそう、先程綾藤のお藤さんが、料理人とあと親に任されたようすの3人の元気な子供達とやって来ていましたよ」
「では、先に入っているでござるな?」
沖鷹が聞けば頷く忠次。
「じゃ、お雪ちゃん、いこっかっ?」
お雪は石榴と朔耶、2人と手を繋いて歩いているのが何だか嬉しそう、そんな様子に幸せそうに相好を崩して眺めつつ後について入っていく比良屋主人。
ちょっと珍しげに当たりを見る荘吉の様子に笑いながら先にはいるように嵐山が促せば、一面の花菖蒲に子供達は右へ左へ、花を眺めるのが楽しそう、この花とその花は違うなどと声を上げて楽しそう。
「あっ、これは比良屋の‥‥それに皆さんも」
賑やかな一行に気が付いて声をかけるのはジェームズ・モンド、見知った顔が多いのも相まって、そのままお昼へとご招待。
その後もモンドと同じく菖蒲園のサクラをしていた林檎が、和菓子の沢山入った包みを抱えて出てきたところを姉の石榴が見つけてみたり、徐々に大人数になりながら広間へと。
そこには既に茣蓙を引いてのんびり待っていた人達の姿が。
「遅いのじゃーっ!!」
声と共にぶんぶか手を振るのはお雪のお友達・まはら、その奥では料理人のお手伝いをする鶴吉と美名の姿も。
「じゃあ早速お弁当だね♪ 朔耶ちゃんお手製、旬の食材ごった煮でーす♪ ‥‥て、あー!」
お重の数の関係か危険で移せなかったからか、風呂敷に包まれたお鍋をたったかと咥えて走り去る総司朗は、戻ってきたときにはその鍋は咥えておらず。
「もー総司朗、どこに持って行っちゃったのー? せっかく頑張って作ったのにー」
「わふん」
その遣り取りの向こうで人影が倒れるのが見え、慌てて菖蒲園の人が駆け寄る一幕もあったり。
「ん‥‥おいしいの♪」
嬉しそうにお握りを食べるお雪とまはらに大人達は笑みを浮かべつつ。
「やっぱり沖鷹さんの料理は違うねっ」
「いやいや石榴殿の作ったこの煮付けもなかなかでござるよ」
「ん、目指せお母さんの味っ、だからねっ♪」
お重一杯に詰められた魚から野菜から卵から、おにぎりに甘いお菓子。
一行は花を眺めなが楽しく食事を取るのでした。
●また一緒に‥‥
「‥‥この歳で蹴鞠、というのもあれだしな。大事にしてくれるって言うならお雪ちゃんにやるが‥‥どうする?」
「いいの‥‥? うん、大事にするの」
蹴鞠を取り出して聞く嵐童にこっくりと頷くお雪、そうそうとそれまで嵐童と共に酒を飲みつつ絵筆を取っていた嵐山もお人形を取り出してお雪へと差し出し。
「そうそう、拙者、菖蒲の作り方を知っているでござるよ」
沖鷹は折り紙を見せて作り方を教えれば、お雪や朔耶に鶴吉や美名、まはらも混じってみんなで折り方を教わり、出来上がった物を嬉しそうに本物の花と並べて笑い。
「ここのは全部、ショウブなのよね? ‥‥アヤメとカキツバタとの区別がつかないのよ」
「一応種は同じだったと思います。ただ‥‥」
「ここにあるのは花菖蒲で改良して色々な色が楽しめるのであるが‥‥花びらの所に黄色の模様があるであろう? 一番わかりやすい見方がそこの模様を見れば良い」
ゼラが首を傾げれば清之輔が途中まで答え自信なさげに昭衛を見れば、昭衛は思い出すように言い。
「模様?」
「確か基本はあやめは網状、杜若は白のものだったと記憶している‥‥葉の形も確か相違があったはず」
なるほど、と昭衛に言われた言葉に頷くと花を眺めるゼラ。
「おう忠次、あとでこの花を鬼平の旦那の奥方に届けてくれよ」
「あ、あと宜しく伝えてねっ?」
花菖蒲の束を忠次に渡して言う嵐山は楽しげな様子を描いた絵を比良屋の主人へと渡し、石榴も林檎とのんびりお菓子を口にしつつ忠次にそう頼み。
「来年もまた一緒に来られると良いですねー♪」
「わぅん」
お雪と楽しげに笑って言う朔耶に僕もとばかりに吠える総司朗。
皆が惜しむ程長閑な一時は、今暫くゆったりと流れていくのでした。