間紙

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 30 C

参加人数:8人

サポート参加人数:8人

冒険期間:06月12日〜06月17日

リプレイ公開日:2007年06月22日

●オープニング

 その日、綾藤に呼ばれて出かけていった受付の青年が綾藤で待っていた客にすっぽりと頭巾を被せられた挙げ句に舟に押し込まれて、その場所へと運ばれたのは、じっとりと熱い、ある日の昼下がりのことでした。
「乱暴なやり方をして申し訳ないねぇ、うちの者は少々手荒で困っているんで、悪くお思いにならないでくださいよ」
 がっしりとした体つきの一見福々しい顔をした穏やかそうな老人が煙管盆を引き寄せて微笑を浮かべれば、その老人の雰囲気とは裏腹に重圧感を感じるその場に縮こまってこくこく頷く受付の青年。
「そう堅くならないで良いさね。お前様を呼んだのは他でもない、ちぃとばかり頼まれ事をして貰いたいんですよ」
 その老人・白鐘の紋左衛門は香具師の元締めの1人で、筋を通す事を良しとする少々昔気質な人物。
 どうやらそこは紋左衛門の屋敷で、直接呼んでは受付の青年に何か買いがあるとも分からないと考えて使いを出したようで、受付の青年を舟で運んできたのは白鐘の信頼置ける部下の沖松。
「近頃じゃこの江戸で、人の道を知らない、筋を通すことも分からないような愚か者が踏ん反り返って居るようでね。中でも1つ、あたしは相談を受けてしまいましてねぇ」
 煙管へと煙草の葉を詰めながら言う言葉はあくまで穏やか、ですが受付の青年がちらりと目を上げてみれば、紋左衛門の目から得体の知れない恐怖感を感じ、ぱくぱくと声を出そうと必死でしたが、何とか擦れた声で小さく尋ねます。
「そ、その‥‥だ、伊達の兵士達絡み、と言うことでしょうか?」
「あぁ、そのことで、お仕事を頼みたくってねぇ」
 火を入れながら笑みを浮かべて頷く紋左衛門にあわあわと依頼書を取り出しながら受付の青年が見れば、紋左衛門の配下の若い衆が運んできたお茶を勧められて口を湿らせた受付の青年。
「では、どのようなお仕事を?」
「実はね、とある宿があるんだが、まぁ、その宿は綺麗どころを集めての、ま、男が通うあれさね」
「はぁ、そのお店と伊達兵って言うと、押し入ってとかそう言うのですか?」
「いやいや、ああいったお店はね、こういうときこそ自分たちが引き受けるから、世間様に無体も減ろうってぇ、そう言う部分もあるのさね。‥‥それが、本当に客なら、ね」
 紋左衛門の言葉に、少し考える様子を見せる受付の青年は、首を傾げて口を開きます。
「でも、戦で来たとかなら、あんましお金、持っていなさそうですよね」
「それが、金は払うと言って、ずっと居続けて贅沢三昧なら、どうなるね?」
「‥‥‥‥き、厳しいですね、お店としてもかなり」
「店としてそういう意志を持っていたとしてもね、周りからすれば、この騒ぎを起こした元凶に媚び売って取り入ってでもいるかのように見えちまうらしくってねぇ‥‥やるせない話だよ」
 煙管を燻らせながら溜息混じりに言う紋左衛門、堅気な仕事とは言いにくいからこそのその宿に対して同情の色を滲ませると、なるほど、と受付の青年は頷いて。
「その宿の方から相談を受けられたんですね? 辛い立場なんですね、宿の方々は‥‥」
「そこでね、そのお客達から、宿代をきちんと取り立ててやって欲しいんですよ。金はあると言ってそれだけのことをしてきたんだ、きっちりと片ぁ付けなきゃぁ、ねぇ?」
 にやり、口元を上げて言う紋左衛門の声音とその目の奥に見える光に、話している内に少し気楽になってきていた受付の青年は、改めてぞくっとしたように筆を持ったまま凍り付くのでした。

●今回の参加者

 ea0276 鷹城 空魔(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2988 氷川 玲(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea8191 天風 誠志郎(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1098 所所楽 石榴(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb3701 上杉 藤政(26歳・♂・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb4994 空間 明衣(47歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec1064 設楽 兵兵衛(39歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

リーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)/ ヒナ・ホウ(ea2334)/ サラ・ヴォルケイトス(eb0993)/ 所所楽 林檎(eb1555)/ セピア・オーレリィ(eb3797)/ 木下 茜(eb5817)/ レア・クラウス(eb8226)/ 王 冬華(ec1223

●リプレイ本文

●それぞれの思惑
「立場じゃお金は払えな‥‥払えないなら、お客じゃないね」
 にっこり笑顔で言う所所楽石榴(eb1098)に、店の人間は縋るような目を向け。
 そこは宿の一室、店の者が主に宿通いの客以外を通す客間で宿の人達に詳しい話を聞いていたところでした。
「はぁ‥‥なんつーか迷惑な話だよナァ〜?」
 言って肩を竦める鷹城空魔(ea0276)は、何か伊達兵に対して他の者とは違う微妙な感情を抱えており。
「俺はこんなことをさせるために伊達を江戸に招き入れたんじゃねーッつーの‥‥」
「あん? 何か言ったか?」
「べーっつにーっと」
 氷川玲(ea2988)が鷹城のぼやくのが一瞬聞こえたかじろりと聞き返せば、しれっと返す鷹城。
 先の乱に対して伊達に不快感を抱く者はかなり多く、それでなくともこのような事件を大なり小なり、あちこちで引き起こしているのは戦でやってきた伊達の兵達。
「力を傘に好き放題か‥‥どうもな、気に入らん」
「家康公の政治能力を批判して江戸を奪ったくせに、末端の兵とはいえ‥‥いや末端の兵だからこそ、ちゃんと躾けられていないものがこの先、江戸を治められるとは思えないな」
 特に天風誠志郎(ea8191)とカイ・ローン(ea3054)に至っては、身近な人が亡くなったり行方不明だったり、裏切りを快く思わなかったり色々な理由で不快感を露にしていて。
「混沌、混沌‥‥天下の江戸がこうにも‥‥戦争と言うのは怖いものですねぇ」
 背を丸めて飄々と設楽兵兵衛(ec1064)が真意定かではない口調で言う言葉、上杉藤政(eb3701)は先ほど見かけた店の女達の様子や店の主人の説明する状況に深く息をつくと小さくつぶやいて。
「伊達の兵の横暴か‥‥」
「その混沌の一つな伊達兵ですか。現江戸城主の底が知れますな‥‥と言うのは酷ですかね? 今では源徳武士が随分と上品だったように思えてますよ、いやはや‥‥」
 設楽がやれやれと言う言葉、少なくとも自分達の暮らす町の人達と、攻め込み占拠した兵達を同等に比べれば当然はっきりとした違いがわかるわけで。
「どう御題目唱えたって、金を持たないのに変わりはない。少しばかり羽振りがいいと勘違いしているのが少々厄介なだけ。誰だろうと関係ない、取り立てて追い出すだけだ」
 空間明衣(eb4994)が言えば上杉は頷き。
「いつの世も占領軍は横暴になりやすい傾向があるが、そのような評論を今言っていても始まらぬ。まずは目の前の苦しむ人々を救うことから始めよう」
「まー、店の周りの噂に関しちゃちぃと手を貸してくれる奴らがいるからな、少しゃましになんだろ。俺達が居座る奴らを追い出しさいすりゃ、数日経てば元通りになるから、安心しな」
 氷川がにと笑って見せれば、店の主人は改めて額を擦りつけて頭を下げるのでした。

●伊達兵とお客達
「手筈通りに行った後は、煙を流し込んで火事と‥‥」
「火事はまずい、大火の影響もあるが、ここは往来の賑わいも多い。本物と間違われれば収拾がつかない可能性も高いだろう」
 上杉が店の者へと手筈を説明すれば、出かける支度をしていた誠志郎が口を挟み、店の者も火事の騒ぎは青褪めて思い留まって欲しいと頼みます。
 不安定な情勢、嘘から出たまことにでもなれば、店がと言っていられる状況ではなくなるからです。
「‥‥確かに、危険が高いことは避けた方が良いか‥‥」
 現状を考えて頷く上杉は、隣の間で遊女として伊達兵に近づく為着替えている石榴と明衣に襖越しに声をかけてから部屋を出ていきます。
「さて、我らも出かけよう」
「あぁ。しかし親分‥‥」
 現状を思って思わず口許に笑いを浮かべる氷川は白鐘の紋左衛門の若頭を約束されている人物。
 すでに白鐘の一家の者達は若頭として扱っているわけで、今回の仕事に関してもちょっと考えていることがあるようで。
「おや、玲、よく来たじゃあないかぇ」
 顔を出すと紋左衛門はにと笑いながら氷川と誠志郎に茶を勧め、氷川といくつか軽口を叩き合った後、軽く眉をあげて笑いながら見やります。
「で、何人必要かぇ?」
「っと、すまねぇな、親分、話が早い。ちっとばかし手勢を借りてぇ。この仕事でちと演技必要になるかもしれんからな」
「親分、度々お手を煩わせてしまいますが‥‥此度もご助力のほど何卒」
 氷川が言えば誠志郎も頭を下げて。
「何やら面白いことでもやらかすのかぇ? 必要な数を松にお言いな。血の気の多い若い衆をすぐに集めようさね」
「忝い‥‥」
「なぁに、手土産を持ってきた人間を、手ぶらで返すような真似はしませんよ。後で皆で有り難く頂きましょ」
 手土産の酒一樽は後ほど、若い衆達が存分に楽しむことでしょう、ともあれ数人を連れて帰っていく二人を、紋左衛門はどこか楽しげに煙管を燻らせて見送るのでした。
「居漬けのようですが、増える様子はない、ですねぇ‥‥?」
 軽く首を傾げて言う設楽は店に居漬けの伊達兵達について簡単に調べを進めて戻ってくれば、通りで人目を引く金髪の女性達――氷川の手伝いに来ていたリーゼ・ヴォルケイトスとその妹のサラ・ヴォルケイトスが敢えて伊達兵を自分達の宿で引き受けているのだと話しているところに通りかかります。
 付近の様子を窺えばカイの手伝いに来ていたセピア・オーレリィも大変な立場と店に同情し、誤解を解こうと手を尽くしています。
「さて‥‥では伊達兵の様子を見に行きますかね」
 言って店の間取りを頭の中で反芻しながら呟く設楽。
「ま、屋根の上は夜になりますけど、ねぇ」
 裏口からすっと店へと入ると伊達兵のいる座敷へ改めて順路と配置を覚えながら二階へと上がっていく設楽は、座敷を伺いながら人の目が切れた隙を狙い屋根裏へと入り込めば聞こえるのは女性の話声。
「あの子は舞を見せる大事な子‥‥お酌以上は堪忍してやってください」
 伊達の兵達の座敷、他の遊女達のことを気遣いながら対応するのは20代半ばのほっそりと穏やかそうな遊女で、新人として顔を出すのが遅くなった遊女として石榴と明衣を紹介した女性は早速呼ぼうとした伊達兵へと言いながらお銚子を手に取り。
 化粧に飾られ赤い唇に笑みを浮かべ側の男の酒を酌してやる明衣に、石榴は店の遊女達を世話する娘が怯えつつ弾く三味線に合わせて扇を広げて舞い。
 大きめの座敷を二つ、敷居を明け繋げて使う男達、遊女を侍らせて騒いで酒を飲む男達はたいした腕には思えませんが、穏やかな様子の遊女が酌をする奥の男達‥‥とりわけ人一倍がっしりした男の眼は寒気すら覚える冷え切ったもので。
 使えそうな男達に慰みものにされている遊女は必死に耐えているようですが、奥の男に嬲られている女性はすでに虚ろな表情、肌蹴た胸元や足などには噛まれたような跡やうっすら浮かぶ傷があり。
 よくよく見れば穏やかそうな遊女自身も肩口や腕に赤い筋のような傷跡が見えて。
「‥‥最悪の奴らだなー‥‥それにしても目のやり場に困るっつーか、いろんな意味で‥‥」
 伊達兵達を窺っていたのは設楽だけではなく、鷹城も隣の間から息をひそめて様子を窺い呟いて。
「しっかし、あいつらが抱え込んでるねーさんがたを引っぺがせねーと‥‥んー‥‥」
 手洗いに立たない限りは座敷に居続ける様子に、常に人質を取られる危険性を孕んでおり眉を顰める鷹城。
「‥‥何か起これば、あちらより誘導して女性達を逃すことができるが‥‥問題は自力で動けない様子の者もいるよう‥‥」
 姿を消、酒のお代わりを取りに明衣が出るのを見計らい外へと出てきた上杉は、ずっと衝立の蔭から様子を窺っており、女性達が前にいた為もあってか何とか気づかれずに出入りはできたようで。
「‥‥しかし、危なかった」
 眉を寄せて言う上杉、一瞬奥の主格らしき男に気付かれかけたこともあり、余計に慎重に動いている上杉ですが、主格の男の力量は相当のもののように思え。
「兎に角‥‥っと、あぁ、あれが‥‥」
 考えを巡らせるのを中断して上杉が見れば、賑やかな声と共にどやどや階段を上がってくる姿、それを先導するのは氷川で。
「へへっ、親分もあっしらのような男の気持ちが良ぅく判ってなさる」
「おう、酒に飯、たっぷり持ってきなっ!」
 上機嫌に上がってくる若い衆ですが、氷川に良く言い聞かせられており女性達はお酌程度とも理解していて。
 まぁこういう若い者達はむしろ花より団子、女より旨い酒、ほどなく起こるドンチャン騒ぎに色めき立つ伊達の普通の兵達ですが、白鐘の、親分といった言葉にどことなく不吉なものを覚えている様子で。
 それもそのはず、土地に根付いたそういった香具師やどこそこの一家などと言えば、大体はお上に素直に従うわけでもなく、武家の者達と違って直接抑えられるものでもなく、それでいて、血気盛んなもの達が多く集まります。
 そういった争いに兵を派遣するなどあり得ないこと、相手はやられれば面子が義理がと言って一家総出・一家が駄目でも繋がりある身内が総出でくるもので、非常に厄介な存在です。
 只、隣の座敷へと乗り込まないだけで、伊達の兵達の行動が変わるわけでもなく。
「おら、酒が足りねーぞ!」
「はい、ただいまお持ちしますよ」
 男の言葉を笑って受け流し、明衣は空のお銚子をお膳に乗せると廊下へと出て行って。
「‥‥中の様子は‥‥」
「お隣が気になるようだけど、ちょっかいだそうって言う気にはならないようだね」
 誠志郎が聞けば頷いてお代わりのお銚子を受け取る明衣。
「ただ、やっぱり不気味だね、あの奥のでかブツは」
「‥‥ところで、やはり奴らは金目の物や手に入れる手筈がありそうか?」
「せいぜいが奥の方にいる男達の刀ぐらいだけど、それもたいした額になりそうにないね」
 それを聞き頷くとくれぐれも気を付けるように言う誠志郎、明衣はお銚子を沢山載せたお膳を手に再び伊達兵達の部屋へと戻るのでした。

●取り立て
「お侍さん、私を酔わしてどうするんですか? もっと男前な所を見させてくださいな」
 明衣が酌をしながら言うのに、かなり酔いが回った様子の伊達兵は再びぐいっと杯を煽ると、もっと注げとばかりにぐいっと杯を差し出して。
 先程も酒を取りに行く振りをして外に出て、他の者達に男達の位置と状況を伝え。
 全ての遊女を引き上げるわけにはいきませんでしたが、それでも石榴と明衣の他には2人の遊女で何とか応対しており、その2人の位置なども伝えて戻れば、また酒を飲ませてその時に備えます。
 そんな折りに聞こえてくるのはどかどかと階段を駆け上がる音と、隣の間からの怒声。
『既にお前らの支払いはこれだけになってんだ、まずはここまでの支払いきっちり耳揃えて払ってもらおうか!』
『んだとぉっ!? すっこんでやが、ふぎゃぁっ!!』
 激しい怒号の応酬が合った後、大きな音が響き渡って。
『港に浮かびたいのならば払わなくても構わん‥‥命は‥‥大事にしてぇだろう‥‥?』
 伊達兵達と同じ座敷にいた石榴や明衣もその騒ぎに一瞬だけ目を合わせると、落ち着きが無くなる4人の兵と、舌打ちしかねない様子の破落戸まがいの男達。
 氷川が彼らを連れてきた時に声は聞こえてきていませんでしたし、姿をわざわざ確認したわけでもないので、それを怪しんでいる様子はないようです。
 大暴れで騒ぎが起こされていますが、実のところその間に徐々に白鐘一家の者は店の表裏、それぞれを固めに部屋を抜けていって。
「っと、ちと済ませてくら」
 兵の1人が立ち上がって部屋を抜け出せば、俺もともう1人立ち上がり。
 急ぎ足で裏口へと歩く、先程へ輩抜け出した兵達は裏口へと向かえば、スト音もなく後へと歩み寄った設楽、次の瞬間とさりと小さな音を立てて崩れ落ちる兵。
「‥‥へ?」
 前を歩いていた兵が振り返ろうとした瞬間、その男の前に天井からぬっと逆さに現れたのは鷹城です。
「無銭飲食は犯罪やで〜?」
 にまっと笑う鷹城に声にならない悲鳴を上げかける兵ですが、それよりも先に振るわれた爪に意識を刈り取られて。
「さて、どうすっか、今から上に加わるか〜?」
「先にこの人達の始末ですかね。乱戦の中に入って足でも引っ張れば大変ですしねぇ。私、恨まれてしまいますよ」
 鷹城の言葉に肩を竦めるような動作を見せてから、設楽は倒れている兵へと手を伸ばすのでした。
 眠り薬は相手をよく見ないと危険であることを妹の所所楽林檎に告げられていた石榴は、奥の主格らしき男の様子から危ない橋を渡るのは控えたよう、舞を披露し酒の酌をしながら注意深く遊女へと気を配っていました。
 やがて耐えきれなくなった様子の兵が、隣の間へと続く襖に手をかけて。
「っいい加減にしやがれっ!! ぶほぁっ!?」
 もの凄い勢いで開けかけた襖の隙間から繰り出される杖、見れば襖を押し開く嫌悪を浮かべた誠志郎に威圧感を湛えた氷川、そして杖を握りしめ静かに怒りを漂わせるカイの姿が。
「ちぃ、可笑しいと‥‥っと、何しやがるっ!!」
「速く逃げないとっ!」
 2人の遊女と男達の間に割り込むようにして廊下の方へと不意を突いて誘導する石榴に、手を伸ばしかけた男の手には風車が突き刺さり。
 忌々しげに睨む男、対して明衣は艶っぽい笑みを浮かべちらりと見て。
「私では不満かな?」
「は‥‥はは、望み通り相手をしてやるっ!!」
 抜き打ち様に斬り付けようとした男ですが、その男の刀に手を添えるようにして、容易く刀を奪い取る明衣、すぐに男は打ち倒されて床へと沈み。
「さて‥‥隣の間の客の比ではないほどに、こちら、ツケが溜まっているようだな‥‥」
 誠志郎が言えば指を鳴らしながらぬと奥の男達の元へと歩み寄る氷川、当然鼻でせせら笑い獲物に手を伸ばす男達ですが。
「うん、残念、だねっ♪」
 遊女を逃がした石榴が男達が後ろに置いて置いた刀を先に拝借していたようで、腕っ節が強かろうとそこそこ使えようと、こうなってしまえば技量が劣る男達には為す術もなく。
 それでも力の強い主格の男は見苦しく足掻きましたが、あえて素手で挑み返した氷川相手に、二目と見られない程痛めつけられ誠志郎とカイに取り巻きの男は叩き伏せられ。
 男達は白鐘の若衆に手を借り引っ括られ夜の内に吊されて、次の日奉行所の人間が門を開けるまでの間、朝早い人々の好奇の目に晒されるのでした。

●更けゆく宵
 白鐘の親分から配下の飲み代などの名目でかなりの援助をして貰い、漸く落ち着いた様子の宿にて、礼の意味も込めたささやかな宴席が開かれました。
 遊女達も医者に診て貰ったり少し休みを取ったり、少しずつ日常へと戻れそうだと言って礼を言い。
「酷い目にあったようだな‥‥安心しろ、俺は優しくしてやるよ」
 宿の一室、穏やかな様子の遊女が酌をする手を取りながら囁くように言う氷川、頷いて微笑を浮かべる遊女が身体を寄せるのを軽く抱き留めて。
 平穏を取り戻した宿のそれぞれの夜は静かに更けてゆくのでした。