たいせつなものをかいしゅうです
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 8 C
参加人数:5人
サポート参加人数:2人
冒険期間:07月09日〜07月14日
リプレイ公開日:2007年07月24日
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●オープニング
その日、高由と八紘という2人の少年がギルドへと連れだってやって来たのは、小雨降るじっとりとした昼下がりのことでした。
「実はわたくし、この度暫く、道場の方にて寝泊まりすることとなりまして‥‥」
そう口を開いて言うのは八紘で、目を瞬かせる受付の青年に頷いてみせる高由。
「まはらとか俺は一応、平太んちの舟に乗っけて貰って、まはらの大伯母様の所から通ってくることになって居るんだが、八紘は取り敢えず江戸の方にいたいって言い出してな」
それならば家に戻れば良いのでは、と言うように首を傾げる受付の青年に、どう説明しようかと考えるように髪の先を指でいじくる八紘。
「実はですね、まぁ家の方は御家人屋敷でしたしちょうど勝手に使っているあちらの方もいるようで‥‥」
「なるほど‥‥で、道場って事は、その、親御さんはやっぱり‥‥?」
八紘の父親は兵として先の乱へと赴いており、戻らないことに対して気遣わしげに見る受付の青年ですが、その答えは意外とあっさりしたもので。
「あ、父なんですが、どうも総大将にくっついていってしまったらしいと言うのを見かけた方が居たそうで」
総大将と言えば、当然誰を差しているかは歴然、江戸に戻ってこられないのも当然のことです。
「うちは留守を預かる人間もいなかったですし、勝手に使われてしまうのはまぁ仕方がないのですが、持って行けなかった物を幾つか、置いてきてしまっていて‥‥実は今日来たのは、それの回収をお願いしたく思い」
「持っていけなかった物ですか?」
「は‥‥とりあえず母の位牌は持ってきたのですが、母の残した着物や幾つかの装飾品と、後は自分の最低限の生活道具でして‥‥あと、父の給料をやりくりして溜めた幾ばくかのお金ですね」
そう答える八紘、念のため、金目の物は家の中に隠したそうで、持ち出されてしまっていれば仕方がないが、見つかるだけで良いので回収して欲しいとのこと。
「回収しにいっている間、わたくしや他のみんなで道場の掃除や移り住む準備をしていますので、どうかその辺りの回収をお願いできないでしょうか?」
そういうと八紘はぺこりと頭を下げるのでした。
●リプレイ本文
●おうちのようすは
「はい、庭は僅かで素振りをするのがせいぜい‥‥お隣とは板塀で区切られていまして‥‥」
「2階は無し、家自体はその辺の長屋よりは少し広めと言ったところか? ‥‥で、家具の配置などは?」
群雲龍之介(ea0988)が筆を走らせている横で質問に答えている八紘、そんな様子を見てラーダ・ゲルツェン(eb9825)は感心したように小さく息を付いて。
「八紘くんはしっかりしてるけど、お父さんもいないわけだし大変だな〜」
親が戻ってこられないことを割り切った様子で説明している八紘は、しみじみした様子のラーダに首を傾げて。
「まぁ、父がいない状態で上もすげ替えられてしまっている以上、割り振られている家にいられると言うことでもないですし、わたくしはご厄介になる場所があるだけましですよ?」
江戸が直接の戦火に見舞われていたならば、大火の時のように焼け出され家も家族も失われていた人々が再び大勢出たことでしょう。
そこまでの被害があったわけではなくとも、江戸の町は混乱に達し、またそれ以降のある種の占領下という立場に苦しんだり泣いた人は沢山いるため、心底八紘は自身が言った言葉を感じているようで。
「それに昭衛君はどうも道場を留守がちですし、道場の先生は帰ってくる様子もないですし、人が住まない建物は直ぐに傷んできますからねぇ」
誰か居ないと、そう言う八紘になるほど、と頷くラーダ。
「位牌はあるのだな? ならばその形見の品々が最優先となると」
山本剣一朗(ec0586)が尋ねるのにはこっくりと頷く八紘。
「ええ、最悪お金の方はあちこちお手伝いをすれば何とか‥‥紙屑拾いや荷運びの手伝い等でもすれば、いずれ貯まりますし」
ある意味随分と気の長い話ですが、いっそそれぐらい開き直らなければやっていられないのかも知れません。
「八紘君の大事な物は、必ず回収してきますからね♪」
「わふん!」
そんな様子を見て天堂朔耶(eb5534)が胸を張って言えば、愛犬の総司朗も八紘の膝にぽふっと顔を乗っけて励ますかのように鳴いて。
「この図面で行きますと、家の中の様子を窺うにはこの地点が良いですね。問題は見咎められずにここまで無事に移動できるかですが」
レア・クラウス(eb8226)が指さす地点は家の壁があるのにと首を傾げる八紘に、壁ぐらいならば透視できるとレアが教えてあげれば目を瞬かせて興味深げに聞き入る八紘。
「兎に角、配置は分かったが出入りする時間や人数などを調べねば‥‥俺はまず周囲への聞き込みに行ってこよう」
「ならば俺も‥‥少々確認しておきたいこともある」
群雲が言って立ち上がれば山本も刀を手に立ち上がり。
女性陣は2人が戻ってきてから行動に移るようで、少しして道場の片付け等の手伝いをしに来た子供達とわいわいと賑やかに過ごすのでした。
「‥‥出来れば話し合いで済めば良いのだがな」
小さく呟く山本に、群雲は付近の様子を窺いながら首を振ります。
「恐らくは無理だろうな」
視界に見えるのはこの辺りを巡回中の伊達兵でしょうか、人数が多いわけではありませんが、付近の建物を見る目がどこか物色をしているような様子を思わせ、歩く様子はどこか武器をちらつかせている雰囲気があり。
「‥‥少ない人数で占拠下の町を治めるには威圧が必要となる部分はあるのかも知れないが、だからといって略奪を働いて良い訳ではない」
現に幾つかの家では鉢をひっくり返されたり無理矢理開けていびつに歪んだ戸が見えたりと家捜しされた後が見受けられ。
それは全てが伊達兵というわけではなくどさくさに紛れての泥棒もいるでしょう、しかしそれが理由になるわけではなく。
「そろそろ必要な情報は揃ったか?」
「八紘殿の家が荒らされる前に回収しなければならないからな、そろそろ戻ろう」
山本の言葉に群雲は頷いて。
2人は足早にその場を後にするのでした。
●たいせつなものをかいしゅうです
「天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 人が呼ぶ! 悪の伊達兵を倒せと俺を呼ぶ!」
それは、日が高く昇った暖かいと言うよりは少々暑い日に突如起こりました。
八紘の家の屋根に突如現れた男性が、くわっとばかりに声を上げ。
「日光仮面のお兄さん、お呼びとあらば即参上!」
「呼んでいねす!? つか、誰だすお前ぇさは!?」
「‥‥わふぅん‥‥」
しゃきーんと元気良く声を上げるその男性‥‥姿を変えていた朔耶が声を上げるのに、総司朗がやれやれとばかりに溜息をつきますが、勿論伊達兵とすれば奇妙な人間が姿を現したわけで、何やら泡を食っています。
「間抜けな伊達兵ども! お前達がぼけっとしている間に、この付近の屋敷の財宝は全て頂いた! これは全て、源徳再興の資金にさせて頂く。悔しかったら取り返してみるがいい」
源徳再興資金を集める盗賊というのも妙なものですが、財産が全て持ち去られてしまったら、このつまらない見回りの旨味がないとでも言うかのように殺気だって目を向けた伊達兵の面々。
と‥‥。
「俺は逃げるがな! わっはっはっはっは!」
ばびゅーんと駆け去る朔耶と総司朗、それを慌てて追っかけ始めた2人の伊達兵は、適度に距離を保って逃げられていることにも気が付かず。
「‥‥おそらく八紘さんが隠した場所から動かされた物はないようです」
家の中を透し見て言うレラに頷くとラーダは、玄関の内側にお友達であるグラニートにディエリーヴァを立たせると腕まくりをして。
「早いところ済ませてしまえればいいのだが」
群雲は朔耶が引きつけて逃げ去るのを見送るとそっと裏口から家へと歩み寄り見れば、怪訝そうな表情で出て来る男がいて。
「‥‥見張っていろ言ったに、どさ行ったんだ彼奴らは」
「‥‥使えぬ、が、まぁいい」
ぱっと見、見張りに置いて置いた男達が居なくなったように見えるのに悪態を付く伊達兵と、じろりと辺りを見回すと鼻を鳴らし屋敷内へと戻ろうとするもう一人の伊達兵。
「‥‥ふん、数を捜せば業物ぐらいと思ったが‥‥せいぜいが売り払えば僅かな金になるような物ぐらいか」
つまらなそうに側にあった鉢を蹴り倒して言う男は、歩み寄った群雲と山本の気配に気が付いたかゆっくりと振り返って。
「付近の家からの窃盗を辞めて貰いたい」
山本が言えば鼻を鳴らして僅かに眼を侮蔑で細める男。
「何だ貴様等、天下の伊達兵様に楯突く気か?」
「‥‥小奴らに話し合いは無駄だ」
刀に手をかけ抜き放つ男に山本も刀に手を添え。
「‥‥丸腰で挑んでくるとは‥‥」
その中で腰を低く落として真っ直ぐに睨め付ける群雲に唸るように声を発した男。
「愚弄するな!」
男が声を上げるのとほぼ同時に、もう一人の伊達兵も山本へと躍りかかるのでした。
その頃、てけてけと走って引きつけていた朔耶は、物陰へとひょいと入り込むと姿を変えて再び追ってきて辺りを見回していた2人の男の前に姿を現し。
「お前ら、こんな所で何をしている! 江戸で破壊工作をしようとした源徳兵の捕獲命令が出ているぞ!」
いきなり浴びせかけられた声に驚いたように朔耶を見る男達。
「い、いや、だども‥‥」
「すぐに向かわないと首が飛ぶぞ!」
訛りがあるわけでもなく叱りつけますが、彼等に江戸詰だった上司が居るか居ないかなどは分かるはずもなく。
「こ、こっちさ男がきたはずなんだばって」
「居るわけ無かろう! 見失った言い訳にするつもりかっ!?」
ぴしゃりと叱りつけられて淡々と戻っていく男達、それを見て元の姿に戻った朔耶と総司朗は彼等の後を追うように現場へと戻っていき。
「裏では騒がしいけど、取り敢えず安全そうな物だけでも回収回収‥‥っと?」
その頃入口付近で図面を確認しながら家の中を見回していたラーダは、聞こえてくる足音にひょっこりと玄関を出て戻ると、何やらラーダ相手に吃驚したように指さす男を見てにっこりと何となく無言で眺めて。
「‥‥‥‥‥‥ディエーリヴァ、ごー!」
傍らにいるお友達のウッドゴーレムをけしかけたラーダ、駆け寄ったところを奇妙な木の人形と思った物がいきなり繰り出す一撃を正面から受けて滑り込むような態勢でもんどり打つ男。
「わふん!」
そして、もう一人の男は次の瞬間後から追いついてきて飛びかかった総司朗に顔面から倒れ滑り込んで。
「あらー‥‥思い切り突っ込んだねぇ?」
「思ったより足が速かったですねー。でも、気を失ってたり倒れ込んでいる今のうちに縛っておいちゃいましょう♪」
漸く追いついた朔耶が勢い余って思い切り踏んづけてしまったりと言う事故はありましたが、表の方の伊達兵2人はある意味可哀相な状態で捕らえられるのでした。
そして裏口では、斬り掛かった男の方が紙一重で避けると思い切り抜き打ち様に峯で殴り抜く山本。
崩れ落ちる男。
それを横目で見た伊達兵は余程自信があったのかも知れませんが、その一瞬を決定的な隙として、一瞬のうちに肉薄した群雲が鳩尾に打ち込んだ拳に、ずるりと寄りかかるようにして崩れ落ちるのでした。
●たいせつなもの
「あ、八紘君の着物はこの辺りだね、これを包んでっと」
ラーダが一角にあるきちんと畳んだ着物を同じく置いてある風呂敷で包んで居れば、朔耶はレアが調べた位置を聞いて天井裏の板をずらして覗き込んで、包みに手を伸ばして引き寄せて
「けほっ‥‥人が住まないとあっという間に汚れちゃうんですねー」
「わふぅ‥‥」
振ってくる埃を避けながら小さく鳴く総司朗。
「床下の‥‥この辺りの板をどかす‥‥前に」
図面を確認していたに手を這わせたかと思えば、少しずれ対置の板を外して、そうっと棒を差し入れて場所を探る群雲。
「っ!!」
と、勢い良く跳ね上げられたる竹に勢い良く強く叩かれた棒、群雲は取り落としそうになり棒を伝ってきた鋭い衝撃に小さく息を吐いて。
棒越しに当たった床板も勢いの余り一瞬浮き上がるほどで。
「‥‥‥念のため八紘殿に確認しておいて良かったな‥‥」
そう言ってずれた床板を移動させ、棒で十分に罠がそれ以上ないことを確認してから、山本と2人で床下の壷を引き上げて。
土で大分重くなっては居たのですが、その土を取り除けば、余り裕福とは言えない御家人の家でも、暫くは食べて行けそうなぐらいのお金が貯め込まれており。
「‥‥これで、全部か?」
山本が聞けば、朔耶が仕舞い込まれていた形見の品を聞き取った物が揃っているかを確認してからにっこり笑って大丈夫だと答え。
「こっちも着替えとか準備おっけー」
ラーダも答えれば荷を抱えて。
一行は必要な物を回収すると、道場へと引き返し。
引っ括った伊達兵は、見回りの者に発見されて解放されるまで、そのままの状態で恥辱に耐えていたようではありますが、自分たちのしていたことを話すわけにもいかず、その後泣き寝入りとなったそうなのでした。
●かりずまいのおていれ
八紘がこれから暫くお世話になる道場。
そこの水場では群雲と八紘が並んで食事の支度をしていました。
「他に手が必要なところはないか? 当面暮らすのに必要なことは済ませておいた方が良いだろう」
御飯を炊く火の具合を確認していた群雲の言葉に、味噌汁の味を確認しながらいた八紘は少し考える様子を見せて。
「えぇと、申し訳ないです、後で屋根の具合を見るのを手伝っていただけないでしょうか?」
「ああ、それぐらいならば任せておけ」
その言葉に嬉しそうに笑みを浮かべる八紘。
道場の板の間と隣接する畳の間では、お手伝いをしているのか遊んでいるのか分からない、小さな道場に通う子供達とじゃれて笑い声を上げているラーダと朔耶。
「やったなー、待てーーっ!」
「きゃー、にげるのー」
「あははっ、ラーダさん大丈夫ですか?」
洗濯物を手分けして洗っていたようで、子供達は途中から水の掛け合いになったりして、引っかけられたラーダが追いかけるのを朔耶が笑いながら見ていたり。
「わふぅ‥‥」
総司朗は背中に乗っかってにきにきと背中を踏みしめるレアの仔猫に道場に伏せて小さく鼻を鳴らし、そんな様子をレアは眺めながらお茶とお茶菓子を貰ってのんびり。
「形見の品が無事、1つもかけることが無く見つかって良かった」
晩御飯のお膳を楽しそうな様子で運んでいる八紘を眺めて小さく呟く山本。
子供達の元気な声に囲まれて、一行は仕事の後の食事を楽しみ、のんびりとした時間はゆっくりと過ぎていくのでした。