●リプレイ本文
●盗賊の正体は?
「さてさて、爺様思いの少年の為に、人肌脱ぐとしようかね」
夜十字信人(ea3094)がそう言うのに、焔雷紅梓朗(ea3571)と鷹波穂狼(ea4141)が頷きます。
「祖父孝行な良い子達だな。それに美味い酒を持っていったってのが許せない。ぜひ取り返して一口‥‥いやいや」
「上方からの上等な酒とあっちゃ黙ってられねぇや、必ず取り返して‥‥やるから、待ってろよ爺さん!」
なにやら飲む気が満々の穂狼と焔雷。
「俺らは戦闘班として行動するんで良いのだよな?」
穂狼が確認するのに信人と焔雷は頷きました。
人足達が集まる場へと出向いたのは、菊川響(ea0639)と琴宮茜(ea2722)でした。雇い主に許可を得て詳しく荷が襲われたときの話を聞くと、何人かが口々に答えます。
「あぁ、大柄でいや、ジャイアントほどじゃぁないが、良い体格の奴らだったな。4、5人ぐらいのむさい男達だったよ」
1人が思い出すように言うのに他の男達も頷きます。本人達も力仕事をしているのですから、それなりにしっかりと身体を鍛えられているので、よほどがっちりした男達だったのでしょう。
次にギルドづてで、どんな冒険者が依頼を受けていたのかなどを詳しく聞く菊川。ギルドの管轄ではないのですが、聞いている限りでは本当に駆け出しなので、荷を奪われて戻るのも取れなくなっているか、捕まったりしているのではないかということです。
一方、桜澤真昼(ea1233)とティーレリア・ユビキダス(ea0213)は、依頼人である少年の家へと向かい、その親に事情を話して囮の荷を用意して貰えないかと頼みます。
「囮で必要な商隊道具一式と盗賊捕縛用にロープをご用意願います。人数分の商人さんの服、荷車、荷等をお願いしたいのですけれど」
「荷は‥‥今までのことを考えますと飲食料になりますね」
「あぁ、それでしたら丁度良い。こちらを隣の宿場へともっていって下さい。あちらにいる弟がこの事件で、なかなか荷物を運ばせるのも出来なくて困っていたのですよ」
人の良さそうな少年の父親が笑いながら受け答えをしてくれます。すぐに木管を取り出して、さらさらと紹介状らしき手紙を書いて桜澤に渡してくれます。
「あの‥‥何かあったら勿体ないです。あまり高価な物ではない方が‥‥」
「その点も大丈夫ですよ。有ったら嬉しいけれど、無くても何とかなる物です。お気遣い痛み入ります」
ティーレリアと桜澤にお願い致します、と丁寧に頭を下げる父親。2人は父親と少年に見送られてその場を後にしました。
●荷の中身は?
隣の宿場へと手紙を持参して訪ねると、先方は偉く喜んで迎えてくれます。
「いや、親父様の祝いのために、一肌脱いでいただけると‥‥有り難いことです」
荷は主に餅米やこの辺りでは評判の酒などです。
「上方からの酒が間に合わない可能性も考えて、一応用意したのですが。うちではこんなにいりませんからな、あちらに運んで宴の足しにしようかと。皆様、どうか宜しくお願い致します」
そう頭を下げる男。準備が整うまでの間、宿場内で聞き込みなどを行っています。
「その‥‥荷を運ぶ方々について聞き回る人がいるのは知っていますけど」
焔雷が声をかけた茶屋の娘は、声をかけられたことに顔を赤らめつつそう言うと客のことを言っているからなのか困ったような顔をして声を落とします。
「特に良く、積み荷が食べ物かどうかを、お茶を持って行ったりするとそう言う話ばかり良くしているんです。なんだか、それが気にかかって‥‥」
「食べ物かどうか?」
「はい‥‥必ず荷を積んでこの宿場へと来たばかりの人達に声をかけていましたし‥‥」
そう言いながら娘は言いにくそうな様子で店に入ってくる若い男へとちらりと目を向けます。
「あいつか?」
焔雷の言葉に頷く娘。若い男は出発準備が整って、時間まで茶屋で休もうと入ってくる囮班の面々に近づいて声をかけます。
「こんなに若いのばっかで、荷は大丈夫なんですかい? ねぇさんたち、何を運んでいるんでしょうかね? 近頃じゃぁ、食い物運んでると狙われるそうですぜ」
そう言いながら何かを伺うようにちらちら囮班の面々を眺める男。
「わざわざご丁寧に有り難うございます」
パフィー・オペディルム(ea2941)がそう言って追い払うと、囮班の面々は顔を見合わせました。
●襲撃
江戸へと荷を運ぶ道中で、辺りを気にしていたティーレリアと菊川はふと見られていることに気が付きます。辺りも薄暗くなってきており、途中で林の中の良く野営に使われる地点で馬を止めて野営の仕度を始めながら、囮班は迎え撃つ準備をしています。桜澤は荷を運ぶ馬の首を手拭いで拭うなどして、世話を焼いています。
少し離れたところでは、見つからないようにと辺りを気にしながら、信人、焔雷、穂狼の3人がいつでも飛び込めるようにと警戒を続けています。信人など、優れた視力と聴覚を持ってして、なんだか軽快に警戒しているようです。
と、がさがさ林の中から厳つい男達が4人ほど出てきて刀を向けながら下卑た笑いを浮かべます。
「良いもん持ってるそうじゃねぇか。酒と食い物をさっさとだしな。ついでにそこのねぇちゃんを置いていくとなお良いが、人間が消えるってなっちゃ、仕事がやりにくくなるんでな」
ちらりとパフィーを見ながら言う男が、不意に体勢を崩して突っ込んできます。見ると護衛班の穂狼がうむも言わずに後から一撃を叩き込んだ様でした。すぐに体勢を整えようとする他の男が投げつけられた短刀を刀で叩き落とします。
「我が刃よ‥‥舞い踊る時が来たぞ‥‥?」
信人が一気に間合いを詰めて、一際体格の良い男へと斬り込みます。それを凌ぎきって信人が離れた一瞬に、パフィーが手の中へと炎の玉を作り出していました。
「はあ、賊にモテても仕方ありませんわね。‥‥消えなさい! ファイヤーボム!」
「こんのアマぁっ!!」
炎の玉がまともに直撃した頭らしき男は、焦げ臭い匂いを発しながらぎりっと睨み付けます。パフィーへと向かおうとするのに信人が長巻を構えて立ちはだかります。
そんな信人の背後では、仲間を呼びに行こうとする様子の男を菊川が短刀で足止めをして、ティーレリアがアイスコフィンでその男を凍らせます。はじき飛ばされた男には、はじき飛ばした本人である穂狼が叩き伏せて、荷と一緒に預かっていた縄で茜にぐるぐる巻きに縛らせています。短刀を叩き落とした男は手近な桜澤に向かいますが、すぐに焔雷の助太刀でこの男も取り押さえてしまいました。
「後はお前1人だぞ?」
信人の言葉に刀を握り直す頭。じりっと間合いを詰めて打ち合います。
刀が刀を受け止め、互いにぎりぎりと力を込めて押し合います。いわゆる鍔迫り合いになります。
緊迫した空気の中、押されて転倒したのは頭の方でした。
すかさず首元へと刀を突きつける信人。男は悔しそうに刀を落とすのでした。
●生きていた冒険者
一行は男達の根城にやってきていました。途中『指を一本一本折って‥‥いや、婦女子もいることだ、あまり過激なことは‥‥』『いや、いいじゃねぇか、一本一本落としていったらどうなるかな』『!!!』等と言った少々危険な行程を経て非常に協力的になった男を案内に、信人と桜澤を見張りとしておいてやってくると、林の中には朽ちかけた大きな廃屋が見つかりました。中にいた2人の厳つい男達も、パフィーやティーレリアの『誠意を込めたお願い』を聞き入れて、大人しく投降しました。荷が幾つも積んである一角に、僅かに開けられてしまった様ではありますが、上方から取り寄せられたという酒の荷が見つかりました。
「‥‥‥何か声がしませんか?」
ふと、茜がそう言うと、なにやら床の辺りへと目を落とします。すぐに床下に降りる階段のある戸を見つけて開くと、そこには4人ほどの、やつれて痩せてしまっている若者の姿があります。どれもこれも縛られていて冷たい床に転がされていますが、どうやら無事の様で、手分けして助け出すと、酒の護衛をして、奪われた荷物を取り返そうとして捕まってしまった冒険者達であったことが分かりました。
●喜の祝い
「儂のために、本当に皆、有り難うな」
そう言う老人は、矍鑠としてまだまだ若いと感じられる様な元気な人でした。宴の席へと呼ばれた一行は、家族にもそして少年達の祖父本人にも大変感謝されます。少年達はそんな祖父の姿を見て、本当に嬉しそうです。礼を言いながら出される酒は、喉越しが爽やかで幾らでも飲めそうな気になります。
「働いて飲む酒の美味さってやつ、教えてやりたかったがなぁ」
そんな風に桜澤にお酌をして貰いながら菊川が呟きます。盗賊達が『楽して喰いたいんだ、働くなどまっぴらだ』と言いきった為にそのまま出す所に引き渡した様です。菊川が上機嫌に飲んでいるうちに潰れて手近な桜澤を抱え込もうとして代わりに座布団を抱きつかされている横で、いつの間にか一口飲んでぐっすりと眠り込んだティーレリアがいます。
一角ではパフィーと焔雷、穂狼が上機嫌で、上方の酒や、自分たちが運んできた酒を物凄い速さで消化していき、それを面白そうに信人が眺めています。
「このお酒、本当に美味しいですわね‥‥ついつい進んでしまいますわ‥‥あぁ、なんだかわたくし、気持ち良くなって参りましたわぁ‥‥」
「おう、じーさん良い飲みっぷりだなぁ。もっといけ!」
「うむ、飲み比べじゃ、若いモンには負けんぞ。ほら、おんしも飲め」
‥‥いつの間にか少年達の祖父も加わり、大いに盛り上がっているようです。
そんな宴席から離れて庭で佇んでいる茜に、少年の1人が声をかけます。
「あの‥‥母さんがお茶の席を用意しているので、宜しかったらどうですか?」
言われる言葉に少し考えてから、茜は微笑んで頷くのでした。