待ち望んだ夕涼みを‥‥

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:09月04日〜09月09日

リプレイ公開日:2007年09月21日

●オープニング

 その日、ギルドにその老人が姿を現したのは、じりじりと焼けつくような暑い日が続いたある日のことでした。
「わたくしども夫婦には、この時期にあの村へといっての夕涼みが、何よりの楽しみで‥‥」
 そういう老人は、過去にも夕涼みのための護衛を雇ったことのある人物。
 七十も、もうそろそろ半ばと言った老人で、老婦人も同じぐらいの年だったと記憶している受付の青年は、ご夫婦の護衛の依頼ですか、と確認を取り。
「実は家内の足の具合が思わしくないのはともかくとして、夫婦共に、今年の暑さが堪えて、少々身体の具合が良くないのですでの」
 とは言え病気になったりなどといったものではないそうなのですが、色々と辛い物もあり、また郊外が多少物騒な可能性も考えればなかなか夕涼みに出かけることも出来なかったようで。
「誰か手伝いを頼もうとも思いましたのですが、今までのこともあり、冒険者さん方にお願いするのが、一番安心かと思いまして」
 老人の記憶の中では、冒険者達との想い出は暖かいものばかりであったようで、家内もその方が喜びますので、と付け足して。
「どうか、夕涼みの付き添いと、多少のお手伝いをお願いできないでしょうか?」
 老人の言葉に頷くと、受付の青年は筆を走らせるのでした。

●今回の参加者

 ea0639 菊川 響(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2139 ルナ・フィリース(33歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3731 ジェームス・モンド(56歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea7179 鑪 純直(25歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1555 所所楽 林檎(30歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb2872 李 連琥(32歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 eb4994 空間 明衣(47歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec0972 雲隠れ 蛍(23歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

カファール・ナイトレイド(ea0509)/ 白井 蓮葉(ea4321)/ 岩峰 君影(ea7675)/ 火乃瀬 紅葉(ea8917

●リプレイ本文

●嬉しい再会に
「御夫婦はどのような方々なのだろうか?」
「そうだな、穏やかで感じの良い夫婦だったぞ。」
 鑪純直(ea7179)が聞けば空間明衣(eb4994)が荷を確認しながら答えます。
 老夫婦はもとは御武家で、出かける先の村に家を持っており、普段はその村の人々に管理を任せているそうで。
 一行は老夫婦と待ち合わせの間に荷を支度している最中で、直ぐ側ではルナ・フィリース(ea2139)が日除けの笠を確認中です。
「今年も追い剥ぎが出ないとも限りませんからね。ロイヤーなら怯えることもないでしょうし‥‥」
「我が主水魔物(モンドカー)も追い剥ぎごときではびくともせんからな」
 ジェームス・モンド(ea3731)がにかっと笑って言い、菊川響(ea0639)と所所楽林檎(eb1555)は軽く首を傾げ口を開いて。
「通年、あの辺りへ行く道は追い剥ぎが出没していたって話だけど、どんなのが出たのかな?」
「最初は破落戸が通行料として金品を脅し取ろうとしていたのですが、近頃ではどうもあぶれてしまった浪人や滅ぼされた村の人たちがということが多いようですね」
 今までのことを思い返して答えるルナに菊川はなるほど、と思案げに頷いて。
「‥‥世情が世情ですから、どちらに対しても備えをしておくにこしたことはない‥‥かと」
 林檎が言えば雲隠れ蛍(ec0972)がどこか楽しげに微笑を浮かべながら口を開いて。
「なるほど、夕涼みは毎年恒例なのね。おばあさんの足のことを考えるとやっぱり遠回りでも『なだらかな道』が良さそうよね」
「馬に乗るにしろ歩くにしろ、一番負担が少ないのはその道であろうな。それにしてもこのような穏やかな仕事もたまには安らぐものだな」
 蛍の意見に同意をすると、こちらも笑みを浮かべて頷く李連琥(eb2872)。
 そこへ『こうしていると、故郷の祖父母を思い出しまする』と楽しげに火乃瀬紅葉が老夫婦の荷を手に、老夫婦を連れてやって来て、どうやら荷づくりの手伝いをしていたよう。
 白井蓮葉がピュアリファイで綺麗にしたお水を渡しながら老婦人へ、道行きの間にある花などの話をし、一行には最近農具などで武装した追い剥ぎもどきが出るらしいが、脅せば逃げていくと言う話をして。
「お二人とも、お久しぶりです。‥‥体調が少々よろしくないとお聞きしましたが大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫ですとも。ルナさんと久し振りにお会いして元気になりましたよ」
 老婦人がルナへとそう微笑を向ければ、明衣と老人も再会の挨拶を交わして。
「今年もよろしくお願いする。あそこの雰囲気は気に入ってな」
「それは嬉しいこと。こちらこそ、今年も宜しくお願い致します」
「それでは出かけますかな」
 にかっと笑ってモンドが言えば、頷く一同は早速出立することとするのでした。

●緩やかな道行で
 長閑な道行、まだじっとりとした暑さが身に沁みそうなものですが、道中についてきたカファール・ナイトレイドの元気な声や、明衣の細やかな気配りに寄って体調を大きく崩すこともなく、細かい休憩を入れ遅いのたびに馬の乗り換えなども行っていたためか順調なようで。
「『おいはぎ』いるの? 『わりごはいねがー』って叫ぶ人?」
 そんなことを言ってカファールが先に飛んで行ってしまったりといったことはありますが、それ以外は特に何があるでもなくのんびりと進む一行。
 やがてじりじりと再びぶり返してきたかのような暑さに、少々休憩の出来そうな広さの場所を選んで小休止となりました。
 早速林檎が茣蓙を牽いて
 蛍が老婦人に塩の効いたおにぎりを差し出せば、林檎が敷いた座布団に腰をかける老婦人、手拭いに水を浸して軽く絞ったものを手にするのはモンド。
「これで首のあたりを拭うと良いでしょうな。首を少し冷やすだけでも大分違いますぞ」
「これは忝ない」
 そう笑みを浮かべて答える老人の側で、ルナが取り出したのは日傘、それを開くのに菊川も手伝い老夫婦を中心に厳しい暑さの中にささやかながら心地好い日陰が出来上がり。
「それにしても今年は本当に暑さが厳しいですね‥‥」
「これで大分涼しきなってきたというのも辛いところであるが」
 ルナの言葉に連琥も同意をすれば、明衣も連琥も菊川もその手にあるのは涼風扇。
「‥‥これがあるだけで大分違うんじゃないかな」
 流石に3つも揃えば圧巻と言うところでしょうか、涼やかな涼風扇の風と日傘のお陰で大分に涼しくなった小休止はあと少しだけ続くのでした。
 やがて再び村に向かおうかという頃、毎年張りやすい場所と言いましょうか、賊が現れやすい地形をした林に隣接をした辺りが少し先にあるのを考慮し、同じ辺りに警戒をすると言うこととなって。
 純直のバイブレーションセンサーで付近を調べれば感じられるのは5人ほどの動く気配。
「じゃ、頼んだよ」
「はい、任せてください」
 蛍が頷くと連琥も夫婦が襲われないようにと側で待機をし、周辺から近付く物が有れば分かるとのことで純直もその場で待機、残りの人達で賊と思しき男達の元へと足を向けて。
「毎年のことですけれど、やはり心配ですわねぇ」
「心配には及びませんよ」
「その辺りの賊にどうこうできるものではないであろうな」
 老婦人が僅かに心配そうにいうのには蛍も連琥もこともなげに答え。
 実際の所、彼等の言葉はまさしく的を射ていたのであり‥‥。
 それぞれの獲物を手に歩み寄るのはモンド、明衣にルナ。
「な、何だお前達は!?」
 農具を手にそれを向けて声を上げる男達は、明らかに風体からすれば元はどこぞの村人だったのでしょうが、今は只の追い剥ぎと大差がない様子で。
「何故、毎年毎年‥‥そろそろこの場所もこの時期には警戒されても良いと思うんですが‥‥」
 呆れにも似た言葉を滲ませるルナではありますが、丁度木の陰にもなり待ち伏せがし易い地形だからと言うことで彼等も選んでいたので、例年の事は知らずに選んでいるだけある意味憐れなのは彼等かも知れません。
「‥‥菊川さん‥‥あそこに‥‥」
 そして少し後からそっと近付いていた林檎と菊川、近くまで来て男達が聞いていたのと違う3人であった事もあり警戒していた林檎が生命を探知すれば、こそこそと大回りで前衛達の後ろに回ろうとしていた、林に隠れていた2人を察知し囁きかけて。
「‥‥‥」
 小さく頷いた菊川は、男達の様子から近くの村から出た行き場を失った者達であることが想像でき、直撃させれば危険かな、等と小さく口の中で呟くと、男達の足下を狙って威嚇の意味を込めた一射。
「ひっ!?」
 森の中に上がる短い悲鳴。
「野郎っ!?」
 咄嗟に林から聞こえてきた声に反応した男達が農具を手に襲いかかろうとするのですが、その男の肩からかけていた手拭いがはらりと舞い落ち、その鋭利な斬り口に暫し固まったまま明衣を凝視する男。
「‥‥命を無駄にする事もなかろう。とっとと退散したらどうだ?」
 そう声をかける明衣、側では同じく襲いかかろうとした男がルナの剣が生み出す衝撃波に吹き飛んで。
「貴方達追い剥ぎには容赦はしません‥‥殲滅するまでです!」
「‥‥この俺の目の黒いうちは、悪行を許しはせぬ。これ以上怪我をせぬうちに帰るがいい」
 刀に手をかけて明衣を凝視する男と、後で鎌を持って様子を窺っていた男達に言えば、ぽろりと鎌を落としてその男は他の者達を置いて脱兎の如くに逃げ出してみたり。
 すっかり戦意を無くした元村人達は、純直が近くの宿場から役人を呼んできて引き渡すと、休憩を終了して村へと向かって再び出発するのでした。

●長閑な村で
「さてと、遠慮せず出来ることが有れば言ってくれ」
 村について目的の家へとやってくれば、蚊帳を吊すのを手伝ってから連琥が言うのに礼を言う老夫婦。
 村はのんびりとした様子で、まるでここのところの江戸の事はなかったかのような、のんびりとした穏やかな村で。
「何か買い出しとか必要な物はないかな?」
「大体の物は来るときに村の方で用意してくれますでな、往き帰りに色々と面倒見ていただいておりますし、のんびりして頂ければと」
 老人が言うのに、そっか、と少し考える様子を浮かべていた菊川は軽く首を傾げて。
「そうだ、明日辺り釣りに行こうと思っているんですが‥‥」
「おお、それならば明日、村の子供達に聞けば穴場を教えてくれますぞ」
 笑みを浮かべて言う老人になるほどと頷いて笑い返す菊川。
 ちょうど村の家を預かっていた人が夕餉の膳を運んでくるのに目を向ければ、林檎と蛍がお手伝いをしており。
「あらあら、そこまでして頂かなくても良いのですよ」
「お気になさるな、国のお義母様の世話で慣れておりますし‥‥それに、久しぶりに親孝行が出来たようで、楽しませてもらってますからな」
 そして隣の間では老婦人が場所を作ろうと卓を片付けようとしているのに手を貸したモンドがにかっと笑って代わりに動かしている姿が見えて。
「折角ゆっくりとしに来たのですから、私たちに任せてゆっくりしてください‥‥」
 ルナが気遣うように言うのに嬉しそうに笑って頷く老婦人、そんな様子に大輪の紫陽花が目を惹く浴衣へ着替えて煙管を手に夕餉へとやって来た明衣が小さく笑って口を開きます。
「よく食べよく休み。ゆっくりと過ごせば身体も癒されるだろう」
 明衣の言葉に一同が頷き、ルナが手を貸しながら老婦人の夕餉の席へ着いて、漸く落ち着いて食事やお酒に舌鼓を打つのでした。
 さて、夜が明ければ早速暑い1日が始まりますが、木々に囲まれ小川が流れる村では涼しい風が吹いており、比較的過ごしやすいよう。
「味はどうでしょうか‥‥? ‥‥どうしてもと言う味付けがありましたら‥‥」
「いいえ、そんな‥‥美味しいですよ」
 紫陽花が愛らしい浴衣に瑞々しい若葉を模した簪の林檎が聞けば、にこにこと笑って答える老婦人、ちょうど漬け物の味を見て貰っていたようで、鍋からは味噌の良い匂いが漂ってきています。
 朝餉の支度を林檎がしていたようで、蛍が顔を出しては食器などの支度を手伝っていき、居間では菊川や純直、連琥などが老人が隠居する前の話などを聞いており、モンドが時折年長者らしい注釈を入れて会話が弾んでいるようで。
「小川の籠を引き上げてきました」
 ルナが外から戻ってくれば、それは村の人に持っていくようにと言われた水に晒されてよく冷えた西瓜。
 朝餉が済めば早速釣り具を持って出かける菊川は村の子達が遊びに行くところに声をかけると、釣りの出来る辺りまで案内してくれるという話。
「いやー‥‥釣りなんだけどね‥‥?」
 少しの地に、川遊びに興じる子供達が近くにいて、ちょっぴり魚は吃驚して逃げてしまったようですが、やがて掴み取りなどを始める頃には良く太った丸々としたお魚が菊川の魚籠に収まることに。
 家の中では老夫婦が互いに気遣いながら穏やかに過ごす様子を眺めながら、皆思い思いの時間を過ごしている様子。
 何やら連琥が老婦人と話している間に女性の喜ぶ贈り物のことなどをしどろもどろになって聞けば、ころころと鈴が鳴るような笑い声を小さく上げて相手によるけれどと付け足しながら幾つか助言を貰えたようで。
 その間に気が付けばルナや林檎、蛍たちに老婦人が聞いてみてくれて余計に困ったように慌てる連琥の姿が見られたよう。
 涼やかな風が吹き込む縁側では、モンドが老人の碁のお相手のようで。
 時折はたと止まって碁石を手に考え込む老人ににかっと笑って待ったなしなどを返すモンド、そんな様子を少し離れた場所で微笑ましげに眺めながら、明衣は煙管盆を引き寄せてぷかりぷかり。
 庭ではのんびりと空を飛び回る鷹の諫早を見上げてゆったりとした時間を過ごす純直。
 こうして長閑な村の時は過ぎていくのでした・

●ゆったりとした夕涼み
 明日は再び江戸へ向けて出発する、そんな夕暮れ時。
 一行は老夫婦がいつも歩く道を夕涼みに出かける刻限になると、2人を見送ろうとしていたルナがいらっしゃいなと是非にと誘われて一緒に出かけることとなり。
 すっかりと恒例になっていた夕涼みで、まるで孫娘が会いに来てくれたかのように喜ぶ老婦人の様子に、色鮮やかに染まる空を見上げて。
「‥‥夕涼みは私にとっても恒例になっていますね‥‥」
 小さく呟くと、ルナは2人に合わせて再び歩き出し、空を映した小川の色や木々の様子を暫しの間楽しむのでした。
 村の人に振る舞われる料理と、林檎の作った御飯とを頂き静かに時間を過ごしていました。
 ただただのんびりとした時間、菊川が緩やかに吹く笛の音は、付近の人々も手を止めて空を見上げて楽しげに聞き入り、モンドはのんびり道を行く老夫婦とルナの姿にお姑さんへ江戸の土産を送ってやろうか、などと眼を細めて小さく笑って呟いて。
 静かな時間を名残惜しげに過ごしていた蛍と林檎は二言、三言言葉を交わすと、2人揃って笛の音を聞き入りながら庭へ、空へとそれぞれ目を向けて。
 その中で林檎は自分の今を見つめているようでもあり。
 庭で日課の訓練を怠らずに行っていた連琥も、鮮やかな空を見上げて手を止めると、遠くを歩く仲睦まじい老夫婦の姿に僅かの羨望を滲ませて小さく息を付き。
 それぞれの夕暮れ時の過ごし方を煙管を燻らせながら眺めていた明衣は、小さく笑うと手の中の杯を小さく揺らして過ごすのでした。