はじめてのおつかい?

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 94 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月09日〜09月16日

リプレイ公開日:2007年09月25日

●オープニング

 その日、どうやら御店の者に連れられてやって来た裕福そうな子供を見て、受付の青年は目を瞬かせました。
「あれ? 君は‥‥」
「よしたろう、なの」
「うん、吉太郎君、お友達と一緒じゃないんだ?」
 そう聞きながら吉太郎とそのお付きの男性に席を勧めれば、男性は口を開きます。
「吉太郎お坊ちゃんのお使いの、護衛をお願いしたく‥‥」
「お使いの‥‥護衛、ですか?」
 小さな子供のお使いに護衛が必要な場所へと出すこと自体があまり良い事とも思えないためか、受付の青年は念を押すように言えば、困惑した表情のままに頷く男性。
「お坊ちゃんは、自分は役立たずじゃない、ちゃんとお使いだって出来るんだ、と‥‥」
 その言葉に吉太郎へと目を移せば、こっくりと頷いて受付の青年を見上げる吉太郎。
「それで、その‥‥江戸より子供の足では2日ぐらいでしょうか、かかるところにあるお寺さんに、荷を‥‥」
「なっ、なんでそんな‥‥」
「ぼく、できるの! おてつだい、できるの!」
 子供になんてことをと言いかける受付の青年を遮って、ぶんぶんと手を振って猛烈抗議中の吉太郎君、そしてその様子に困ったような顔で救いを求めるような目を受付の青年へと向ける男性。
「あー‥‥吉太郎君は立派だというのはよく分かったので、そっちのおじさんの所に言ってお饅頭を貰って食べて待っていてね?」
 言われた言葉に頷いててこてこ去っていく吉太郎を見送ってから男性を見れば、声を潜めて口を開く男性。
「実は、吉太郎お坊ちゃんを煽った方がいまして‥‥いえ、確かなことは言えないのですが‥‥」
 そう言って話し始める話では、吉太郎の父親は婿として入ったそうで、奥さんは先代の娘とのこと。
 そして吉太郎の家には他に身内で、先代の後妻として前妻を追い出した気性の女性が入り産まれた子供、つまり吉太郎の母親の腹違いの弟が居るそうで。
 その弟は姉が自分に御店を譲らず、先代も亡くなるときに姉に御店を任せて何も自分に残さなかったことが不満だそうで、両親の見ていないところで吉太郎をいびるのだそうです。
「それは巧妙に‥‥店の者でもその現場を押さえられないので‥‥吉太郎お坊ちゃんは今回はどうも、お使い一つ出来ない役立たず、と言われた様子で自分がお寺にお届け物をすると言って聞かず、何とか護衛は必ず必要なのだと旦那様が宥め賺して‥‥」
 両親も何があったのかは大体察しているものの証拠もなく、ましてや吉太郎が仲良くしている子供達がそれぞれ家のことをやっているのを知っていて、がんとして言うことを聞かないのにもほとほと困り果てたようで。
「ならば、せめて叔父さんにいびられないところでのんびりしてくるのも良いかの知れないと、護衛を付けてお寺に送って、もし出来るなら、それとなく吉太郎お坊ちゃんから話を聞き出して欲しいと‥‥」
 外に出れば何か話すかも知れないという気持ちもあるそうで、吉太郎の両親からの依頼を依頼書へと書き付けるのでした。

●今回の参加者

 ea0988 群雲 龍之介(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb5534 天堂 朔耶(23歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb9825 ラーダ・ゲルツェン(27歳・♀・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ec3613 大泰司 慈海(50歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ec3669 ラティオ・ジオブライト(20歳・♂・ジプシー・エルフ・ノルマン王国)
 ec3767 親方 日の丸(39歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

天堂 蒼紫(eb5401)/ 加賀美 祐基(eb5402

●リプレイ本文

●ぼうけんしゃさんのけいこうとたいさく
 その日、吉太郎はお仕事で護衛を引き受けてくれた冒険者さんの皆様方を、眼をぱちくりさせながら見上げていました。
「お、おはようございます、あの‥‥その、よろしくおねがいします!」
 吉太郎が挨拶をすれば、にっこり笑って吉太郎へと手を差し出すのはラティオ・ジオブライト(ec3669)。
「こちらこそ、よろしくね、僕も一緒にお寺さんに行くのが楽しみなんだ。吉太郎君と仲良くなりたいから、いっぱいお話しながら行こう?」
「なかよく‥‥? うんっ♪ ぼくも、たのしみなの♪」
 とっても嬉しそうに差し出された手を握る吉太郎に、ラティオも嬉しそうに笑い返して。
「吉太郎君久し振りだね〜。道場に行ったとき以来かな?」
 ラーダ・ゲルツェン(eb9825)が軽く首を傾げて言えば、こっくり頷いてにこぉっと笑いかける吉太郎。
「一人は来られなくなったみたいだね。じゃ、いこっか、吉太郎!」
「うん♪」
 大泰司慈海(ec3613)が吉太郎の頭をぐりぐりと撫でて言えば、元気良く返事を返す吉太郎に慈海も満足げに笑って頷いて。
 江戸を出れば街道は広く長閑で、じっとりと暑くはあるものの、街道に沿って生える木々の木陰を歩けば涼やかな風に心地好さを憶えるほどにはなっていて。
 長閑な旅は、そんな様子で何事もなく一日が過ぎて、次の日は朝早くに街道の旅籠を後にし再び旅を再開する4人。
 そんな一行を見送ると、旅姿で距離を置いて後を追い始める影。
「‥‥さて‥‥一人ということは恐らく‥‥」
 その姿を確認し、他にいないことをよくよく確認し直してからその男の後を追うようにして歩きだすのは群雲龍之介(ea0988)です。
「吉太郎の仕事を成功させるのはもちろんとして‥‥吉太郎の叔父の腐りきった根性をとことんまで叩き直してやるっ‥‥!」
 口の中で噛みしめるかのように呟く群雲はラーダや天堂朔耶(eb5534)と同じく吉太郎や仲の良い子供たちの手伝いを幾度かしたこともあり、だからこそ叔父のしたであろう子供心を傷つける言動に怒りを覚えているようで。
 幸いなことに半日支度に費やされ―主に子供の心配をする両親を落ち着けるのに費やした時間ですが―そのために吉太郎の叔父が出かけていた先を聞きこんでいた群雲は、予定より早く追いつき旅姿の男の背格好から前日のうちに確認していた男と一致するのに頷いて。
 そこへてけてけと駆けてきた人間に、無視をするのもと思ったか声をかける群雲。
「おい?」
「あっ、群雲さん! 間に合ったかな?」
 ちょっと前に行ったから合流するならば間に合うと告げる群雲と朔耶は前を行く男から目を離さないようにして互いの首尾を確認し合い。
「それでですね、もー、酷いんですよー、あの叔父さんって人!」
 ひそひそ声でもつい口調が強くなる朔耶は、夜にその叔父の部屋の屋根裏へ兄である天堂蒼紫に手伝って貰い忍び込んで、吉太郎の声音で幽霊っぽく『おじちゃん‥‥ぜんぶばればれ、なの。わるいことしようとしても、だめ、なの』と囁きかけたそうなのですが‥‥。
「そのおじさん、幸先がいいとかなんとか含み笑いしてて‥‥ううーーー腹立った〜」
 ただまぁ、そこで天罰が下るとさらに囁きかけたところ、少し落ち着かない様子であたりをきょろきょろと見回していたのではありますが。
「通りで‥‥昨日出かけた時には少し騒がしかったらしいな、吉太郎の家では、何でも叔父が疳癪を起したとか」
 なんだか納得したように頷く群雲に、朔耶は軽く首を傾げて。
「群雲さんは、何かわかりましたかー?」
「あぁ、郊外に出かけていたらしいが、あの辺りにはちょっと性質の悪いやつらが良く入れ替わっているらしいな」
「入れ替わって?」
「何人かが出て行っても、また別の性質悪いのが来るような‥‥まぁ、あの辺りは人目につかないうえに享楽が多い場所がらだ、当然といえば当然だが‥‥その辺りで見られていてな」
「ふむふむ‥‥あ、本当だ、加賀美さんのにもそんなこと書いてあります」
 別々に調べてほぼ一致した情報ならば間違いは少ないという裏付けになる、そう群雲は頷くと改めて口を開いて。
「今いる奴らの数人がここ数日姿が見られていないそうでな‥‥前を行くのはその時にそいつらとつるんでいると聞いた男だ」
「‥‥そこまでは書いてなかったですねー。時間切れだったのかな?」
 兄の相棒である加賀美祐基の報告書にはそこまで突っ込んで調べられる時間の余裕がなかったようで朔耶にとっても新たな情報。
「じゃあ、他の人たちは前もって先に行ってて‥‥」
「あぁ、あの男が襲撃前に道を逸れて先回りするのだろうな」
 そんな会話が後ろの方で交わされているとも知らず、旅姿の男よりさらに前、ラティオと手を繋ぎながら大切そうにもう一方の手で体に括った荷物を前で抱っこしつつにこにこと歩く吉太郎、すっかりと一緒に旅する3人に懐いて時折楽しそうな笑い声も上げています。
「旅は良いよ〜吉太郎、ほら、こういう花が咲いてたり」
「わぁ、かわゆいです」
 慈海が声をかければ一同立ち止まり、ラティオはふと首を傾げて。
「吉太郎君はどんな花が好きなのかな?」
「んみゅ‥‥あの‥‥おんなのこみたいって、わらわない?」
「笑わないよ〜。ねーっ?」
 聞かれた言葉にもじもじする吉太郎にラーダが楽しそうに声を上げながらラティオと慈海に同意を求め、二人とも口々に笑わないと約束し。
「ちいさな、ももいろのはながすきなの‥‥ほわっとしてて、かわゆいから」
「うん、可愛くて良いよね。笑うなんてとんでもないよ、僕だってそう思うよ」
 ラティオの言葉に嬉しそうに頬を染めてはにかむ吉太郎、どうやら今までは女の子みたいだと笑われてしまっていたようで。
 旅の初めはもじもじとどこか緊張気味にも思えた様子も、すっかりと楽しむ様子に変わるのを見て、3人は改めて笑みを浮かべて吉太郎を見守るのでした。

●かいどうでのおおたちまわり
 そんなこんなで二日目、適度に休憩を入れたりそっと手を自然に手を貸したりなどしていたためか旅の行程は順調で、夕闇が迫る頃にはもう少し行けばお寺というところまでやってきていました。
 辺りは時間のためもあり人影は他になく、ちょうど道が木々の蔭で人目につきにくくなっている地点へと通りかかったときです。
 がさがさ、という音と共に出てきた男たち‥‥3人。
「おい、なんであいつら出てこねぇんだよ‥‥?」
 後ろの方にいる男がぼそっと呟いたりはしていますが、最初に出てきた男はそれにはお構いなしに刀に手をかけて低く口を開き。
「その餓鬼遣せば通してやるぜ?」
「っ!! 吉太郎君には指一本触れさせないよ!」
 ラティオが庇うように吉太郎をぎゅっと抱きしめて言えば、やれやれとばかりに男に対峙する慈海。
「まぁ、どーししょもないちんぴらでも雇って来るかなとは思っていたけど‥‥」
 小さく後ろの吉太郎に聞こえないように言う慈海に片眉をあげる男、次回の側では猫で言えば気を逆立てているような、という威嚇でもするかのようにきつく睨みつけるラーダが立ち。
 ちなみに並ぶ前に念のため合図の笠を振っては見たのですが、ラーダの目には間に合わない、と見えたのか‥‥。
「ぐだぐだ抜かすとお前らもまとめぶぉはぁっ!!?」
 悠長に脅しをかけている途中で吹き飛ぶ男、一瞬の出来事でしたが瞬時につくり上げた雷をぶつけたラーダ、一人の男が殺気立って刀を抜くのにずいっと前に出る慈海、ちなみに先ほどぼそっと呟いていた男はおかしいとばかりに道の反対側の茂みへと目を移して、何かに驚いたような表情を浮かべ。
「ううう‥‥」
「大丈夫だからね、吉太郎君のこと必ず守るから」
 そしてぎゅーっと目を瞑ってラティオにしがみ付く吉太郎、ラティオも宥めるかのように優しく話しかけており。
 そして、斬りつけた男の刀を十手で受けざま棍棒で薙ぎ払う慈海、ほぼ同時にぼやいた男が見ていた茂みから転がり出たのは突き倒されて街道へと転がり出てきた男たちの姿でした。
「‥‥空に輝くお天道様に代わって、俺は全ての悪事を見つけ出す‥‥」
 男たちと共に飛び出してきた妙にきらきらと稀に見る美男子な様子の忍びの男、側ではふぅと小さく溜息をつく仔犬・総司朗の姿。
「お前たちにはいろいろと喋って貰わなければならんからな‥‥殺しはしないが‥‥」
 ゆっくりと姿を現す群雲は、両手で首根っこを掴んでいた男たちをつき転ばすように道へと放り出してゆっくり茂みを踏み越えて出てきて。
「このようなことをしでかしたんだ、それぐらい、覚悟はあるよな?」
 連れてきていた愛馬・白王号の背から抜き出した木刀を手に低く怒りを込めて言う群雲に捕まえにかかる慈海、元が少女とは知らない為に現れた凄味があるようにも思える忍者に、そして殺気立った様子で今にも再び雷を撃ち出してきそうな様子のラーダ。
 男たちも逃げようとはしますが瞬く間に取り押さえ‥‥叩き抑えられてひっ捕まると、寺から僧兵に迎えに来て貰い確保、吉太郎と共に無事にお寺へとたどり着いたラティオはほっと安堵の笑みを浮かべて吉太郎の頭を撫でてやるのでした。

●おてらのごじゅうしょくにおせわになりました
 その日は預かっていた荷物を無事にお寺の御住職に渡してから、遅い夕食を取り休むことに。
捕まった男達も群雲と慈海で僧兵へと引き渡せば、後でお仕置きが待っているようではありますが、取り敢えずは引っ括って捕まえておいてくれるとのことで、吉太郎も安心し。
 用意されたお部屋で男性陣と並んで暫くはお話をしていますが、直ぐにうつらうつら、ラティオの服の裾をしっかりと握って眠ってしまった姿に微笑ましく眺めて、その日は一行も就寝です。
 お寺の朝は早い。
 朝も早くから読経に掃除に稽古にと、意外とこのお寺の朝は賑やかで。
 聞けば午前中のうちに熱心な檀家さんが訪ねてくることもあるので、落ち着くまでは少しかかるよう、吉太郎もぐっすり眠っているため一行は朝はのんびりと過ごすことに。
 やがて起きだしてきた吉太郎に御飯を食べさせれば、さっそくお寺で過ごす一行。
「これは剣玉と言って‥‥よ、っと、ほいっと‥‥」
 慈海が目の前でかちかちとやってみせれば吉太郎は不思議そうに首を傾げて、貸してくれた剣玉を色々とひっくり返したりしで、何ですっぽりと狙ったようにしまえるのかが不思議な様子で。
 たどたどしくかちかちと遊ぶ様子に慈海は見本を見せてやったり。
 また、ラーダや朔耶と甘いお茶菓子を頂いてほう、と和んでみたり、庭にお坊さん達を巻き込んでかけっこやかくれんぼに勤しんでみたり。
 そんな中で文机の前に吉太郎を座らせると、書き取りを勧めてみるのは群雲。
「やはり読み書きや礼儀作法は常に必要とされてくるものだ。あって困るものではない」
 そう言う群雲にこっくり頷いて遅々とした進みではありますが書き取りを教わり顔に墨などくっつけながらも一生懸命の吉太郎。
 一生懸命に手習いをして、遊んで。
 すっかりと江戸で叔父に苛められた嫌な記憶は薄れたようで楽しげな吉太郎に一同微笑ましく見ており。
 そんなこんなでお寺で過ごす最後の日、夜にお庭に並んで空を見上げているラティオと吉太郎の姿があります。
「静かな所だね。夜空がとってもきれいだよ〜」
「うん、きれぇ‥‥」
 吃驚して目をまた開かせながら見上げる様子では、あまり夜空を見上げた記憶が無いのでしょう、一杯の星にどこか不思議そうに見上げている吉太郎。
「何だか寂しくなるな」
「んみゅ‥‥またそのうちいっしょにあそぶ‥‥あそびたいです‥‥」
 遊ぶと強く言えないためかおずおずと言い直しながら、だめ? とばかりに見上げる吉太郎に、ラティオは勿論友達だからね、と笑って吉太郎の頭を優しく撫でて同意をしてあげるのでした。

●きょうもおえどはにほんばれ?
 江戸へ最後の行程で一足先に僧兵達と共に戻ってきたのは群雲に慈海。
 男達は名前は知らないが若い少年と言っても可笑しくはなさそうな様子の男から、子供を一人斬って欲しいと大金で雇われたことを洗いざらいぶちまけていたため、叔父は御店より出されて、郊外の寮追いやられる形に。
 流石にまだ年若いことと、身内であるために断罪するのはと吉太郎の両親も戸惑いがあったようで、寮に追いやってからの様子を見ていくことにしたようで。
 そんなこんなで叔父が追いやられてから吉太郎の両親は江戸の街道にある関までそれは心配して出迎えに来ていました。
「なんかもう旅行が終わりなんて何だか寂しいな」
 そう言って撫で撫でと頭を撫でてやれば、吉太郎はぎゅむっとラティオに捕まるように別れを惜しんでいれば、
「あ、吉太郎君ははじめてのお使い成功を褒めてあげませんとね♪ えらいえらい♪」
「わふん♪」
 お使いを無事に済ませたことを褒める朔耶と総司朗にえへへ、と照れたように笑う吉太郎。
「じゃあ、またね」
 別れを惜しむかのように名残惜しげな手を離してそっと両親の方へと促すラティオに、こっくり頷くと吉太郎はお友達へと告げる当たり前の言葉を口にしてて、慈海や群雲へぺこりと頭を下げ、ラーダにてを振ると、両親の元へとぱたぱた駆け寄り。
「うん、吉太郎君、またね」
 小さくラティオが言葉を返せば、両親に撫でられてくすぐったそうにしていた吉太郎は振り返ってにこぉっと笑って手を振るのでした。