比良屋の美味しい秋?

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月09日〜10月14日

リプレイ公開日:2007年10月18日

●オープニング

 その日、ギルドにやって来た比良屋主人と丁稚の荘吉は、珍しいことに荘吉が強く依頼を出し、主人がいやいや、と宥めているように見えました、ぱっと見だけならば。
「‥‥‥‥美味しい御飯と鮭が食べたいんです」
「いやいや、御飯は普通に美味しいじゃありませんか。折角頼むのでしたらば、もっとこう珍しいも‥‥」
「『美味しい、御飯』が食べたいんです!」
「‥‥‥‥えっと、どしたんです?」
 妙にきっぱりしっかりと言い切る荘吉、受付の青年が取り敢えず尋ね直したところ、どうも荘吉君、頼まれ物をお届けに上がった医者が名飯うんぬんとかいった本を読んでいて、茶飯やら豆腐飯やら大根飯やら‥‥色々と耳にしたそうで。
 この先生、ちょっと意地悪な先生だったらしく、自慢するだけ自慢して本はちらりとも見せて貰えなかったとか。
「‥‥‥それで、糧飯とか秋の食材に煩悩しちゃったわけですか、珍しく荘吉君の方が」
「‥‥‥贅沢に慣れてしまうのが良いとは思えないのは理解しているのですが、つい、悔しいやらそんな自慢が羨ましく思えてしまったことに腹立たしいやら」
「なのでこうして皆さんと悪の味覚を楽しもうと思って声をかけに来たのですが、折角の機会なら、色々と珍しいものをと‥‥」
「‥‥‥‥御飯が良い‥‥」
「‥‥比良屋さん、大人げないですよー。珍しい物が良いなら、御飯を主体として、この時期手に入る食材と一緒に楽しめばいいじゃないですかー」
 別に大人げないわけではないのですが、珍しく強い自己主張をする荘吉に受付の青年は何となく比良屋主の意見を封殺してみたり。
「この時期の食材ですかー。まぁ、鮭は良いとして、やっぱり‥‥」
「秋刀魚ですよねー」
「ねー」
 結局の所受付の青年と比良屋主人、うきうきと旬の食材の話をし始める辺りは同じ穴の狢なのでは。
 何とも言えない表情でそんな2人を見ていた荘吉ですが、受付の青年が御飯を主体として、ときっかりと書き連ねているのにどこか満足げな表情を浮かべるのでした。

●今回の参加者

 ea0946 ベル・ベル(25歳・♀・レンジャー・シフール・モンゴル王国)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea5927 沖鷹 又三郎(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb0752 エスナ・ウォルター(19歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb2545 飛 麗華(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb5534 天堂 朔耶(23歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec0097 瀬崎 鐶(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●秋の味覚
「うんうん、いつも贅沢ばかりじゃ問題ですけど、お兄ちゃんが言ってました。『どうせ食べるなら、はじめに最高のものを食べなさい』って!」
「わふぅ‥‥」
 比良屋にやって来て荘吉へとにこにこ元気良く声をかけるのは天堂朔耶(eb5534)、そして何やら悟ったような表情で溜息をつく、朔耶の愛犬で永遠の仔犬・総司朗。
「‥‥‥はじめに、ですか?」
「無理をしてでも最初に本物の味を知ることで、後の人間形成に影響がでるんですって」
「へー、そうなんですか」
「私はよく意味わかんないですけど、まあ気にせず美味しいものを楽しもう! て事ですよね♪」
 ぶんぶか無邪気に手を振りながら言う朔耶にちょっぴり贅沢に引け目を感じていたような様子の荘吉は、ちょっと救われたような表情で笑みを浮かべ。
「確かに贅沢に慣れるのは良くないかもしれないけど、いつも頑張ってるご褒美だと思えば、ね?」
 荘吉に気が付いてくしゃりと撫でて微笑みかけるケイン・クロード(eb0062)が言えば、嵐山虎彦(ea3269)と沖鷹又三郎(ea5927)も笑って頷いて見せ。
「ま、旦那にゃ、たまにゃ我が儘ぐれぇ思いっきり言ってやんな」
「それに、腕を奮ったものを喜び楽しんで貰えるのは料理人にとっての喜びでござるよ」
 呵々と笑う嵐山に、沖鷹がにっこり笑って言う言葉、荘吉がケインと沖鷹を見比べて小さく首を傾げれば、ケインもその通りだよと笑いかけ。
「お雪ちゃん‥‥お豆腐と、お大根が好きなの‥‥?」
 エスナ・ウォルター(eb0752)が比良屋の愛娘・お雪に聞けば、はにかむように微笑んでこっくりと頷くお雪。
「‥‥私、頑張る、ね‥‥」
 お雪の微笑にエスナは更に頑張ろう、と強く決心したようで。
 こっそりその様子に気が付いて僅かに視線を泳がせる献立を沖鷹と打ち合わせ中だったケイン、自身の荷から薬を取り出したのは何やら訳があるようで。
「‥‥秋刀魚の糧飯がいい‥‥」
 旬は秋刀魚だからと言葉少なに言う瀬崎鐶(ec0097)に飛麗華(eb2545)は軽く首を傾げて。
「秋刀魚ですか、糧飯は作るとして、新鮮ならばお刺身でもおいしいですよ」
「‥‥」
 是非新鮮なものをお願いして作りましょうね、と言う麗華にこくりと頷く鐶。
「あとはやっぱり、この季節は茸さんでしょうかねえ? 椎茸さんとか、なめこさんとか‥‥しめじさんや舞茸さんは一度食べたら忘れられなくなるですよ〜☆」
「‥‥‥‥」
 ベル・ベル(ea0946)が忘れてはいけないとばかりに声を上げれば、表情が変わらないながらもどこか期待に満ちた雰囲気を漂わせる鐶に、後は松茸で土瓶蒸しとかでしょうか、等と思いを巡らせる麗華。
 因みにそんな一行の様子を眺めながらすっかり幸せそうにほわーっといかにも楽しみだという笑みを浮かべているのは比良屋の主人。
「やはりこうして集まってその時期の味わいを楽しむのは、この上ない幸せですねぇ」
 そんな様子の比良屋に気が付いたケインは、ふと首を傾げて。
「‥‥そう言えば、今年もまた松茸を大量購入してるのかな? そうなら旦那さんらしいけど」
 そんなケインは少し後で、流石に前の時みたいに対処に困るほどではありませんが、たっぷりと仕入れられた松茸の箱を見て相変わらずだなぁと小さく笑う事になるのでした。

●いろいろ作る楽しみ
 さて暫くして土間に入れられるのは、沖鷹が米の様子を見て値段ではなく味を判断して選んだお米の入った米俵で、嵐山はその米俵を見つつ並べて、小さく首を竦めます。
「炊いた後の米の良しあしゃあ、多少は分かるつもりだが、米のままだとどうにもわからねぇんだよなぁ」
 感心するように言えば、沖鷹は満足するかのように微笑を浮かべて集まった食材の数々を眺めています。
「これだけたくさんあると壮観でござるの」
 特に目を引くのはそのお米の量。
「大根は紅白膾にふろふき‥‥それに」
「大根のステーキね‥‥お雪ちゃんに喜んでもらうためにも‥‥」
 頑張る、ぐっとその決意を新たにするエスナは、フレイムエリベイションをかけてさらに準備は万端、ケインに改めて向き合ってぺこりと頭を下げて。
「えと‥‥それじゃあ、お願いします!」
 微笑ましげに二人を見る一行ですが、実のところかなりの覚悟を持って向き合っていたのはエスナよりもむしろケインの方のようで。
「‥‥エスナは‥‥うん、手元が危ないから、まずは包丁の使い方から教えるね」
 腕まくりに包丁の柄をがっちりと握りしめて、どこかあぶなかしい様子で大根を手で押さえるエスナににこやかながらちょっと口許を引き攣らせて慌てて止めるケイン。
 まずは包丁の基本的な握りから改めて挑戦です。
「えーっと‥‥大根もいいけど、まずはお豆腐からにしようか?」
「うん‥‥‥‥はうぅ‥‥」
「あ、エスナ、そんなに力を入れると‥‥あぁ、うん、それは御味噌汁に入れようね‥‥」
 ちょっぴりお豆腐を潰してしまったようですが、しめじの御味噌汁に入れる具が追加されましたようで。
「え、えっと、と、とりあえずこれを‥‥」
 なんとかその後いくつか野菜を切り、不揃いではありますがお醤油味が主体に油を少し風味づけに垂らした出し汁が、なんとも良い匂いをさせ始めている小さめのお鍋の中へと落としこみ‥‥ふぁいあー。
「はうぅっ!?」
「わわ、エスナさがってっ」
 相性が悪いのか薪が爆ぜたかでぼうっと大きくなった火は、なぜか狙ったように出し汁の油分に火がついたのか、ある意味素晴らしい火力で。
「‥‥‥が、がんばろうね、エスナ‥‥」
「は‥‥はぅぅ‥‥」
 ケインのお料理とエスナの花嫁修業のお料理編は、なんだかとっても波乱万丈といった様子で続くのでした。
「大根さんや人参さん〜牛蒡さんに‥‥鶏肉さんは手に入ったでしょうかね〜?」
「‥‥うん、ここに置いておくね‥‥」
 ぱたぱたとお鍋の材料を確認しながら楽しそうに飛び回るベルは、ふと頼んでおいた食材がすべて並んでいないのに首を傾げれば、鐶が絞めて処理の済んだ地鶏の乗った笊を受け取って運んできて。
「ありがとうございますですよ〜これで美味しいお鍋を作るのですよ〜☆」
 お鍋にお水、さてこれからと火にかけ骨付きの鶏肉で出汁を取り、味付けはお味噌でしょうかね〜☆ と楽しげに、その体にしては大きなお玉に味噌を掬ってくいと首を傾げているベル。
 ちょっとお味噌を溶くのには大きなお鍋なので苦戦をしそう。
 御味噌を掬ったお玉を支えるのに手を貸す鐶は、そこから漂い始める良い匂いに僅かに目を細め、ベルは上機嫌でお箸をかしかし動かして御味噌をすっかりと溶かし込み。
「御味噌の味、ばっちりです〜☆ もう少しくつくつにたら、御味見ですよ〜☆」
「‥‥」
 ベルの言葉に鐶はこっくりと頷くのでした。
「俺にゃあ、ちょいとここは狭いねぃっと」
「それでもここは広い方でござるよ。さて、栗はもう少し、茸はそろそろ良い具合でござるな。それと深川飯でござったか」
 ちょっと窮屈そうに肩を狭める嵐山は沖鷹に習いながら深川飯の味付けを見たりしつつ、時折ちらりと目を向けるのは買い込んできておいた酒樽。
 酒に合うだろうななどと考えているようで、ついついにやりと笑みを浮かべる嵐山。
「それにしても、炊き上がったご飯を見ていると、改めて凄い量でござるな」
「まぁ、あったらあっただけ食ったり持ち帰ったり振る舞ったりするだろうから、余ることだきゃねぇだろうさ」
「そうでござるな。後ほど綾藤や改方の方々へ差し入れに行くのも良いでござる‥‥と、お二人とも、どうされたでござるか?」
 見れば、何やら疲弊したケインと、おろおろとしたエスナがやって来ていて。
「あ、あとは混ぜご飯自体の‥‥うん、お豆腐も大根も先に味付けをして、ああいう風にちょっとだけ味付けを濃くしてね」
「‥‥うん‥‥」
 ちょっとしょんぼりした様子のエスナですが、顔を見合わせた沖鷹と嵐山、何となく事情は察したようで。
「混ぜ込むのはたくさんあって大変でござるから、手を貸してもらえると有難いでござるよ」
 微笑を浮かべ頷く沖鷹は、大根が良く煮えているそれを指してこうするでござるよ、と自身は良く焼けた秋刀魚を大きめにほぐして混ぜ込んで見せて。
「はぅぅ‥‥はい、えと、ご飯に具材を混ぜ込むくらいなら‥‥」
 受取って、ケインが熱い出し汁をご飯の御櫃へと移すのをはらはらしながら見てはいましたが、やがてエスナは真剣な面持ちで、味が均等になるようにと一生懸命混ぜ込み始めて。
「おう、そっちはどんな具合なんだ?」
「はは‥‥揚げだし豆腐に湯豆腐と‥‥豆腐としめじの酢味噌和えまでは‥‥あとしめじの御味噌汁もできてますよ」
 苦心したようではありますが、エスナと一緒にゆっくりと作っていったようで、なんだか男2人、一生懸命なエスナと外から聞こえてくるお雪や一行の愛犬たちのにぎやかな様子に微笑ましげに笑みを浮かべて。
「ちょっと、さっきお薬をなぜか荘吉君が、旦那さんから預かってきたとかで渡していったけど‥‥」
 どうやら愛する人の成長とお雪のために、完成前に何度か身を削ってしまったようではありますが。
「血抜きを済ませておいて、あとは‥‥あまり力を入れるのではなく、刃物は使いようによってですので、ここにあててすっと‥‥」
「わー本当だ、すごい、綺麗に切れましたねー♪」
 さてこちらはもう一組の女性陣、麗華に朔耶。
 見れば七輪の支度はばっちり、網に乗せて松茸の一部は御飯時に一緒に火にかけてから食べるようで、あとはさっと揚げるだけになった松茸が並んでおり、土間のすぐ外にはこれまた七輪が待機中。
「では、これをちりちり焼いてきますねー♪」
 室内では脂がたっぷり乗った秋刀魚の煙でちょっと大変なことになるので、団扇を片手に朔耶は笊に乗ったわたぬき済みの秋刀魚を網の上へていっと置いて。
「わふ‥‥」
「わんわん♪」
「わわ、けむり、いっぱいなの‥‥」
「うん、もう少ししたらアツアツで美味しいごはんが出来るからねー、お雪ちゃん♪」
 エスナの愛犬たちや総司朗とぱたぱた楽しげに走り回っていたお雪は一行が籠り切りの台所にちょっと不思議そうに顔を出して。
「うん、おゆきいいこでまってるね」
「お雪ちゃんのためにも、朔耶ちゃん、張り切っちゃいますよー♪」
 にこにこと笑って張り切りつつ普通に食べるための塩焼きを朔耶はぱたぱた。
 エスナの嬉しそうな、『出来たぁ!』という声が上がるのは、そのすぐ後のことなのでした。

●比良屋の美味しい秋
 比良屋の一室に並ぶ、秋の食材を並べた大御馳走は、案の定とてもたくさんのもので‥‥気がつけばご近所様が良い匂いにつられて覗きに来て御相伴にあずかるなどという光景が見られます。
「お雪ちゃん、おいしい‥‥?」
「うんっ、おとうふもおだいこんも、ほくほくしていてとってもおいしいの」
 エスナの隣でご満悦でご飯を食べているお雪、エスナが混ぜ込んだ大根の糧飯を握ったものをほんわか幸せそうに食べる様に、エスナも微笑を浮かべてお雪を撫でていて。
「あのね、おゆきも、こんどはエスナおねえちゃんやケインおにいちゃんのおてつだい、するからね」
「ありがとうね、お雪ちゃん」
 ほのぼのとお雪と言葉を交わすエスナは、嬉しそうな様子で湯豆腐や茸のお鍋をよそってお雪に食べさせてあげていて、本当に姉妹みたいな仲のよさで。
「あ。お雪ちゃん、ほら、焼き立ての秋刀魚。お刺身も美味しいですよー♪」
 気がつけばの大人数にちょっと出前状態の朔耶、気がつけばお雪を囲んでケインが骨を取ってあげたり、それを女性陣が嬉しそうに食べて食べて‥‥割合は少ないですが、ケインもちょこちょこつまんではいるようです。
「む‥‥深川飯や秋刀魚の糧飯‥‥」
 なんだかぐっと喜びを大っぴらに出さないように押さえてはいますが、嬉しそうに噛みしめている荘吉の横では、先ほどから鐶が黙々と箸を進めています。
「‥‥もう、一杯いただけるかな?」
「たくさんあるでござるよ、遠慮せずにどんどん‥‥」
「あ、手伝いましょうか?」
「清之輔殿は御客人、ゆっくりするでござるよ。昭衛殿は‥‥?」
「あ、父上はなんだかばたばたしていたようで‥‥その代わり、叔父上が道場に一緒に滞在している八紘君と‥‥」
「そうでござるか。あとでお土産用も包むでござるよ」
 礼を言うと清之輔は、勧められる茄子の胡麻和えと鮭の塩焼きに目を細め。
「‥‥もう、一杯」
 ある意味良い食べっぷりに、ちょっぴり男性陣は押され気味です。
「しふじゃないか♪ o(^-^o)♪ しふじゃないか♪ o(^-^)o♪ よいよいよいよい♪ (o^-^)o♪」
「よい〜☆」
 そして、茸のお鍋のそばではベルがくるくると喜びの舞、そしてそのそばで赤い妖精のシャルちゃんもくるくる。
「いやいや旦那、まま、一杯‥‥」
「おお、ありがとうございます。ささ、嵐山さんも、も一つどうぞ」
 そのそばでは深川飯に松茸に鍋にと小皿に取り分けた数々の料理を肴に、ぐいぐい飲む嵐山と赤ら顔でにこにこと注しつ注されつしている比良屋。
 実に幸せそうな男性二人相手に秋刀魚のお刺身の追加を差し入れる麗華は、土瓶蒸しなどもいかがですか、と勧めてみたり。
「いやいや、正しく、天高く馬肥ゆる秋ってぇ言うが、人も肥えるわな」
「『天高くしふ肥ゆる秋』ですよ〜ん☆ 秋は美味しい物が多くてしふしふも肥えちゃって飛べなくなるくらい沢山食べちゃうんですよ〜☆」
「飛べないぐらいは流石に凄そうな‥‥重量によって飛べる飛べないとあるんですか?」
 ちょっと比良屋酔っているようで、素でそんなことを聞いてみたり。
 声をかけられた人や通りすがり、ご近所さん、いろいろな人たちが賑やかに通りがかる秋の味覚の楽しみは、もう暫くだけ、続きます。

●楽しい思い出を形に‥‥
「糧飯、制覇しました‥‥どれもこれも美味しくて‥‥はぁ‥‥」
 なんだか荘吉がしみじみと幸せを噛みしめていれば、拙いけれどと言いながら鐶が入れたお茶に沖鷹の月見団子で一息、ほうっと息をついて。
「おう、そうだ荘吉、毎度毎度こうしていろんな料理が出てくるが、記録を残してみちゃどうだろうか」
「‥‥記録に残す、ですか?」
 そんな荘吉に嵐山が声をかけて。
「おうよ、料理の絵に料理法を載せて、ざっと本のような形にまとめられれば面白いんだがな。‥‥こんな風によ」
 そう言って見せるのは嵐山が今回の料理の絵を書き記した紙の束、紙の半分に絵、半分には空白。
「そのうちたくさん料理の種がたまったら、比良屋料理百選とかを作って美食家として世に打って出たりしてな♪」
 呵呵と笑って言う嵐山が差し出す筆を受け取る荘吉がぐるりと見れば楽しそうな笑顔たち。
 荘吉は口元に笑みを浮かべると、早速絵の傍にある空白を埋めるべく、一行の元へと足を向けるのでした。