襲われた寺

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:12月09日〜12月14日

リプレイ公開日:2007年12月22日

●オープニング

 その日ギルドにやって来た出原涼雲医師と若い純朴そうな青年が、慌ただしいギルド内の様子を窺いながら正助少年の元へと歩み寄ってきたのは、とある冬の昼下がりのことでした。
「あぁ、受付の代理をしていると聞いておる。今日はちと、数日の間泊まりがけで治療に向かう故、その間の護衛をと思うてな」
「護衛、ですか?」
 その言葉に慌ててお茶を用意しながら正助が聞き返せば、頷いて傍らの青年へと目を向ける涼雲。
「郊外さあるお寺すが、どうも賊に襲われて怪我人が出たそうで‥‥」
 微妙に訛りが抜け切れていない青年が話すには、とあるお寺に賊が押し入り、運良くその日は寺がまだ寝静まっていなかったため何とか追い払ったものの怪我人が出てしまったとのこと。
「賊が近くの村に逃げ込んで、そっちでも怪我人が出ているってぇ話さ聞いて、先生とお寺に暫くご厄介さなって、そちらの方も見るっつう話さなったもんで」
「どうにも死者は出ておらなんだようであるが、其方の村にはとんだとばっちりよの。寺の方もそれを気にしてか、其方にかかる費用や期間中の護衛に対しての謝礼も持つと言うておる」
 寺の者におおよそ聞いた話では、村との行き来の道から少し林の中へと入っていけば、今は人の住まない廃墟が幾つかあるそうで、逃げた賊達がその辺りにいないとも限らないため、寺と村の往復の間に襲われないかと危惧しているそうで。
「寺での怪我人は滞在中に治療するだで大丈夫ですけんど、村さ行くにゃ日が高めのうちに行って、できる限り暗くなる前さ戻らねどいけねぇす」
「それと、ちと思うたが、滞在中に寺が再び襲われぬとも限らぬな。一応は治療を終えた後にそれなりの所へと訴え出るかどうか検討しておるようではあるが、現状役人に対応をどれほどして貰えるかがわからぬと、住職が頭を痛めておったわ」
「ん‥‥やっぱり、先の乱の影響、ですか?」
 正助が依頼書へと筆を走らせていた手を止めて聞けば、涼雲は頷いて。
「ま、この様な御時世故、自衛できる範囲で自衛せねばならぬのが辛いところよの」
 ほうと眼を細めて溜息をつく涼雲の言葉に青年と正助は何とも言えない表情を浮かべて目を落とすのでした。

●今回の参加者

 ea2563 ガユス・アマンシール(39歳・♂・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 ea7242 リュー・スノウ(28歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb2872 李 連琥(32歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 eb2963 所所楽 銀杏(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb7152 鳴滝 風流斎(33歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 ec0097 瀬崎 鐶(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec2056 藤嵐 誠之進(68歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ec2195 本多 文那(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

虎魔 慶牙(ea7767)/ 陸堂 明士郎(eb0712)/ 陰守 森写歩朗(eb7208

●リプレイ本文

●寺
「本当に惨い事を、お寺というのは民の拠り所で御座いましょうに‥‥」
 リュー・スノウ(ea7242)が小さく言えば、所所楽銀杏(eb2963)も同意を込めて小さく頷いて。
 そこは寺の本堂、御本尊を前に今回の件を聞けば、住職が自らがそれぞれの質問に答えています。
「盗賊さんも負けたんなら素直に逃げれば良いのにね〜。狙いは何だろう?」
「ふと思ったのだが、そこまでして狙われる心当たりはお有りか?」
 しつこいのは嫌われるよねーなどと本多文那(ec2195)が微苦笑で言えば、藤嵐誠之進(ec2056)が住職へと訪ねかけるのに頷く住職。
「この寺では、本尊並びに仏具などは、どうしても一般に於いて価値あるものと思われることが多う御座いましてな。それと飢饉などがあったときのために、それなりの備えを蓄えておりました、勿論、お金も」
「では、賊共はそれを狙って‥‥」
 李連琥(eb2872)が言う言葉に、恐らく、と頷く住職は続けます。
「ですが、残念ながらその辺りの物の大部分は先の乱に近隣の村に出してしまい、今あるのは僅かの残りと僧達を養うには十分ですが‥‥」
 それ以外にも、村でいくらか融通の利くお金を預けて置いた物も、先の乱で踏み荒らされた田畑を復帰させるために総て引き出して行かれたそうで。
「‥‥‥きっと、まだ隠していると思われてるんだね‥‥」
「どれほど引き出されているかなど考えぬのでござろうな」
 瀬崎鐶(ec0097)が言えば鳴滝風流斎(eb7152)も頷いて言い。
「‥‥」
 ガユス・アマンシール(ea2563)は賊の襲撃場所や人数などの話に耳を傾けつつ、周囲へと警戒の視線を向けているのでした。
 手伝いに来ていた陰守森写歩朗のゴーレムがひたすらじっと立ち、グリフォンが天気の良い日差しを浴びてくわっと欠伸をする光景が広がる中、鐶は住職へと声をかけていました。
「‥‥賊の侵入に備えて、境内に色々作りたいのですがよろしいですか?」
「おお、それは構いませぬが、後でうちの僧達には教えて置いていただけるようお願いします」
「‥‥ありがとうございます。コトが終わり次第、速やかに撤去しますので‥‥」
 こっくり頷く鐶は、境内を見回り、せっせと簡易の罠を仕掛けていくのでした。
「あぁ、其方でしたら、私がやりますので休んでいらして下さい」
 リューがまだ包帯を腕に巻いた年若い僧から桶を受け取れば、あわあわと申し訳なさそうに頭を下げる僧。
「まずは怪我を治されることが先決ですよ」
「誠にもって、忝なく思います。‥‥ところで」
「はい?」
「‥‥冒険者の方々におかれましては、色々と不思議な生き物を友としておられるようですね」
 若い僧が言うのにその視線を見れば、リューのぽちへと目を落としているようで。
「まるで雪のような白い犬御ですね。まるで狼のような‥‥」
「ぽちというのですよ」
「それに、入口には異国の大きな生き物が居て、まだまだ知らぬ事が多いと痛感いたします。異国ではああいった不思議な生き物が、沢山いるのでしょうね」
 若い僧の話を聞くリューはにこりと微笑み返しつつも、取り敢えず異国でも一般的なわけではないと言うことを言うか云うまいか、少しだけ悩むのでした。

●村にて
「村に来る途中に視線を感じたが、何事もなくて何よりだったな」
「んだすな。おらぁもっし盗賊さ襲われたらと思うと、生きた心地もしねぇと‥‥」
 連琥が村で盗賊が押し入ったときに壊されたらしき荷車を片付けてから言えば、村人の手当の手伝いをしていた弟子の青年が手の血を洗い流しながら頷いて。
 寺の方が一段落付いた涼雲医師とその弟子の青年は、連琥と銀杏に付き従われながら村へとやって来ており。
 今も涼雲の手伝いをしながら銀杏が怪我人の大きく開きかけた傷口を布で押さえ、涼雲が傷を塞ぐために口に含んだ酒を傷口へと吹きかけているところです。
「手伝えることはないか?」
「んだすな、えぇとこの湯を運んでいる間に、ここの火を見て置いて貰えねすか」
「心得た」
 連琥に火を任せると青年は大鍋一杯の湯を一度寄せ、もう一つ水をたっぷりと張った大鍋を火にかけて、湯を急ぎ足で村長宅へと運び込んでいきます。
「一度に立たせたお湯さ、持ってきたす」
「そこへ‥‥暴れる可能性が高い故、そこの男達は手足をしっかりと押さえ‥‥お前はそちらの肩を‥‥良いと言うまで死んでも離してはならぬぞ」
 押さえつけて一度ついたと思ってもじわりと広がりかける傷口に、血止め薬を塗ってから銀杏に寄せるように押さえさせ涼雲が針をたてれば、それまで意識が朦朧としていた様子の男が激しく身体を捩り、かがされていた猿轡からくぐもった呻き声が漏れ出します。
「良いぞ、其方からもう少し押さえておれ」
 銀杏に布の位置を指示しながら傷口を縫い進めていく涼雲は、一息に数針を本当に縫い合わせる程度に縫いきってしまえば、緩く息を吐いてから、包帯できつく締め上げて。
「早めに傷口を押さえつけて血はあまり流れなんだが、如何せん傷口が広がりすぎていた故な」
 異国の者も縫うと言った話も涼雲は聞いたことはあるそうですが、どちらかと言えば少々荒療治。
「‥‥傷口はきつく巻いて押さえるだけが多いと聞いていたです、よ‥‥」
「一応塗り込めた薬は皮膚が早く張り血を止めるものだが、傷があれでは押さえているだけでは際限なく血が流れる。合戦場では金瘡医が身の腑が出ても戻して縫ったと言うぞ」
 なるほど、と涼雲の言葉に頷く銀杏、他の怪我人は傷に薬を塗り込め包帯で強く巻けば、おおかたの治療は終わったようで。
「何にせよ、神や御仏の奇跡とやらが満遍なく行き渡れば、商売あがったりだが、怪我人には良いであろうな」
 激しく与えられる痛みからずきずきとする痛みへと移り変わって意識を安心して失えた男を見ながら、微苦笑を浮かべた涼雲は、血を洗い流すよう銀杏へと促すのでした。
「うん‥‥あのね、お寺とかあの辺りに変な事が最近起きていて‥‥」
 湯を沸かしている火の番をしていた連琥は、10ほどの少年が嘘つきと苛められていたようでべそべそ泣いているのに声をかけて話を聞いていました。
「なるほど‥‥その直ぐ後に賊が押し入ってきたと‥‥」
 銀杏の愛犬・柱次を撫でつつ小さく鼻を啜って頷く少年。
「うん‥‥父ちゃんが一番けががひどくて、何度包帯まいても血がにじんできて‥‥本当に、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。だから安心して待っていると良い」
 廃村への道や近頃の話をそれから暫く少年から聞くと、心配そうに父親の心配をする少年に、連琥は力強く答えるのでした。

●廃村
 その村は打ち棄てられた村でした。
 偵察に来ていた風流斎は連琥から聞いた村の子供の話から既に草生い茂る道をかき分けて、月明かりの下まさに打ち棄てられたとしか言いようのない村へとするりと闇に溶け込むように入り込むと緩やかに息をつきます。
「‥‥灯りが漏れているでござるな‥‥」
 その中の大振りな家は村長やら庄屋やらの屋敷でしょうか、こちらも二階部分が崩れ落ちたか、一階が辛うじて建物の形を留めているに過ぎない様子。
 その戸や朽ちかけた壁の穴から薄ぼんやりした灯りが漏れ出でており、天井裏では危険なために風流斎は出来うる限り低い姿勢を保ち物陰を伝って床下へ滑り込んで。
「‥‥何としてもあの寺の金蔵を打ち破ってお宝を頂くんだ。なぁに構ゃしねぇ、今度抵抗したら坊主は皆殺し、村は焼き払っちまえばいいのよ」
 中心となっている様子の男が鼻息荒く言って酒を呷れば、他の男達もそうだそうだと同意して。
「どうやらただ酔って大きな事を言っているというわけではなさそうでござるな‥‥しかし、一度追い返されてああ言ったことを言うと云うことは、次に寄せられれば‥‥」
 口の中で小さく呟いていた風流斎は手段を選ばないだろうと理解し顔を顰めると、注意深く床に入っている亀裂の小さな穴から男達の数を確認しようと注意深く窺い。
「今のところ、7‥‥いや、8人でござるか‥‥」
 その後も男達の話に耳を傾け様子を窺っていた風流斎は、男達は少なくともあと2、3日は追い返された男達の痛みが引くのを待つ様子なのを確認すると、そっとその建物を、そして廃村を後にするのでした。
「‥‥気が張ってばかりだと思うので、粗茶ですが‥‥」
 鐶がすと涼雲と銀杏へとお茶を出したのは、弟子の青年が文那と共に江戸へと向かって直ぐのこと。
「おお、済まぬな。しかしどの患者も手遅れとなる者がおらなんでまだ良かったがの」
「‥‥僧兵の方も、腕を落とさずに済んだです、よ‥‥」
 村の重傷者達も問題さえ起こらなければ徐々に完全とはいかないまでも元の生活に戻って聞けるだろうと話す2人、鐶は静かに話を聞きながら、2人に茶のお代わりを入れたりしているのでした。
「うーんっ、取り敢えず連絡と薬の補充は問題なかったんだね?」
 文那の言葉に頷くと、薬と新しい包帯を包んだ包みを抱えながら文那と並んで歩く青年。
 その両脇には風流斎の愛犬たちが周囲を警戒するようにぴったりとくっついて同行しており、江戸へ向かう道の途中の茂みや林を通る度に警戒の目を向ける文那。
「‥‥ちょっと足を速めよっか」
 青年を促して歩を早める文那は、急ぎ寺への分かれ道へ青年を押し込むように先に行かせれば、がさがさと聞こえてくる物音に風流斎の二頭の愛犬たちが唸り声を上げて威嚇し、その間に寺へと急ぎ駆け込む2人。
「‥‥あそこだっけ、廃村への道が元々あったのって」
「そう聞いてるすな、追い剥ぎ紛いもやってるだすかね?」
「んー、そっちが元々なのかも知れないし。何だか江戸でもこのお寺、お金があると思いこまれて居るみたいだし」
 言いながら涼雲の元へ青年を促す文那ですが、実のところ一行も青年も、金蔵や食料などを納める倉も外見とは裏腹に中身は乏しく、豊かであるわけではないのを見ているので無駄な労力にしか見えないのですが。
「でも、先にこちらに再度挑戦してくるか、村を襲うかははっきりしないんだよね」
「‥‥あの村の被害は大きかったすでな、あぃ〜すがだね、おらじゃなんもなんねすど‥‥」
「向こうが動く前に何とかしないとね」
 ちらりと廃村があるという方向へ目を向けると、文那は本堂へと入って行くのでした。

●廃屋
 その夜は冷たい風に良く晴れた空に月明かり、一行は廃村手前の林の中で風流斎が戻るのを待っていました。
 風流斎が先に偵察して以降、連琥も同行して村の配置や男達の行動を調べれば、人数は、おおよそ常に8人ほどが決まって、一番大きな廃屋に集まって酒を飲んだり井戸の側で手拭いを濡らして括り付けて晴れを治療している様子が窺えたり。
「‥‥恐らくは、街道の追い剥ぎなどを主に行っていたのではないかと思うのだが。少なくともこの村の出身というわけでもないだろうし、何よりやることに後悔が見えない者ばかりだ」
「本当は捕らえた後でなく戦う前に話しあいで解決したいところだが、状況的に厳しいようだな」
 連琥が言えば、誠之進も苦笑混じりに口を開いて。
 やがて風流斎が戻ってくると、一行は静かに廃村へと向かい、廃屋へと押し込むのとほぼ同時にリューの手から作り出された光が一行の視界を照らし、飛び出してきた男の1人へガユスが手を突き出せば、真空の刃が男に襲いかかり切り裂いて。
風流斎の犬たちが威嚇をすれば、それぞれが得物を手に警戒しながらあちこちから妾らは出でてきますが、そこに姿を現した男達の中心になっていたらしき者へ、背後から打ちかかるのは風流斎自身。
「くっ!? 何だこいつはっ」
 刀に手をかけ身体を捩るようにして辛うじて避けた男は刀を抜いて切り換えそうとしますが、そこへと飛びかかる愛犬たち。
 連琥は廃屋から出てきた男の足を払い転ばせ、飛びかかってくる男の棍棒を鉄扇で受け流し、叩き伏せて。
 後衛にいる銀杏や文那へと向かった匕首を持つ男達は、足元へ打ち込まれた矢に足を止めて下がった所へ、銀杏のコアギュレイトが動きを封じ、もう一報の男は誠之進に十手や盾で受け流されて。
 リューのぽちが良い子に威嚇だけで男を近寄らせないようにすれば、そこへホーリーを撃って近寄らせなかった男も、中心の男を犬と共に引きずり下ろして捕まえた風流斎が駆けつけて打ち込む一撃にぱったりと倒れこみ。
 7人の男達がやがて捕らえられますが、1人いないことに男達を引き立て寺へと戻る一行。
 そこへ待っていたのは、寺で待機をしていた鐶に木刀でぺけぺけ叩かれて降参したらしき男の姿。
 どうやら寺の方へと逃げてきたようで、刀を抜いて飛び込んできた男が足を取られ転がったところへ、鐶が駆けつけたようで。
 何はともあれ無事に廃屋に潜伏していた賊達を捕らえ、あまり改心の望みはなさそうだったので引き渡すところに引き渡した一行は、今暫くの間期間でもありますし念のための護衛を続けるのでした。

●帰途
 村も寺も後は自分たちで何とかなるほどになったのを確認すると、涼雲と弟子は薬を渡して一行と共に帰途につきます。
 闘技場で稼ぐなんて無理ですときっぱり賊に言われた誠之進は軽く首を傾げ、銀杏は涼雲や弟子の青年と傷についてや薬の効能などを話していたようで。
 リューがお利口さんにしていたとぽちを撫でてあげれば風流斎と連琥は、愛犬たちと並んで歩きながら廃村について話しています。
 文那と鐶はのんびりと辺りの様子を一応は警戒しつつも久々の暖かい日を感じているよう、ガユスはただ黙って良く晴れた空を見上げ。
 澄んで良く晴れ渡った空の下、一行は江戸までの僅かの距離を、のんびりと進んでいくのでした。