●リプレイ本文
●忙し楽し煤払い
「はい、これで良いでござるよ」
「ありがとう、おきたかのお兄さん」
襷がけを手伝って貰ってにっこり笑いかけるお雪、沖鷹又三郎(ea5927)は袖をこうすると、等と自分で付け直すときの助言をしているようで。
「それにしても年ももうそんな時期でござるか。今年も色々あったでござるの」
「ジャパンに来てから結構経つけど煤払いっていうのは初めて聞いたかも。やっぱり地域ごとに独特なものがあるんだな」
リフィーティア・レリス(ea4927)は沖鷹の言葉に手元の道具を見て軽く首を傾げ、その横では軽く肩を回してから襖を外す手伝いに向かう山下剣清(ea6764)の姿も見受けられ。
「ふっ‥‥妹の頼みだ、なにがなんでもその任務完璧にこなそう。抜かるなよ、加賀美!」
「任せとけって。あ、お土産楽しみにしてるからな!」
あっという間に姿が見えなくなる駆けだしていった2人は天堂朔耶(eb5534)の手伝いに来ていた天堂蒼紫と加賀美祐基。
「いってらっしゃーい♪ ということで、材料はばっちりですよー♪」
朔耶が嬉しそうに振り返れば、ケイン・クロード(eb0062)が他に既に揃っている材料を確認してにっこり。
「そうだね、これで煤払いの後のお疲れ様会で振る舞えるかな」
「わーいっ楽しみだねー、清之輔君♪」
「え、何がですか?」
突然振られて襷掛けで座布団運びの手伝いをしている清之輔が、手に持った座布団を取り落としてあわあわしてみたり。
「‥‥大丈夫‥‥?」
「あ、大丈夫です。すみません、少々驚いてしまいまして」
エスナ・ウォルター(eb0752)が崩れた座布団を拾うのを手伝えば、礼を言いながらなんだか楽しそうに清之輔は片づけをしています。
「さて、まずはその前に煤払いだね。そう言えば清之輔君はうちの方は大丈夫なのかい?」
「はい、彦坂の家では奉公の方が若様はと言ってやらせてくれませんし、父上が比良屋で折角皆が集まるなら楽しんでくると良いと」
父上は寄場の煤払いをしているかと思いますよ、と自分のことのように嬉しげに言う清之輔に、ケインとエスナはなんだか顔を見合せて微笑ましげに笑い合うのでした。
「もう一年も終わりか。早いものだ」
「まぁ、そうはいってもいろいろあったからなぁ、別の意味じゃあ長ぇ一年でもあったねぃっと」
群雲龍之介(ea0988)が水場のところの煤を払い始めれば、相槌を打つように嵐山虎彦(ea3269)がひょいと大樽を移動させてしみじみ頷き。
「まぁ、一番衝撃的だったのは良く知らない田舎の人達が大挙して占拠してしまったことですかねぇ、江戸を」
「何気に聞かれたら不味いことを言っている気がするぞ、荘吉」
台に乗って並んで天井の埃を払う荘吉の言葉に群雲が言えば、今日はお掃除でお客さん居ないから平気ですよ、と言いながらていていと梁の上の埃を煤竹で払い。
「ま、手伝いがこんだけ来てるんだ、少しゃ休めよ? 旦那はともかくとして、荘吉ぁちょいと働き過ぎじゃねえかねぃっと」
荘吉の側を通るときにぐしゃぐしゃと頭を撫でて笑う嵐山、台を手にやってきた沖鷹が荘吉の様子に椅子を押さえて手伝ったりと賑やかに進む掃除、暫くすれば、てててとエスナや朔耶と共にお雪がやって来てお手伝いするのとにこにこ笑いかけてきます。
「おう、お雪もお手伝い感心だねぃ」
「うん、がんばるの」
きゅっと煤竹を握りしめるお雪に、ケインが笑みを浮かべるとだっこをして肩に乗せるようにして。
「これで届くかな?」
「うんっ、ありがとうケインお兄さん」
嬉しそうにお礼を言って掃除を始めるお雪に、朔耶も何か思いついたようです。
「ふふん♪ 煤払いなんて朔耶ちゃんにかかれば、あっという間に終わっちゃうのです♪ ぶーんーしーん!」
すちゃっと2人になる朔耶に、わぁ、と吃驚して目を瞬かせるお雪ですが、わふっと朔耶の頭の上に乗った総司朗が前足を伸ばしてちょいちょいと増えた朔耶を軽く触るように動かせば、すかすか摺り抜けて。
どうやら分身しても一体は幻だよ、と言っているようで、はっとそれを思い出す朔耶。
「あっ、でも頑張ってちゃっちゃっと片付けちゃうんです!」
朔耶の様子に笑いが零れる一行、賑やかに楽しげに進む中、次々と掃除が進みます。
やがてお昼に差し掛かれば、頃合いを見て仕事を抜けた群雲は、住み込みで働くお弓と共に昼食の支度。
群雲の指示の元手際よくお握りを握るお弓に、味噌汁の具合を見ながらその隣の鍋でからりと鶏肉を揚げていく群雲。
一段落して休憩となり、群雲の用意をした昼食に色々頑張ってお掃除をしていた一行はお昼も良く進み、また美味しい御飯に舌鼓。
甘いおやつも用意されて一行は、お昼が終わっても尚元気よくお仕事を進めていくのでした。
●年越し支度の前に
「美味しかったねー荘吉君♪」
「冷える外での休憩に、白玉善哉は美味です」
年越し用の飾りなどを色々揃えるための買い出しからの帰り道、朔耶がにこにこと言えば荘吉も頷きながら同意します。
「ま、たまにゃ外でああ言うのを食べるのも良いこったろ」
休憩に茶店へと2人を引っ張り込んだのはどうやら嵐山のようで、ごちそうさまです、と声を揃えて言う朔耶と荘吉。
3人が戻れば、すっかりと皆買い物なども終わっており、すっきりと片付いた比良屋内であーでもないこーでもないと賑やかな話し声が聞こえてきます。
「あ、お兄ちゃん達集めてきてくれたんですねー♪」
「うん、お陰で計画通り作れそうだよ。さて、今のうちに早く進めないと、ね」
ひょっこり顔を覗かせた朔耶が言えばケインが頷きながら、早速手に入れてきて貰った材料を元に準備を進めており、あっという間にケインの前にはいくつか火にかけられた鍋が並び、不思議そうにその様子を眺める清之輔に、お雪はエスナが作った氷を目をキラキラさせながら触れては凄いと繰り返して。
「エスナお姉ちゃん、すごいの、こおりつめたいの♪」
「それじゃ‥‥お雪ちゃん、一緒にがんばろう、ね?」
「うん♪」
「さて、こちらもお疲れ様会の準備をするでござるよ」
エスナとお雪がまず始めたのは沖鷹の料理のための御膳やお皿の用意から。
「鮭の鮨の仕込みは明日やるとして、今日はやはりこれでござるな」
「? それは?」
「牡蠣でござるよ。好き嫌いは別れてしまうかもしれないでござるが、冬の味覚の一つでとても美味しいでござるよ」
お雪は興味しんしんで沖鷹の手元の笊を見ると、沖鷹も笑みを浮かべて答え。
「では、お雪殿とエスナ殿は鍋に入れる野菜を洗って貰えるでござるか?」
「はいなの」
別の笊にいっぱいある野菜を並んで楽しげに洗う二人、エスナがぽつりぽつりと話す言葉に一つ一つ楽しげに笑って答えるお雪、朔耶は清之輔と一緒にお湯を沸かしたり御猪口や徳利の支度をしながらケインの作る料理について興味を持っているようで、どんなものなのだろかと話していたり。
さて、その話題の物と言えば、ケインの御手伝いに回っているのは群雲で、ケインの方は既に何かをまぁるい型に流し込んでいるよう、その横で群雲が鍋を火から下してその様子を見ています。
「さて‥‥」
そして一行の様子を先ほどから書き留めているのは荘吉で、各人の手順を別々に表記しているよう、リフィーティアと嵐山がその様子を覗きこみます。
「おう、記録のほうは順調のようだなぁ」
「このくにっと曲った文字は何で書いてある?」
「はい、今のところは何とか順調です。こちらの文字は同じ手順なので省略しているんですよ、こちらの文を」
答えながら筆を走らせる荘吉に、俺も俺もと嵐山も料理の様子をさらさらと筆を走らせ、リフィーティアは食事までゆっくりするかなーなどと言いながら奥の部屋へと戻っていきます。
さて、そんな奥の様子とは別個に、表の方では山下が飾り付けの指示を確認しながら、正月飾りの位置を確認していました。
「さて、これが終わったらのんびりと宴会か。‥‥良いな、美味しい食事とお酒‥‥良く味わって楽しませて貰おう」
口元に僅かに笑みを浮かべる山下、辺りには美味しそうな匂いがすでに漂い始めており、否が応でも楽しみでならない山下は、飾りに目を戻すといそいそと続きに励むのでした。
今の時期なら鯛や鰤が美味しい頃かな?
●異国のお祭
「お雪ちゃん、サンタさ‥‥って、知ってる?」
「さんたさん?」
エスナとお雪が、ほっこりと焼き上がったその土台へとケインから飾り付けを任されて二人で並んで支度をしている最中、エスナはお雪に尋ねかけます。
「白髭の神様でね、冬至のお祭りの時、魔法のトナカイの引くソリに乗って人々の家に贈り物をしてくれるの」
「かみさまなの?」
「うん、お雪ちゃん‥‥今日、いっぱい、いっぱいお手伝いしたから‥‥サンタさん、来てくれるかもね?」
「ほんとっ?」
白いほわほわのクリームを木べらで均して塗りつけながら言うエスナに、目をぱちくりさせながら聞き返すお雪。
「だいじょうぶ‥‥神様は、いつだって、見守っていてくれるから‥‥お雪ちゃんがいい子にしてるの、ちゃんと分かってくれるよ」
へらを置いてお雪の頭を撫でてあげると、お雪は嬉しそうににっこり笑って、釣られてエスナも微笑みかけて。
「じゃあ、お雪ちゃん、ここにこうして、綺麗に飾り付け‥‥うん、そうっとね」
布にたっぷりと入れられたクリームを、先を少しだけあけて絞り飾り付けるのに、エスナも手を添えて、2人で楽しげに飾っていく様を見て、微笑ましげに見る一同。
「そう言えば、ここ数年でよく聞くようになりましたねぇ、さんたって。前に旦那様が人形を貰ったことがあったような‥‥あれ、さんただったかな?」
何とはなしに首をかしげて言う荘吉も、沖鷹の料理がそろそろ完成となりそうなのに気がついて、早速配膳の支度にとりかかります。
やがて、料理もそしてケイン特製のケーキの飾り付けも完了し、客間に大きな卓を用意して早速みんなでお疲れ様会を始めます。
「いやいや、皆さん本日は本当にお疲れさまでした。明日から年越しの支度ですが、まぁ必要なことはほとんど終わってしまったので、のんびりとしていってください」
にこにこ上機嫌な比良屋の言葉、早速牡蠣鍋に群がる嵐山と山下、ほくほくの大根の煮込みに荘吉がほわーっと嬉しげに食べており、清之輔は魚の煮物を食べながら、ふと気がついた時に嵐山や山下に酌をしたり。
「へー、あっさりしていて食べやすいや」
牡蠣鍋は作り方によっては生臭さが残ってしまって敬遠する人も出ますが、この鍋はよく煮えた牡蠣があっさりとした味わいで、ほんのりと柚子の香りのするお酢で味を調えたそれに、リフィーティアももぐもぐと口に運んでは頷いて。
「おいし――っ♪」
「わふぅ」
朔耶はと言えば、牡蠣の炊き込みご飯をぱくり口にして大満足で声をあげ、総司朗もおすそわけを貰ってほうと息を吐いているようで。
「はい、お雪ちゃん、火傷しないようにふーふー吹いてから食べると良いよ」
「美味しい? お雪ちゃん」
そして、ケインとエスナに挟まれてお鍋をよそって貰って嬉しそうに頬を染めてにこにことご飯を食べるお雪。
「はい、ケインお兄さんも、エスナお姉さんも、ふーふーしたの」
お箸で差し出すお雪に笑って2人も時折お雪に食べさせて貰ったり、一段落ついたところでエスナがお雪を抱っこしながら昨年に異国で作った歌を歌ってあげたり。
「そうそう、比良屋さん専属の元祖記録忍者として、今までつけていた記録の数々♪ 荘吉君の比良屋美食巡りの巻(仮)完成のお手伝いのために、お渡ししておきますねー♪」
「比良屋美食巡りの巻かっこ仮ですか?」
朔耶がすちゃっと取り出したのは紙の束、どうやら何かの報告書のようです。
2人の会話を耳にしてそれに加わる嵐山。
「『比良屋で振舞われた料理を纏めた本を作る作戦〜』って奴だな。んー‥‥『比良屋宴会料理百珍』ってなぁどうだい?」
「あ、それ良いかもしれないですねー♪」
「なんだか立派な料理本のようですね」
「おう、題字もこう、さらさらさらっと」
なかなか立派な題字を書いて貰って荘吉も嬉しそう、ちなみに書画という雰囲気ではなく、美術的な題字だったようです。
一通り料理を楽しみ堪能して、いよいよお待ちかねのケイン作のクリスマスケーキです。
白くクリームで飾られた可愛らしい様子のケーキに、朔耶の兄たちが買い求めてきた赤い果物・苺を可愛らしくのっけており。
「じゃあ、まずは切り分けて、お皿にっと‥‥」
ちょんちょんとケインが切り分けて配れば、最初に配られた子供たちは、ふわふわの食感と甘いクリームに思わず笑みをこぼし。
「甘くておいしいですねー♪」
「ジャパンで向こうの行事とかというのも不思議な感じだけど‥‥へぇ、なかなか」
朔耶がにっこりぱくぱく、総司朗も少し貰ってもふもふ食べているそばで、レフィーティアも不思議な感じだなぁ、としみじみ言いつつケーキを食べて。
「何でも西洋の偉い神様の誕生の祭とか‥‥? 先ほど作るところを見ていたでござるが、後で一度教えてもらえるとありがたいでござるよ」
「良いですよ」
沖鷹とケインは作り方や他にどんな種類があるかなど話し合っていて。
どうやら沖鷹はあとで役宅と綾藤に差し入れに持って行ってみるつもりのよう。
「こういうのもなかなかいいもんだよなぁ、旦那」
「まったくですねぇ‥‥しかしこれは美味しいですね、なんだか癖になりそうな」
嵐山がケーキを傍らに、つまんではその情景を紙にと筆を走らせそばの旦那に言えば、ぺろりと平らげて頷く比良屋。
比良屋のお疲れ様会は、こうして楽しげに続くのでした。
●年越しへ向けて
すっかりと楽しんで今は既に夢の中の子供たちの枕元には、エスナが置いた贈り物が。
「荘吉君には冬のお使いでも寒くないよう『毛糸の手袋』、清之輔君には勉強中に足が冷えないよう『毛糸の靴下』‥‥お雪ちゃんにはお揃いの『ふわふわ帽子』‥‥」
微笑を浮かべて贈り物を置くと、縁側で空を見上げるケインの隣へと腰を下ろして、比良屋にお雪とお揃いでもらった櫛に目を落とし。
「年越しは、むこうで‥‥」
「そっか、お仕事をかねて、かな?」
「うん、だから‥‥また‥‥来年も、よろしくお願いします‥‥ね」
ケインの頬にそっと口づけてほほ笑むエスナに、ケインも微笑み返して。
それから少し後、真夜中のこと。
「さて、子供たちは‥‥む、先客がいたか?」
そう小さく呟くのは群雲で、手には包みが三つ。
「えぇと、これがお雪で、こちら2つが清之輔と荘吉か」
言ってそっと置く堤、お雪には白くふわふわの雪のような簪に手毬、そして荘吉と清之輔には凧と独楽。
子供たちが起きてどんな笑顔を浮かべるか、そんなことを考えながら、群雲は満足そうにその場を後にするのでした。