●リプレイ本文
●宴会幹事
「いらっしゃいませ‥‥お客さん豪遊だね! 極楽希望だね! 現実逃避に着たんだね! 今遊んでいるうちはいいけどドップリつかってそのうち友達にも飽きられ見放されて、天国行きだね! いらっしゃい♪」
なにやら物凄い勢いで真神美鈴(ea3567)が出迎えるのに、旅支度を終えて待ち合わせの酒場へとやって来た薬師は少々面食らっています。さりげに酷いことを言われている気がしなくもないですが、元々こだわるタイプではないのか怒る様子はありません。
依頼を受けて、真っ直ぐに参拝道へと向かった者が居ました。八幡伊佐治(ea2614)です。聞いていた特徴の女はすぐに見つかりますが、たいそう羽振りが良さそうで、声をかけてきた伊佐治にも上機嫌でそこらで売っているものなら、好きな物を買ってやるよ、と言っています。
「なにやら羽振りが良いようじゃの」
「あぁ、当然さぁ、当分遊んで暮らせるだけは入ってきたし、暫くはおまんまのネタにゃぁ苦労はしなそうだしねぇ」
上機嫌で言う女。それ以上は秘密だけどね、と笑いながら言うのを聞いて、宿場町へと向かう前に調査班へと声をかけます。あからさまに怪しいというのを伝えると、伊佐治は薬師達とも合流せずに、先に行くことだけ告げて宿場町へと向かう事にしました。仲間と別れると、伊佐治は遊び仲間の女性陣へと声をかけます。3人ほどが都合を付けて身体を空けてくれるのに、一緒に隣の宿場へとむかいます。
宿場町では、座敷遊びが出来るので偉く評判な店を見つけると、いそいそと予約をして、旨い物を食べさせてくれる場所を調べるのに余念がありません。
なにやら、薬師達の宴席の準備だけが、物凄い勢いで進んでいきました。その中で、なにやら伊佐治は、近頃月道の影響で見ることが出来る様になった異国人向けの螺鈿細工の髪飾りに気が付くと、少し考える様子を見せて、それをこっそりと買い込んでいました。
薬師達が隣の宿場町へと向かうのについて行くのは風月皇鬼(ea0023)、鷹翔刀華(ea0480)、麻生空弥(ea1059)の3人です。
「久々に羽を伸ばせるかねぇ‥‥俺に働かせないでくれよ?」
誰にともなく呟く皇鬼に薬師が小さく首を傾げます。薬師を心配してか、ギルドに付き添ってきた友人が心配そうに何度も何度も皆さんへと頭を下げて薬師のことを頼んでいます。
「大事に想ってくれる友人が居るんだ、ヤケになってる場合じゃあ無いぜ?」
木賊崔軌(ea0592)が軽く薬師の肩をポンと叩くのに、頭を掻きつつ、薬師は頷きます。
「ま、俺たちに全部任せて羽を伸ばしてきな。帰ってきたときにゃ、お前さんの濡れ衣はきっと晴れてるぜ!」
「事件解決すれば大成だね。人生前向きが一番だよね。薬師さん大好き☆」
にっと笑いながら嵐山虎彦(ea3269)の言葉と、美鈴の謎発言に見送られ、何はともあれ薬師と護衛の一行は隣の宿場へと出発するのでした。
●奸佞邪知
「うわーご主人さん飛ぶ鳥を落とす勢いだね! 右肩上がりだね。人生磐石だね。お手伝いさんも鼻高々☆」
美鈴の勢いに押されてあっけに取られた様に、同僚の女中は頷きます。
「まぁ、あれだわ、自分の主人を悪く言いたくはないけどね、貴女ここで働くのだけは止めた方が良いわよ。変な色気ばっかの女とか、質が悪そうな2人組の男とか‥‥何よりろくな物じゃないからね、うちの主人は」
よっぽど色々と溜まっていたのか、女中のおばさんは溜息混じりにそう言います。
「本当に酷い人だからねぇ。私らだって、身に覚えのないことでお給金を減らされたりするんだから。人のあらを探したりそう言うのが得意な人なのよ。同僚のお医者様のことだって、馬鹿だ何だと罵ってたしねぇ、良い方なのに‥‥」
しみじみとおばさんは溜息をついていました。
そんな風に家人の気を美鈴が引いている間に、崔軌が薬師の家へと忍び込みます。事前に聞いておいた部屋割りから、同僚の部屋の屋根裏に潜んで、長期戦に備える様でした。
スタニスラフ・プツィーツィン(ea1665)は嵐山と行動しながら2人組の男と女の話を聞いて回ります。酒場で上機嫌でおこぼれに預かったと騒いでいる男の事を聞きつけた2人は早速そちらへと向かいます。同僚と噂になっている男達のことを、最初は話すのを渋っていた彼らでしたが、スタニスラフの後でニヤリと笑って立っている嵐山に気が付いたのか、途端に居住まいを正して居心地悪そうに彼らが溜まっている賭場を教えてくれます。
上機嫌で賭場へと向かう2人の男が嵐山とスタニスラフに捕まったのは、それから大して時もかかっていないうちでした。
夕刻、同僚の元へと2人の男が、どこかよろよろとした足取りでやって来て、無理矢理に中へと入ると真っ直ぐに同僚の部屋へと庭から回って向かいます。屋根裏にずっと潜んでいた崔軌の耳に、会話が聞こえてきます。
「こんな目に遭うなんて聞いてねぇ。あれっぽっちの金じゃぁ話にならねぇよっ」
「あれ以上はびた一文出さないぞ。あぁ、届け出ても無駄だからな。お前達と私、どちらの言葉が信じられるか、試してみるか?」
会話の内容を確認する崔軌。屋敷を2人の男が放り出されると、同僚は忌々しげに舌打ちをします。
「くっ、馬鹿共が‥‥まぁいい、向こうであいつの腕の一本でも使い物にならなくしてやれば、他の奴らもこっちに頼るしかないんだからな‥‥」
同僚はその言葉を屋根裏で聞いている者が居るとも、わざわざ捕まえた2人組をこの屋敷に送り込んだ人間のことも知らぬままに、ぴしゃりと庭への戸を閉じるのでした。
●阿鼻叫喚?
伊佐治が腕によりをかけて作り上げた流行の姿に身を包んで、薬師は吃驚した様に銅鏡を覗き込んでいます。
「はぁ、別人みたいですね〜」
どこか感心した様に言う薬師にちっちっ、とばかりに伊佐治が笑って取り出した物には、調べた旨いものを出す店が書き連ねられています。それを見て、目を輝かせる薬師。思い切り遊び歩く気満々のようです。
「これは‥‥凄いな」
伊佐治のマメさに皇鬼が関心とも呆れるとも付かない声を漏らしてそう言うのに、それを覗き込んでいた刀華がこっくりと頷きます。
それは、3軒目を回ったときに起こりました。ふらっと薬師へと酔っぱらいらしき男が手にナイフを隠して近づいてきていました‥‥が、次の瞬間、皇鬼とどんとぶつかり手の中のナイフを見られてしまいます。
「俺は風月皇鬼‥‥解ってて喧嘩を売ってきたんだろうな?」
その様子に怖じけたかの様にじりっとさがりかける男。次の瞬間男は人垣の中へと投げ込まれ、這々の体で逃げ出します。
5件目で旨い団子を食べて出てきた一行へ、少し怪我の増えた様子の男がこそこそと近づいて薬師を狙おうとしますが、運悪く何かが聞こえた気がして振り返った空弥と目があいます。一瞬、にっと笑う空弥。男が引きつった表情を浮かべるのに空弥が鳩尾あたりに蹴りを打ち込み、いっそっきっちり狙ってくれれば良いのにとばかりにもんどり打って倒れます。空弥の一撃はどこか八つ当たり気味に男を吹き飛ばすと、一行は旅籠へと入っていきました。
「『男は弱音を吐くな』とはよく言うが‥なんかこう、何もかもが面倒っていうか、やるせないような気分になる時もあるよな!? ‥‥解かる‥‥解かるぞ、その気持ち! 今日ばかりは現の事など全部忘れて、遊び回ろうじゃないか!」
旅籠で酒が出てくるのに、薬師と空弥がなにやら意気投合しています。それまで食べ物食い倒れをやっていた分か、座敷では人を呼んでの飲めや歌えの大騒ぎとなりました。
「刀か? 刀は質屋に売った。‥‥自分の力の無さに嫌気がさしてな。暫く別れることにしたんだ。ご先祖様に憧れて冒険者になったが‥‥体が生まれつき強くなくてな。冒険に出ても活躍の場は殆ど無いし」
なんだかいつの間にか薬師と空弥は隅っこで愚痴大会を展開しています。
「‥刀に触れてすらいない事もしばしば。ほんとやってらんないよ! ――俺にも少しは非があるが――とにかく! 今日はとことん飲もうじゃないか! え? 未成年じゃないかって? ジャパンでは、独り立ちした男はもう立派な大人だろ?! 駄目なら水でいいです。はい‥‥」
「何を仰る、この際ぱーっと飲んでしまいましょう、ぱーっと」
愚痴る空弥にガンガンと酒を注ぐ薬師。大騒ぎのまっただ中で刀華は綺麗所に囲まれて飲み始めて、なんだか様子がおかしくなっています。
「くっ、こうなったら宴席に正面から乗り込むっ!」
こそこそと薬師を狙っていた男が無理に押し入って襖を開けた向こう側には、刀を抜きはなって、危なげな目つきの刀華の姿がありました。
宴で起こった男の絶叫は、乱痴気騒ぎの所為で誰にも気が付かれることはなく、夜は更けていったのでした。
●一件落着
薬師と出かけていった一行が江戸へと戻ってきたとき、それを出迎えた調査組は女1人に男2人を捕まえて薬師の仕事場で待っていました。すっかり嵐山に怯えきっている男達と、その男達や崔軌の証言で罪を認めた女とで先ほどすっかり嫌疑を晴らしていたそうです。
「てぇことで、こいつらの始末はお前さんに決めさせようと思ってな」
「‥‥もう容疑は晴れたんですから、良いですよ。すっかり痛い目は見たようですし」
嵐山の言葉にあっけらかんと言う薬師。どうやら余程気晴らしは上手く行ったようです。
「それに、この人達はこの人達で、しでかしたことを周りはみんな知っているんですから、同僚も含めてね。これから会えて更に何かをしようなんて思いませんよ。だからもーいーんです。それより、お祝いも兼ねてぱーっと飲みましょう♪」
そう言って薬師は土産の酒瓶を軽く振ってみせるのでした。