大切な人への特別な花嫁衣装

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月27日〜03月03日

リプレイ公開日:2008年03月12日

●オープニング

「花嫁衣裳の準備を手伝ってくれる人を探しているんだ」
 ケイン・クロード(eb0062)が冒険者ギルドで顔を見知った正助少年を捕まえて切り出したのは、日差しの柔らかいとある冬の昼下がり。
「え‥‥えええっ!? 御結婚されるのですか!?」
「そ、そんなに驚くことかな?」
「い、いえ‥‥その、とんとそう言うお目出度い話題とは無縁だったもので、ちょっと動揺しました」
 困ったような照れたような様子で小さく頬を掻くケインにあわあわと首を振って詫びを言うと、心底どこか嬉しそうに笑みを浮かべる正助。
「いや、おめでとうございます、日取りなどは決まっているんですか?」
「あぁ、いや‥‥式とかの日取りはまだちょっと、お互いに忙しくてね。それならば今のうちに準備をしていこうかなって」
「なるほどー‥‥あれ? 花嫁衣裳って、呉服屋とかそーいったのとは?」
「あぁ、うん。実は故郷の方のドレスとか作れればって思って。江戸なら月道を通ってヴェールとかドレスに必要な材料とか手に入りそうだし‥‥」
「あぁ、あれですね、諸外国の方々の礼装の、あのふわっとした」
 正助が身振り手振りでこんな感じの、と言えば、いろんな種類があると思うけどねと笑って頷くケイン。
「小柄な女性だから、サイズ‥‥つまり丁度良い大きさのものを見つけるのが大変なんだ。どうせなら作ってしまおうかな、と。だから、衣装作りに長けた人に手伝ってもらえないかなと思って」
「なるほどー‥‥良いですね、特別な一品」
「それにほら、技術が無くても、デザインセンスや女性の好みとかもよくわからないから、アドバイスして貰えるととても助かるし」
「わかりました、じゃあそのあたりをお仕事として募集してみますね」
 自身が結婚するわけでもないのに、正助はなんだかほんのりと幸せな気分のお裾分けをもらったかのように上機嫌で依頼書へと筆を走らせるのでした。

●今回の参加者

 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea5927 沖鷹 又三郎(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb5534 天堂 朔耶(23歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

一条院 壬紗姫(eb2018

●リプレイ本文

●生地と衣装と
「布にも色々とあるので御座るな」
「どれす、っていうのも凄く可愛くて綺麗ですよね☆」
 沖鷹又三郎(ea5927)が月道渡りの商品を扱う店を覗けば、天堂朔耶(eb5534)も興味津々といった様子で並ぶ商品を見ています。
「ま、どれもこれも一般的にゃ高価で手に入らねぇんだろうが」
 興味深げにイギリスなどの礼服で、女性のものに入る刺繍の柄を眺めつつ嵐山虎彦(ea3269)が言えば、ケイン・クロード(eb0062)も頬を掻いて苦笑します。
 一行が来ているお店は月道を通って珍しいものを置くようなお店で、珍しい物やそれ以外にも異国について興味を持っている様子の比良屋とギルドの正助少年に聞いたところ、服飾品を売っているかもしれない御店として紹介されたところです。
「えぇと、この衣装の内側はどうなっているでござるか? 」
「はぁ、こんな風に縫合してありますが‥‥」
 裏返して見せてもらえば縫い合わせ方や裏地の様子など、いろいろと着物と洋服の違いに興味津々の様子で確認する沖鷹。
「えーっと、うぇでぃんぐどれすって、いろんな形があるんですよねー?」
 あれもこれもと形を確認して首をくいっと傾げながら店員に聞く朔耶に、うろ覚えのようではありますが、店員と形がどうこう、見栄えがどうこうと身振り手振りの右往左往。
「あぁでも、本当にすみません、我侭に付き合っていただいて」
「なぁに、気にするこたぁねぇよ」
「そうでござるよ、いつもお世話になっているケイン殿のお祝いでござる、拙者にできる限りの手伝いをさせていただくでござるよ」
 お手伝いに着た3人とも、ケインのことはよく見知っており、すっかりと気心の知れた相手といっても良いでしょう。
 ケインとしても手伝いに来てくれた3人の気持ちが嬉しいようで、同じく手伝いに来てくれていた一条院壬紗姫にお土産の用意を頼んでおいたとか。
「白無垢でござれば何とか出来るでござるがドレスは難しいでござるの。構造をもう少し確認して、でござるか‥‥」
「西洋風花嫁衣裳たぁ、目新しいもんだ。やっぱり白無垢のよーに白いやつが一般的なんかねぃ?」
 僧兵2人が女性用の衣装をしげしげと確認しているのはちょっと見不思議なものではありますが、その様子は真剣そのもの。
「うしっ、大体どんな物かってーのは良くわかったな。次は布地か? 確か近くに呉服屋があったな?」
「うん、男の子が呼び込みしているところがありましたねー? 反物とかいい品揃えだって聞いたことがありますー♪ ‥‥入ったことないですけど」
 てへっと笑っていう朔耶にそういえばギルドの正助がそんな呉服屋があるとか言っていたなぁと思い出して頷くケイン。
「じゃ、そっちの方に回ってみようぜっと」
 協力に対する心付けを店員に渡して一行を促す嵐山。
 一行は連れ立って次の目的地である呉服屋へと足を踏み入れれば、ギルドの正助からの紹介と告げられた店に出ていた少年が頷いて奥へと上がるように進めます。
「あぁ、なんでも光沢のある白い反物とか薄絹だったとか伺いました。こちらに兄が用意していますので」
 ちょっとぎこちない丁寧な言葉遣いで言う少年に連れられて中へと入れば、店主は多種多様の白く美しい反物を取り揃えて待っており、柔和な笑顔で一行を迎えます。
「異国の着物を作るとか伺いましたが、お心に沿う反物があればと思います」
「わー、どの反物も綺麗ですねー♪」
「多少のお手伝いもうちの方でできましたらと‥‥気になることなどございましたら、これなる弟へと聞いてくだされば‥‥」
「‥‥‥」
 店主がいれば見るのにも気を使うと思ったのか、そういって少年へと後を任せて出て行く呉服屋の店主、少年も紹介されてぺこりと頭を下げると、早速疑問を口にする面々へと次々答えていき。
「こいつは良いもんだな‥‥艶といい品質といい、軽くて柔らかいねぃっと」
 嵐山が先程からとっかえひっかえに生地の目利きを行っていたようで、
「えぇと、この絹の反物とか、材料はこの後どれぐらい使うかを確認するから‥‥その、分かり次第で良いかな?」
「はい、こちらは必要な分量などが分かり次第お申し付け下さったら、その、俺届けますから」
 ケインの言葉にそう頷く少年、ベールに使える布はないかと布の特徴を言うのに薄く柔らかな絹の布を取り出して見せてみたり。
「有難う、分量が決まったらお願いするよ」
 上質の絹の反物などを見繕うと少年に礼を言って出る一同。
「しかし、良い布があったようで良うござった」
 沖鷹の言葉にケインもにこりと笑って頷いて。
 一同はこれから移る作業に向けて、あれこれと楽しげに案を出し合いながら、船宿の綾藤へと向かうのでした。

●擬似的図案御披露目
「えぇと、そうですね、そのあたりからこう、広がるというか‥‥」
「ふむ‥‥先程お店で見た形はこの様だったでござるが」
「確かここでこの形でしたねー」
 それぞれの言葉に筆を走らせてさらさらと形を作っていく嵐山。
「えぇと、こいつをこーして、と‥‥」
「縫いしろなどを考えたら、型を作るのは御店の方の方に手伝ってもらった方が良いかもしれませんわね?」
 嵐山が各人の言葉を考えながら手を進めるのにお茶とお茶菓子を運んできながら言う綾藤の女将・お藤、ケインも確かにそうですねと頷いて。
「拙者達が見落としているものに気がつくこともあるでござろうし」
 沖鷹が頷いて同意すれば、その横では朔耶が嵐山の書きあげた絵の図柄をとっかえひっかえ眺めてはむむと眉を寄せて。
「おう、どうした?」
「今覚えてるんですよー♪ こんな感じになるって『もでる』っていうのをするんですよー♪」
 朔耶が楽しそうにそう嵐山に答えれば、朔耶の愛犬・総司朗君はわふんと溜息をつき、なるほどなと笑って頷く嵐山。
「ということで、めいどさん経験を活かして色んな「どれす」姿にへーんしーん♪」
 じゃじゃーんと言いながら、朔耶の案御披露目の開始です。
「小柄な人向け♪ に、可愛い人向けです♪」
 さっそく披露されるのはえーらいんとやらいうすとんと三角柱のようなすっきりした形になるドレス姿に。
 そして次に披露するのは、ふんわりと裾の広がるぷるんせすらいんだとか。
 次々と下肢に沿った形のものや、幾重にも布が重なりゆったりしたものなど。
 髪と目の色も変えて見せる徹底ぶり、細かい刺繍の柄などはさておき幾つか見ていけば、何となくと言う様子ではありますが意見が纏まってきたようで。
「やっぱりプリンセスラインかなぁ‥‥」
 そこで袖をもう少し、ここをもう少しふんわりと、など見たところの様子を確認して朔耶に直して貰い、其れを元に最終稿を書き上げていく嵐山。
「となるってぇと、どれぐらい反物がかかるかねぃっと」
「これぐらいだと思いますけれど、御店の方でも相談に乗って貰えると思いますわ」
「うし、じゃあちょいと反物を買って来るぜ〜」
 図案を反物を買いに行く用と型を起こす用に分けて書き起こした嵐山が言って出かければ、早速その図案からあれこれと相談を始めるケインと沖鷹に、朔耶はこんな感じですかねーと少し長めの変身を続けているのでした。

●衣装制作中
「こんな感じかな」
 ケインが手元でずっと縫い込んでいたものを少し掲げるようにして見るのは、其れは衣装の飾りとなるものの一つ。
 嵐山が呉服屋から布を買ってくると早速始まった衣装作り。
「差し入れです。たいしたものでなくて申し訳ありません」
 綾藤の料理人がそういって持ってくるのはお握りで、作業のために手を休める余裕のない一行に、口にし易いものとなった様子で。
「出来上がったら沢山ご馳走しますわ」
 お藤もそういって笑い、先程から嵐山の描いた図案通りに刺繍を施しているようで。
 どうやら宿の仕事の合間ではありますが、楽しんで協力しているよう、先程は比良屋のお弓も手が空いたからと言ってお手伝いに来ていましたり。
 さて用意されたお握りはといえば、毎回中身は色々と凝っており、作業で忙しい一行にとってはとても有難い差し入れとなった様子。
 手を汚さず食べられるように布が下半分に巻いてあり、今回のお握りは桜の塩漬けを混ぜ込んだ、ほんのり春の香りのするお握りです。
「美味しいですねー♪」
 ちくちくと御藤に習いながら西洋で言うハンカチでしょうか、薄い絹布に朔耶は刺繍をしていたようで。今はちょっと休憩、御茶受けを用意していたところへの差し入れににこにこしながら食べており。
「さて‥‥こちらの方は良いで御座るよ」
 沖鷹の言葉、おおよその形が取れたようで、縫い合わせていくケインの姿を見ながら全体的な形を見ていけば、ふんわりと下肢の部分と袖が広がり、上体は百合の飾りを幾つもあしらって肩口を飾ったもので。
 ちょうど沖鷹はすかぁとの部分というのに薄絹の縁に百合の刺繍を散りばめた薄絹を重ねて縫い付けたところで、腰の部分の布の位置を合わせて全体の形を確認するケイン。
「これほど縫いでがあると、作業がはかどっていると思っても大変ですね」
「うん、でも‥‥ここにリボンを通して‥‥最後にこのリボンで袖の絞り口とかウエストのあたりを調整するから‥‥」
 そして異国の服を作るというのに興味を持ったのか、ちょっとした簡単なものならば作れるという呉服屋の少年も百合の飾りなどを習って作りながら興味深げに見ていて。
「それにしても本当に良い布だね。艶やかで柔らかくて綺麗で」
「有難うございます、職人の方々にそう伝えておきます」
 自分の御店の商品が褒められるのに少し照れたように顔を赤らめながら、少年はあわあわと手元の百合の飾りへと目を落として針を進めて。
 色々な人間が入れ替わり立ち替わりに加わりながらも作業はどんどん進められていって。
 最終日には何とか出来上がり、ケインも一同も、ほっとしたように作り上げられた異国の花嫁衣裳に笑みを浮かべるのでした。

●待ち遠しいその日を
「すごいの、ととさま、きれいなの」
 白い綺麗な花嫁衣裳に吃驚したように目を瞬かせるも、比良屋の手を引いて目をきらきらとさせて見るのはお雪。
 今日は関係者一同へのお疲れ様のお食事会。
 綾藤の料理人が腕を奮って季節の食材があちこち、さっそく鰹なども卓へ並び、ちらし寿司には桜や桃の花びらが添えられていて。
「皆さんのお陰で、素晴らしい物が出来ました。本当にありがとうございます」
 ケインの言葉に一同笑みを浮かべて。
 どうやらお手伝いをしてくれた皆様にお土産を用意していたよう、初日にお手伝いに着ていた一条院壬紗姫に頼んで用意しておいて貰ったそれを各人へと渡したようで。
「それにしても、他国から来られた冒険者の方々を見ているんで、洋服って言うのも良く見ていたんですけど‥‥流石に白無垢と同じ用途のものは何処の国も立派で綺麗に作るものなんですね」
 荘吉もどんな風になっているのだろうかと興味を持って見ているようで、比良屋はと言えば、お雪に手を引かれて感心するように見ると、これまた同じように何処か目を子供っぽく輝かせて。
「いやいや、そのお目出度い席は、勿論うちで‥‥楽しみですねぇ、お二人の婚姻の宴‥‥」
「あー‥‥でも、その‥‥なかなか予定が合わなくて‥‥これを渡す機会は、さて、いつになるかな?」
 最後の方は口の中での小さな呟きのようで。
 少しゆったりとした肩口は柔らかな薄絹を緩く捩って縁取り、左の肩口に大振りと小振りの百合の飾りが飾り、右側にも小振りの百合の飾りが縫い付けられており。
 腰回りには純白の模様が織り込まれた布が使われており、中央に絹のリボンが通されており、スカートの部分でふんわりと結ばれており。
 左右の袖も膨らませてあり肘のあたりに通された紐が腕の細さに合わせられるようになっているようで、そこには花がやはり飾られていて。
 ふっくらと膨らんだスカートの上には、縁が百合の刺繍で飾られた薄絹が二重に重ねられていて、腰の後ろの大振りのリボンが可愛らしさを演出しているよう。
「こっちなぁ、これを合わせて刺繍が出来てんだな」
 ヴェールにも刺繍が施されているのに嵐山が言えば頷く沖鷹。
 沖鷹はドレスの内側、スカートの裏に小さな可愛らしい青いリボンを縫い付けているようで、其れが裏映りしない様子を確認して微笑を浮かべ。
「お雪ちゃん、ちょいちょい」
 見れば朔耶がお雪を手招きして、総司朗君や愛猫の真魚ちゃんを交えてこそこそと何かを話し合っている様子。
「お祝い、どうしよっか?」
「んーっ、えとえと‥‥とってもおめでたいことなの、なにか、とくべつなこと、かんがえるの!」
 ‥‥どうやら隠し切れていないようですが、こちらはこちらでお祝いの相談で忙しいよう。
「ふふ、本当に今から待ち遠しいですわねぇ」
 すっかりと楽しみとなっている様子のお藤がにこにこして言えば、照れたようにケインは頬を掻いて、改めて特別な花嫁衣装へと目を向けると、目を細めるのでした。