死合い

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月25日〜03月30日

リプレイ公開日:2008年04月10日

●オープニング

 その日、ぼへーっと何処か面倒事に巻き込まれたと言わんばかりの顔の若侍が町中を歩いているのを、ギルド受付の青年代理である正助少年が見かけたのは、微妙に暑いのか寒いのかが判断つかない、とある春先のことでした。
「‥‥‥どーしたんですか? 兵庫様」
「あ、あははは‥‥うん、今ギルドに行くべきかどうか、悩んでたのですよ‥‥」
 頭を掻く若侍は彦坂兵庫、すらりと鼻筋の通った中性的というか、ともかく整った顔立ちながら、その表情に浮かべているのは何処か気弱な困惑で。
「‥‥」
 正直声をかけなきゃ良かったとは思いつつも、何となく気にもなったという理由だけで声をかけてしまった正助は自分の迂闊さを猛省している最中で。
「‥‥えぇと、その、で、何があったんですか?」
「あぁ、えぇと‥‥頼まれてしまったんですよ、とある死合いの、立会人‥‥」
「試合‥‥兵庫様だとあれですか、やっとうの?」
「‥‥剣術の試合なんて言えば、聞こえは良いのですけれど‥‥あれです、死合いです」
「??」
 微妙に食い違う会話に首を傾げつつ、正助が事情を聞けば溜め息交じりに事情を話し始める兵庫。
「‥‥はぁ、では、些細なことからどちらの方が腕が良いという話になった人たちがいたと」
「そう、で、わたくしはたまたま、その店で蕎麦を手繰っていまして、うちの道場の八紘と。その場で争いを起こしそうだったので、とりあえず八紘が怪我をしてはいけないと、先に返そうとしたところ、見咎められて」
 八紘というのは兵庫が留守を預かりっぱなしの小さな道場に住み込みで居る御弟子の少年で、一応先生として気遣ったらしいのですが、争いの気配をいち早く察知して動いてしまったのが逆に仇となったよう。
「もちろん、私など遠く及ばないと言ってその人たちの不毛な争いに巻き込まれないように善処したのですが、ならば立会人を務めろと」
「‥‥はぁ」
 立会人ぐらいならいいんじゃないかなーなどと不謹慎に思いながらも、それなりに事情もある様子に頬を掻いて促せば、兵庫は深く溜息をついて。
「どちらもあまり良い噂を聞かない御仁たちでして‥‥試合最中にどちらかが命を落とすとかはまぁ、仕方がないこととしても、初めから相手を始末するつもりで挑むというのは、いささか物騒ですよね」
「いささかどころか物凄く物騒だと思いますが」
「その上、どちらが勝ったと判定を出して止めても、負けた方が門下を引き連れ狙うでしょうねぇ、相手もわたくしも」
「‥‥」
 とんだとばっちりだなぁ、などと頬を掻けば軽く首を傾げて。
「引き分けは?」
「白黒はっきりつける言ってるんですから、認めないのではないですか?」
「じゃ、じゃあ、相討ち‥‥って、仕向けられるものでもないですよねぇ」
 まいったなとばかりに頭を掻く正助に、非常に困った表情を浮かべてみる兵庫。
「何とか、八方上手く収まる方法、無いですかねぇ? 下手なことをすると、生き残っても兄上に縊り殺されます」
 むしろそちらの方を怖がっている節もあり、どうしたもんかと頭を掻く正助。
「まー‥‥とりあえず、誰か解決策とか、一緒に考えて対処してくれる方、探してみます〜?」
「‥‥そですね、済みませんが、その方向で依頼を出していただけましたら‥‥」
 本気で困り果てている様子の兵庫を見つつ、正助は依頼書を懐からとりだすのでした。

●今回の参加者

 ea2011 浦部 椿(34歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb0833 黒崎 流(38歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb2018 一条院 壬紗姫(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb2872 李 連琥(32歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 ec2786 室斐 鷹蔵(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●諍いの種
「まぁ、元々あわんかったのでしょうな」
 池田何某の道場が付近にあるとある酒場で浦部椿(ea2011)が話を聞いてみれば、店で仕込みをしていた主人は微苦笑でそう答えました。
 男性の話では、発端は互いに門弟の質やらと李愛やらちょっとはっきりせず、どちらがそれを始めたかは分からないとのこと。
「では元々其々の道場主同士の仲が悪く、弟子連中が勝手にいがみ合ってるというわけではないのだな」
「まぁ、表だって道場主同士でやり合うというのは無いでしょうが、少なくとも同席した場合目を合わせることもしないでしょうな」
 椿が話を聞いた印象では、仲が悪いと言うよりはどちらの道場も過剰な自信から来る様子にも見受けられ。
「飛田何某の方の道場も似たような評判だったな。風聞に違わず、と言ったところか‥‥彦坂殿には期日まで出来るだけ出歩かないようにして頂くから良いとして‥‥」
 椿が調べてきたことを聞き、黒崎流(eb0833)は自身も調べてきたことを話しつつ、難儀だなぁと溜息をついて。
「話を聞いていても良いことを言う者は1人もいなかったな」
 少なくとも門弟達以外では、黒崎はそう苦笑しつつ言って。
「取り敢えずの救いは、こちらの道場主も体裁は整えようと言う気はあるらしいな」
「こっちはどうだろう? あぁ、でも、後援者が居るみたい出し騒ぎは不味いんじゃないかな、こっちも」
 椿が言えば黒崎も考える様子で言って。
「じゃあ、取り敢えずは当人同士さえ何とかしてしまえば、道場主らを押さえる術はあると言うことか。それにしても‥‥」
 色恋沙汰などの面白い事柄をつい想像してしまった椿は、我ながら本の読み過ぎだと溜息をついて口の中で小さく呟き。
「まぁ、元から仲が悪くてはそれを解消するのも厳しい。どうしても死合いとなれば神前で起請文でも書かせて死合わせてやれば宜しいだろう」
「ま、死合いはさせないよ、と」
 椿の言葉に肩を竦める黒崎、椿もそれを聞いてそうだな、と頷くのでした。

●根回し
「はぁ、憂鬱です」
 小さく溜息をつくのは彦坂兵庫、兵庫は椿と警護としてついていた李連琥(eb2872)の二人と連れ立って、先程飛田何某と池田何某の元へやって行って、かなり厳しく罵倒されつつも署名入りの宣誓書を獲得してきた帰りでした。
「『判定に対してどの様になろうと一切申し立てをせず従う』この言葉質を取れただけでも、最悪の場合は回避できよう」
「道場主らに示せば牽制にはなるやもしれんと言ったところであるな」
 椿が言えば連琥も頷いて。
「だが、迷惑千万な剣客には腹が立つが、下手な騒ぎともなれば、兄君の昭衛殿がお怒りとなろうし、死合い自体を潰すのが一番であろうな」
「違いない。では、私は二人の剣客についてもう少し調べを進めておこう」
 連琥の言葉に同意してから、椿は道場へと着く前に二人と別れ歩き去り、二人も道場へと入っていくのでした。
「まぁ、互いに自分たちが負けるなんて欠片も思っちゃいないでしょうからねぇ」
「‥‥己の感情も制御出来ずに、容易く死合うなどと‥‥剣士たる資格無し‥‥修正して差し上げませんと、ね」
 兵庫が留守を預かる道場、一条院壬紗姫(eb2018)は兵庫相手の手合わせの支度をしながら、言われた言葉に薄く口元へ御笑みを浮かべ呟きます。
「わたくしはあまり数を相手にするのが得意はありませんので‥‥あのお二人のそれぞれ一人が相手ならば、まぁ勝てるとは思うのですが‥‥」
「囲まれれば対処は厳しい、と?」
「ええ、うちは力で押す流派ですからねぇ。一撃の威力については、そこそこ自信もありますが、薙ぎ払う事が出来るほどの力はありませんし、流石にわたくしでは」
「ふむ‥‥」
 そしてこちら連琥も、兵庫に訪ねつつ支度をしており。
「まぁ、とにかく我らの実力を見定めて頂いた上で、両剣客に少々灸を据えに行こうと」
「あ、はい‥‥では‥‥」
 どちらからですか、と兵庫が訪ねるのに支度を済ませて兵庫と向き合うのは壬紗姫。
「では‥‥夢想一条院流‥‥一条院壬紗姫、参ります!」
「彦坂兵庫、お相手仕ります」
 小太刀を手に向き合う壬紗姫に、木刀を手に向かい合う兵庫、先に動いたのは壬紗姫です。
「はっ!」
「‥‥」
 壬紗姫の見えないはずの一閃は、剣先を下げ僅かに身を逸らした兵庫の傍を掠める様に通り抜け、そこへ傍から見れば無造作とも取れる様子で左腕で振り抜かれる木刀を、小太刀で何とか受け流す壬紗姫。
「手加減無用ですっ!」
「む‥‥手加減のつもりはありませんでしたが‥‥では、次はこちらから参りましょう」
 言うが早いか一歩踏み込むと共に下段より繰り出される木刀、あと僅かのところで交わしきれずにぴたりと喉元へと当てられて。
「参りました。‥‥それで、如何でしょう?」
「あの剣客二人と比べてならば、彼らは視力の優位は無いと思われますので、まず大丈夫ではと思われます」
 互いに得物を下げ黙礼をすれば、問いかける壬紗姫に笑みを浮かべる兵庫。
「では、休憩の後、私の番であるな」
「うーん、わたくし目に自信があったので一乗院殿のお相手は出来ましたが、身軽で懐に入られる方との手合わせは苦手なのですよねぇ」
「そう言うものなのですか?」
 連琥の言葉に溜息をつく兵庫、壬紗姫が軽く首を傾げれば兵庫は人それぞれでしょうがと言いつつ頷いて。
「一撃に耐えられさえすれば、懐に入ることが出来る率は上がるでしょう? そうなった時に刀が逆に枷となりかねないですからね。人に寄るでしょうが‥‥やはり得物ありと身一つでは違いますよ? 使いようと言っても、それぞれ使うものの距離感は大きいですからね」
「まぁ、確かにそうですわね」
「まぁ、そこまで出来て初めて名も残せるのやもとは思いますが、そこいら辺はお互いの相性かもしれませんからなんとも‥‥」
 矢やら魔法やらといったものも色々あるようですからね、そう頬を掻いて言う兵庫ですが、休憩をはさんで結局は連琥と手合わせということに。
「いざ‥‥」
「お相手仕ります」
 礼をして互いに向き合えば、懐へと入りこもうとする連琥を牽制し隙を探る兵庫という状態で。
「っ‥‥」
 懐へと入り込む連琥が、兵庫が距離を置こうと牽制をしかけた木刀の手元へと一気に詰め寄り篭手を持って柄を押さえに行けば、柄に小手が触れるのを感じると同時に後ろへと飛び退る兵庫。
 追撃として一歩踏み込む連琥ですが、拳を顎の手前へ打ち込む寸前、既に胸元へと木刀の剣先が胸元へとぴたりと当てられて。
「‥‥参りました」
「いや‥‥実戦であれば先に胸を突かれていたのは私の方だ」
 連琥が首を振り言うと、兵庫は連琥も剣客と渡り合うときに問題なしとの見解を告げて。
「さて、ではそのお二人に重々反省をして頂くことに致しましょう」
 兵庫のお墨付きを貰い、壬紗姫はにっこりと笑い、冷ややかにそういうのでした。


●襲撃
 昼下がり、日が僅かに傾き始めたころ。
 道をだらだら袂に手を突っ込んで歩いていた男は、飛田何某。
「おい、酒だ、酒を持ってこいっ!」
 乱暴に蕎麦屋の入口の縁台に腰掛けて声を上げる飛田が荒れているのは、妙な誓約書なんぞを書かされ、気分を害したから。
 とは言え同じ道場の門弟達の手前、どうとも無い様子を本人は装ったつもりで書いたのですが、それの所為で何かあったときに因縁を付けて門弟達に手を出させにくくなったと思ったようで忌々しげに運ばれてくる酒を呷って。
「あら‥‥大層偉ぶって喚いている男がいると思えば、大したことも無さそうなむさい男ですか‥‥」
「‥‥‥なんだと‥‥?」
 側を悠然と通り過ぎながらちらりと視線を向ける壬紗姫は、見たくもないというように目を逸らすと何処か小馬鹿にした様子で、敢えて聞こえるように言い、それを耳にした飛田は苦虫でも噛み潰したかのような表情で睨め付けて。
「待てぃっ! 女ぁ、某を愚弄するかっ!?」
「‥‥汚らわしい俗物が。愚弄ではない、本当のことを言ったまでです」
 ぎりっと顔を怒りで真っ赤に染め自身の刀へ手を伸ばす飛田。
 と、ぽとりと落ちるのは、飛田の羽織の房紐。
「なっ‥‥」
「あら、今の程度のものが見えないのですか?」
「女っ、そこへ直れっ!!」
 怒りにまかせて柄を握った飛田ですが、怒りのあまりその間に歩み寄っていた人物に意識が行かなかったようで。
「‥‥辞めた方が良い、周りが見ている、ここで騒ぎを起こす気かい?」
 言い様に歩み寄った黒崎はまるで手を押さえようとするかのように扇で飛田の手をばしりと打ち。
 端から見ていれば扇でただ窘めているかのように見える光景ですが、次の瞬間、男はもんどり打って倒れ、どうやら右手首を押さえているようにも思え。
「あまりに無様を晒させるのも不憫だが‥‥痛みに対する覚悟もなかったのか」
 口の中で呟くと、その間に壬紗姫はその場を離れ、黒崎も呆れたように苦笑するとその場を後にするのでした。
 さて同じ頃、こちらは江戸の市中をぶらぶらと歩く池田何某。
 池田は忌々しげに悪態をつきながら、肩を怒らせ歩いていて。
 そこへと背中を丸めてぼろぼろの装束に深く笠を被った男やら行き交う職人達が怪訝そうな表情を浮かべたり関わり合いにならないようにと距離を置いて歩いてきており、その様子を少し離れてみているのは室斐鷹蔵(ec2786)。
 黒崎や椿が調べてきていた飛田と池田の両氏の習慣を元に池田何某をようやくに見つけた鷹蔵は、連琥が池田へと襲撃を掛ける頃合いを待ち続けているようで。
 万一危ないこともあれば、顔を見知っているよしみもあるから助太刀してやろうと告げていたようで、どうやらその為に待機しているようにも思え。
「貴様っ! 今儂の刀に触れおったなっ!!」
 くわとばかりに目を向いてぶつかった笠の男へと怒鳴り飛ばせば、笠の男は軽く笠を指で僅かに押し上げてみて。
「口ばかりが達者のようだが‥‥ただ五月蠅く囀っているだけか」
「っ、貴様、今何と言ったッ!?」
 連琥が挑発するかのように言えば、池田は逆上した様子で声を上げれば刀を抜き放ち。
「無礼な奴めっ、斬って捨ててくれるっ!!」
 言って連琥へと池田が斬り掛かると、連琥は刃を篭手で受け流すと、状態をぐんと下げて勢い良く池田の足を蹴り払い。
「なっ!?」
 にやり、僅かに口元へと笑みを浮かべた連琥は、倒れかける池田の腕を掴み様、池田の身体が下になるようにと腕を絡め投げ倒して。
「ぐっ、ぎやあぁぁっ!!」
 上がる絶叫、何事だとばかりに視線が集中しますが、しっかりと紐を結んでいる連琥の笠が揺らぐわけでもなく、投げ倒した池田の腕があり得ない方向へと曲がっているのを確認してから早足でその場を立ち去る連琥。
「ふんっ、助太刀はいらなんだか‥‥」
 呟いてそれを見届けると、鷹蔵もその場を後にするのでした。

●神罰?
「しかし、本当に予想を裏切らん者達だったな」
 呆れたように言うのは椿、その手には宣誓書が収められています。
「どちらも町中で暴漢に襲われて利き腕を折られるなんて失態を犯したんだ、あれじゃあもうどうにもならないだろうな」
「どちらにしろ死合いは立ち消え、兵庫殿も兄君のお怒りを買わずに済んだわけだな」
「ええ、兎に角こちらに累は及びませんでしたし、あれだけ面子を潰されればご本人ももう表に大きな顔をして出ては来られないでしょうね」
 黒崎に連琥が同意して兵庫を見れば、兵庫も頷いてほっと胸を撫で下ろしているようで。
「はぁ‥‥斬らせる方法は実際には取らなかったにしろ、こんな事をしていたら、私も兄上にお叱りを受けそうですね」
「まぁ、それは心配して下さっているからならば良いではないですか。その点わたくしの所は微妙にそれとは違うような‥‥」
 ほうと溜息をついて呟くように言う壬紗姫に、聞こえたのかこちらも溜息をついてそういう兵庫。
「兎に角、皆さんには本当に何と言って良いか‥‥厄介事にもならず、その上ああ言った方法を取れば彼等も少しは考えることでしょう。それを思えば、本当に感謝しても仕切れません」
 ともあれ心配事は解消したと、ふと笑みを浮かべる兵庫。
 せめてのお礼と、一行は、兵庫の心尽くしのおもてなしを受けながら、のんびりと春の宵、それぞれの思いを抱えながらゆっくりとした時を過ごすのでした。