すっかり忘れたお祝い事

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月21日〜05月26日

リプレイ公開日:2008年06月02日

●オープニング

「わ‥‥忘れてたのじゃ―――っ!!」
「な、何ですか突然?」
 それはうららかとも言えなくもない昼下がり、とある郊外の道場。
 その少女が発した言葉に、雑巾を絞りながらふぅと息を整えていた二人の少年が目を瞬かせてました。
「清之輔っ! いかんぞ、雪に雛祭りの日程を確認して伝えると言っておったのに、すっかりと忘れてしまったのじゃっ!」
「あ、やはり忘れていたんだ‥‥」
「と言うより、まはらさんは今一体何月だと思っているのでしょうかねぇ?」
 やっぱり、といった表情で微苦笑している清之輔に、意に介した様子も無くざばざば盥で雑巾を洗って呟く八紘。
 今は少なくとも、桃どころか、桜も過ぎて、そろそろ菖蒲園が花盛り♪
 ‥‥少なくとも雛祭りを忘れていたなどというにはかなり無理がある時期であったり。
「雪はどうしておったかや?」
「いや、まはらちゃんの連絡が来るまでってまっていたような‥‥父上からの人形のお祝いとか受け取ってたけど、まはらちゃんと一緒に遊ぶのって我慢していたかなあ?」
「‥‥あや」
「そう言えば、端午の節句は清之輔君のお父上様に一緒にお祝いして貰いましたね、高由君もわたくしも」
「‥‥あやや」
「まぁ、忘れていたのではないかと思ってたんだけどね‥‥お雪は忙しいだろうから待つのって言っていたけど‥‥」
「‥‥あやややや‥‥」
 頭を抱えるまはらですが、どちらかといえば頭を抱えたいのはお雪のお兄さんである清之輔でしょう。
「む、むぅ、雪には詫びにどこか遊びに連れて行ってやろう」
「どこかって、どこに行くんですか?」
「とりあえず、お雛様はこの時期出さない方が良いとしても、それなりにお祝い自体はしてあげないと、待っていたお雪が可哀想だと思うのだけど‥‥」
 なんとも言えない表情で聞く少年2人に対して、自信満々に踏ん反り返るまはら。
「なに、任せておくのじゃ!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥で、押しかけて来た訳ですね」
 そして、頭を抱える羽目になった青年がさらに1人。
 場所は出原涼雲という医者の診療所で、諸事情でお手伝いをしつつ待機中の、ギルド受付の青年です。
「うむ! お雪への詫びのしるしにどこか連れて行くのじゃ! そう言うのは、冒険者の方が詳しかろう?」
「‥‥そうかなぁ?」
「まぁ、このご時世、護衛がいた方が安心なんでしょうね、まはらさんも」
 少年2人を引き連れて押しかけて来たまはらに、受付の青年は深い溜息をつきながら、後で正助に依頼を出しておいて貰えば良いか、と半ばうっちゃって考えるのでした。

●今回の参加者

 ea0639 菊川 響(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea0988 群雲 龍之介(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea5927 沖鷹 又三郎(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8917 火乃瀬 紅葉(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9885 レイナス・フォルスティン(34歳・♂・侍・人間・エジプト)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb5534 天堂 朔耶(23歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

天堂 蒼紫(eb5401)/ 加賀美 祐基(eb5402

●リプレイ本文

●久し振りの再会
「まはらのうっかりゃちぃと可愛いが、お雪にゃ可哀相なこったからなぁ?」
「まはら殿もお年頃にござれば、忙しいこともあったのでござろう」
「いやいや、郊外と道場の行き来を繰り返しているうちについうっかりしてたのじゃ」
 嵐山虎彦(ea3269)がまはらの頭に手を当ててぐりぐりと撫でて笑えば、沖鷹又三郎(ea5927)がにこりと笑って頷き、当のまはらはうっかりしておったのじゃ、と頬を掻いて。
 そこはまはらの通う道場で、八紘が訪ねてきた一同を出迎えるとお茶とお茶菓子を用意していて。
「今年は一向にお呼びがかからず、またお体を悪うされたのではと紅葉心配しておりました‥‥」
「紅葉も、心配かけてすまぬの。でも、今年もまた逢えて嬉しいのじゃ、息災であったかや?」
 火乃瀬紅葉(ea8917)が元気なまはらの姿を確認してほうと胸を撫で下ろすようにすれば、素直にぺこんと謝ると、嬉しそうににこぉっと笑って見上げるまはら、その側では菊川響(ea0639)がまはらの愛猫・青龍と顔を合わせてご挨拶。
『青龍殿もお久しぶり‥‥会ったのは小さい頃だから覚えておられないかな?』
「うなぁ〜ん」
 尻尾をぴんと立てて憶えているよとばかりにすりすり身体を擦りつけて甘える青龍に、菊川はお友達だよと、自身の愛猫であるれいしとやえまるを青龍へと引き合わせ、意気投合したのかじゃれ合って遊ぶ猫たち。
「まはら殿とは3年以上かぁ‥‥なんだか感慨深い。お元気そうで何よりだよ」
「江戸もごたごたしておったからの、菊川も息災で何よりじゃ♪」
 久しぶりに合う顔にまはらもすっかりと嬉しくなったよう、お雪を何処に連れて行ってあげようかああでもないこうでもないと楽しげに相談は進みます。
「野掛けにはやはり青空の下、弁当を用意して‥‥確かこの辺りだったか?」
「お兄ちゃん達に聞きましたー、苺はこの辺りですよー♪」
 地図を確認する群雲龍之介(ea0988)に、ひょっこりその地図を覗き込んで天堂朔耶(eb5534)が指し示せば、朔耶のお手伝いに来ていた天堂蒼紫が頷いてみせ、同じくお手伝いに来ていた加賀美祐基が何やら隅っこでごそごそ、何かの準備中のよう。
「野点の支度に、調理道具も必要かな?」
 考えるように軽く首を傾げてケイン・クロード(eb0062)が言えば、沖鷹と群雲に声を掛けてあれやこれや、お弁当洋の打ち合わせを始めます。
「遊びに出かけるか、子供達が楽しんでくれれば良いな」
 準備をする様子に微かに口元に笑みを浮かべてレイナス・フォルスティン(ea9885)が言えば、にと笑って嵐山は頷くのでした。
「と、いうことで、済まぬのじゃ、雪。すっかりと連絡するのを忘れたのじゃ」
 一行が比良屋へと出向き、まはらがそう謝れば、お雪は体調を崩したのではないと知ってにこぉっと笑いつつ首をふるふる振って。
「比良屋の皆様に会うのは‥‥1年半以上ぶり? ご無沙汰でしたっと」
「おや、これはこれは、良くいらして下さいました」
 菊川が言えばこちらでも懐かしい顔に比良屋もにこやかにお出迎え、ケインには荘吉が呉服屋の少年に管理方法を聞いてきちんと責任を持ってドレスを預かっている事とか、現状の報告などをしあっていましたり。
「でも、しみじみ思いますが、長いですよねぇ」
「そうかな?」
「やはり冒険者の方はどうしても普通は出入りの入れ替わりが早くて付き合いが短くなる場合が多いと聞いたことが‥‥まぁ、旦那様は欠片もそういうコト考えたこと無いみたいですけど」
 確かに、と頷くケインに荘吉も微笑とも苦笑とも取れる笑みを浮かべて比良屋を見れば、何やら虎彦と話しつつも何処かを見てにへらと溶けていて。
「皆でお弁当を用意するでござるよ」
「皆で野掛けに行こうな」
「うん‥‥たのしみなの」
 嬉しそうににっこりとお雪が笑って答えている様子を見てどうやら親馬鹿全開の状態で眺めているようなのでした。

●野掛けの支度に
 さて、野掛けに出かける当日の早朝、まだ日がうっすらと東の空を明るくし始める頃、群雲はとある竹林の中にいました。
「ふむ‥‥こんなところか」
 傍らにあるのは、掘り出したばかりの立派な筍がごろごろ。
 満足げに笑みを浮かべそれを持ち帰る群雲が比良屋の台所へと入っていけば、既に沖鷹が雛祭りにあった桜の塩漬けなどを使ってのお菓子を作り始めており、声を掛けた綾藤の料理人は寿司飯の具合を確認していたりします。
「おお、これは良い筍でござるな」
「これでしたら、刺身で頂くとかなり‥‥」
 群雲の持ち込んだ筍を沖鷹が手にとって見れば、料理人もふむふむと頷きながら同意を示し。
 早速沸かしておいて貰ったお湯であく抜きを始め、そこから揃って調理開始です。
 沖鷹のお菓子は雛祭りようのものみたいで、手早く行楽用のおかずなどを作る料理人と、筍と炊きたての御飯を前に襷がけする群雲。
「さて、まずはこの皮を‥‥」
 小さく呟きながら手早く筍の皮を剥いていく群雲は、子供たちの喜ぶ様を思い浮かべつつ、さっそくお弁当作りに精を出すのでした‥‥が。
「‥‥うん、美味い」
 思わず笑みが零れるのは味見と称しての筍のお刺身。
 爽やかな香りにその歯応えに口当たり、味わいとどれを取っても良い物で、暗い内から筍掘りに精を出した甲斐があるというものです。
 更に鱚を手に入れてきたケインが顔を出して調理にかかれば、更に一気に賑やかになる室内、あちらこちらで良い匂いが漂ってくれば、早起きをしてきた朔耶や子供達が待ちきれないとでも言うかのようにそわそわ覗き込んでいたり。
 別の部屋ではケインから幾つか道具を借りて、嵐山と紅葉、それに菊川が野掛けで遊ぶ道具や使う物など、確認をしたり準備をしたり。
「俺ゃ絵でも描いてやるかねぇ」
「それはようございまする。わたくしはケインさんからお借りしましたこちらでお茶を‥‥」
「俺がお弁当に手を出すと大惨事だからなぁ。あ、その辺りの荷物は持つから任せてくれて良いよ」
 何はともあれ瞬く間に準備を終えて、一行は日が辺りをしっかり顔を出した頃、賑やかに野掛けに出かけるのでした。

●楽しい道行
「おう、お雪、肩車してやろうかねぃ」
「うんっ♪」
 晴れやかな空の下、道をのんびり行きながら嵐山が声をかければ近頃ではすっかり慣れたのか屈む嵐山の膝をよじよじ登って肩車をして貰うお雪に、菊川に誘われ一緒に来た清之輔と八紘が目を瞬かせて見上げて。
「いつも思うけれど、高く、無いのかなぁ‥‥」
「意外と剛毅というよりは、慣れはお恐ろしいと申しましょうか‥‥」
 少年二人が巨躯の嵐山の頭に掴まって楽し気にしているお雪に気圧されている様子に菊川も洗いを漏らして。
 その傍ではにこにこ紅葉と手を繋ぎ近頃の冒険者の様子を話して欲しいとせがんでみたり楽しげな道行のまはら。
「うむ、今年はどうも皆ばたばたしておっての、兵庫の道場の留守やら学問やらと走り回っておったら、すっかりと日が経ってしまったのじゃ」
「忙しかったのでございまするね。でも本当にまはらちゃんには何事も無く良うございました」
「うむ、心配をかけてすまんのじゃ。しかし紅葉もこの状況で何事も無く、まはらは安心したのじゃ♪」
 まはらの言葉に嬉しげに微笑む紅葉、その後ろをのんびりと歩くのは沖鷹と群雲で、それぞれが愛馬に荷を乗せたり手に持ったり、そして怪しげに笑う朔夜に微妙に嫌な予感を感じているのかなんとも言えないような僅かに引き攣った笑顔で見る荘吉。
「‥‥そう言えば、何やら高価な果物を買って、何してたんですか?」
「にゅふふ♪ 朔耶ちゃん気付きました。ちゃんと作って変なんて酷いこと言われるようなものになるなら‥‥」
「‥‥なるなら?」
 総司朗と共に聞きたくないものの聞かなければどうにもならないことに深く溜息をついて促した荘吉、朔耶は自信満々に続けます。
「逆に、変に作っちゃえばちゃんと完成すると思うのです! だから、思いっきり謎なじゃむ作りをしたのです!」
「‥‥は?」
「‥‥わふ?」
 思わず同じ反応を取る人と犬、ですが朔耶はもう嬉しそうでたまらない様子で。
「甘ーいじゃむで、お雪ちゃんもまはらちゃんもきっと喜んでくれるはず♪ そうそう、じゃむは多めに作っておいたのでー。‥‥にゅふ‥‥にゅふふ♪ 今度使うのですよー♪」
「‥‥‥いや、まぁ、砂糖と果物ではよっぽど酷いことはないと、思います、けど‥‥」
「わふぅぅ‥‥」
 嬉しそうな朔夜にあえて異を唱える気力の無い荘吉が呟けば、それは甘い考えだよ、とでも言わんばかりに溜息をつく総司朗。
「たまにはこう言ったお出かけも良いものですねぇ」
「みなさん楽しそうですからね」
 そしてお藤と綾藤の料理人が楽しげな一行の様子を後ろから付いていきながら楽しげに話していれば、最後をゆっくりと歩くのはレイナスです。
「ふむ、晴れて何よりだな‥‥」
 楽しげな会話を耳にしながらレイナスは呟くと、一行の後ろをのんびりと歩いて行くのでした。

●青空の下の野掛け
 そこは江戸郊外の小高い丘になったところで、そこから見下ろせば菖蒲園が下に見えます。
 小さな花が咲き乱れ、まはらとお雪はすっかりはしゃぎ早速朔耶と紅葉を引っ張り出してあちらこちらと走り回っていましたり。
「じゃあ、今のうちにっと‥‥」
 そう言ってケインが始めるのは野立ての支度。
 花柄の茣蓙を敷き、日除け傘を指せばなかなかちょっと洒落た場所が出来上がり、その傍に群雲や沖鷹も茣蓙を敷いて場所を作ると、嵐山の用意したででんと大きなお重を置いて。
「確か荘吉が持ってきたのが‥‥」
「はい、これで湯を沸かせば、と‥‥」
 野掛け用の箱を置けば、携帯用の道具一式が入っており、場所を開けて火を起こし、箱で風を遮るとそこでお湯を沸かし始め。
「これで吸い物が作れるなと」
「手伝いましょうか?」
「いや、まはらたちと遊んでくると良い」
 清之輔が群雲に声をかければそう答える群雲ですが、沖鷹が微笑を浮かべて口を開き。
「どちらかというと、先にお重の中身が気になるのでござるな?」
「私たちはあれです、色気より食い気、花より団子と申しましょうか」
 それに対して笑って頷く八紘に、あわあわと赤くなる清之輔。
「まだ湯も沸いていないからな。これでも食べていると良い」
 群雲が差し出すのはエチゴヤのももだんご。
「頂きます」
「す、すみません‥‥」
 どうやら二人の少年は食べざかりのよう、八紘はにこり笑って受け取り、清之輔は催促してしまったようでちょっと顔を赤くしたままおずおずと受け取ります。
「なぁに、子供のうち遠慮するこたぁねぇさ、なぁ? 女将」
 嵐山が言うのにその様子を微笑ましく見ていたお藤も笑って頷いて。
「しかし、良い所を見つけられましたわね?」
「折角なのでいろいろと聞いてみたんで。ここは結構穴場らしいとか‥‥」
 菖蒲園が下に見えるということは、大抵菖蒲園に行ってしまい、ここまで登ってこないということで。
 そんな話を思い出しながら言う菊川に、普段はめったに遠出しない様子の料理人もしきりに感心しています。
「おーい、そろそろ昼飯だぞー」
 湯が沸き豆腐に紫蘇のお吸い物を手早く用意する群雲に気が付く嵐山が、草の中でじゃれて楽しげな笑いを漏らす四人へと声をかければ、ひょっこりっ草の中から顔を出すまはらは、嬉しそうに紅葉の手を引っ張るように繋いでぱたぱたと駆け戻ってきます。
 お雪はと言えば、朔耶が何事か話すのをにこにこしながら手を握って聞いてゆっくりと戻ってきて。
 全員揃えばさっそく並べられるお重の、その華やかだったり食欲をそそる色合い、真っ先に我先にと手が伸びるのは、筍の皮に包まれた御握りで、筍の炊き込みご飯で作った御握りや梅・鮭・おかか・昆布といった多彩な種類に思わず手が迷いそうで。
「うまやのう♪」
 早速口の周りにご飯粒をくっつけながら嬉しそうに笑うまはらに、紅葉がくすりと笑ってそのご飯粒を取ってあげたり、煮染めに舌鼓を打ち酒が進む嵐山とお藤に、お藤のお酌を受けるレイナス。
 その側でなんだかほんのり嬉しそうにお吸い物のお代わりを群雲から頂く荘吉など。
「んー‥‥兵庫君に少しお持ち帰り良いですか?」
「あ、その、父上にも少し‥‥」
 そして少年二人はなんだか持ち帰ってあげたい人がいるようでそう言えば、笑って包んであげている沖鷹。
 美味しいお弁当を楽しんだ後は、飾られるお菓子に次ぐお菓子。
 それは沖鷹が用意した華やかな色合いの素朴な雛あられに菱餅、愛らしい桃色の桜餅に三色の花見団子、白と緑の柏餅。
 ‥‥‥‥それに、不思議で半透明な淡い黄色の何か。
「わ、可愛ゆやのう」
「ひなあられなの」
 嬉しそうな女の子達ですが、少年達は何やら黄色い物体の方が妙に気になるようで。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥なんです? これ‥‥」
「檸檬のじゃむですよー♪」
「‥‥じゃむ?」
 甘い香りの不思議な物体と見えるそれにちょっと躊躇する少年達ですが、味自体はケインに付いて教わったようで、形容しがたいのは見た目だけで済んだよう。
 わいわいと楽しげに笑う中、改めてお湯を沸かして紅葉による野点の始まり、菊川は作法を紅葉から学んでいるようです。
「こうしていると、世の中の色々な出来事がまるで嘘のようでございまするね‥‥」
 甘いお菓子を前に嬉しげに食べ、出されたお茶に手を伸ばす様に心地良さそうに目を細めた紅葉は、そのままひょいと器に口を付けたまはらに気が付いて。
「あっ、熱いのでお気を付けくださいませ」
「む、わかったのじゃ」
 ふぅふぅ吹くのはお茶の作法としてはどうかといったところではありますが、子供のすること、一行は微笑ましげに見ていて。
「はい、これはお雪ちゃんに」
「こちらはまはらちゃんに‥‥二人とも、花のお姫様にございまする」
 ケインが花冠を一つ手にとってお雪の頭に乗っければ、紅葉もひょいとまはらの頭に冠を置いて微笑みかけ。
「むぅ、まはらがすっかり忘れた所為で雛祭りは逃してしまったのじゃ。済まぬの、雪」
「大丈夫、端午の節句は終わりましたゆえ、今度は女の子の番にございます」
 まはらの言葉にお雪がふるふる首を振れば微笑んで紅葉が言い、にと笑った嵐山が絵筆を取り二人のお雛様の絵姿を描き始め。
 それからの一行は、木苺を一杯取ったり草花の中を元気に駆け回る子供達だったり、お酒にすっかりと良い心持ちとなった大人達だったり。
 帰り道ではすっかりと子供達はつかれて大人達や馬の背に揺られ夢の中、菊川に負ぶわれて眠るまはらに紅葉も笑みを浮かべて見守っており。
 摘んだ木苺を持ち帰って沖鷹がケインに聞きながらケーキやジャムの作り方を学んでみたり、朔耶とお雪が何か相談をしていたり、ケインが比良屋に近々世話になることを告げてみたり。
 賑やかに穏やかに皐月の雛祭りはこうして過ぎて行くのでした。