●リプレイ本文
●式の支度
「皆さん、本当に来て下さって有難うございます」
ケイン・クロード(eb0062)が一行へと言えば、エスナ・ウォルター(eb0752)も頬を染めてぺこりと頭を下げて。
ここは綾藤の一室、祝言の支度は主に比良屋になりますが、お藤も協力して、一行は祝言以外にも色々と企画しているようで。
それに加わるため、荘吉と一緒にお雪も顔を出し、準備などもあるだろうからと顔を出した呉服屋の少年も同席していて。
「ケイン殿とエスナ殿がいよいよ結婚でござるか‥‥実にめでたいでござるの」
微笑みを浮かべて沖鷹又三郎(ea5927)が言えば、天堂朔耶(eb5534)とお雪も嬉しそうににこにこしながら頷いて。
「にゅふふっ、ますます準備にも力が入るのです♪ ねー、お雪ちゃん?」
「うんっ、おゆきも、がんばるの」
言う二人ににぃっと笑って頭をぐしゃぐしゃ撫でる嵐山虎彦(ea3269)。
「いやいや、とにもかくにも目出度ぇなっと」
長い付き合いの一行からすれば、兎に角感慨深いもの、皆我が事のように喜んでいます。
「さて、お祝いは当日にもまた目一杯言うのですし、話を進めましょうか? 何やら計画があると伺ったのですが」
自身も祝いを一杯告げたい気持ちを抱えながらも、なかなか話も進まないだろうと考えたのか荘吉が言えば、そうだねと頷くケイン。
「多分ギルドの正助君から話は行っているんじゃないかと思うけれど、今回は比良屋の旦那さんに『恩返し』がしたいなって」
いつもお祝いは子供たちだけで、旦那さんのことはなかったから、そう微苦笑で言うケインに、確かにと一同は頷いて。
「料理は綾藤の料理人さんに打診して良い返事を頂けましたし、他には具体的に何をすればいいんですか?」
「あにさまも、できることがわかったら、おてつだいするってゆってたの」
荘吉が尋ねればお雪も口を開き、おおよその流れといくつかの細かい相談を進める一行。
「じゃあ、旦那さんへのお礼は並行して進めていくけれど、とにかく式の支度をしないとね」
「あくまで式の支度をしていると思って貰えないと、気づかれてしまうでござるからな」
ケインと沖鷹の言葉に一行は頷くと、それぞれの仕事へと移って行くのでした。
「さてと、旬の様々なものを楽しむのは当然として、やはり喜ぶことと言えば美味しい物と、お雪殿の事でござろうか」
「まず間違いないでしょうねぇ‥‥清之輔様、何か思いつきますか?」
「今回のお祝いごと事態にもかなり喜んでいるようで、石川島の件で父上と話すときにもそれはもう嬉しそうでしたから、僕としてはあと何をすればいいのか皆目見当もつかないのですけれど‥‥」
沖鷹が言えば、どう思いますとばかりに荘吉に話を振られて少し困った顔で言いながら襷掛けをする清之輔。
そこは綾藤の調理場で、清之輔と荘吉は沖鷹の料理の仕込みのお手伝いです。
「えぇと、今日はまず材料の確認とかですよね‥‥料理は旬の物、菓子は西洋菓子を、と‥‥」
「その為にケイン殿には西洋菓子の作り方など色々と教えて貰ったでござるよ」
「材料も多いですし、早めに仕込みを始めてしまいましょうか」
とはいえこの日に出来るのは主に準備、生ものなどは当日に新鮮なうちになどと言ったこともあるので献立と作って行く手順を二人へと説明している沖鷹。
「でも、こうしておめでたい席のお手伝いが出来るなんて、嬉しいですね」
ケイン達にも比良屋主人にも感謝してもし尽くせない様子の清之輔に荘吉ももとはと言えば清之輔と同じ境遇だったのを思い出し頷いて。
「後は当日に旦那様が色々と暴走しないように気をつけませんと‥‥」
どうにも娘を息子に嫁に遣る心境らしくて色々嬉しさでぐるぐるしているようで、少し遠くを見つつ溜息をつく荘吉に沖鷹はらしいでござるなと笑いながら言うのでした。
「えと‥‥ここを、こう‥‥?」
「うん、針で刺さないように気をつけて‥‥そこですぐにここから針を入れて表側に‥‥そうそう」
綾藤の一室では、エスナがケインに倣ってハンカチへ刺繍の真っ最中、丁寧に、そして慎重になりながら一生懸命刺繍をすれば、少しずつではありますが、白いハンカチへ文字が浮き出て来て。
「‥‥喜んで、もらえる、かな‥‥?」
「勿論だよ。そこで‥‥うん、そうそう。‥‥そう言えば、お雪ちゃんの服はどんな感じだった?」
ケインに尋ねられればいったん針を止めて微笑を浮かべるエスナ。
「‥‥異国の服、作るのが楽しいって御店の人が‥‥私の、持っていたのを見本に貸して、お雪ちゃんのサイズの、仕立ててくれるって‥‥」
ハンカチを買ったときに、お雪にも式用でドレスを着せてみようとなったようで仕立てて貰う約束をしたらしく、子規前に間に合わせてくれるって、と微笑んで言うと、再びケインに倣いながら針を進めるエスナ。
「‥‥お雪ちゃんのも驚くだろうけれど、ハンカチ受け取った時旦那さん吃驚するだろうね」
針を進めて刺繍を続けながら、えすなも嬉しそうに微笑んでこくりと頷くのでした。
「朔耶ちゃんはぶらいずめいど♪ お雪ちゃんはふらわーがーるですねー♪」
「ふらわぁ、がぁる?」
朔耶の言葉に目を瞬かせるお雪、何やら絵で描かれた図面を基に、二人は花嫁さん用のブーケを作るつもりのようで、比良屋の一室で顔を合わせてあーでもないこーでもない。
「前回調べて貰ったんですよー♪」
とにかくとても素敵な勢いでお雪相手に式の手順やら花嫁さんがどう綺麗やら、こんなことすると盛り上がるやら、ライスシャワーのお米はなどなど。
「‥‥しゅうげんって、なんだかとってもいそがしくてたいへんそうなの‥‥」
ちょっぴり混乱してしまうようで首を傾げるも、なんだかほうっと嬉しそうに笑うお雪。
「えすなお姉ちゃんの、はなよめさん、たのしみなの‥‥」
「ねー♪ きっとすっごく素敵ですよー♪」
ちょっぴり集まる花が花だからか和風な趣のある物ではありますが、ふんわり白い彩衣で包まれた花束にリボンをつければ見た目も華やかで清楚な雰囲気に。
「いい感じですねー♪ 本番でもこんな風にまいて作ればいいっと‥‥じゃ、一度ばらしてお花をお水につけておくのですー」
「おしきのひが、たのしみなの」
互いにそう言い合うと、朔耶とお雪はお花を水の張った桶へと活け、再び比良屋内での準備に回るのでした。
●幸せな二人
先日から祝言の為の支度は忙しさを極めたものの無事に進み、そうして、とうとう式の当日。
「えぇと、こうリボンを‥‥」
お雪が出来上がって来たばかりの白いワンピースを着せつけられると、いつもは簪の髪を解いてリボンで結い上げてあげていたエスナ。
と、そこへ顔を出すのはケイン。
「エスナ、ちょっと‥‥」
「? ケイン?」
てっきり既に準備をしていると思われたケインに声をかけられて不思議そうな顔をすれば、髪を結って貰ったお雪もにこにこしながらエスナの手を引くようにケインの呼ぶ廊下へと向かって。
「えすなお姉ちゃん、こっちなの」
先導するケインと手を引くお雪に呼ばれるように足を向ければ、それは比良屋でも奥の方の客間、少し深呼吸をしたケインが襖を開ければ、その部屋の中央に置かれていた、物は、白く美しい布地で作られた、ウェディングドレス。
「‥‥ぇ‥‥ぁ‥‥」
あまりの驚きに言葉を失うエスナは、おずおずといった様子でドレスに歩み寄れば、ゆったりとした肩口には薄絹の縁取りに大小の絹の百合が飾り、左右のふんわり膨らんだ袖に純白に銀糸の飾り布の腰回りは白い絹で作られたリボンが愛らしく揺れており。
「あの‥‥これ‥‥」
ドレスの裾や薄絹で作られたヴェールの縁取りは百合の刺繍で、後ろに回ればふんわりとしたドレスのスカート、その後ろに大振りのリボンがドレスを可愛らしく飾り。
驚いた表情のままケインへと目を向ければ、エスナににっこりと笑い返して口を開くケイン。
「エスナをびっくりさせたくて内緒にしてたんだ。皆に協力してもらって作った、世界にたった一つのドレス‥‥気に入ってもらえたかな?」
ケインの言葉が一瞬理解できないかのように目を瞬かせると、じんわりと徐々にその言葉の意味が分かってくればエスナは目に涙を浮かべて。
「ぁ‥‥りが、とう‥‥凄く、嬉しい‥‥」
目に涙を浮かべて幸せそうに微笑むエスナ、照れた笑みを返すケイン、花嫁衣裳を作るのに協力した一行もその光景を微笑ましく見守るのでした。
「あ、の‥‥」
「あぁ、とても似合って可愛らしいですねぇ。でも、どうしました? そろそろ式が‥‥」
朔耶や呉服屋の少年に手を借りてドレスを身に纏いヴェールを手にしたエスナに声をかけられ、目を細めるもおや、とばかりに首を傾げる比良屋。
エスナは少しはにかんだ様子でおずおずと切り出します。
「あの‥‥付添いの、父親、役を‥‥お願い、しても‥‥?」
言われる言葉、ちょっと驚いたようですが嬉しそうに笑んで頷く比良屋は、はたととなると娘の結婚式ででも新郎も家族同然で、とちょっぴりぐるぐるしたとかしないとか、ふと比良屋は何かを思い出したかのように何かを取り出して。
「そうそう、こちらはうちのお得意様の武家の方から借りた‥‥そして、こっちは私の母ので、申し訳ないんですがね‥‥」
言って出すのはヴェールを留められそうな小ぶりの簪と、そして母のものと言ったのは手触りの柔らかい深い青の組紐、代々伝わるものが良いと聞いたからと御祝にと渡す比良屋、嬉しげに頬を染め受け取るとエスナはそれで髪を結いあげて。
なにはともあれ、手順を先に沖鷹へとたずねてからエスナと並んで立つ比良屋。
朔耶からブーケを受け取りお花を持って白いワンピースで先導するお雪、それに続いてエスナが比良屋と並んで沖鷹とケインの待つ臨時に作った祭壇へとしずしず並んで進み。
ヴェール越し、嬉しげに頬を染めるエスナに比良屋もじんわりとした様子で何度も嬉しげに頷いて、ケインの前に辿り着けば、まるで託すかのようにケインへとエスナを任せて下がる比良屋、神父に扮した沖鷹がケインとエスナに微笑みかけて。
「宣誓を‥‥」
『幸福な時も幸福でない時も、富める時も貧しい時も。病める時も健やかなる時も‥‥たとえ、どんな困難が訪れようとも‥‥未来が囚われようとも』
沖鷹の言葉に続いてケインとエスナが共に微笑みあいながら続き。
「愛し、慈しみ、変わらぬことを、誓いますか?」
「愛し・慈しみ・変わらぬことを‥‥ここに誓います」
「では、指輪の交換と誓いのキスを」
「ぁぅ‥‥」
そっと互いの指輪を交換すると、向き合い思わず赤く頬を染めるエスナ、ケインも緊張気味にヴェールを上げるとそうっと唇を重ね。
離れれば、二人は照れたような微笑みをかわしあうのでした。
●心からの感謝
ブーケトスで朔耶と意味も分からずトスに参加挑戦をしたまはらの争奪戦の結果、なぜかひょっこり手の中に飛び込んできたブーケに驚いて、文字通り反射的にお雪にトスしてしまう昭衛や、意味を聞いてお雪までもと気が早すぎで慌てる比良屋。
自分のことのように嬉しそうに何度もお祝いを言う清之輔や、着慣れない洋装にちょっと窮屈そうにしながら、記憶に留めようとばかりに絵筆を走らせる嵐山、いそいそと大きな卓を用意して、楽しげにお祝いの会食の支度を進めるお藤と綾藤の料理人など。
賑やかに始まる披露宴には、二つほど大振りな箱が卓へと置かれており、その周りをカツオの刺身が鮮やかな明るさを見せ、鱚の天ぷらが大皿を飾れば、添えられる梅肉に鮎の塩焼き・スズキの洗いが目にも楽しく食欲をそそり。
インゲンの緑の色彩が映える鶏肉との煮物に、卓の一角にはお皿の上に貝殻の形を模したマフィンやクッキーに、赤と黄色の美しい色合いのジャムが爽やかで甘い匂いを放ち。
「まずは、こちら、ウェディングケーキでござるよ」
沖鷹が勧めれば空けられる一つの箱は、Happy Weddingと書かれた沖鷹お手製のウェディングケーキで、飾り付けを手伝った荘吉と清之輔は少し誇らしげであったり。
「あと、これは私たち皆から、旦那さんへ‥‥」
「へ‥‥? 私、ですか?」
驚いたように声を漏らす比良屋、進められて開ける箱には大振りの、皆でクリームが塗られた上にジャムなどで書かれた感謝の言葉が綴られていて。
「あぁ、こんなにして頂くほど、特別なことなんてしていないのですがねぇ」
そう言いながらも驚いたような目元が潤んでいるような、何とも嬉しげな様子の比良屋。
「はい、ととさま」
見れば花束を持ったお雪と清之輔が比良屋へと歩み寄り渡すと、エスナも小さな包みを比良屋へと差し出して。
包みを開けて、刺繍で書かれた『比良屋さんへ、ありがとうございます』と言う文字が白いハンカチへと鮮やかな緑で浮かび上がっており、
沖鷹が赤紫蘇で作った飲み物を、そしてエスナはローズティと、それぞれ振る舞って、杯を各人の手に行き渡れば、祝言と比良屋への感謝の宴へと乾杯となり。
乾杯が済めば、集まったそれぞれで賑やかに楽しげに始まる会食、涙ぐみながら嬉しそうにケインとエスナの二人を微笑ましく見ていたり、貰ったハンカチを大切そうに押し抱いてみたり。
もぐもぐと炊き込み御飯を食べながらそんな様子を眺めていた荘吉は、朔耶の手招きに首を傾げ部屋を出れば、ちょっと頼まれるお手伝い。
「はい、ちゅーもーくですよー!」
部屋へと入ってくる朔耶に視線が集中すれば、朔耶についてはいってきた荘吉の手にはお盆で、その上にはお皿にのった3つの大福。
「新郎さんは目隠ししてくださいねー。はい、お皿の上の三つの大福、一つ選んでぱくっと行っちゃってください♪」
示し合わせてあったのか、申し訳なさそうにずいとケインを朔耶の前へ通す清之輔と、頼まれたのかやれやれと言った様子で手拭いを差し出す昭衛、それを受け取り戸惑いがちに目隠しをするケインに、朔耶はささどーぞどーぞと大福を食べるように促し。
「‥‥見た目が同じだと、目隠ししなくても分からないんじゃ‥‥」
ぼそりと荘吉は言いますが朔耶は聞いちゃいません、戸惑いがちに手にした大福をぱくりとケインが食べれば、口の中に広がるのは甘い苺の味で。
「苺は、末永くラブラブでいられるでしょー♪ はい、新婦さんにキスしてくださいねー♪」
「えっ」
突然言われる想いもかけない言葉に頬を染めながらも口付けをかわしてみたり。
「他は‥‥これは檸檬か?」
「ぐほっ、こっちは山葵だ」
余った大福を受け取り食べ比べ、ふむと面白がる昭衛に噎せる嵐山など、楽しげに続く会食の中。
「本当に、お二人ともおめでとう御座います。あぁ、でも、結婚してからも、うちを自分の家とも思って、何時でも来て下さいね」
朔耶がお米を振りまく中、改めて祝いを告げる比良屋に、ケインとエスナは本当に幸せそうな微笑みを浮かべて頷くのでした。