夏の代わりで秋の夜長

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月19日〜10月24日

リプレイ公開日:2009年01月12日

●オープニング

「今年の夏は、少々暑すぎましてねぇ‥‥」
 そう口を開くのは七十半ばの老人。
 受付の青年の姿がないのに少し驚いた様子のこの老人、正助が話を聞いていたことにすこしほっとした様子で口を開きます。
「わたくしども夫婦は毎年夏になるとあの村へといっての夕涼みが、何よりの楽しみだったのですが、今年はあまりの暑さに一日の行程が、身体に応えるだろうとこうなりまして」
 江戸から大体老人の足などを考えると一日程の所、流石に今年の暑さは堪えたようで毎年楽しみにしていた夕涼みに出られなかったとのこと。
 大分暑さも和らぎ、夜はすっかり秋らしくなってきたものの、まだ明るいうちはそこまで冷え込むでもなく。
 ならば折角なら今のうちに秋を郊外の村で過ごすのも悪くはないだろうとなったそうで。
「やはり家内の足のことなども考えれば、今までのように冒険者さん方にお願いするのがやはり良いだろうと思いまして」
 老人はそう言うと柔和な笑みを浮かべて宜しくお願いしますと頭を下げ。
「どうか、老人の外出の付き添いと、多少のお手伝いをお願いできないでしょうか?」
 老人の言葉に正助は頷くと依頼書へと書き付けていくのでした。

●今回の参加者

 ea1181 アキ・ルーンワース(27歳・♂・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea2139 ルナ・フィリース(33歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3094 夜十字 信人(29歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 eb1555 所所楽 林檎(30歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb2545 飛 麗華(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb4994 空間 明衣(47歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec0097 瀬崎 鐶(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

木賊 崔軌(ea0592)/ 御影 紗夜(eb3768

●リプレイ本文

●再会を喜び
 一行が依頼主の老夫婦と合流したのは、朝も早い頃合いの、街道近い江戸のとある茶屋。
「夏‥‥どうしたんだろ、って思ったけど‥‥よかった‥‥元気そうで、安心した」
「お久しぶりです。‥‥夕涼みの時期にお二人からの依頼が無いと、何かあったのではと不安になってしまいますよ」
 アキ・ルーンワース(ea1181)が言えば、ルナ・フィリース(ea2139)も頷くと、老婦人はごめんなさいねぇ、と申し訳なさそうに言いますが、再会が嬉しいようで嬉しげな様子で微笑みかけて。
 この老夫婦が夕涼みに出かけるのは毎年のことですが続いた猛暑に安全を期して頃合いを見計らっていた老夫婦にとって、見知った顔――まるで孫のように思える人達――が変わらず来てくれるのにはやはり感慨深いものがあるようです。
「お爺ちゃんお婆ちゃんあたしのコト覚えてる?」
「えぇ、憶えておりますよ。村の縁側で色々とお話ししましたねぇ」
 微笑を浮かべて御陰桜(eb4757)に答える老婦人、桜はにっにり笑うと少し離れた所にいた夜十字信人(ea3094)の腕をぐいと引っ張って腕を組んで見せて。
「こっちは信人ちゃん、あたしのイイヒト♪」
「お、おい‥‥あー‥‥夜十字信人、黒の騎士です。御同行させて頂きます」
 全く、といった表情で桜を見るも嫌がっているといった風はない夜十字はきちっと挨拶をして頭を下げ、その様子を微笑ましげに見る老夫婦。
「‥‥初参加の瀬崎です。宜しくお願いします‥‥」
「初めまして、宜しくお願いしますね」
 少し場が落ち着いた様子を確認するときちんと挨拶の瀬崎鐶(ec0097)、老婦人が微笑を浮かべて応え、そこに空間明衣(eb4994)も笑みを浮かべて歩み寄ります。
「今年もよろしくお願いする。お二方ともお元気そうでなりよりです」
「おお、お陰様でこの歳よりも、何とか今年の夏も越すことができました」
 明衣に依頼人が微笑を浮かべて言うと、それは何よりだと笑って頷く明衣は、それで居て老夫婦の顔色や体調などの様子にも気を配っているようで。
「先方に着いたら、まず何を作りましょう」
 少し離れたところでは飛麗華(eb2545)が料理に使おうとでも思って居たのか、荷の中の食材を幾つか確認しているよう。
 滞在期間の料理などを色々と作るのが楽しみな様子で、既に頭の中では幾つか候補を考えて居るようです。
 そして、其の先ではお見送りに来ていた木賊崔軌と言葉を交わす所所楽林檎(eb1555)の姿が。
「じゃあ、気を付けて行けよ?」
「はい‥‥」
 木賊の言葉にこくりと頷いてから微笑みかける林檎、そんな様子に気が付いたアキが、ふと小さく首を傾げて。
「崔兄、の‥‥」
 小さく呟くアキはどうやら木賊のお家に居候中のようですが、表情から、綺麗なのに物好きな人だ‥‥などと書いてあるように表情に出たようで、苦笑気味で口を開いて。
「‥‥つか、物好きとか口に出さずに考えてんじゃねえぞ。小僧っこ?」
 まるで心を読んだかのような反応には、つと目を逸らして遠くを見るようなアキ、其の様子を林檎はほんのりと微笑んで見ていましたり。
「まあ、ちょいとばかり似た者同士っぽいが宜しく頼むわ林檎」
 言われてこくんと頷く林檎、ちょうど、そろそろ出発となったようで、林檎の愛馬・天満へと老婦人が乗り明衣の愛馬・秋風へと依頼人が乗って、まだ再会の喜びなどが覚めやらぬまま、一行は出発するのでした。

●長閑な道程で
 街道沿いの道々は、今までの夕涼みへの旅路と少し違った様子を見せており、今までの道中では五月蠅い程に鳴り響いていた虫の鳴き声が、大分おさまり。
「それにしても、少し季節が変わるだけで、随分と進み良い気候へとなるものですなぁ」
「まぁ、それでも無理は禁物だがな。これより時期がずれればぐっと冷え込んでくる日も増える、ちょうど良い時期ではあるのかもな」
 道中のんびりと馬に揺られている依頼人と明衣が言葉を交わせば、アキが軽く首を傾げて。
「そういや、お爺さん達は毎年帰りに見る景色なのかな‥‥? ‥‥いつもはどれぐらい‥‥滞在、してるんだろ?」
「‥‥そうですな、いつもは、もう少し‥‥あぁ、いや、今年は当たりの様子がまだ秋へとなりきっておりませんからな。帰りは同じ時期ぐらいでしょうが、今よりもっとちらほらと道行く木々が色付いておりましたなぁ」
「‥‥今年は‥‥遅い、みたいだから‥‥漸く、暑さも収まってきたし‥‥」
 アキがふとした疑問を向ければ少し考える様子の依頼人、鐶が言えば、確かに、と頷きます。
「この様子では、帰りの時期も少しずれ込んで、良い気候になっているかもな」
 辺りを軽く見回して明衣は言い、まるでそれを肯定するかのように、アキの隣をてくてくと歩いていたしろくろがぱたぱたと尻尾を振って同意。
「だいぶ日差しが穏やかで心地好いですね」
「ほんに‥‥夏に来ると、どうしても道中は大分暑くなりますものねぇ」
「‥‥そう言えば、大分暑さは厳しかったと聞いていたな」
 ルナと老婦人が言葉を交わしているのには、ふと思い出すような表情を浮かべる夜十字。
「あぁ、妹から聞いたのですが‥‥以前、妹が依頼人のお二方に大変お世話になったと伺いまして」
 そう言う夜十字、老婦人はにこにこしながら頷いて。
「ええ、良く憶えておりますよ。一緒にお馬に揺られていきましたねぇ。琴ちゃんも大きくなったのでしょうねぇ?」
 懐かしげに微笑む老婦人に、夜十字も仕事中だからと引き締めていた表情を僅かに和らげて目を細めて。
「そろそろ、休憩を取りませんか? なだらかな道が続いていますけれど‥‥」
「そう、ですね‥‥この辺りの方が、休憩には、適しています、し‥‥」
 少し先を愛馬・ロイヤーで見て来たルナが言えば、林檎も同意して。
 ちょうど其の当たりは少し開けて、いつも休憩を取るには重宝する場所。
「どうぞ‥‥」
 早速一行が休憩準備を始めれば、林檎が座布団を用意して足の悪い老婦人に勧めれば、微笑を浮かべてお礼を言う老婦人、早速鐶がお湯を沸かし始めて、暖かくしてのんびりと休憩です。
「‥‥粗茶‥‥ですが‥‥」
「はぁ‥‥結構な御点前で‥‥」
 温かいお茶は休憩時間も暖かくするようで、のんびりと会話をしながら休憩に入っていると、ルナは日よけの傘を用意し、明衣が体調をそれとなくみて確認を行っていたり。
「ねぇ、信人ちゃ〜ん♪」
「‥‥お前なぁ‥‥今は任務中だ」
 桜としてはちょっとだけ固すぎるように思える夜十字にちょっぴりむくれてみたりもしますが、そう言ったところも気に入っているようで、本気で怒っているというわけではない様子。
「もうちょっと信人ちゃんも積極的になってくれればいいのに‥‥」
 尤も当の夜十字も内心ではぐっと我慢をしているようではあるのですが。
「近頃の噂では‥‥最近は、あまり‥‥」
「でも、念には念を入れた方が良いと思うよ‥‥」
 そろそろ休憩を切り上げて出発の支度を始めれば、出立前に林檎が木賊から聞いた街道の様子を思い起こして話すと、鐶も頷きながら答え。
 実際の所、ここのところずっと夏になると退治される人達が出るのもあって少し大人しくはなっているようですが、治安の意味で言えば、用心に越したことはない御時世です。
 頃合いを見計らい、明衣がすと辺りを窺うために少し席を立てば、アキが辺りの気配を伺い。
 アキがその者達に気が付くのと、明衣が気が付くのはほぼ同時、直ぐに様子を窺っていた少人数の男達が蜘蛛の子を散らすように逃げていったのは、冒険者を護衛にしている人間と言うより、ほぼ冒険者なこの一行を狙うなんて命知らずなことだからです。
「襲撃を受けず良かったといえば良かったのだが‥‥常に懲りぬ輩もいるのだな」
 微苦笑気味に呟く明衣ですが、まぁ本能的に危険を感じた彼らが家業を続けるかどうかといえば微妙なとこでしょう。
 程なくして再び出発した一行は、いつもより少し早くに日が落ちていく中を今暫く進み、やがて村へと辿り着くのでした。

●艶やかな紅葉の中を
 村について一晩休めば、早速一行は思い思いに村での時間を楽しむようで。
「たしか‥‥ドングリ‥‥この辺り、だっけ‥‥?」
 早速首を傾げて小さく呟くアキは、紅葉を求めての林檎と案内をしてくれるお爺さんと一緒に早速村の川の側から入っていく林の中へ。
 木の実で作る玩具に興味がある様子のアキに、山の散策が好きなお爺さんが一緒に来るかと尋ね、林檎も紅葉の葉の意味を思えば折角ならば良い物を選ぼうと思ってか一緒に着いてくることに。
「‥‥綺麗、ですね‥‥」
 林檎が呟けばそこは一面橙の色彩。
 綺麗な葉を拾い上げてほんのりと微笑む林檎に、アキは早速依頼人と共に木の実の落ちている場所などを探してふかふかに敷き詰められている葉の上を歩いて木の幹に歩み寄り。
「‥‥あれ‥‥? これって‥‥」
 ふとドングリを拾っていたアキが気がつくのは、木の根元へと生えている茸。
「北国の高級品とは違いますが、なかなか捨てたものではないもので‥‥」
 向こうには栗の木があるとか銀杏でも拾おうかという話をし、枝や木の実を集め、ついでに見つけた茸も頂いて戻ると、食材になるものは料理担当の方々に任せて、早速小刀や錐などを用意して依頼人と共に縁側で女の子達とお話ししている老婦人の元へ。
 縁側で和やかな人時が過ぎる中、麗華と夜十字は土間で料理をしている真っ最中。
「早めの鴨か‥‥これは鍋だな」
「では、この茸の半分はお鍋にですね。あとは炊き込みご飯と煮物に分けて‥‥」
 手分けして下拵えを始めていくと、ひょっこり顔を出した桜が夜十字の料理をする様子をにこにこ眺めていたり、近隣の家から柚子や栗の差し入れがあったりとのんびりした時間が流れていて。
 そんな中、村長さん宅に出向いてお仕事中なのは明衣。
 この時期体調を崩すお年寄りも多ければ、やはりすべての村に医者がいるわけでもなく、ここでは薬草に詳しい者と応急的な措置ができる漁師たちぐらいしかいないため、治療のできる明衣は折角だからと申し出てくれ。
「本当に、お客人を働かせるなど申訳もありませんのぅ」
「ここでゆっくりさせてもらうんだから礼はいらんよ」
 微笑を浮かべて言う明衣はちょうど夏に生まれたばかりの赤ん坊の具合を見ていて。
 幼い子供などは免疫が弱いためか大切に育てても尚、無事に育つとは限らないもの、厭な咳をしていると心配している母親に症状の説明と気を付けた方が良いことの助言をしてやり。
「それさえ気をつけてやれば、この子は大丈夫、きっと丈夫な子に育つよ」
「本当にありがとうございます!」
 良かったと子供を抱き締め何度も礼をいう母親に、明衣は微笑を浮かべ頷いてみせるのでした。
「はい、できましたよ」
 微笑み言う老婦人はちょうどルナの浴衣の帯を締め終えたところ。
 今の時期だと太陽よりも狐のものに趣があるのではという話となり、楽しげにルナの着付けを手伝う老婦人。
 孫娘のように思えるルナに対していろいろとしてあげたい気持ちのようで、そこに鐶も加わると、鐶の点てたお茶を頂きながら秋の山を眺めてのんびりと穏やかな時間が続いていて。
「あらあら、三人ともお帰りなさい」
 老婦人の言葉に二人も目を向ければ、アキと林檎が依頼人と一緒に戻ってきたところで。
 次第に空が茜色に染まる頃合までのんびりとお話をしたり、皆で木の実を使って玩具を作って見たりしていれば、やがて漂ってくるお米の炊ける匂いなどが食欲をそそり。
「夏に比べれば冷え込んだといえるだろうが‥‥」
 言いながら窓を開け放す明衣、食事と洒落込むは、夏に比べれば随分と心地良い気候になったからでもあり、またあまりにも紅葉が見事だからでもあり。
 運び込まれるお膳には、林檎の集めてきた鮮やかな紅葉の葉が彩りを添え、茸をふんだんに使った炊き込みご飯にお吸い物、山芋を薄く切ってあげた物に塩をひとつまみ、それに銀杏を入れた茶碗蒸し。
 囲炉裏には焼いた魚や冬眠前の丸々太った泥鰌を使った鍋など、お櫃に分けられているのはほこほこの栗ご飯で、これはどこで採れたものだ、あれはお隣さんから、などといった会話にも花が咲き、囲炉裏を囲んでののどかな夕食は過ぎていくのでした。

●ゆったりと短くも長い時を共に
 食事が終わればお茶を用意する鐶に、団栗で作った玩具の仕上げにかかりながら依頼人とのんびり過ごすアキ、愛犬の火夏が膝にぽふっと顔を乗っけて寛ぎ中なのを撫でながら、おずおずと老婦人へ尋ねかけるのは林檎。
「共に同じ、穏やかな時を過ごすことに‥‥その、秘訣のようなものは、あるのでしょうか‥‥?」
 二少し離れたところで切り出してみた言葉ですが、お風呂を沸かしに夜十字が行ってしまったため、鐶の入れたお茶を飲みながらの桜も興味を引いたように聞いていたり。
 林檎の言葉に小さく首を傾げる老婦人は微笑みながら口を開いて。
「そうねぇ‥‥特別なことは何もしていないけれど‥‥」
 少し考える様子を見せると老婦人は続けます。
「お互いにほんの小さな、それこそ朝起きて一声、帰ってきて一声をかけて貰えることの嬉しいこと。庭に咲いた小さなお花のことを話したときの、ほんの少しだけれどあの人の目が和んだことに気がついたとき‥‥。忙しくてつい余裕のなくなってしまうことがあっても、そんな小さなことの一つ一つが幸せに感じられる、そんな些細なことが大切なのではないかしらねぇ?」
 自分たちはそうでしたよ、そうにこにこという老婦人の言葉がかすかに聞こえてか、アキの手元に目を向けていた依頼人はどこか気恥しそうに外を眺めていたりしていて。
 そんな姿を見ながら、林檎はどこかそんな老夫婦が微笑ましくも見え、ほんのりと微笑を浮かべながら、恋人から貰った指輪にそうっと触れるのでした。
 依頼人宅にあるお風呂は少し大き目で二人ほどならゆうに入れる風呂桶があり、入れ替わり立ち替わりにお湯を頂いた後、温度を調整している夜十字以外で最後になる桜がのんびりとお湯に浸かりながら声をかけて。
「信人ちゃ〜ん、一緒に入る?」
「おいおい‥‥全く‥‥」
 ほんのりと顔が赤く見えるのは火の照り返しかそれとも‥‥。
「後で一緒に少し出かけない? 流れ星を探しに行きたいな♪」
「流れ星に祈るのか? ‥‥成程、偶には良いか」
 笑って返す夜十字は、小さくお前と居ると退屈せんな、と呟くのでした。
「‥‥ふむ、良い酒だ」
 連れだって出かける桜と夜十字を視界の端に見ながら小さく笑んで、明衣は月を肴に酒の杯を傾けます。
 老婦人はルナの髪を梳いて結い上げて上げれば林檎が結い紐を選び、アキに依頼人が玩具の手解きをし、其の様子を鐶が興味深げに眺めていたり。
 まだある季節の食材に麗華が次の料理を考えて。
 秋の夜長は、こうして今暫くの間ゆっくりと流れていくのでした。