温泉で暫しの休息を

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月22日〜11月27日

リプレイ公開日:2009年12月09日

●オープニング

 世の移ろいを一番感じる季節は秋ではないかなぁ、等とぼんやり受付の青年が考えていた、とある秋の昼下がり。
 そこに現れたのは巴 渓(ea0167)、ぼんやりしていたためか声を掛けられたのにもちょっぴり反応が遅れて。
「おい、聞いてんのか?」
「はひゃ? あ、あわわ、済みません、御用ですか?」
「そりゃ、用があるから来たんだろうが」
 何とも間抜けな声を上げた受付の青年は慌てて取り繕うと、渓は受付の青年に勧められる席へどっかりと腰を下ろして口を開きます。
「お前、ちょうど良いや、依頼出すついでに、良い温泉宿知らねぇか?」
「‥‥‥は?」
 再び思わず間抜けな声を上げる受付の青年に、渓は続けました。
 最初の冒険地であった江戸を離れて2年余り、異世界はおろか、地獄まで戦い続ける日々を続けていた、と渓が言えば、はぁ、色々ありましたしねぇ、最近と相槌を打って。
 そんな日々の中、ふと渓は思ったそう、『そういや、休んでねぇなぁ』と。
「まぁ、お忙しければそうでしょうねぇ」
「月道解放後はジ・アースとアトランティスを往復して情報収集に駆けずり回ってたろ? んでもって各地に飛んでは色々と活躍を‥‥って、そんなこたどうでも良いな。まぁばたついてはいたものの、江戸の大火や政治の騒乱も今は若干落ち着いて来たよな?」
「まぁ、色々あっても、何とかそれなりの日常が続いていますからねぇ」
 そこで渓は、今ならば大丈夫だろうと思ったそう。
「つーこって、この古巣のジャパンで温泉旅行でもと思った訳よ、熱海辺りにでも繰り出して、互いの積もる話もあるしな、酒を酌み交わして! 温泉にでも浸かって!」
 地獄の戦いで一緒に戦ったチームメイトの労いも兼ねて、そいつらも呼んで繰り出そうと思い立ち、こうしてギルドを尋ねてきたという渓。
「‥‥ところで」
「何だ?」
「いえ、誰呼ぶのか分かってたら、直接ご招待しないんですか?」
「ばっか、お前、ギルドに貼り出す方が手っ取り早ぇじゃねぇか」
「‥‥」
 手紙を出すよりギルドに貼りだして貰った方が早いのか‥‥と小さく呟いたりしながらも、受付の青年は依頼書を取り出して、温泉旅行のお誘い、筆を走らせてつらつらと書き記していくのでした。

●今回の参加者

 ea0167 巴 渓(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0489 伊達 正和(35歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea1842 アマツ・オオトリ(31歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea1850 クリシュナ・パラハ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea1856 美芳野 ひなた(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2606 クライフ・デニーロ(30歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea3866 七刻 双武(65歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5989 シャクティ・シッダールタ(29歳・♀・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)

●リプレイ本文

●懐かしのジャパン
「ジャパンよ、ひなたは帰ってきました〜〜!!」
 肝試しの甘じょっぱい思い出を抱えて、何やら声を上げるのは美芳野ひなた(ea1856)、肝試しで驚き恐がりのお漏らしというのはやはり当人にとって黒歴史で有りつつもある意味思い出。
「早速船旅を楽しんで居るようじゃねぇか、ひなた」
 熱海への船に揺られながら、快晴の下で海風を感じながら、向こうへ着いたらあれをしようこれが必要、等と楽しげなひなたに巴渓(ea0167)が笑いながら声を掛けて。
「そうそう、今回の旅行、ちょいとひなたにも手伝って貰おうか」
「ひなたは何をすれば良いのですか?」
「いやいや、料理なんだがな、欧州人のクライフはジャパン文化に馴染みがねぇし、シャクティは肉や魚が宗教上喰えん」
「なるほど、ひなたがお二人の御飯を作れば良いんですね? 頑張っちゃいますよー!」
 何やら張り切っている様子のひなた、渓を挟んで向こう側にはアマツ・オオトリ(ea1842)が船の縁に肘をついて流れていく景色を眺めていて。
「‥‥ケイ、すまんな。貴様に要らぬ気を遣わせてしまったようだな。良い、今の私は過去の私の選択の末よ。喩え失ったものがあれど、その手を離してしまったのは、他ならぬ私自身さ」
 何があったかは分かりませんが、とにもかくにも船は進みます。
「やーまさか、地獄の戦いで肌荒れするから温泉行きたいってわたくし言いましたよ。しかしまーさーか、メイのリンデン領じゃなくてジャパンすか。しかも熱海」
 まぁ熱海の温泉は人気の場所でもありましたし、予想していた場所でないことは仕方ないにしても、何やら頭の中をぐるぐると回っているらしいクリシュナ・パラハ(ea1850)、旅館の名前を周りに聞けば頭に降ってわいた名称ではなかったようで。
「とにもかくにも、ケイの無駄で過剰な行動力には感謝しませんとね。計画はケイにお任せ財布もお任せ♪ あ〜タダ旅行って素晴らしい」
 予想外の天界とは言え、懐に優しい旅行は大歓迎なのか、クリシュナは鼻歌混じりに海を眺めているのでした。
「久しぶりのジャパンだぜ、懐かしいなシャクティ♪」
「ええ、未だ騒乱の絶えぬジャパンですが、なんと懐かしい事でしょうか」
 船尾の方では離れていく景色を眺めながら、伊達正和(ea0489)とシャクティ・シッダールタ(ea5989)が仲睦まじく寄り添いながら語り合っています。
「異世界も騒乱が絶えませんでした故、きちんとした新婚旅行も出来ませんでしたものね」
「新婚旅行はやはり熱海が定番だしな。ゆっくりさせて貰うか」
 どうやら此方は異世界で婚礼を上げた後のようで、熱海への温泉旅行はよい機会といった様子の二人は、これからの旅行に心躍らせるようです。
「アマツ殿‥‥」
 そして、七刻双武(ea3866)は船に揺られながら海を眺めているアマツを見つめていて。
 船便は、様々な人間模様を乗せて熱海へと進んでいくのでした。

●温泉で暫しの休息を
「はー、なんか年期入ってて高そうなお宿ですねー」
 クリシュナが言うその宿は広々とした玄関に隆々と飴色に染まった梁がどんと天井に目に付く、伝統あるお宿の一つ。
 この不安定な情勢の中でも変わらずに宿を続けられるだけのものはあるようですが、御店全体としては少しこぢんまりとした印象、貸し切りでなければ丁度船の着いた今頃は混んでいたことでしょうが、一行以外客の姿は見えず。
「おう、もてなすはずの客が厨房に入るのには、旅館の板さんも困っちまうこったろうが、頼むぜ」
 言ってひなたと渓は宿の厨房へ、多少の困惑はあったものの貸し切りのお客さんと言うこともあり、事情を聞けば女将さんもそれは聞き入れて。
「早速、お湯を楽しませて貰いますよ〜‥‥とは言え、欧州人には馴染みが薄いんですがね。湯船に浸かる習慣ありませんし」
 ふと思うもクリシュナは、アトランティスじゃ天界人の皆さんから教えてもらいましたし、ジャパンに居た時期もありますしねぇと呟くと、宿の用意していた浴衣を受け取り露天風呂へ。
 お世話になっていた朴念仁さんへとご奉仕として背中を流した後に、年を取って先に言ってしまうまで一緒にいて良いかと問いかけたようですが、その答えを知るのは相手とクリシュナのみ。
 ともあれ紅葉の中、穏やかに時間は過ぎていったようです。
「やはりあれだな、紅葉の中でこうしてお前と二人、温泉に浸かるって言うのは良いもんだぜ、なぁ、シャクティ?」
「ええ、内密とはいえ式も挙げられ、こうして渓様のご厚意に甘える形ではありますが、新婚旅行にも来られました」
 露天風呂の中、紅葉を見上げながら、お湯の中に持ち込んだ衝立越しに共に空を見上げる伊達とシャクティ。
 ふと、シャクティの言葉とは違い少し寂しげな様子に、ちらりと衝立の方へと目を向ける伊達、シャクティはと言えば、少し悩む様子を見せていましたが、意を決したのか口を開いて。
「正和さん‥‥わたくしは‥‥ハーフエルフが穢れた忌み子と罵られるとて、そも身篭る可能性のないわたくしには‥‥」
 ずっと考えて居たことなのか、静かな時間の中、シャクティの言葉を静かに木々を眺めながら聞いている伊達。
「例え世に憚られる子だろうと、愛しい正和さんの血を頂いた子を、わたくしの腹を痛めて生みたかった‥‥正和さん、貴方の愛はわたくしの世界を素晴らしいものに変えて下さいました」
 言ってから、少し不安げに息を吸い、暫くその言葉を出すのに躊躇う様子を見せるシャクティは、やがて意を決して。
「愚かしい女の浅知恵とお笑い下さい。それでも、わたくしには不安なのです。今一度、貴方に問います。わたくしと歩む事に後悔は…ございませんか?」
 シャクティの真剣な言葉、それに伊達は思わず小さく笑みを漏らして。
「世界を素晴らしくした、ってのは俺だけじゃねえ。シャクティ、お前も俺の世界を素晴らしくしてくれた」
 俯いていたシャクティは、衝立越しに見える伊達の影へと目を向けて。
「ああ、これからもずっとお前と共に歩んで行こう。お前を一生‥‥いや、生きてる間だけじゃねえ。死んでも、生まれ変わってもお前を離さねえ誰にも渡さねえ」
 お互いに衝立越しではある者の、互いに見つめ合っているのを理解し、にと笑う伊達。
「愛してるぜシャクティ、俺の永遠の恋女房よ」
 シャクティが僅かに目元を抑えると、直ぐに楚の言葉を噛みしめるように笑みを浮かべて、色付き始める空と、赤く色付いた木々の空を見上げるのでした
「ひなたは厨房から出て来ねぇか、まぁた夢中になってやがんなぁ」
 紅葉の中の露天風呂、宴会より一足先に盥に熱燗の徳利を浮かべて渓とアマツは露天風呂を堪能していました。
 七刻は何やら宿の周りを少し歩いてくるそうで、のんびりと酒を呷りつつ女同士の会話が弾み‥‥。
「アマツにも、地獄の戦いじゃチームの参謀役をやって貰ったからな‥‥。お前には、本当に‥‥長い間迷惑を掛けた。本当に、すまん。」
「別に迷惑などと思って居らぬ」
 ‥‥女同士の会話とは少々違いますが、互いに色々と話すことは有るようです。
「なぁ、ケイよ」
「なんだ?」
「一度、依頼ではなく、そなたと闘ってみたいものだ」
「ほぉ、確かに、それはちょいと楽しそうだな」
「ああ、武人として、戦いの為の戦いだよ。闘技場のようなお遊びではなく、心行くまで死会うてみたい」
 血肉沸き踊る戦いを求めているよう、それなりに長い付き合いなのでしょう、武人と格闘家のある意味突き詰めた会話となればそうなるものなのでしょうが。
「ま、でもよ、戦いの為の戦いじゃ、つまんねぇだろ?」
「むぅ‥‥」
 どちらにしろ、温泉での深酒はちょっと気を付けた方が止さそう。
「そろそろ宴会だし、出るか?」
 十分に温泉を楽しんだのでしょうか、寧ろ宴の前に少し酔いを覚まさないと言い酒が飲めないと思ったのかも知れません。
 二人はもう一度だけ、湯に浸かりながら空と木々を見上げるのでした。
「‥‥果たして‥‥」
 宴までの僅かな間、七刻は温泉に浸かりながら手の中の指輪と、そして空に鮮やかに生える木々とを見て、緩やかに息を付きまず。
 目的の場所は見つかったよう、宴で積もる話も出来ようか、そんなことを考えながら居れば、既に宴の刻限。
「受け容れてくれればよいのじゃが」
 言って、七刻は今一度指輪へと目を落とすのでした。

●宴で積もる話を
「たーっぷり食べて下さいね♪」
 宴が始まれば、くるくると立ち働くひなたは、どうにも持て成されるより持て成す方が楽しいようで。
 厨房でも、料理人達からすれば可愛いお嬢さんが立ち働いているのを見るのはそれなりに楽しいようですし、精進料理に通じ作る人も居るわけで、ちょこちょこ教えを受けることもあって。
「久方ぶりのジャパンの新鮮食材ですし、アトランティスには味噌もお醤油も日本酒もありませんし、お米も満足に流通してませんでしたし〜〜!!」
 何やら思わず渓にその喜びを熱く語ってみたりするひなたが居たりしますが、シャクティへと見事な精進料理の数々を運んでいけば、こりゃ美味そうだな、と伊達もその料理の数々に興味津々でしたり。
「おっしゃ! アマツ、歌うぜ!!」
「ああ、一つ天界風の歌を披露するか‥‥」
 熱い歌詞の曲を歌い上げる二人ではありますが、何というかお宿の人達には不思議な言葉の数々に目を瞬かせながら、酒のお代わりを運んできたりしています。
「まま、一つ祝いじゃ、飲んで下され」
 言ってワインなどを振る舞う七刻は、アマツの歌う姿を見ていて。
「アマツ殿、少し風に当たって来ぬか? 積もる話もある‥‥」
 言って共に紅葉のよく見える宿の裏手の山を少し上がって、近況を聞いたり、指輪を贈り、再び共に指輪を着けたい、と告げる七刻。
 アマツの指にその指輪が輝くか否かは、二人のみが知ることです。
「おう、ひなた、お前温泉、結局まだ入ってきてねぇのか?」
「はうぅぅ、お料理が楽しくて、すっかりと忘れてたですよ〜」
「しゃぁねぇな、ほれ、お前も食い終わって満足したら、風呂行くぞ風呂。夜の風呂はまた格別らしい。‥‥また、酒もな」
 にやりと笑う渓、クリシュナが存分に宴を楽しんで部屋に休みに戻っているようですし、先程から縁側で幸せそうに寄り添って紅葉と月を眺めているシャクティと伊達が残されているだけで、アマツと七刻も先程出て行ったばかり。
「ま、たまには俺等も空気読もうぜ」
「渓お姉ちゃんはお酒がもっと飲みたいだけじゃ‥‥あわあわ」
 うっかりと何かを言い掛けたひなたを引き摺って露天風呂へと向かう渓。
 何はともあれ、各人思い思いの温泉宿での夜は更けていき。
 今暫くの間はのんびりと、温泉宿での穏やかな休息は過ぎていくのでした。