比良屋の温泉旅行

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月04日〜12月09日

リプレイ公開日:2010年01月28日

●オープニング

「温泉旅行に行きませんか?」
 久し振りに呼ばれた比良屋、情勢の不安定な中薬種問屋という職種からか相も変わらず忙しい様子の御店へと呼ばれた受付の少年・正助が言われた言葉にぽかんと口を開けたのは、小春日和の有る昼下がりのことでした。
「暗い情勢、しかも色々とあり皆様に於かれましても、御苦労なさったことでしょう。私どももこの情勢に心苦しくもありますが、少々疲れが‥‥」
 そのため、先だって番頭さんと幾人かの御店の人へと御休みをあげて、彼らは先に慰安旅行を済ませてきたらしく。
「番頭さんやら皆さんもだいぶ疲れを落としてこられたようで、今度は私どもが、娘と荘吉、清之輔様をお呼びして、白華亭という御宿に湯治という名目で温泉と洒落込もうとなりまして」
 聞けば、ちょうど彦坂昭衛も別口で同じ白華亭に関係者を誘って来るらしいことを聞いたと言うことで、愛娘のお雪が兄と一緒に旅行に行けるととても喜んでいるそうで。
「って事は‥‥誠助兄さんが行っているのはその用件ですかね? でもそうなると、そこって冒険者の貸し切り状態、ですか?」
 依頼書を開いて筆を走らせながら言う正助少年に、そう言う事になりますかねぇ、と比良屋の主人も頷くのでした。

●今回の参加者

 ea0988 群雲 龍之介(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea5927 沖鷹 又三郎(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8703 霧島 小夜(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec0097 瀬崎 鐶(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec7161 マリー・ル・レーヴ(24歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●楽しい道行きで
「おう、まはらに高由、それに八紘にチビ達も」
「久し振りなのじゃ♪」
 笑って声を上げる嵐山虎彦(ea3269)ににかっと笑って声を上げるまはら達、それに気が付いて比良屋の主人やお雪も顔を上げて嬉しそうに笑って頭を下げます。
「これは、お雪殿も随分と大きくなったでござるな」
「はい、もう七つになりました」
 沖鷹又三郎(ea5927)が笑いかけて言えばお雪ははにかんで答え、比良屋の中から荷を持って出て来るのは荘吉。
「他の方は集合場所で良いのでしたよね?」
「おう、荘吉もでかくなったなぁ、何でも手代になったんだってな」
 嵐山に言われて少し鼻の頭を掻くようにして少し前にですがと答える荘吉の前髪は綺麗さっぱりと落されていて、旅装束も少々大人びたものになっています。
「それにしましても、こんなに大人数で本当に宜しいのでしょうか?」
「構いませんよ、他にも沢山いらっしゃいますし、賑やかで楽しい旅となりそうですね」
 八紘が首を傾げて言えば微笑み答える比良屋、一行が歩き出し待ち合わせの場所へとやってくれば、既に他の組の人々やまはら達のお師匠でもある彦坂兵庫の姿もあります。
「やや、漸く来たの、久しいのじゃ♪」
「ちょっと色々と買い込んでいたのでな。それにしても皆元気そうだな」
 見れば愛馬達に荷を沢山積んだ群雲龍之介(ea0988)が気付き笑いながら言うと、改方の知人達と言葉を交わしていた霧島小夜(ea8703)も目を向けふと笑みを浮かべ。
「あ、おちゃのおねーちゃん♪」
「や‥‥久し振り、だね‥‥」
 平太と吉太郎が瀬崎鐶(ec0097)にぴょこぴょこと駆け寄って言えば、同情に遊びに行ってお茶を振る舞ったことを思い出して頷く鐶は、比良屋もいつぞやはと挨拶すれば、そういえば秋刀魚の時かと呟いて。
「本当に久し振りだな。白華亭も大分前に雪見の宴に行ったきりだよなあ」
「雪見ですか? 温泉といいジャパンには色々なものがあるのですね」
 リフィーティア・レリス(ea4927)が懐かしいなと呟くように言えば、マリー・ル・レーヴ(ec7161)は初めてのジャパン滞在の為か色々な事柄に興味が尽きないようで小さく首を傾げます。
「遅くなって申し訳ありません、お招き頂き有難う御座います」
 そして沖鷹に声を掛けた綾藤の女将・お藤と綾藤の料理人が合流すれば、一行は再会を喜んだり新たな出会いを楽しんだりしながら白華亭へ向け出発するのでした。

●穏やかな道行き
「では、ジャパンでは四季を大事にするのですね」
「まぁ、そう言う事になるでしょうね。今一つ、他の国を知らないのですが、他は違うんですか?」
 長閑な道行きを歩きながらマリーの言葉に考えるようにしていたギルドの受付代理をしていた正助は尋ねかけます。
「この国ほど 四季の変化が鮮やかな国は少ないのではないでしょうか? 少なくともロシアでは‥‥」
 微笑を浮かべて言うマリーにそうなんですか、と興味深げに頷く正助。
「懐かしい顔を見に来たが‥‥そうだな、やはり雪の前に見に来て良かった」
 笑いながら言う小夜は辺りの鮮やかに色付いた木々へと目を向け、嵐山はちゃっかり肩車して貰いきゃっきゃと嬉しそうなまはらにがっちりと頭を掴まれながらも楽しそうに笑って。
「ま、雪は雪の良さもあるが、春の桜に夏の朝顔、秋の紅葉も外せやしねぇよな」
「石川島の方もちらりと見て来たが、相変わらず活気があり今も順調に動いていたようだ。暫く様子を見ていない者には良い土産話となるかな?」
「おう、改方の方でかかりきりだったからな、昭衛の旦那の多忙振りがどっちに転んでんのかちぃと判断しにくかったからよ」
 小夜の言葉に嵐山が言えばリーゼはくすりと笑って口を開き。
「問題が起きれば、幾ら昭衛さんでも手を貸してくれと言って来ると思うけどね」
「幾ら‥‥何だと?」
 聞こえてきた声に見れば昭衛が緩く溜息を吐いて目を向けていて、信用している証拠よ、とリーゼは笑いかけます。
「まだまだ忙しい日が続くんだろうが、もし人手が要るならいつでも呼んでくれ。誰かに仕える気はないが‥‥誰かを助けるのはやぶさかではないからな」
 昭衛に限らずと笑みを浮かべたまま言う小夜に、昭衛もその時には声を掛けようと頷いて見せるのでした。
「‥‥あれから、みんな良い子に、してた‥‥?」
「してたー」
「してたのー♪」
「一応、わたくしは罠の危険度を下げました。‥‥‥数は増えましたが」
「八紘お前は取り敢えず黙っとけ」
 群雲の用意したお握りにお茶で休憩中、鐶達は大人達からほんの少し離れたところであれやこれや盛り上がって話していました。
 吉太郎と平太は鐶が聞くときゃっきゃとはしゃぎながら元気良く答え、にこやかに答える八紘に高由は僅かに遠い目をしながらぼそりと呟きます。
「何かあった‥‥?」
「チビ達に何かあったら困ると朝調べる度に、こぶの数が増えるんだ」
 八紘は兵庫と共に主に道場の留守番をしている為、仕掛ける暇はたっぷりとあるようで、流石に危ないだろうと思われる物は兵庫が撤去するらしいのですが、全てとは言い切れず。
「‥‥お疲れ」
「同情痛み入る‥‥」
 ぽん、と高由の肩を軽く鐶が叩けば、平太も真似をするかのようにぽんと高由の腕を叩くのでした。
「いつも踊りを楽しみにしていましたの」
「ん‥‥宴会とかだと、やらない方が却って落ち着かないからしているだけで‥‥」
 お藤が言えばリフィーティアはそう応えるも、嬉しそうにお藤が言うのにはそんなに悪い気はしないようで。
「やはり、場が華やぎますし、異国の踊りは神秘的で素敵ですわ」
「あー‥‥」
 にこりと笑って面と向かって言われるのにはちょっと返す言葉に困ってリフィーティアは視線を景色へと彷徨わせるのでした。
「いや、ついついあれもこれもと買い込みすぎてしまった」
「良い食材があったようでござるな」
 宿に着き部屋に自分たちの荷物を置いてくれば、いそいそとやってくる男性二人。
「この牡蠣は絶品だぞ、折角なら味を見て決めてくれと‥‥」
「確かに、素材の味を生かすよう‥‥腕が鳴るでござるな」
 そこに綾藤と白華亭の料理人も加わり盛り上がっていれば、ひょっこりと顔を覗かせるのは別口で参加している鈴で。
「んーとねー、僕もお料理の手伝いしてもいいですか?」
「ああ、構わないぞ。やることは沢山だからな、手が多いのは有難い」
 群雲が笑いながら言えば、早速にこにこ笑いながら加わる鈴、早速綾藤の料理人と沖鷹が粗塩を使ってぬめりを取り始める大きなものに目を瞬かせ。
「あれ? それって‥‥」
「鮟鱇でござるよ、折角なので鮟鱇鍋でもと‥‥」
 沖鷹は背鰭以外は食べられるのでござるよ、と説明しながら吊して水を中に注いで、捌いていくと流れを説明たり、天麩羅のこつ等を群雲に鈴が聞いたりしていて活気のある様子。
「やはり鰤は刺身や照り焼き、それに鰤大根も良いが‥‥これならさっと湯がいてもいけそうだな」
 炊き込み御飯の仕込みを終え魚へと向き直ると群雲は笑みを浮かべて包丁を改めて握り直すのでした。

●和やかな宴
「旦那もこれからいろいろと大変なこともありやしょう。だが、心配はいらねぇ。俺ぁもちろんのこと、旦那のためなら命だっておしかぁねぇって奴らがたんといる」
 平蔵へと一献とお銚子を手にやって来たのは嵐山、一杯平蔵が呑めば逆には意を取るように勧められて。
「ま、こうやって集まったのを見れば、それがわかるってぇなもんだわな」
 呵々と笑う嵐山、ぐるりと見ればリーゼが笛を手に演奏を始めると、リフィーティアが笛に合わせてゆったりと歌い始め、すと流れるように立ち上がればエジプトとそしてジャパンとを融合させた歌に踊り。
 改めてまるで呼吸をするのと同じように自身にとって当たり前であり大切なことと感じたか、踊りが終われば思わず微かに口元に笑みが浮かんで。
「ま、ハメを外し過ぎなきゃ、とにかく楽しければいい、よな」
 ちょっと休憩、とばかりに窓際に座って緩く笑んで呟くと、リフィーティアは勧められる食事へと向き直るのでした。
「ありがとう‥‥」
 沖鷹にお土産の簪を貰えば、にこぉっと嬉しそうに微笑むお雪は、荘吉にせがんでその愛らしい簪を付けて貰っていて、その様子を微笑ましげに眺める沖鷹。
 清之輔には筆入れを贈り、嬉しそうに礼を言って養父に見せに行ったのを見送っており。
「それにしても本当に背が随分高くなったでござるな。お雪殿や正助殿も思ったでごさるが‥‥清之輔殿も、それに荘吉殿にはそれこそ、そのうち追いつかれてしまいそうでござる」
「ここ暫くにぐんと伸びたんですよ。もう丁稚として出すには少々立派すぎますからねぇ、良い頃合いですし仕事も良くします、今はまず手代にとなりましたが‥‥」
 沖鷹の言葉に目を細める比良屋、おろしと山菜の和え物をいただきながら和やかに言葉を交わしていて。
「今はと言うと?」
「ええ、ほら、今はまだ早いですが、あと5年もすればお雪も十二歳、荘吉も二十歳です。荘吉をお雪の婿にとなれば安心して御店を任せてられますからねぇ」
 群雲が取り分けた鮟鱇鍋を味わいつつ比良屋へと聞けば、うきうきした様子で答えるのに沖鷹は微苦笑を浮かべて。
「‥‥確かに仲はとても良いようでござるが、少々其の辺りを考えるのは早すぎでござるよ」
「ま、当人達次第ですけどねぇ」
 早すぎるという言葉に頷くと、小松菜のお味噌汁を幸せそうに口にする比良屋。
「これは何かや?」
 そこへまはらがひょこっと顔を覗かせれば、群雲の持ち込んだお酒が気になるのか興味深げに見れば、流石に慌てたように止める群雲。
「流石にまはらには早すぎるだろう」
「むむ、気になるのじゃ、青龍も気になるであろう?」
「ふにゃ〜」
 まはらは真っ黒な愛猫・青龍にそう言ってけしかけるも、そーでもないよ? とばかりにしっぽをふにふにして答える青龍は、むしろ嵐山の連れてきたケットシーの猫千代と共に群雲の御膳に乗ったほこほこの焼き魚の方がよっぽど気になるようで。
「この辺りはあまり味が付いてないから良いか‥‥ほら。まはらも平太も吉太郎も、これは異国のお酒だからまだ早い。ほら、白子を分けてやるから御茶碗を」
 白いご飯をよそわれた御茶碗を促して受け取ると、大振りの鉢にたっぷり盛り付けられていた白子を、その醤油の煮汁と共にご飯の上からかけてやれば大喜びするちびっ子たち。
「とろとろでおいしいの」
「実際これだけでご飯がいくらでも食べられそうですし、お酒の肴に良いですしね」
 ちゃっかり年少の少年に混ざって八紘も分けて貰えばしみじみと頷きながら言うのでした。
「温泉卵、不思議な食べ物と伺いました」
「いやぁ‥‥普通のゆで卵を温泉でやるだけじゃあ‥‥どっちかっていうと、こういうのの方が珍しいんじゃ?」
 良いながらお櫃からほくほくした山菜の御飯をお茶碗に装って差し出す正助、マリーは受け取って食べると、さっぱりした感じでとても美味しいと微笑んで。
「知らない味、知らないものばかりでとても楽しいですね」
「‥‥それには、お茶が合うよ‥‥」
 すと鐶がお茶を差し出せば、礼を言って熱いからと言う言葉に少し冷ましてから一口飲んでにっこり。
「そういえば、女将さんというのは、ギルドマスターのようなものなのですか?」
「いや、異国で言うとなんて言えば良いんだろう‥‥」
「食堂や旅館を取り仕切る女性だから、言うなれば女主人、と言った方が合っているんじゃないのか? ‥‥ふむ、女主人」
 聞かれる言葉に何と説明すればいいのだろうと悩む正助に、助け船と言いますか小夜が英語で言うならランドレディやミストレスかな、正確かは分からないけどと言って。
 何やら小夜はちょっぴり女主人の響きが気に入ったのでしょうか、ふむと酒杯を止めて薄く笑みを浮かべていたりして。
「さて、と‥‥じゃ、一仕事するかねぃ」
 にやりと笑って言う嵐山は酒の杯を傍らに置くと、絵筆を取ると宴の様子を見渡して。
「宴会が終わってからも思い出せばかけるだろうがよ、やはり今見て感じたものも残しておきてぇからな」
 笑って言う嵐山は、興味深げに手元を見る清之輔の頭をがしがしと撫でると紙へと向き直り、つらつらと筆を走らせ、楽しげな宴の様を描き留めていくのでした。

●黄金色に沈む宿
「‥‥やはり温泉は良いね‥‥」
 本日何回目のお風呂かは置いておいて鐶が満足げに呟けば、小夜はのんびりと湯につかりながら、盥に御銚子と共に搭載された妖精の陽奈が興味深げにお湯を覗きこむのに盥をていと廻してみたりしつつ頷いて。
「あぁ、本当に温泉は良い‥‥」
 もっとも小夜と鐶の間での良いの意味合いは違うようではありますが。
「ロシアなどの蒸し風呂とはまた違うのですね?」
 不思議そうに楽しそうに微笑を浮かべて言うマリーにこっくりと頷く鐶。
「うん‥‥本当に良い湯だね。因みに、此処の温泉の成分はこちらです‥‥」
 すちゃと取りだされた簡易版の看板はどこから来たのか問わないのはお約束、ちょっと難しい漢字などを聞きながら読むマリーは、この楽しい体験を自身の旅行記の一頁に書記そうと強く感じたようで。
「‥‥次は梗ちゃんも誘う、かな‥‥」
 小さく呟く鐶、暫しの間三人はゆったりと湯と景色を楽しむのでした。
「ふー、良い湯だ」
「それに酒とくれば、堪えられねぇな」
 赤に紅に、黄金色。
 その中にまぁるくあいた空には、ぽっかりと浮かぶ月があり、ゆったりと湯に浸かりながら見上げてふぅと満足そうな息をつく群雲に、呵々と笑うと盥に浮かべた幾つものお銚子を手に取る嵐山。
「たまにはこういうのも良いな。こうしてゆったりと湯に浸かると、確かに疲れもとれる気がするな」
 リフィーティアが緩く息をついて手で掬った湯をぱしゃぱしゃと再び湯へと戻せば、沖鷹は手に取った鮮やかな黄金色の葉を手に取ると楽しげに微笑んで。
「後でこれで栞を作ったりすると、あの子たちは喜びそうでござるな」
「あぁ、明日は皆で散策に行く予定だが、その時に見つけたものでそういったものを作るのは良いな」
「では拙者も軽焼き饅頭を持っておともするでござるか。木の実なども集めて皆でお土産を作るでござるよ」
 当の子供たちは宴会ではしゃぎすぎたのか今はすっかり夢の中、一晩寝ればまた元気に駆けずり回るのだろうと思えば思わず笑みが浮かんで。
「しかし、もう年の瀬か‥‥悔いの無い一年にしたいものだ‥‥」
「なんかあっという間だったな」
 嵐山に勧められ一杯貰いながらしみじみと群雲が呟けばリフィーティアは軽く伸びをするようにしながら言って。
「ずっと皆とこのようにこれからも長くつきあっていきたいでござるな」
 ぽつり沖鷹が呟けば、にやりと笑うと嵐山は杯を掲げて。
「今までありがとうなー。ま、これからもよろしく、だな」
 その言葉を、其々は其々なりの思いで聞くのでした。