【凶賊盗賊改方】冬の温泉へ

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月04日〜12月09日

リプレイ公開日:2010年01月14日

●オープニング

 その日、小春日和の心地良い昼下がり、冒険者ギルド受付の青年は彦坂昭衛に呼ばれて凶賊盗賊改方の役宅へと伺っていました。
「ほむ、では、慰安を兼ねた温泉旅行と」
「あぁ、そう言う事となるな。比良屋の主人と機会もあってな。幾人か同心を護衛に連れては行くが、行き先で、ちと合流することとなりそうでな」
 そう言って薄く笑む昭衛、合流する相手に心当たりがあるのかなるほどーと頷く受付の青年は依頼書を取り出して筆を走らせ始め。
「今回は、えぇと、一枠ですか? 二枠ですか?」
「そうだな、一応念の為だ、二枠頼みたい。それと‥‥」
 昭衛の言葉に目を向けて、きょとんとした顔をする受付の青年。
「いや、えぇと、はい‥‥?」
「だから其方も来るようにと言って居る。大分経ったが、巻沿いを喰らわせたのだ、読んでやれと親父殿の言葉。あそこの湯は、古傷にもよぅく効くそうだ」
「えぇと‥‥はい?」
 自身の分からないうちにいつの間にやら行くことと決まってしまって目が点になる受付の青年に、手が止まって居るぞ、と促す昭衛。
「ま、今更ではあるがな‥‥こんな不安定な情勢、たまに息を抜かねばやっておれぬ。年忘れの宴もやりたいところではあるが、まずは皆溜まりに溜まった疲れを落とさねば」
 言う昭衛に私の予定の確認はないのか、と声を大にして言いたいものの言えない様子の受付の青年は、依頼書に筆を走らせ続けるのでした。

「それにしても、同行するのは同心の方だけですか?」
「まぁ、何かあったときのための護衛と言ったところだが‥‥他にも、密偵の幾人かを連れて行くかとも思っている」
「なるほど‥‥具体的な面子はこれから決まると言ったところですかね」
「ああ、誰と共に生きたいなどといった希望があれば、同行者として考慮しよう」
 誘いたい者がいれば呼ぶと良い、と昭衛が言うのに、受付の青年は筆を走らせながら私も彼女でも連れて行こうかな、等と呟いているのでした。

●今回の参加者

 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea4026 白井 鈴(32歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea8191 天風 誠志郎(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb0939 レヴィン・グリーン(32歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 eb1098 所所楽 石榴(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb1821 天馬 巧哉(32歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2872 李 連琥(32歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 eb3064 緋宇美 桜(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

陸堂 明士郎(eb0712)/ 所所楽 林檎(eb1555

●リプレイ本文

●再会
「あらまぁ、なんて可愛いんだろうねぇ、ねぇ、庄五郎さん」
 所所楽石榴(eb1098)とレヴィン・グリーン(eb0939)が庄五郎の飯屋に娘を抱いてやって来れば、庄五郎と共に迎え入れて赤ん坊を見て笑みを浮かべるのはおさえ。
 娘のように気にかけていた石榴の子供とあって、余計に可愛く感じられるのは当然のこと、我が事のように喜び何度もおめでとうと伝えるおさえ。
「報告に来るのが遅くなってごめんなさいっ。この子は無事丈夫に生まれてくれたんだけど、僕自身鈍っちゃって、育てながら調子を戻しながら‥‥ってやってたら、ずいぶんと時間かかっちゃったんだ」
「何言っているんだい、二人とも無事なのが大事なんだよぅ。本当に良かったねぇ‥‥あら嫌だ、何だかあたしも年かしらね、涙もろくっていけない」
 目元を軽く袖で拭うと、ゆっくりと温泉に浸かって元気に戻ってくるんだよ、とおさえは改めて告げるのでした。
「今大丈夫であろうか?」
 難波屋では忙しく立ち働いていた看板娘のおきたを李連琥(eb2872)が訪ねて来ていました。
「慰安の旅行で温泉ですか、素敵ですね」
 にこり笑いかけるおきたに連琥はなかなか御誘いが切り出せず、その後はあれやこれと他愛のない話を暫くの間続ける羽目になったものの。
「おきた殿も、その、宜しければと‥‥人を誘うは自由とのことで‥‥」
 連琥の言葉に目を瞬かせると、おきたはすぐに嬉しそうに笑って頷くのでした。
「さてと、あらかた準備は出来たかな」
 そう言ってリーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)は役宅内をぐるりと見回して。
 幾人かの同心達と先発組、後発組で調整をしていたところで、改めて伊勢同心の手元を見ながら聞けば、伊勢も頷きながら密偵達の方もそれぞれ確認を取って上手く分かれて参加することを告げて。
「どちらにしろ大所帯にはなるが、まぁそれは今更だ。何かの時の為に護衛を雇うのも、冒険者が連れ立って近隣へ出かけるのもな」
「ならこの辺りは大丈夫そうだね」
「役宅内の方は問題無さそうだな」
 伊勢とリーゼが改めて確認しているところに、天風誠志郎(ea8191)がやってくると、何やら誠志郎に追い縋るように、情けない困ったような笑顔を浮かべている木下忠次の姿があります。
「いやいや、天風さ〜ん、私も同行させて下さいよ〜。折角の御頭のお誘いです、御頭だってこの忠次が来るのを楽しみにされているのではと‥‥」
「お前はもう少し働いてからで良い」
「いやいや、私だって‥‥ん? これは?」
「我々が戻って来る迄に終わらせておくんだな。なに、御頭には俺から良く言っておいてやろう」
「そんなぁ〜」
 情けない声を上げる忠次にくすりと笑って、後発隊でゆっくりしてくればいいでしょう、と告げるリーゼ。
「そもそもその書類はお前が前もってきちんと処理していれば間に合うものだったはずだがな」
 こっそりと自分の処理する書類に混ぜられていた誠志郎は、流石に同情する気はないようで、そろそろ出発だぞ、とリーゼと伊勢に言うのでした。
「おとーさんとおかーさんは少しだけ出かけてくるよ、それまで、いい子にしててね?」
 娘に頬擦りをしてそう言って。
「二人とも、久々の旅だ、楽しんでくると良い」
 レヴィンと石榴の見送りに来ていた陸堂 明士郎がそう言って改めて二人に子供が生まれたことに対してのお祝いを言えば、留守の間瑞香を預かった所所楽 林檎も旅の無事をと告げていて。
「ではみーさん、いってきますね。‥‥林檎さん、すいませんがお願いします」
「みーのこと、面倒かけちゃうけどよろしくね?」
「道中気を付けて‥‥」
 二人の言葉に林檎は頷くと、林檎の腕の中では可愛らしいふわふわもこもこの両親お手製の着ぐるみを身に付けている瑞香はきゃっきゃと笑っていて。
「じゃあ、行ってきますっ」
 笑って出立する二人がやがて待ち合わせの地点へと辿りつけば、そこには既に大所帯になりつつある集団が居ました。
「平蔵さんに昭衛さんは久しぶり! 元気にしてたー? って聞くのも変だよね」
 にこにこしながら言う白井鈴(ea4026)に愛犬の獅子丸と龍丸も尻尾をふるふると振って寄り添っていて。
「わーい、お・ん・せ・ん・だー!! っと‥‥温泉って、動物も良いのかなぁ?」
「大丈夫だろう、」
 くいと首を傾げる鈴に微笑を浮かべて言う天馬巧哉(eb1821)、その側で緋宇美桜(eb3064)は延びをしてそろそろ出発ですかねーと言い。
「それにしても、何か神話的な手掛かりじみた事が無いかと思って信州戸隠までぶらっと行って、結局何も無かったんですけど〜」
「狙ったものがないって言うのは、まぁ残念だったな」
「で、結局どうした?」
 のんびりと歩き出せば、大人数な為かそれはもう賑やかなもので、桜が自身の近況を話せば、天馬は軽く首を傾げ、僅かに笑みを浮かべながら平蔵はそう尋ねます。
「いや〜、折角天下有数の修験場に来たんだからと頭の中を空っぽにして丁度こうして帰って来た所でしてっ」
 軽く頭を掻けば一行は暫しの会話を楽しみながら、白華亭へと向かうのでした。

●紅葉と宴支度と
「わー、ダイマル 、ハチベエ、凄いですよねー」
 心地良い紅葉の中を愛犬と共に歩く桜、鮮やかな色彩が入り交じって心地好さを憶えそう声を掛ければ、愛犬たちな尻尾を嬉しそうにぱたぱた振りながら桜のお供をしていて。
「あ、そっち行っちゃ駄目ですよ−」
 綺麗に調えられた庭に入りそうになった愛犬たちを止めれば、くぅと泣きながら戻ってくるのを桜は撫でてあげるのでした。
「涼雲先生の所は変らず怪我が多そうだな」
「ま、この御時世故を嘆くも詮無きこと。それが飯の種となる私が言うことでもないであろうが」
「まんず、すかたねすな」
 のんびりと紅葉の中をゆくのは天馬に、涼雲医師とその弟子の三人、近頃のことを話せば、どうしてもごたごたする情勢の事となり。
「ま、それ故の骨休み、ゆるりと楽しませてもらう事としようかえ」
「これは揃って‥‥考えることは皆同じと言うことか」
「天風さんに、長谷川様も‥‥やはり散策で?」
「あぁ、たまにゃぁこういったもんも良いとなってな」
 笑いながら言う平蔵に、そう言えば、と切り出す天馬。
「あの後、郭清と二ノ宮は‥‥」
「この状況故大々的な話題にゃならなかったが、取り調べの後、即刻お仕置きとなった」
「郭清は張り付け柱の上で情けなく泣き喚いたらしい」
「‥‥」
 暫しの間、事件と事件の被害者へと思いを爆ぜる一行、やがて緩やかに笑うとゆっくりと平蔵は歩き出して。
「ま、今は穏やかに休むこった、あそこみてぇにな」
 そう言って見る平蔵の視線の先には、少し先の道をのんびりと寄り添いながら歩く石榴とレヴィンの姿があるのでした。
「前には雪の時期に銀杏さんとご一緒させて頂きましたが‥‥」
 穏やかな表情で辺りをぐるりと見渡してから、石榴に微笑みかけるレヴィン、石榴も嬉しそうに笑いかけると軽く延びをして。
「みーも、もう少し大きくなって旅に連れ出せるぐらいになったら‥‥」
「そうですね、みーさんがもう少し大きくなられたら、家族みんなでまた来ましょう」
 鮮やかな色彩に包まれた道をのんびりと歩きながらそう言って笑いあえば、やがて見えてくる茜色に染まりはじめた宿の姿。
「そろそろ冷えてくる頃だし、宴の支度も出来てるんじゃないかなっ?」
「そうですね、そろそろ戻りましょうか」
 穏やかに笑いながら、二人はゆっくりと宿に戻っていくのでした。
「気にしなくて良いって、職業病のような物だからさ」
 にこりと笑いながら言うのはリーゼ、白華亭では宴の支度に忙しい時分、早速お膳やお燗の支度を手伝い始めます。
「んーとねー、僕もお料理の手伝いしてもいいですか?」
 くいっと首を傾げる鈴、沖鷹と白華亭の料理人、それに別口からのお声掛かり出来ていた綾藤の料理人が色々と料理の献立を楽しそうに相談しているのに既に興味津々のようで。
「あれ? それって‥‥」
「鮟鱇でござるよ、折角なので鮟鱇鍋でもと‥‥」
 言いながら綾藤の料理人とともに鮟鱇を吊るす様子に興味津々の鈴は、早速お手伝い、とばかりに二人から料理を教わり始めるも、鮟鱇の捌き方はちょっと特殊といわざるをえません。
 ふと見れば群雲が自身の持ち込んだ食材で天麩羅を揚げ始めているところのようで、鈴は丁度炊き込み御飯の釜を見るのを手伝ったりしながら、いくつか作り方やこつを聞いたりして。
「後は広間にお膳を運び込めば準備は万端だね」
 料理もほぼ出来上がりお燗の準備も終えると、リーゼは笑みを浮かべると重ねられたお膳を抱え上げるのでした。

●賑やかな宴
 リーゼの笛の音とリフィーティアの異国の歌が流れる中、宴は賑わいを見せていて。
「全く、忠次の奴は仕方ねぇな」
「御頭は笑い事として済ませますが‥‥彼奴は本当に全く‥‥」
 ぶつぶつと零す誠志郎にまぁまぁとリーゼと嵐山が宥めつつ酒を勧め、笑いながら酒を呷る平蔵。
「こういった明るくて賑やかな雰囲気というのも良いものですね」
 レヴィンが微笑を浮かべ言えば、平蔵が茶を勧めれば済みませんと言いながらお茶を頂き暫し歓談をしていれば。
「さって、久方ぶりの扇舞でもっ」
 すちゃっと庭に現れたのは、まるごと猫かぶりを身に付けた石榴で、扇を手にしてにっこりと笑って。
「紅葉酔いの猫ってことで、此度の舞台はお庭にて失礼っ♪」
 猫かぶりのままに踊る石榴は、灯に照らされた紅葉の中で踊る猫かぶりにわっと盛り上がる一同、お酒はお酒で、お茶はお茶で、それぞれにとってのご馳走で舌鼓を打って。
「誠助さんは彼女連れか、やるな」
「あー‥‥う、いや、そう言う天馬さんは?」
「あぁ、俺は、おかげさまで結婚したかな」
「ええっ!?」
 お酒を楽しみながら集まりする話題と言えば、近頃はどうしているかとなるもので、誠助は天馬の言葉に吃驚して声を上げれば、酒を勧めながら口を開くのは連琥。
「それは知らなかった、おめでとう。しかし、奥方はそれでは江戸で留守を‥‥?」
「あぁ、ありがとう。その‥‥妻は遠出するのが無理なんでな」
 照れて言う天馬にもしやと思うところがあったのか、庄五郎や孫次も祝うやらからかうやら。
「おきた殿は‥‥たとえばこういう危険な任に着く夫をもつ妻というのはどう思うだろうか?」
 ふと盛り上がって居るその姿を見ながら本当におずおずと尋ねる連琥は天馬や平蔵の奥方の久栄等を意識しているのでしょうか、連琥の言葉にきょとんとしていたおきたですが、みるみると赤くなって。
「あ、いや、その‥‥」
 尋ねた連琥もかぁっと顔を真っ赤に染めて見つめ合う形となって。
「はー、なんだかあちらこちらで盛り上がってますねー」
 笑って桜が言えば、ふと気になったのか桜が傍らに置いている鮮やかな赤から黄色へ移り変わる色彩の紅葉に聞けば、これですか? ともぐもぐ自身の取ってきた山菜としめじの炊き込み御飯を飲み込んでから応えて。
「散策の途中に見つけたんですよー、押し花にして栞か何かに出来たらなー、と」
「うん、綺麗だよね、きっと素敵な栞になるんじゃないかな?」
「ええ、なので今から作るのが楽しみなんですよねー」
 にこにこと笑いながら応える桜に、僕もお手伝いしたんだ、と言いながら山菜と茸の天麩羅を勧める鈴に礼を言って一緒に美味しい御飯を食べて愛犬の話に花が咲き。
「ともかく、改め方に関わり今までやってきたからこそ、こうしておきた殿と出会えたわけだし今があるわけだ」
「あ、照れて誤魔化そうとしているね」
 リーゼに言われるのに連琥は小さく咳払いをするも、ふと笑みを浮かべて。
「なんとも賑やかな宴で、親しい仲間達と共にいて‥‥全く、良い縁に恵まれたものだ」
 連琥の言葉にそれぞれ思う所があるのでしょう、暫しの間一行は賑やかで穏やかな宴を楽しむのでした。

●穏やかな夜に
 紅葉に包まれた温泉、宴が引けてのんびりと湯に浸かりながら一行は暫し穏やかな時間を過ごしていました。
「奥方への土産話はできたかえ?」
「ええ。それに日持ちのする物を宿の女将に教わったので」
 盥に浮かべた酒を飲みつつ言葉を交わす涼雲と天馬、一部の人達はまだまだ酒盛りが続いても居るようですが、折角なので紅葉で酒となったようで、連琥は何やら頭を冷やしているのか酒は飲まずゆったりと湯に入って木々を見上げています。
「わー、僕も一杯♪ あ、こう見えてもちゃんと成人してるから大丈夫だよ」
「む、パラの年齢は未だに時々判断つかぬ‥‥」
 怪我や人、それにジャイアントについては分かり易いようですが、医者としてちょっぴりプライド問題なのか微苦笑を浮かべる涼雲に、お猪口を鈴に渡してお銚子の首を摘んで笑いながら注ぐ天馬。
「お、早いな」
「早速やってるな、ほら、追加だ」
 そこへやってくるのは誠志郎を伴い大きめの盥にいくつものお銚子が載った物を浮かべる平蔵に、宿内の見回りを週間で行った後温泉へとやってきたレヴィン。
「さ、御頭、背中でも流しましょう」
「すまねぇな。しかしこうして温泉に入りゆるりと皆で過ごすのも久し振りだなぁ」
「全く‥‥どのような時期でも犯罪が無くなるわけではないですからね」
 言って平蔵の背中を流す誠志郎、レヴィンはそんな様子を見つつゆったりと湯船に入りながら口を開いて。
「‥‥私は近頃考えるようになったのですが‥‥石榴さんとみーさんに、夫、そして父として私にできることは、と‥‥」
「‥‥夫として、父としてか‥‥」
「平蔵さんは、如何でしたか?」
「あぁ、そうだなこれだけは」
 レヴィンに尋ねられにと笑う平蔵。
「俺のようにほったらかしにしねぇで、側に居てやんな」
 そう笑みを浮かべて平蔵は言い、レヴィンも微笑を浮かべて頷くのでした。
「琉紋も風邪引かないようにしっかり拭いてあげるよっ」
 宴の前に入っていた銀杏から聞いた温泉の様子にそうにこりと笑って入ると盥にお湯を掬って洗ってあげると、布で拭ってくぅと擦り寄る愛犬を撫でて。
「いやー、秋の名月の頃は過ぎちゃいましたけど、月を肴に一杯やるのもオツだと思いませんか?」
「全く同感だね。この鮮やかな木々の下での温泉、それに良い酒と来れば、ね」
 桜がお猪口を手に取れば、リーゼが注いでやり、見上げて緩やかに心地良さそうに息を吐いて。
「さてと、僕はのぼせちゃいそうだからそろそろ上がるねっ?」
 そう笑って石榴が温泉を上がれば、丁度出かけていく沢と銀杏の姿が見えて銀杏の簪をふとを思い出します。
「紅葉の時期なのに、櫻? と思ったら‥‥そっか、末っ子で子どものつもりだったけど‥‥女の子だもんね」
 石榴はそう小さく微笑むと、自身の夫であるレヴィンの待つ部屋へと向かい。
「またこうして景色を楽しみつつ温泉が出来ると良いですよねー」
 お酒を楽しみながら、桜はそう笑って紅葉の中にぽっかり浮かぶ月を見上げるのでした。