【凶賊盗賊改方】慰安の宴で

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月04日〜12月09日

リプレイ公開日:2009年12月24日

●オープニング

 その日、小春日和の心地良い昼下がり、冒険者ギルド受付の青年は彦坂昭衛に呼ばれて凶賊盗賊改方の役宅へと伺っていました。
「ほむ、では、慰安を兼ねた温泉旅行と」
「あぁ、そう言う事となるな。比良屋の主人と機会もあってな。幾人か同心を護衛に連れては行くが、行き先で、ちと合流することとなりそうでな」
 そう言って薄く笑む昭衛、合流する相手に心当たりがあるのかなるほどーと頷く受付の青年は依頼書を取り出して筆を走らせ始め。
「今回は、えぇと、一枠ですか? 二枠ですか?」
「そうだな、一応念の為だ、二枠頼みたい。それと‥‥」
 昭衛の言葉に目を向けて、きょとんとした顔をする受付の青年。
「いや、えぇと、はい‥‥?」
「だから其方も来るようにと言って居る。大分経ったが、巻沿いを喰らわせたのだ、読んでやれと親父殿の言葉。あそこの湯は、古傷にもよぅく効くそうだ」
「えぇと‥‥はい?」
 自身の分からないうちにいつの間にやら行くことと決まってしまって目が点になる受付の青年に、手が止まって居るぞ、と促す昭衛。
「ま、今更ではあるがな‥‥こんな不安定な情勢、たまに息を抜かねばやっておれぬ。年忘れの宴もやりたいところではあるが、まずは皆溜まりに溜まった疲れを落とさねば」
 言う昭衛に私の予定の確認はないのか、と声を大にして言いたいものの言えない様子の受付の青年は、依頼書に筆を走らせ続けるのでした。

「そう言えば、途中で合流されるって、江戸を出た辺りですか?」
「あぁ、江戸を出て直ぐに合流だ。そうそう、今回は其の辺りもあって、奥方も同行することとなる。久々ののんびりとした旅行を楽しんで貰うつもりだ。近場で申し訳がないところではあるが」
 言う昭衛に頷きながら筆を動かす受付の青年は、手を止めて軽く首を傾げて。
「それで考えたら、結構な大所帯になりますねぇ。役宅の方は大丈夫ですか?」
「心配ない全員引き連れていく訳ではない、残った者にしっかりと警備と留守の間の対処は任せる。また、今度残った者はまた入れ替わりに慰安にやることとなっているからな」
「はぁ、なら大丈夫ですかね。じゃあ、取り敢えず江戸を出たところで合流者有りとして、張り出しておきますねーと」
「ああ、宜しく頼む。それと、ちゃんと来いよ?」
 あぁ、私はやっぱり強制参加なんだ、そんなことを考えながら受付の青年は依頼書を纏めて役宅を後にするのでした。

●今回の参加者

 ea2702 時永 貴由(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2988 氷川 玲(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3731 ジェームス・モンド(56歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6780 逢莉笛 舞(37歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea6982 レーラ・ガブリエーレ(25歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 eb2963 所所楽 銀杏(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb4994 空間 明衣(47歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●旅へのお誘い
「ひさしぶりだな。変わりはないかな? で、貴殿も慰安旅行に行くのだろ?」
 そこは凶賊盗賊改方の役宅、空間明衣(eb4994)の言葉に門番・一太は嬉しそうに頷くと明衣も微笑みを浮かべて。
「さてと稽古にでも付き合おうか? 私も前の私とは違うしな」
「はいっ! 宜しくお願いします!」
 知らない構えを見て俄然やる気になったか一太はぺこりと頭を下げるのでした。
「‥‥では、宜しく、お願いします、ね‥‥」
「ええ。‥‥おや、遅かったね、沢」
「うん、一つ片づけてからと思って‥‥銀杏、久し振り」
 所所楽銀杏(eb2963)の言葉に穏やかな笑みを浮かべていた沢の義兄は、やって来た沢に言うと気を聞かせてか部屋を後にして。
「その、改方で‥‥温泉に行くです、よ。沢君も良かったら、と‥‥」
「うん、是非。銀杏と遠出って、なんだか随分と久し振りだな。凄く楽しみだ」
 ちょっと照れて嬉しそうに笑う沢に、銀杏もほんのりと頬を染めて笑いかけるのでした。
「鶴吉君に美名ちゃん、久し振りだな」
「御無沙汰しております」
 時永貴由(ea2702)と逢莉笛舞(ea6780)がやって来たのは壮年男性の家、美名の両親は仲睦まじくしているようで、役宅を主だった者が留守にする間を引き受けているそうです。
 当の鶴吉と言えば今の家で大変に可愛がられて育っているようで、美名と共にすくすくと育ち、すっかりと背も細身ではあるものの美名よりも背が伸びていて、旅の荷物も美名の分と一緒に持ち、木太刀を袋に収めて背負っていて。
「大きくなったな、もう十二か‥‥すっかりと御武家の男子だな」
「はい、年が明ければ僕も美名ちゃんも十三です」
 にこにこと笑う鶴吉は、事件が解決し再会を約束したときと変わらぬ笑顔を浮かべて言います。
「父と母がくれぐれも宜しくと伝えるようにと‥‥」
「鶴吉君、いつも父様と母様呼ぶときに、未だに恥ずかしがるの」
 既に大分経っているにも拘わらず、そう呼べることが嬉しいのかはにかむような鶴吉に美名がにっこり。
「じゃあ、そろそろ出発しようか」
「はいっ」
 貴由が微笑みかけて言えば鶴吉と美名は元気に返事をすると手を繋いで貴由達と共に旅の仲間の所へ合流する為に歩き出すのでした。
「昭衛の旦那も鬼平の旦那もしばらくだな、元気だったようで何より」
「お久しぶりですな長谷川殿、お元気そうで何よりだ‥‥」
 江戸を抜けて直ぐの茶屋で落ち合った一行、氷川玲(ea2988)が座敷で待っていた長谷川平蔵達に気が付くと声を掛け、ジェームス・モンド(ea3731)もイギリス土産の包みをちらりと掲げ後程、とにかっと笑って見せて。
「おう、久しいな。折角の旅だ、のんびりゆっくりと羽を伸ばそうじゃねぇか」
「両名とも息災であったようで何より。あちらでは面倒な争いもなく気心知れた者ばかり故、存分に楽しまれると良かろう」
 笑って応える平蔵に彦坂昭衛も微かに口元に笑みを浮かべて言い、隣に居た弟の彦坂兵庫がぎょっとしたり養子の清之輔がぺこりと頭を下げたりしており、笑みを浮かべるモンド。
「ここに来るまででも大分見事な木々が見られましたが、白華亭の紅葉はまた見事でしょうな。こういう時こそ、こういった安息が必要‥‥尤も俺は里帰りのイギリスで却って疲れた気がしなくも‥‥」
 ちょっぴり遠い目をするモンドですが、楽しいことも大変なこともそれぞれ満喫してきた様子に笑うと、レーラ・ガブリエーレ(ea6982)がいつの間にか外の縁台でお茶とお団子を頂きながらしみじみとしていて。
「改方のみんなと会うのも久しぶりじゃん〜‥‥思えばいろんな事があったなー」
「まぁ、色々有り過ぎたとも言うが‥‥ま、良い景色に温泉と美味い飯と酒。言う事無しですぜ。今はちっとばかし休んでまた仕事に精出すとしやしょう」
 笑って言う御神村茉織(ea4653)は、舞と貴由の姿が見えると共に歩いてきた子供達を見て目を瞬かせて。
「久し振りだが‥‥大きくなったなぁ、あんなに小さかったってのによ」
 ぺこりと頭を下げた鶴吉に思わず驚きながらも笑みを浮かべて頭を撫でると、改めて当時の事を思い出したか感慨深げな様子です。
「え? わ!? 鶴吉君じゃ〜ん? おっきくなったじゃん!!」
「レーラお兄さんもお久し振りです。もうちょっと頑張って稽古とかしたら、お兄さんに追いつくかな?」
 小さく首を傾げる鶴吉、そんな様子を見ていれば貴由も思わず袖で僅かに目元を抑えてから、改めて微笑を浮かべるのでした。

●鮮やかさと暖かさと
 白華亭は今の季節、鮮やかで艶やかな赤や橙、そして山吹の色彩に包まれていました。
 大所帯の一団となった事もありますが、一際賑やかに鮮やかな紅葉の中を歩けば、見事な紅葉の中こんな風に江戸を離れたことがあれ以来無かった鶴吉だからでしょう、嬉しそうに美名や舞と手を繋ぎあれこれ話ながら歩いていて。
 その様子を思わず微笑ましげに貴由と御神村は眺めている側では、此方も楽しげではあるものの、微妙に互いに距離を計りかねている様子なのは銀杏と沢。
「朝顔の時は、恥ずかしくなかったです、のに‥‥」
 そんなことを小さく口の中で呟く銀杏は、時々ちらりと沢へ目を向け前の時まで出来ていた手を繋ぐことが出来ないのが何となく気恥ずかしくも寂しそう。
 沢はと言えば、何かあるのかちょっぴり緊張気味でもあるようで、目が合うとちょっと困ったように微笑んで。
「良い具合だな‥‥燃えるような赤も良いが、今の明るい鮮やかさも」
 愛馬の軍馬・秋風に乗りながら煙管を燻らせる明衣はしみじみとそう呟いて。
 そして見事なもんだとリーゼや嵐山と話しながら歩く氷川はどうにも親分達にわりぃや、と笑って紅葉を見上げたりしています。
 何はともあれ、やがて見えてくる鮮やかな色彩にまるで呑まれてしまったかのような白華亭へと辿りつくと、一同は割り当てられた部屋へと荷を置きに向かうのでした。
「ふぅ、堪えられんな」
「良い湯だな、おまけに景色も最高とくりゃ、なぁ。やー極楽極楽」
 モンドがしみじみ言えば、御神村の湯に浮かべた桶に載る熱燗お猪口の首を摘んで、ままどうぞと酒を勧めて。
「雪の中も良いが、この鮮やかな紅葉の中での酒も格別だな」
 何処までも済んだ青い空に、僅かに緑の混じる鮮やかな橙の山々は見事としか良いようもなく、宴会前の一杯が心地良いようで。
「鶴吉も呑むか?」
「あ、僕にはまだ早いかと‥‥」
「あ、俺様ちょこっとのみたーい」
「レーラ殿はこのあと手品をするのではなかったかな?」
 鶴吉はまだお酒はさっぱりのようで言えば、酔っ払って凄いことになりそうなレーラにはこの後の手品ができなくなるぞとモンドが笑います。
「そのうち一家の皆引き連れて慰安の宴開いてやらにゃ」
「そういや白鐘の親分や皆はお元気で?」
「元気だな。こんな御時世だ、お上が頼りにならんから俺らとかに話が来るが‥‥お陰で中々に忙しい」
 元々の改方の立場も思えば複雑なのでしょう、微苦笑気味な氷川に御神村は現状を思ってか僅かに緩く息を吐きますが、モンドは微笑を浮かべて。
「折角の温泉だ、今はゆっくりと疲れを取り穏やかに過ごすが一番だろう」
 モンドの言葉に頷くと御神村は鶴吉へと顔を向けて。
「後で揃って紅葉狩りにでも行くか」
 御神の言葉に嬉しそうに頷く鶴吉、一同穏やかに暫し温泉を楽しむのでした。
「良い湯加減だ」
 明衣が緩く息を付き岩に寄りかかって辺りを見回すと、湯に浮かべた盥の中のお銚子を手にとり。
「お澄殿も一つ如何か?」
「あ‥‥はい、有難う御座います」
 舞の言葉に微笑んで一杯頂けば、お銚子を受け取り、舞へと注ぎ返す受付の青年の恋人であるお澄。
「彼にはいつも世話になっている。あいつはいい奴だ、宜しくな」
「‥‥有難う御座います」
 舞の言葉が嬉しかったのか、僅かに目元を潤ませて微笑んで礼を言うお澄に舞も笑いかけるのでした。
「はい、柱次も火天も‥‥しっかり拭かないと‥‥です、よ」
 布を巻き洗い場に大きな盥を借りてお湯を貯め、そこで心地良さそうに体を洗って貰っていた銀杏の愛犬達はふるふると体を震わせて水を飛ばしますが、そこは改めて銀杏がしっかりと拭ってあげていて。
 くぅ、と甘えるように寄り添う二頭に笑みを浮かべてから、しっかりと拭いたことを確認してすっぽりと毛布でくるんでいい子で待っているように告げ、自身もようやく温泉であったまることとして。
「‥‥ふぅ‥‥」
 のんびりと温泉につかると、何やら改めて色々と考え込んでしまうようですが、毛布をもふもふ引きずりながら近づいてきた二頭が励ますかにようにふんふんと鼻先をすりつけてくるのに銀杏は微笑を浮かべて。
「ありがとうです、よ‥‥」
 ぎゅーと二頭の首を抱きしめると、勇気を貰ったか改めて銀杏は何か決心したかのように御湯に浸かり直すのでした。

●宴の宵に
「俺様はこの改方の和み担当を、仰せつかってやがります! みんなと最後にひと和み〜♪」
 実に楽しそうな様子のレーラ、見れば宴会場にいくつかの襖を取り払って用意された座敷は広いにも関わらずの大人数。
「私の酒が呑めないのかな?」
「ぁ、ぅ、ぃぇ、い、いただき、マス‥‥」
 早速の酒豪達が浴びるように酒を干せば一太に艶然と笑いかける明衣、女性に免疫が無いのかあわあわと稽古の時には意識しなかった女性の色香に慌ててしまっているようでかくかくと混乱中の一太。
「ひらりひいらりと舞う紙の蝶、これは江戸の治安を守る強い蝶々。その鬼平という親分のところに舞集う、たっくさんの蝶達は、密偵のみんなに冒険者の仲間〜」
 扇をレーラが仰げばわさわさ紙の蝶が飛び交い、やんやと盛り上がる宴。
「上と下の娘がちょくちょく嫁ぎ先から戻ってお世話をやっていてくれたようで。おかげで久しぶりに帰った所、こってりと絞られました‥‥」
 女の園で苦労したといいつつも良い勢いで酒も進んで娘自慢に花が咲くもほろりとしてしまう様子のモンド。
「‥‥ぅぅ、誠に嬉しいやら寂しいやら‥‥」
「良いから二人ともそのまま三回づつで飲め!」
 娘さんの話を久栄が楽しげに聞いていれば、何やら酔った様子を見せつつ舞がびしっと貴由と御神村に杯を勧め、鼻歌に高砂を選ぶ平蔵、貴由はそれで気がついたか、『冷やかされている‥‥皆酔っ払いだから誰も助けてくれないのか』と慌てて逃げ出し。
 御神村が追いかけていくのを見送ると、舞と平蔵は酔った風から普段通りに戻りお銚子を持ち上げて。
「なんで三回ずつなの?」
「だって、祝言の三々九度よ?」
 きょとんとしている鶴吉、親の祝言の御祝を見ているからかちょっぴりお姉さんぶって言う美名に、舞は二人の頭を撫でて。
「明日は揃って裏山を見に行こう」
「うん♪」
「はいちゅーもーく! たくさん集まった蝶々たちがこのとーり! これ、皆で盗賊凶賊改方でござーい!」
「良いぞレーラ! こっち来て飲みやがれっと。さて、旦那方、ご馳走さん。また俺らの力が必要なら遠慮なく声かけてくれや。何、もう付き合いも長い。遠慮はなしだぜ?」
「おお、頼りにしているぞ」
 レーラに酒を勧めると、平蔵や昭衛たちに向き直り改めてそう告げる氷川に、平蔵も似と笑いかけて頷くと、御銚子ではまどろっこしくなったのか徳利から氷川へ湯呑で酒をついて。
「戯言だ。まだまだだな」
 そして、そろそろ思考が飽和状態の一太に悪戯っぽく笑って、まぁ飲めと酒を勧める明衣。
 賑やかに和やかに、宴はまだまだ続くのでした。

●秋の灯に染まる紅葉の下で
「わりぃ、そんなに嫌だったか? 許してやってくれ‥‥と」
 逃げ出して縁側の隅で蹲るように屈み込んでいた貴由を中庭で見つけた御神村が歩み寄り言えば、それまで一杯一杯になりながら自分の気持ちと向き直っていた貴由がぎゅっと抱きついて小さく震えていて。
「あーさっきの、俺はまんざらじゃなかったんだがよ‥‥本当にしちまってもいいか?」
 腕の中のぬくもりを暖かいと感じながらそうっと囁く御神村に、本当に微かに、貴由は頷いて見せるのでした。
 宴も既に思い思いに分かれ始め、子供たちは既に寝入ってしまった頃、折角なので夜の紅葉でも見に行こうと銀杏は沢を誘って白華亭の裏手にある小道へと足を向けていました。
「足元気をつけて‥‥あそこに座れそうなとこあるな」
 道々に宿で用意した明かりが灯されているものの少し暗い足元に銀杏へと手を貸せば、照れたように僅かに頬を染める沢は、道々に用意された縁台へと腰を下ろして。
 銀杏も隣へと腰を下ろすと、暫く互いに話を切り出すきっかけに迷っているようで言葉は途切れるも、おずおずと口を開く銀杏。
「沢君、聞いて、くれます、か‥‥?」
「‥‥うん」
「あの‥‥ずっと、考えていたことがあった、です、よ。僕、は‥‥僧侶として多くの人の助けになりたい、けど‥‥一人にとっての特別になりたい気持ちが、あって‥‥それが強くなって、て‥‥」
 じっと銀杏の言葉を聞いている沢に、自分の言いたいことを精いっぱい伝えようと、ゆっくりと続ける銀杏。
「冒険者のままでその人に近づいていいのか怖かったり、気持ちに恥ずかしかったりして‥‥そう考えたら、会いにいくことも出来なくて‥‥悩んで過ごすうちに、時間ばかりたっちゃって‥‥でもこれはずっと持ち歩いて、ます」
 頬を染めて俯きながら言う銀杏が取り出すのは、桜に鼓の簪。
 季節に合わせたものとは違うけれど、と微笑むと、顔をあげて沢へと微笑みかける銀杏。
「‥‥大好きな沢君にはじめて貰ったもの、だから」
 銀杏の言葉に照れたように顔を赤らめるも、にっと笑う沢もまた小さな包みを取り出して僅かに頬を掻いて。
「冒険者の銀杏を助けられないって歯痒さがあって、俺も逢いに行けなくてごめん。でも、俺思ったんだ、銀杏歯痒いからって距離を置いてたんじゃ逃げてるのと同じじゃないかって‥‥自分の気持ちに。だから‥‥」
 言っておずおずと銀杏の手を取ると、包みから取り出した指輪を嵌めてから笑いかける沢。
「俺、銀杏のこと好きだから。だから、俺も足手纏いにならないようにするし、自分の御店持って、胸を張って銀杏を迎えられるように頑張る」
 言ってから、少し困ったように笑う沢。
「異国ではこういう指輪を贈るって聞いたから‥‥銀杏が嫌でなければ、受け取って欲しい」
 沢の言葉に真っ赤になりながらも、そうっと指輪を撫でてから微笑みかける銀杏。
「実は‥‥来る前に、御義兄さんに御店の御手伝い、させて欲しいとお願いした、です、よ‥‥」
 銀杏の言葉に目を瞬かせ、その言葉の意味が理解できると嬉しそうに笑って、ぎゅーっと銀杏を抱きしめる沢、銀杏もまた真っ赤になりながらも何とか呼吸を繰り返して落ち着くと、おずおずと身を寄せて。
 そんな二人の様子を、秋の灯に照らされた紅葉、それに静かに輝く月が見守っているのでした。