●リプレイ本文
●お化け屋敷入り口で‥‥
「‥‥‥あの、腕がちょっとばかりでなく、痛いのですが‥‥」
依頼人がにこやかに微笑みつつ、まだどこか冷や汗に近い表情で言うのを、怪訝そうな表情で見るのは、風月皇鬼(ea0023)です。その腕はしっかりと依頼人の腕を掴んで関節を入れている様子です。その反対側には、やはりシャクティ・シッダールタ(ea5989)が全く同じように関節を決めて、もう片方の腕を押さえています。
240cmのシャクティと245cmの皇鬼に挟まれ、長身である依頼人も、まるで子供のように小さく見えます。
「おっと、この腰の物は預からせて貰うぜ? なんで家に置いてこなかったんだ?」
「‥‥今、まだ家に入れて貰えないもので‥‥流石に旅籠に起きっぱなしにする勇気は‥‥」
巴渓(ea0167)が依頼人の腰から刀を抜き取って抱えると、そう言いながらも既に引きつった笑顔を浮かべる依頼人。
「‥‥1人は体調不良だから仕方ないか。とりあえず、ここに3つ、主だったお化け屋敷の情報が手に入ったんだが‥‥正統派って言う奴と西洋風‥‥それになんだ、この説明が全くないお化け屋敷は」
夜神十夜(ea2160)が体調不良で参加出来なかった仲間に預かったお化け屋敷の概要を見て苦笑します。
「あのさ〜本物のお化けじゃなくて人が化けているだけだからさっ♪ 怖い怖いと思うから余計に怖いんで‥‥えっと‥‥あれだっ! 大勢の人前に立つ時に緊張しない様に、客をかぼちゃとか他のものに思えって言うだろ‥‥あれと同じで、お化けを自分の好きなものとかに置き換えて見てみろ、そしたら平気かもしれないぜっ♪」
徐々に笑顔のまま顔が青くなる依頼人に、言葉を探しながら狼蒼華(ea2034)が言うのに、青い顔をしたまま笑む依頼人が目を向けます。目はどこか縋る様子を浮かべています。
「う、腕の関節は止めましょうよ‥‥は、外れると痛いですし大変で‥‥」
「なに、外れやすいと言うことは嵌めるのも簡単ということだ。応急手当は夜神が持っている。お前さんが暴れださんようにの措置だ。お化け屋敷如きで暴れて名誉に泥を塗りたくは無かろう?」
皇鬼の容赦ない一言に引きつった笑みのまま、依頼人は諦めたように一つ目のお化け屋敷へと引きずられていくのでした。
●一つ目、正統派お化け屋敷
入口前で、依頼人以上にびくついた人間が居ました。美芳野ひなた(ea1856)です。過去に肝試しで酷い目にあって以来、余計にこういった出し物は苦手な様子です。
「あうう〜、ひなたも入るんですか?」
どこか恨めしげに渓を見ながら言うひなたに、篝火灯(ea3796)と蒼華は依頼人と纏めて励ますことにしたようです。
「同じ侍で女の私だって大丈夫なんだからキミだって大丈夫だよね?」
「俺でも怖くないだから‥‥兄ちゃんや姉ちゃんだってきっと大丈夫さ♪」
その言葉と共に、依頼人を引きずりながら、依頼人の財布から夜神が料金を払うと、お化け屋敷へと足を踏み入れていきました。
ひんやりとした風に混じって、安物の行灯の油の匂い漂う薄暗い中を、両脇、そして前後を固められた依頼人が引き立てられていきます。むしろ、お化け屋敷の様子よりも両脇を固められている事に気になっている様子の依頼人ですが、徐々になにやら屋敷を象った出し物に近づくのに引きつり、青い顔で辺りを見回し始めます。
入ったところですぐに出入り口を抑えに行く蒼華に、固まったままそろそろと渓に掴まって歩くひなた。
「あんな物はただの玩具だ、よく見ると馬鹿な面してたりよ。だからそう気負わずに楽しめよ、これはお遊び、戦じゃないんだぜ?」
「良いですか?人は闇を恐れるのではございません。闇に潜む何かに、未知に恐怖を抱くのです。心穏やかに、曇りの無い鏡のように気を落ち着かせるのです。明鏡止水‥‥御仏の悟りの様に、闇に潜む真実の姿を見抜くのです」
励ます夜神に諭すようなシャクティの言葉を聞いて何とか頷きながら歩いている依頼人ですが、事件は一つ目の庭らしき見せ物の中にある井戸から白い着物に髪を振り乱した女がずずず、と現れたときに起こりました。
「ウエエエッ! ォヴァグェナンデベイジンデズ、ベイジンダンデズゥッ!!」
依頼人が何か言葉を発するよりも早く、ひなたの意味不明な絶叫が響き渡ります。そして、その声の方が怖かったのかはっと身を捩って声の元を確認しようとした依頼人の、苦痛の混じった絶叫が上がりました。
「ひ、酷い目にあった‥‥」
暗闇で手当をするわけにも行かず、何とか痛みの所為で依頼人が意識を保ったまま、一つ目のお化け屋敷を抜けると、夜神に応急手当をして貰いながら依頼人は何とかそれだけを口にしました。
ひなたの絶叫で身体を捻った依頼人は、すっかり両脇で関節を決められているのを忘れてしまっていたため、綺麗に骨が外れていた様子で、今は却って綺麗に外れていたため、夜神の応急手当でもとの位置へと戻せたようです。
「さ、さて、気を取り直して、次に行こうか?」
灯が何とか明るい声を上げながら言うのに、一行は次のお化け屋敷へと向かうのでした。
●二つ目、異国風お化け屋敷
一つ目のお化け屋敷を体験して、依頼人は関節はどうしても嫌だ、と言い張るので、仕方なしに両脇で抑えるだけにしながら、再び一行は次のお化け屋敷へと向かいます。流石に両腕をいっぺんに外したのは、かなり痛かった様子でした。
「えっと‥‥血の館??」
なにやらおどろおどろしい黒ずくめに、マントという怪しい姿をした異国の男がお代を受けとると、一行を入口から中へと入るように促します。
入っていくと、辺り一面血の跡などを演出してある、なかなかに悪趣味な屋敷のようですが‥‥。
「異国の、お化け屋敷って、こんな感じなのかぁ‥‥」
「あの、あれはなんという生き物なんでしょうね?」
馴染みがないもののためか、特に何かに驚く様子もなく首を傾げる依頼人と、それでもびくびくと渓に掴まりながら歩くひなたに、ふと渓は悪戯を思いついたようです。
「ひなたっ、あんな所にフンドシ一丁のユウキの旦那が!?」
「っーー□△×○◇〜〜〜!?」
なんだか声にならない悲鳴を上げて暴れるひなたの絶叫に、依頼人がシャクティを振り払い、皇鬼の腕を捻るようにして逃げ出すのに、ひょいと夜神が出した足で、見事に顔面から倒れこむ依頼人。
「‥‥‥さ、流石に生きてるか? 今、いい音がしたが‥‥」
「おい、起きろっ!」
ひなたをがっちりと片手で押さえ込みながら、渓がひっくり返され仰向けになった依頼人の頬を思いっきり張りますと、はっと気が付いた依頼人は、赤くなって少し腫れた自分の両頬を抑えて、情けない声を上げました。
「さ、最後まで回り終わったとき、五体満足で出られるのでしょうか、わたくしは‥‥」
何とか外に出ると、得体の知れない妙な様子の館に足を向けながら、めげた様子で依頼人はその建物を遠い目で見ているのでした。
●三つ目、‥‥‥‥。
その館は、一種異様な雰囲気を漂わせていました。
「‥‥‥‥‥‥‥っていうか、なんか‥‥一体何をしたかったんだろうな、この館は‥‥」
お化け屋敷と言うより、どこの吃驚屋敷だと思うぐらい、変に異国情緒とジャパン独特の建物が融合しようとして失敗したような‥‥とにかく、説明が難しい建物の前で止まっています。
「‥‥‥ここ、だよな‥‥まぁ、良い入るか‥‥」
夜神が疲れたようにそう言うと、入場料を払い依頼人を引き立てて入っていきます。入っていくと、そこは暗く、蝋燭が点々と続いています。そして、後から戸が閉められると、どうやら鍵がかけられた様子です。
「さっきの女達良かったよなぁ‥‥特に右の女。顔もいいけど、あの胸が‥‥お前はどう思う?」
「お、お化け役の人なんて、見ている余裕ないですよ‥‥」
どこかびくびくとしながら相変わらずジャイアント2人に挟まれて前へと進む依頼人。
と、唐突にお化け屋敷内が騒がしくなります。
「ギャオオオオウゥゥッルウアアアアアアッ!!!」
なにやら奇声を上げるひなた。そのひなたの背中には、なにやら黒髪の、ジャパン独特の人形が張り付いています。しかも、まるで肩から顔を覗き込むかのように。
「〜〜〜〜〜〜〜!!??」
声にならない叫びをあげて渓に飛びつこうとするひなたは、目の前に顔と同じぐらいの蜘蛛が現れるのに、必死に渓の手を振り払って、絶叫しつつ突っ走り、何かにぶち当たって尻餅をつきます。
そのはずみにか、突然、辺りが薄ぼんやりと明るくなると同時に、大量の色々なところの人形が降ってきます。
「!!!!」
依頼人の顔に落ちてきた異国の女の子の人形が、不気味に笑うのにぞっとしつつ避けとようとした依頼人は、その人形が落ちてきたはずみで腕や足がもげているのに、よせばいいのに気がついてしまいます。
依頼人の絶叫が、お化け屋敷内へと響き渡りました。
●嵐の去った後‥‥
「‥‥あれ、何だかお花畑が見えたんですが、気のせいでしょうか?」
どこか清々しく言うひなたは、お化け屋敷を出たところでぐったりとしている仲間を見ると、不思議そうに首を傾げます。
「あ、もう回り終わったんですね? 良かった〜☆ あれ、でも全然憶えてないや? どうしてでしょう??」
「‥‥‥いや、もう良いから、お前は喋るな‥‥」
言われる言葉にきょとんとするひなた。人形が落ちてきた直後に混乱して大暴れの依頼人を意識を保ったまま連れ出すというのは随分骨が折れたようです。
「‥‥‥‥‥‥‥ふ‥‥ふふ、ふふふふふふ‥‥こ、これで、もう兄たちに何も、言われずに済む‥‥」
「とりあえず‥‥依頼は完了、だな‥‥」
出口付近で突っ伏している依頼人が怪しい笑いを浮かべてそう言うも、次の瞬間にがくっと昏倒するのを見て、皇鬼は深く溜息をつくのでした。