捕り物・逃亡母子

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月06日〜09月11日

リプレイ公開日:2004年09月14日

●オープニング

 怪我をして腕を吊り、痛々しい様子のまま2人の男が連れ立ってやって来たのは、昼にはまだ早い時刻でした。
「逃亡した母子を捕らえてきて欲しいのです。人と金を使って逃げ出したらしく、我らどころか、我ら家族までも斬られ、酷い怪我をして‥‥」
 そう言うと、年嵩の方の男がどこか気遣うようにもう1人の男へと目を向けます。若い方の男の方が酷い怪我で、額と顔半分を血で染まった包帯で留められながら、頭を下げます。
「あいつら、まだ幼い俺の息子まで手にかけやがったんです。しかも息子は逃げたというのに、わざわざ追ってまで‥‥今、手当をしていますが‥‥どうなるかはまだ‥‥」
 そう沈痛な表情を浮かべると泣き出す男に、年嵩の男が事情を話し始めました。
 母子は母が40過ぎ、息子は20代半ばで、母は勤めていた名のある武家の家で家のことを取り仕切る程の発言力を持った人だったそうです。息子はこれがまたどうしようもないどら息子。働くのが何より嫌いで、母に泣き付いてその家に上手く入り込み、好き勝手に使い込みをしていたらしく、母子の所為で放り出された人間の訴えで調べられ、捕らえられる事となったそうです。
 ただ、体裁という物があるので、そのために色々と手回しをしている間に、男達の所へと2人は預けられていたそうで、その間に金を使って人を雇うための手紙を書いたのではないか、と年嵩の男は付け加えます。
「期限は5日間‥‥それまでに母子を連れ戻せなければ我らも罪に問われ、下手をすれば切腹‥‥この者など、唯一の跡取りがあの様子‥‥万が一のことがあればそこで家は潰えます」
 そこまで言うと、男達は改めて頭を下げます。
「お願いです、あの母子をひっ捕えてやらねば収まりません‥‥なにとぞ、お力をお貸し下さいっ!」

●今回の参加者

 ea1001 鬼頭 烈(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1289 緋室 叡璽(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1393 青島 遼平(34歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2387 エステラ・ナルセス(37歳・♀・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea2941 パフィー・オペディルム(32歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3220 九十九 嵐童(33歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea5943 鬼子母神 豪(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●生死の行方
 エステラ・ナルセス(ea2387)が依頼人の屋敷を訪れると、悲痛な顔をし包帯を巻いた門番が迎え入れてくれます。人の出入りの激しい部屋の前でちらりと中を覗くと、数人もの人間が幼い男の子を囲んで手当をしているところでした。
「‥‥せめて子供だけでも」
「‥‥手を尽くすしか‥‥」
 母は助からなかったらしい事が漏れ聞こえるのに、子を持つ身としても母としても思う所があるのか、目を伏せて屋敷の主人のいる部屋へと足を向けます。入ってくるエステラにまだ痛々しいながらも清潔な包帯へと変えた年若い依頼人が深々と頭を下げます。
「わざわざお越し頂き‥‥」
「いえ、こちらを息子さんへと思いましたもので」
 そう言ってヒーリングポーションを差し出すエステラに、目に涙を滲ませながら、依頼人はそれを受け取り、ただただ畳にこすりつけんばかりに頭を下げます。
「お心遣い‥‥忝なく‥‥」
 薬を渡すと、エステラは子供の回復を祈りつつ、依頼人の屋敷を後にするのでした。

●親戚の怒り
 母子の親戚が住む屋敷より少し離れた茶屋で、緋室叡璽(ea1289)と青島遼平(ea1393)、そして鋼蒼牙(ea3167)は、親戚が来るのを待っていました。
 程なくして、身なりの良い、壮年の侍が茶屋へと向かうと、あたりを見渡して3人へと目を留めると、ゆっくりと歩み寄ります。侍はどこか疲れた様子で座る許可を得てから席に着きます。
「あの一族の恥がしでかした不始末を何とか出来るならば、なんでも致しましょう」
 そう言う侍を、3人は信用できるのか様子を窺っていますが、激しい憤りと疲れを感じる以外はこれといって疑う要素はなく、やがて青島が口を開きます。
「今回の一件、あんたの親戚がしでかした事の後始末のためにも、協力して貰えると、そう考えて間違いないな? 母子は逃げた幼子にまで手をかけやがったんだっ」
「‥‥先方へと、たった今伺ってきたばかりです‥‥」
 押さえつつも語気が荒くなる青島の言葉に、ぎりっと唇を噛みながら苦渋に満ちた声で言う侍。それを見て、強い口調で緋室も口を開きます。
「‥‥あなたを信用して宜しいんですね?」
 言われる言葉に、無言で拳を握りしめながら頷く侍。侍から話を聞くと、侍は母子について出来うる限る聞かれた問に答え始めました。そのどれも、聞いた話の通りにろくでもない息子と、息子の我が儘のためならなんでもやる母という物に尽きました。
 実際、この侍の方はあまりの酷さに何度も警告を与え、縁を切るとまで脅したそうですが、いっこうに直る様子はなく、この様な事態が起きてしまったと言うことです。
 直接何かが出来る権限があるわけではないのでそれ以上何も出来なかった自身を悔いていて、雇われ者が息子の放蕩仲間であること、絞り込みは出来ないが、大抵どのあたりに潜伏しているか、江戸を出る前に旅費をたかりに自身の屋敷へとやってくるのではないかと言うことを話すと、深く溜息をつきます。
「で、あんたもあの母子は憎いんだろ? 捕まえる協力、してくれるな?」
 蒼牙の言葉に、侍はしっかりと頷きました。

●母子の足取り
 関や渡しを回りながら、それらしい者が逃れていないのに、鬼頭烈(ea1001)はほっとする反面、それらしい者の噂が全く聞けないことに、僅かな苛立ちを感じている様でした。すでに母子の行方について何一つ情報が集まらないまま、そろそろ3日目の夕刻へとさしかかろうとしていたからです。
 そのころ、いくつも賭場の場所を探して聞き込みを続けていたパフィー・オペディルム(ea2941)は、その日も幾つかの賭場へと顔を出し、その日の最後となるであろう所へと入っていくところでした。
 何やら悪態を付いている浪人者がちょっとした口論をしているようで、普段ならばどこにでも有る光景として見過ごしていたでしょう。しかし、パフィーはその男にどこか覚えがあるような気がしてすっと賭場の隅へと移動します。
「ねぇさん、ここにも来てたんか」
「‥‥ちょっと、宜しいかしら?」
 賭場にパフィーの様な女性が入ってくること自体がそもそも珍しいのでしょう、ここ2、3日で賭場で一緒になった男が声をかけてくるのに、パフィーはそう声をかけて浪人者の視界から逃れるかのように賭場の外、建物の陰へとその男を連れて移動して、小さな声で浪人者について話を聞きます。
「あいつぁ、前から良く出入りしていた奴だぜ? ただここ数日、ツラぁ見せねぇと思ってたら、ひょっこり大金持って現れたんで出所について周りの奴がからかったらあのざまさ」
 上機嫌で話す男の話を聞きながら、パフィーは話に聞いていた、雇われ者と浪人者の特徴が一致するのに気が付き、話を続ける男に浪人についての話を聞かせて欲しいと頼むのでした。
 エステラがその質で話に聞いていた品を見かけたのも、ちょうどその頃でした。
「もう店は閉める‥‥っと、その鉢かい? やめた方が良い、確かに一品だがな、そいつにゃびったりと血が付いてやがったからな。置いておくのも嫌だが、異国のお客さんに売って問題が起きても忍びねぇや」
 質屋の主に事情を話すと、買い取るというのに首を振ります。
「そういう事情を聞いて金なんて取れやしねぇ、持ってってやんな。ってこたぁ、多分この櫛もその人ん所から盗まれたもんなんだろうな」
 そう言いながら奥から黒塗りの櫛を布に包んでエステラへと差し出します。
「持ってきな、なに、良いって事よ。こっちも気になってた品ぁ片づけられてせいせいするってもんだ。‥‥ん? 売りに来たのは柄のわりぃ、浪人者だったな」
 エステラが聞くのに、そう思い出すように主人は答えました。
 九十九嵐童(ea3220)と鬼子母神豪(ea5943)は、手分けして酒場を回っていましたが、パフィーから賭場の情報を聞いて、嵐童はその男を賭場から着けていくことにしました。
辺りをこそこそと窺いながら歩いていく浪人者。川沿いのとある旅籠の前までやってくると、裏口からそっと中へと入っていくのに近づこうとしたときでした。
「何を考えているんだ、お前はっ! 勝手に盗んだ物をちょろまかして売りに行きやがって‥‥行った先でうりゃあ良いだろうが、足が着いたらどうする!」
 裏口の近くで怒鳴り声が聞こえてきて、嵐童はそうっと中の様子を窺いますと、息子の特徴と一致する男が浪人者へと怒鳴りつけています。
「くっ、早いとこ叔父の家から金を受け取ってずらかった方が良さそうだ。おい、早朝に出かけるぞ。構うことはない、行って斬り殺して金を頂くだけだ‥‥準備しておけ」
 そう言い放つと奥へと戻る息子に、浪人者は悪態を付きながらその後をついて行きます。
 嵐童は早足で親戚の家へと引き返すのでした。
 親戚の家でその一角を提供して貰い情報を付き合わせたりしながら、母子の情報を集めていたのですが、嵐童の仕入れてきた情報で俄に慌ただしくなります。
 屋敷の主人である侍は、憎い気持ちを押し殺して対応することを約束し、夜のうちに知人宅へ家族や奉公人を避難させます。
「この屋敷は、拙者と皆様方だけです。ご存分にお使い下され。‥‥なにとぞ、宜しくお願いします」
 主人はそう言うと、一行へと深く頭を下げました。

●捕り物
 早朝、嵐童が聞き込んだとおり、母を連れた息子が浪人者に囲まれて入ってきます。話のために奥の部屋へと案内する主人に、刀へと手を添えた浪人が一歩踏み出して斬りかかりました。
 短い金属音と共にその刀を鬼頭の刀に受け止められ、同時に駆け寄ると侍を庇う位置に立つ豪。はっと息子達があたりを見ると、襖を開け放って、緋室と青島が出て来ます。そして退路を断つかのように立ちふさがる嵐童、蒼牙と、その後ろに控えるエステラとパフィー。
「お二人には縄に付いて頂く‥‥拒否されれば‥‥私怨は無いが江戸の平和と秩序の為、ここで死んで頂きたい」
「世間知らずなお坊ちゃまにはキツーイお灸をすえて差し上げますわ。それはもう、火傷では済まないく・ら・い・に」
 緋室とパフィーの言葉が引き金となり、乱戦へと突入しました。
「逃がしませんわ! 唸れ!! 豪火よ!!」
 弾かれたかのように逃げ出そうと動く息子の前に、巨大なマグマの噴出が起こります。
「あの子が受けた苦しみ‥‥貴様らも味わえ!」
「‥‥外道が‥‥貴様達は鬼子母神豪の名においてゆるさん!!」
 怒りの声と共に蒼牙のかけるオーラパワーを受け、鬼頭が容赦なく雇われ者の足を、腕を切り伏せていきます。その横で、怒りに震えながら向き合う浪人と斬り結ぶ豪。
「優しく包み込むのも愛でしょうけれど、糺すのも愛です――往生なさい」
「俺はテメェらみたいな連中が大嫌いでね。悪いが成敗させて貰うぜ!」
 逃げ出そうとする母へとエステラがウインドスラッシュを打ち込み、何とか逃れようとする息子の足へ青島が一撃を打ち込み昏倒させて顔を上げると、すでに雇われ者達も動けないように痛めつけられ、床へと転がっていました。
「‥‥お前等、調子に乗りすぎだ」
 息をしていない取り巻きの一人を冷たく見下ろしながら、嵐童は吐き捨てるようにそう言ったのでした。

●愛刀
 年若い依頼人宅では、無事に持ち直した少年を囲んで、ささやかなお祝いをしているところでした。
「皆様、本当に有難うございます」
 そう何度も頭を下げる依頼人。豪はそっと少年へと愛用の日本刀を手に歩み寄り、それを布団の上に座っている少年へと握らせると、その頭を優しく撫でます。
「よく頑張った張ったでござるな。これは君の回復祝いでござる。痛みを知ってる君なら拙者のこの刀を間違ったことには使わぬと信じてるでござるから。君には他者を守る立派な剣士になって欲しいでござる」
 そう言う豪に、子供の腕には重すぎるそれを、大切そうに抱えて、少年はこくんと頷くのでした。