三行半
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月10日〜09月15日
リプレイ公開日:2004年09月19日
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●オープニング
三行半というものがある‥‥。
いわゆる離縁状、縁切りの証‥‥武家などで三行半で書かれるこれ、字の書けない夫なら、人に代筆頼むか、鎌とお椀の絵を描いて『構わん』などと当て字にされたこれ。
しかし、三行半というものは去り状としての意味以上に重要な意味を持つものだったりするわけでして‥‥。
「あのう、三行半を、取り返して欲しいんです。ただその、こっそりと、見つからないように‥‥」
30手前の品の良さそうなふっくらとした女性がその依頼を持ってきたのは、本当に良く晴れた、まだ暑さの残る昼下がりでした。
「私、とあるお侍の所へと実家から多額の持参金を持たされ嫁いでいたのですが、どうにも旦那様は線の細い女性がお好みとかで、ただ毎日家事をこなすだけ、辛く当たられておりました。それでも3年、お仕えさせていただいておりましたが、跡取りが出来ぬのはお前の所為と無体なことを言われ追い出されてしまいまして‥‥」
どこか困ったようにそう言うと、小さく溜息をつきます。
「それで、母は他界致しましたが父が許せないと、まぁ、人を雇って離縁状を書かせまして。元々、夫の都合で追い出されてしまったもので、別れたあとはどうしようと構わぬという、再婚することも出来るようになるためにも必要なことですし。こう、木簡に‥‥俗に言う、三行半ですね。ただ問題は、夫の都合で離縁するとなると、持参金はそっくりと返さなければ行けないわけで‥‥」
男性が気に入らなければ追い出せるという意味合いを持つこの三行半、落とし穴としては、夫の都合で離縁する場合には、持参金はそっくり『全額』返さなければいけないと言う決まりもあります。しかし、普通は持参金を返したくないものです、浪人の立場なら余計に。
事情を説明すると、女性は少し考えるように首を傾げて続けます。
「それで、その‥‥今度は旦那様が人を雇って、脅されて書かされた物だと言って、三行半を奪い取っていってしまった訳です。その頃、とある御店の後妻に、とお話しを頂いておりましたので、私も先方様もとても困ってしまいまして‥‥」
そこまで言うと、女性は溜息をつきます。どうやら詳しく聞いたところ、女性の父親は、また人を雇って奪い返そうと考えたらしいのですが、泥沼になるのを恐れて、この女性が1人でやって来た様子です。
「その、ですので‥‥出来れば‥‥こっそりと取り返して貰えないでしょうか? 三行半があって、先方様と話しさえまとまれば、これ以上何もしてこないと思うので、その、取り返したことが、旦那様に知られさえしなければ、きっと平和に事が終わると思うのです」
そう言うと、女性は深々と頭を下げました。
「お願い致します、諍いを起こさず、わたくしの三行半を取り返していただけないでしょうか?」
●リプレイ本文
●噂の旦那
「あそこに住んでいる人はどういう方ですか?先ほどすれ違ったときに顔色が悪かったので気になるのですが」
元旦那の直ぐ近くに住む老人へと回診に来た風御凪(ea3546)がそう聞くのに、その家の住人は少し困ったように顔を見合わせます。暫く迷う様子を見せると、その家の奥さんが溜息混じりに口を開きます。
「いえね、越してきてからしか知りませんけど、優しい奥様追い出して、随分勝手をやっているそうなんですよぉ? だいたい一日おきに飲みに出て、その日は大抵帰ってきませんでしたけど、最近なんだか飲みに出ても泊まってくることが減ったようで‥‥」
そう言うと頬に手を当てて溜息をつきます。どうやらご近所との付き合いなどはとても悪いらしく、飲み歩いているという印象以外、いつも機嫌が悪そうだと言うことしか分からない様子です。
「知人にあそこに住む浪人の事が少し気になる女性がいるので、人となりが知りたいのですが‥‥」
「悪いこた言わない、あれだけはやめておけ。陰険で嫌ぁな感じの奴さ。その気にしているって女性にそう伝えて上げておくれよ」
御蔵忠司(ea0901)は同じ長屋に住む男に声をかけますが、男はよっぽど嫌な思いをしたことがあるのでしょう、肩を竦めるとそう言って溜息をつきます。結局聞けたことは、だいたい2日おきに飲みに出るということだけでした。
同じく普通の目立たない格好へと着替えて、長屋の女将さん達の井戸端会議へと参加した鹿角椛(ea6333)も、あまりたいした収穫が無く困っていたのですが、ちらりと旦那本人を見かけることが出来ます。元旦那は血色の悪い中肉中背、目つきが悪いと言ったあまり良いところの感じられない男で、椛が見たところ、実力としては腕としてみて自分と同じ程のように見受けられました。
昼間、風御達が情報収集をしている頃、南天桃(ea6195)は依頼人の女性の部屋で、お茶とお菓子を頂きながら話をしていました。
「今度の旦那さんはいい人なんですよね〜。私〜お姐さんの幸せそうな顔みたいです〜」
桃の言葉に依頼人は頬を染めてにっこりと笑いながら頷きます。
「ええ、とても優しい人なんですよ。私より十程上の方で、先に奥様を亡くされていて‥‥お子様も居ないのに、ずっと奥様を偲ばれて独身でいらしたとか。ですが、私のことを気に入って下さったそうで‥‥」
そう言う依頼人はとても幸せそうです。
「そのためにも三行半を取り戻さないとですね〜。元の旦那さんが隠しそうな場所とか、心当たりありませんか〜?」
そう聞かれると、依頼人は少し困ったように考え始めます。
「そうですね‥‥昔は仏壇に大切な物をしまっていたのですが、見つかりやすいとおっしゃって変えられてしまっていたので‥‥。あるとしたら、押し入れの戸の裏か、もしくは柳行李の中、でしょうか。ごめんなさい、あまり役に立てなくて」
依頼人の言葉を桃は頷きながら聞くと、役に、というのには首を横に振りました。
夕刻、大宗院透(ea0050)は人遁の術で姿を変えながら、酒場で元旦那の近くに腰を下ろして様子を窺っていました。
「‥‥‥あぁ、当てはないが一度行ってみようかと思ってな‥‥旅費の工面ぐらいしてくれるだろう? 3日か4日後‥‥まぁ、どちらにしろ、数日後辺りと考えている」
先ほどから元旦那は自分より幾つか年下の侍を相手に金の無心をしている様子です。とは言っても、何かを匂わせるようににやにやしながら見られる侍は、うんざりしたような、それで居て諦めたかのような様子で小さく息をつくと、明日またここで落ち合おうと言います。どうやらこういう無心はいつものことらしく、うんざりしたような、忌々しいような表情を浮かべながら席を立って出て行く侍。
「これで当座はやっていけるな」
元旦那がそう言うのを確認すると、透は怪しまれないように席を立って姿を隠して元旦那が出て来るのを待ちます。やがて出てきた元旦那は、上機嫌で自分の長屋へともどりました。
「‥‥どうやら、元旦那は強請などで今やっていっているようですね‥‥」
「やっぱ典型的な駄目人間だね、あ〜あ、戦闘厳禁じゃなければ、すぐにでもライトニングサンダーボルトを撃ち込んで息の根を止めるのに。僕は、あの手の人間の生命その他を尊重できるほど出来た人間じゃないしね」
相談をするために依頼人の屋敷へと集まってから言う透の言葉に、アーク・ウイング(ea3055)が肩を竦めながら少しばかり物騒なことを言いますが、各々が調べてきた話を考えれば当然の反応でしょう。
「今日一日、あの旦那が居るあいだ聞き耳していたのじゃが、酒を飲んでごろ寝して居るぐらいで何かをしている様子もなかったのじゃ」
レダ・シリウス(ea5930)が呆れたように言うのに、少し考えるように天涼春(ea0574)が口を開きます。
「近隣の物の話では、常日頃からそのような生活を送っていると聞く。ならば何か起きない限り、今日明日の行動が変わることは無いであろう」
「ならば、確実にいないと思われる明日に一度、元旦那の長屋を調べるのが良いかもしれませんね。俺は一番長屋に近い橋を変装でもして見張っているつもりです」
風御がそう言うと、明日に備えて改めて分担を確認して解散と言うことになりました。
●三行半は何処に?
昼間、長屋でぐだぐだと酒を飲んで寝ていた元旦那は、夕刻にのそのそと起き出して上着を引っかけると立ち上がって長屋を出ます。それを見て、レダが後を付け、透と桃が元旦那の長屋へとこっそり入り込みます。長屋の入り口で辺りを見張る椛。
元旦那は、長屋を出たばかりの所に幾人かが集まっているのに気が付き、其方へと目を向けました。
「生前の行いは業として来世に受け継がれる。御仏にお布施を施せば、御仏の力により救われ、来世で幸福な生活を送る事が出来るのである」
其処には、古く洗い晒し年季の入った僧衣を身に纏って辻説法をしている涼春の姿がありました。涼春の立ち居振る舞いにより、そこで足を止めて話を聞き入る人々を尻目に通り過ぎようとする元亭主。それを涼春が呼び止めます。
「そなたも現状に不満を覚えておるのか?」
涼春の言葉に、ぎょっとしたように見る元旦那。どこか考えを読まれて薄気味悪く感じている様子です。
「別に坊主になんざ用はねぇ」
少し苛ついたように言うと背を向けようとするのに、涼春が追い打ちとばかりに口を開きます。
「そなたはよほど心に余裕がなかったのであろう」
「何ぃ?」
言われた言葉に足を止める元旦那と涼春のやり取りを、付近の者ははらはらとした様子で見ています。
「例え地位や財産を失えど、人としての誇りは失ってはならぬ。失った物の価値はなくした後に気付くのである。これも因果応報の一つであるよ」
言われた言葉にさっと顔色を変えて背を向け、足早に去っていく元旦那を見送り、涼春は小さく息をつきました。
そのころ、長屋では、透が薪等の場所を調べている横で、押し入れを開けて、桃が布団や、柳行李がないかどうかを探しています。
「う〜男の人の匂いです〜我慢です‥‥」
そう言いながら三行半を探しますが、どうにも散らかっていて探すのに苦労していました。
元旦那が酒場に急ぐのを、レダは出来るだけ見つからないようにと気を配りながら追いかけていました。幸いなことに雲が出ていてレダの陰を元亭主に見つけられることはないものの、いつ雲が切れるか分からないため、どうしても慎重にならざるを得ないようです。
無事酒場へ旦那が入っていくのに、様子を窺っていると、そんなに経たないうちに懐に入れた手で何かを抱えています。もう片方の手には酒を持ち、一杯引っかけたのか、ほんのりと酒の匂いをさせながら戻ってくるのに、レダは大急ぎで元旦那が出てきたときのためにと控えていた御蔵の所へ急ぎます。御蔵に元旦那のことを伝えると、レダは長屋へと急ぎます。
「長屋近辺に不審人物が出没しており、その警戒の為ご協力をお願いしたく」
「るせぇな、俺には関係ねぇだろが」
横をすり抜けようとする元旦那の前へと立つと、その行く手を塞いで身体検査をするのに、自分より実力が上の人間であると見ると悪態を付きながらも抵抗をする様子はありません。御蔵は身体検査をして懐にそれなりをお金を抱えてみるのを見つけながら、早く家捜しが終わるように、と考えていました。
レダは風御へと旦那が酒場を出たことを伝えると、真っ直ぐに長屋へと向かって入って行き、口を開きます。
「見つかったかのう? 何所を探したのじゃ、まだなら手伝うのじゃ」
そう言うと台所を中心に探し始めます。橋の方へと元旦那がやってきたというのを風御からヴェントリラキュイで伝えられた椛が焦れ始めた頃でした。
「ありました‥‥」
床下を探していた透が三行半を手に出てきますと、長屋を探していた面々は、偽物の三行半とすり替えて、怪しまれないように、長屋からそれぞればらばらに散って立ち去るのでした。
●依頼、成功?
依頼人とお話にあった先方に無事に三行半を渡した一行は、茶などを頂きながらお祝いなどを述べていました。
「『三行半』とは、『ミクロ離反』状です‥‥‥‥ちょっと難しいです‥‥」
透が言うのに一瞬の間がありますが、先方の男性が袖で口元を押さえて小さく肩を震わせ、その隣の依頼人がイギリス語を交えた駄洒落がよく分からない為、とりあえずにこにこと男性を見て居ます。
「過去の事は忘れ、新たな伴侶と共に幸福な家庭を築く事を祈る次第である」
涼春の言葉に嬉しそうに微笑む依頼人。
その横で、何かを企んだ顔でアークが笑っています。数日後、それがきっかけで三行半がすり替えられたことに気付かれ、依頼人が少しだけ面倒に巻き込まれるのですが、それはまた別の話でしょう。