形見の陣羽織

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月08日〜09月15日

リプレイ公開日:2004年09月16日

●オープニング

 涼しい風も吹き始めてくるような昼下がり、1人の志士の娘がなにやら大切そうに陣羽織を風呂敷で包んでやってきました。
 その娘は至って真面目でした。
 その陣羽織は死んだ恋人の形見だそうです。
 そして、その娘は今、一つの縁談が持ち上がっていました。
「お願いします、わたくしの恋人の陣羽織、守り通していただきたいのです」
 その娘はどきっぱりとそう言いました。至って真面目な顔で言われる言葉にしては、なんだか不思議な言葉に、ギルドの人間が目を瞬かせて首を傾げます。
「わたくし、縁談が持ち上がっておりまして‥‥今はその気がないと言っているのですが、どうしても家族がこれを処分しようと‥‥そして、わたくしはここより2日程行った先に、縁談に連れて行かれることになったようで、その留守中に処分しようとしているようで‥‥」
 至って落ち着こうとしながら話して居ますが、顔は怒りのためか引きつっています。
 話を聞けば、恋人であった志士の遺言通り、神皇家に生涯忠誠を誓って行きたいと考えているようです。
「行って先方に『一昨日来やがれ』と言いに行くためにも、とりあえずついて行かなければならないのですが、その間これをどうされるか、それだけが心配で心配で‥‥」
 そう言って、風呂敷に包まれた陣羽織をそっと手で撫でます。
「別に、一生嫁がないとは言っておりません‥‥いえ、言っていないだけで嫁ぐ気は毛頭ないんですが。ただ、こういう形で無理矢理形見を奪われるっていうのが、理不尽で頭に来るので‥‥わたくしの不在中、この陣羽織を預かって守って頂けませんか?」

●今回の参加者

 ea0053 高澄 凌(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0076 殊未那 乖杜(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea1050 岩倉 実篤(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1966 物部 義護(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3488 暁 峡楼(28歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea4364 天薙 綾女(32歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5209 神山 明人(39歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5557 志乃守 乱雪(39歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●備えあっても‥‥
「しかし何だね。恋人を縛りつけるような遺言を残す野郎もどうか。お家を守ろうとする連中と、恋人との思い出を守ろうとするお前さん、どこがどう違うのか‥‥」
 高澄凌(ea0053)の言葉に、キッと依頼人はきつい眼差しで睨み付けます。
「わたくし、別に跡取りでもなんでもありませんし、思い出も家も大事に思っています!」
「いや、根無し草の戯言だよ。――だがな、決して後悔の無いようにな。本当に大切なものは何か。常に頭の片隅で考えておいた方がいいぜ」
「言われずとも、後で後悔しないようによく考えての行動を取っています」
「ほ〜、随分と勇ましい娘さんだこと。今や『大和撫子』も夢幻か?」
 よほどかちんと来たのか、依頼人、鈴香の口調は厳しいものです。言われる言葉に高澄は肩を竦めて小さく呟いていますが、それは鈴香の耳には入らなかったようです。
「では、宜しくお願い致します」
「期待に添えるよう全力を尽くすつもりだ」
「お任せ下さい。鈴香様も、ご武運を‥‥」
 改めて一行へと向き直って言う鈴香の言葉に、神山明人(ea5209)は頷き、天薙綾女(ea4364)はにっこりと笑って送り出します。
 綾女の住処へと場所を移すと、一同は昼、夜の分担を分けて、方針などを相談していました。殊未那乖杜(ea0076)は、予め鈴香から見聞きした特徴を控えた物を眺めながら、綾女へと間取りを確認しています。
 それぞれ分担を確認すると、陣羽織は隠して偽物にすり替えるという案も出たのですが、目を離した隙に掠め取られては、ということになったようで、陣羽織は常に目の届く、家の中心に、それぞれ目を離さないように置かれることとなりました。
 それを確認してから、志乃守乱雪(ea5557)は何やら手紙をしたため、少し出かけます、といって出ていったのでした。

●家人の訪問
 次の日の昼間、殊未那が陣羽織へと張り付き、物部義護(ea1966)は住処の周辺を見て回っています。高澄はふらっと出かけて行った様子です。
「どうしてそんなに結婚させたがるのかな〜? 本人の意思に任せればいいのに。こうやって話がこじれてゆくんだろうね‥‥」
 屋根の上に腰を下ろして不審な人物がいないかどうかを確認しながら、暁峡楼(ea3488)が小さく溜息をつきます。
「最悪放火とかあるし‥‥まぁ、其処まではしないと思うけど‥‥」
 ジャパンでは放火は恐ろしい被害をもたらすものとして大罪になるのだとどこかで聞いたことがあるのを思い出しつつ、峡楼は有り得そうな事態‥‥押し入ってくることぐらいは有りだそうだし、と呟いて再び辺りへと目を向けました。
 出かけていった高澄は、綾音の住処の側にある店の表にある席へと腰を下ろすと、蕎麦を注文して、直ぐに出て来るものを啜りつつ、何気なく辺りを見渡します。どうやら入った店は当たりらしく、豊かな蕎麦の風味を堪能しながら、特に変わった様子がないのを見届けると、食べ終えて立ち上がります。
 ふらりと歩いていくと、綾女の住処へと向かう道にある茶店から、良い匂いがするのに足を止めて、其処にある団子を注文しつつ、何の気なしに綾女の住処を眺めていました。と、茶店の隅に、明らかに武家の人間と分かる男達が3人程、ひそひそと話しているのに気が付きます。
「良いか、とりあえず手に入れてしまえば‥‥」
「本当にそれさえ片づけてしまえば済むんですか? お嬢さんの気質を考えると‥‥」
「‥‥‥仕方なかろう、父も母も、娘の幸せは良縁のみだと固く信じてるんだから。まぁ、あれの意志はこの際目を瞑って、とりあえずお前達は取り返してくるか、陣羽織を片づけてこい」
 2人の男に指示を出しているのは、どこか鈴香に似た様子の男性で、二人の男を送り出すと、うんざりした様子で茶を啜っています。それを確認してから、高澄は何食わぬ顔で二人の男の後に続いて様子を伺っています。
 峡楼は明らかに侍である2人の男の後を、高澄がぶらぶらと付いてくるのに気が付くと、急いだ様子で屋根から降りて、当たりを巡回中の殊未那へと耳打ちをして自身は入口側の物陰へと身を隠し、殊未那は家の中へと入っていき物部へと2人組の男がやってくるのを伝えて二人で待ち構えます。
「‥‥御免仕る、鈴香という志士がこちらに預けて行かれた物をお引き渡し頂きたい」
 有無も言わずに戸を開いて入ってきながら言う言葉に、物部は口を開きます。
「断る! この陣羽織は帝から下賜された物。我等の忠義の、誇りの証でもある‥‥それをぞんざいに扱おうとは、故人に対しても無礼千万であろう。同じ皇家に仕える者として看過出来ぬ」
「その陣羽織については、当家の問題。金で雇われた者が大口を叩くな」
「金なら払われた額の倍を出そう、さっさとそれをこちらへ渡すんだ」
 2人の男が言う言葉にジロリと睨み付けながら殊未那は言い放ちます。
「交渉に応じる気はない。とっとと帰るんだな。言っておくが、俺たちに勝てると思わない方が良い。さっさと諦めろと伝えておけ」
「何をぉっ!」
「よせ。‥‥後で後悔するなよ、貴様ら‥‥」
 一人の男が刀に手をかけるのをもう一人の男が手で制すと、吐き捨てるように言っていきり立つ男を引きずって綾女の住処を後にします。
「さて‥‥どう出るか」
 去っていく男達の背をきつく睨め付けながら、物部は小さく呟きました。

●攻防
 鈴香の帰ってくる前日。まるで嵐の前の静けさとでも言うかのように、何もない日が続きました。その間、高澄は辺りの美味しい物をあらかた食べ尽くし、岩倉実篤(ea1050)が夜の番の間に用意しておいた酒を飲み尽くした他は、これといった事も起きずに平和に時が流れていました。
 その者達がやってきたのは、ちょうど昼と夜の番が入れ替わる時間帯でした。高澄が始めに鈴香の縁者を見た茶屋から出て、住処へと向かおうとした時でした。何やら気合いの入った武装に、顔を隠した4人程の侍と共に、前に男達に指示していた男性が現れ、そこで男達と分かれて茶屋へと入ってきて茶を頼みます。
 それを確認してから、高澄はゆっくりと綾女の住処側へと歩み寄って男達の様子を窺います。
 男達の行動は乱暴そのものでした。裏口と表に2人ずつ、それぞれにとを蹴破り、互いに最短距離で陣羽織へと向かいます。しかし、男達の行動は事前に峡楼が屋根から降りる前に見て気が付き、また神山の鳴子が裏口からの進入を知らせたため、それぞれ迎え撃つ準備は万全でした。
 斬りつけながら踏み込む男の刀を避けるとスタンアタックを叩き込む岩倉。倒れる男を綾女が押さえ込んで手早く気が付いたときに暴れないようにと縄できつく縛っています。その横では男が飛び込むのを脇へと避けていた物部が、短槍で足下を掬い、間髪入れずに押さえ込んで居ます。
 裏口には乱雪と峡楼、それに事未那が控えていました。陣羽織へと筒激する男に、その真鍮の煙管が容赦なく襲いかかります。
 その横で峡楼がオーラパワーをかけて叩き込む一撃を避けた男に、乱雪のスタッフが叩き込まれて、最後の男も倒れ臥します。
「‥‥‥む、戻ってこない、か‥‥」
 茶屋で男性がそう呟いて席を立つと、通りへと出てゆっくりと歩み去ろうとしています。と、男性の前に立ちふさがるように高澄が待ち構えていました。
 刀へと手をかけて抜く男性に、高澄も構えます。
 刀を抜かない高澄に馬鹿にされたと思ったか斬りかかる男性ですが、避けられ足をかけられて豪快にひっくり返ると、高澄に押さえ込まれます。
「‥‥‥兄上、何をやって居るんです? こんなところで」
 と、呆れたような声が上がると、其処には何やら馬を引いて、同じように馬を引いた立派な身なりの青年と立っている鈴香の姿がありました。

●前途は多難?
 捉えた男達を引っ立てながら、鈴香の家へと向かう一行。鈴香の話を聞くと、どうやら乱雪からの手紙を受け取った青年が、とりあえず、乱暴な手を打たないようにと鈴香の両親へ話を付けるために付いてきた、ということだそうで、鈴香も付き添いの爺等を置いて、二人で馬を飛ばして戻ってきて、早くに着いたと言うことだそうです。
「別にこちらは急いでいませんし、話してみたらさばさばしていて見ていて気持ちの良い方でしたので、まぁ、良い友人にでもなれれば良いなと‥‥志士同士、色々腹を割って話すことも出来るでしょうし」
 のんびりとした様子で話す青年。鈴香は兄と呼んだ男性を偉い剣幕で叱り飛ばしています。
 鈴香の屋敷へと着くと、捕まえられた家人と息子に娘、そして縁談の相手までやってきている様子に唖然として見ています。
「此度のような事で娘さんの未練がなくなるでしょうか。恋する人を失い傷ついた家族の心、それをなお踏みにじろうとするあなた方の振る舞いこそ、人でありながら悪鬼さながら。遠からず仏罰が下るでしょう。二度とこの様な真似はなさらない方が宜しいですよ」
 乱雪に説教を受けながら、自身に非があるためにそれ以上何も言えなくなる両親を見つつ、峡楼に見合いの話を聞かれて、乱雪の『亡くなった恋人への思いを断ち切れない、今回の縁談も当人は乗り気でないどころではない、ここまではよくある話かもしれませんが、これが通り一遍の乗り気でない具合ではない』と書き連ねられたなかなかに強者な手紙のお陰で、あっさりと相手が引いてくれたことなどを話します。
「死んだ男が羨ましくもある。ここまでおもわれるとな‥‥」
「全くですね」
 神山が呟くのに頷く青年。
「鈴香様、お困りの時はいつでもご相談に乗りますよ」
 綾女の言葉を聞くと、一瞬驚いた顔をすると、直ぐに嬉しそうに、鈴香は微笑んで頷くのでした。