●リプレイ本文
●娘の絵姿
一行は依頼人の若者と娘が出会ったという酒場で若者に話を聞いていました。
「わざわざ冒険者を頼むようなことなのでしょうか‥‥」
紫城狭霧(ea0731)の言葉に、若者はぶんぶんと首を振ります。
「いえ、普段は仕事で忙しくて夕刻から夜しか探せないんです。だから、昼間にしか外に出ない人や、お店などは見て回れないんです。かといって、そのために仕事を辞めてはそれこそ‥‥責任も全う出来ない男が妻を娶るなど出来るはずが無く‥‥うう、両立したいんですよぅ〜探すのもお仕事も〜」
途中迄はしっかりとしたところを見せていたものの、直ぐに気弱に卓の隅に指でのの字を書く依頼人。
「あの‥‥あくまでも、その女性の居所を探すだけ、それから先の判断は貴方次第だと思うんです」
「そこまでご無理言うわけにはいかないと分かっています。実際に何処の方かを知らないですと、どうしようもないですし‥‥かと言って、それ以上ご迷惑かけるわけには生きませんからね」
困ったように言う美芳野ひなた(ea1856)に若者はこっくりと頷いてそう言います。残された布に包まれた簪を大切そうに取り出しながら、何とか2枚ほど用意した簪の写し絵を差し出して若者は続けます。
「簪の絵は‥‥やはり紙と値段と絵師殿の都合で、何とか2枚用意しました」
そう言いながら簪の写しを書いた絵師をちらりと見ると、隣の卓で酒場のオヤジにも話を聞いて、娘の姿絵を描いている絵師の姿があります。だいぶ出来上がってきた様子で所々に筆を加えています。
「見つからぬなら話した内容から女性を探すのも手じゃろ。最も酔っ払って顔と同じで曖昧なのであろうがの、どうなのじゃ?」
レダ・シリウス(ea5930)が聞くのに、何とか思い出そうと頭を掻きつつ考え込む依頼人。やがて少しずつですが、思い出した事柄をぽつりぽつりと話し出します。
「確か‥‥弟が居るとか、あとは茶がどうの、器がどうのと‥‥そう言った話題が多かった覚えがあります。うちの店のご隠居が茶をやっているので、それで話が合って‥‥」
若者がそう言うのに、絵師がすっと近づいてきて出来上がった絵姿を見せます。そこにはおっとりとした様子の可愛らしい女性が描かれていたのでした。
●簪と娘
環連十郎(ea3363)と藤浦圭織(ea0269)は、酒場近隣の商家を回って見ていました。念のために預かった簪の絵を見せながら、何やら熱心な様子で、お茶を商ってる御店の娘さんを口説きながら話を聞くのを、圭織が笑いながら見ています。
「連十郎、また口説いてるよ」
小さくぼそっと言う言葉と共に、御茶屋さんの娘から、それらしいことが聞き出せなかったため、近くの茶屋に入って茶を啜りつつ相談しています。
「酔った席でもね、なんとなく気に入ってしまった人とかに冗談でも『好きだ、結婚しよう』なんて言われてしまったら、私はその場で承諾するんだろうなぁ‥‥あー、なんにしても羨ましい話だわ、まったく」
そう言いながらお茶を啜る圭織。
「それにしても、そんなにきれーな子だったなら、会ってみたいよな」
そう言いながら団子を頬張る連十郎に、お茶のお代わりを聞きに来た茶屋の女将さんが軽く首を傾げて声をかけてみました。
「あら、誰か探してるのかい? 綺麗な子って‥‥お椀などを扱っている、近くの骨董のお店にそれらしい可愛い娘が居たはずだよ」
「その子って、こんな簪を付けていたりするのかな?」
圭織がそう聞くのに、少し考えてから、女将さんは頬に手を当てて頷きます。
「あぁ、この間、そんな簪を持っていたような気がするんだよねぇ。ちょっと自信ないけどねぇ」
女将さんはそう言って申し訳なさそうに謝るのでした。
咲堂雪奈(ea3462)はその頃、酒場付近の御店で等で年若い娘が居るところを聞いて回っていました。何件か娘の居る家を聞き出すと、ついでに、依頼人のことを探して居る様子の人がいないかというのも聞いていると、兄がとある骨董屋に出入りしているが、そこの娘さんにこっそりとそのような人を知らないかと聞かれたことがあると教えてくれます。
早速その骨董屋へと向かう雪奈ですが、骨董屋の側にある茶店で白い大きな犬を撫でながらちょこんと座っているひなたに気が付いて足を止めます。
ひなたは友人である大宗院透(ea0050)と、白い犬へとミミクリーで化けて簪の匂いをかいで覚えた天道狛(ea6877)と一緒に行動していました。茶、器といった情報を頭に入れつつ聞き込んでいるうちに、骨董屋で絵姿の女性と簪を見たことのあるという話を聞いてやってきていたようです。狛が骨董屋の裏へと二人をぐいぐい引っ張っていくのに、透が若者から預かった簪の絵を持ってこっそりと忍び込んで、二人は茶店で待っていたようでした。
透が骨董屋の裏から住居部分へと入っていくと、離れにある部屋で腰を下ろして小さく溜息をついている娘が居ます。
「済みません、お尋ねしたいのですが‥‥近頃、この様な簪を無くされたりしませんでしたか‥‥?」
透が声をかけるのに、弾かれたように顔を上げる娘は、人がいるのに驚いた様子を見せますが、聞かれる言葉に絵を覗き込んでから頷きます。
「は? 確かにその簪はわたくしが無くしてしまった物ですが‥‥」
「酒場でのことを、覚えてらっしゃいますか‥‥?」
娘の言葉に続けて聞く透に、一瞬驚いた様子を見せて困ったように目を伏せると、娘は改めて小さな声を発します。
「それが‥‥ハッキリしなくて‥‥言われるまで、夢を見ていたのだろうかとずっと思っていたのですが‥‥」
そう言って小さく溜息をつく娘に、透はまた来ることを告げて、一度戻るのでした。
●お屋敷脱走
「自分は令嬢を連れ出したりはしたくありません。本人が会いに行くのは自由ですが、裕福な商家を不用意に敵に回す気はありませんし、我が主に万が一にもご迷惑をかけることになっても困りますから」
「でも、どっちかって言うと本人がどうしたいかじゃないかしら? 駄目と決まった訳じゃないし、聞いてみるぐらいは良いんじゃないの?」
狭霧がぴしゃりと言う言葉に圭織がそう答えます。
一行は依頼人と娘が会った酒場で各々食事や酒などを頼みながら、依頼人が戻ってくるのを待ちつつ今後について話していました。
「依頼人にどうするか聞いて、私が手紙を届けて娘の方にもどうしたいのか聞くのじゃ」
「でも‥‥もし、身分違いだったら、思い切った行動を取った事が二人を不幸にするかも知れないんですよ?」
困ったように言うひなた。
「本人に聞いて会いたい言うんやったら会わせてみればえーやんか。向こうも少しは気にして人に聞いてたみたいなんやし」
そんな会話をしつつ日もとっぷり暮れた頃に、依頼人が急ぎ足で酒場へとやってきます。
一行から首尾を聞いて会いたいかと問われるのに、少し悩んでから若者は口を開きました。
「先方がもし、会ってくれるというのならば‥‥是非会いたいのです。文を届けて、先方の意思を確認しようと思います。‥‥お手数をお掛けしました、有難うございます」
「ん〜、俺、まだその子に会ってないんだよな。ま、ちょっとぐらい余分に仕事しても罰はあたらんだろーしな」
依頼人が一行に頭を下げて席を立とうとするのに、連十郎が笑いながらそう言うと、圭織も頷きます。
「さ、相手に手紙を書くのじゃ。それで会って貰えるか否か、聞くのじゃ」
レダがそう言うのに、依頼人は頭を下げると、手紙をしたため、何度もレダに礼を言いながら手紙を託しました。
レダが離れの部屋に忍び込んで手紙を渡すのに、娘は手紙を受け取ると何度も繰り返し繰り返し読んでから、どこか嬉しそうに頬を染めて笑います。
「‥‥あの晩のことは、夢ではなかったのですね。どうしても確証が持てなかったのですが。この手紙の方に、お会いしたいのですが‥‥『あのようなところに行くなどはしたない』と叱られてしまい‥‥」
そう困ったように言う娘。家族が寝静まった頃に抜けだし、起き出すまでの間に話をするという風に話を付けると、レダは一度一行の元へと戻り、時間まで待ってから、透・連十郎と共に再び娘を訪ね、こっそりと屋敷を抜け出します。
「また、偉い美人さんだな」
依頼人と娘が話をしているのが終わるのを待ちつつ、連十郎が呟きます。暫くして、娘が簪を付けて部屋から出ると、再び娘を送り届ける一行。
「‥‥あの方も、頃合いを見て店へと訪ねてきて下さるそうで‥‥許しを貰うまでは大変かも知れませんが、二人で頑張ろうと約束しました。本当に皆さん、有難うございます」
そう言って深く頭を下げてから離れへと切れていく娘を見送ってから、一行はその屋敷を後にしました。
●嬉しい誤算
思った以上に早く依頼が終わって、少し手持ちぶさたであった一行の元へ、若者が件の娘と共にギルドへと訪ねてきます。
「実は、家の御店のご隠居と彼女の両親とは大変懇意にしていたようで‥‥ご隠居の口添えで所帯を持てるようになりまして‥‥」
嬉しそうに言う若者に、恥ずかしげに頬を染めて微笑む娘。
「”酒”の席での約束は”避け”られないものです‥‥」
透の言葉に一瞬場が凍り付く様子を見せますが、直ぐに若者と娘が顔を見合わせて笑い合います。
「本当に、その通りですね」
そう笑いながら言う若者は、娘と笑いあってから、もう一度深く頭を下げます。
「本当に、皆様にはお世話になりました。有難うございました」