●リプレイ本文
●警戒する子供達
「どのようなお子様達ですか?」
そう大宗院真莉(ea5979)が訪ねると、言われた言葉に大工は奥さんと共に顔を見合わせます。
「兄はとにかくしっかり者で、長屋の子供達の間ではガキ大将かな。妹は引っ込み思案でちょっと人見知りが激しいな」
そう説明している大工の横で、何やら大宗院謙(ea5980)が大工の奥さんにずずいと近づいて何やら話しかけています。
「今夜、子供について話し合いませんか」
よりによって、自身の妻の目の前で、旦那が目の前にいる人妻を口説いているのですから、真莉が怒る間もなく、怒りを爆発させた依頼人の大工の剣幕はそれは凄まじいものでした。
「人の女房になにしがるんでいっ! それ以上家のかかぁに近づいてみろっ!!」
怒り狂う大工を、長屋の他の住民が慌てて近づいて宥めたり押さえたりしているのに、つまらなそうにふぃっと謙はその大工の前から別の場所へと移動していきました。
大工夫婦が漸く落ち着いて真莉と話し始めると、子供達の事へと話が進んでいきました。暫く話をしていると、子供達が長屋へと戻ってきたようで、辺りが俄に騒がしくなります。
「イギリス語を話せるですってね。私も少し話せるの」
子供達が戻ってきたのを見て、真莉は話しかけますが、大人にいきなり言われる言葉に警戒して硬い表情で散り散りになって真莉を避けて家の中へと引っ込んでしまいます。
緋月柚那(ea6601)が依頼人である大工の家へと連やってきたとき、そんな様子でちょうど子供達が大人に対してますます警戒心を募らせているときでした。
「何、ほんの2、3日世話になるだけじゃ。食べ物の心配はいらんぞ」
そう言って幼い兄妹の目の前でクリエイトハンドを使い、1食分の食事を作り出すのを見て、妹は兄の後ろに隠れたまま、控えめに服を引っ張りますが、兄がじろりと見ると妹は直ぐにしゅんとした様子で黙り込んでしまいます。先ほど見知らぬ大人に異国の言葉の事を話しかけられたことで、だいぶ警戒してしまっている様子です。
「にーちゃん、あの子が出来たこと出来たら‥‥」
「馬鹿、父ちゃんが連れてきたんだぞ?」
ちっちゃな妹が兄に小さな声で聞くのに、兄はぴしゃりとそう言って切ると、お駄賃を貰うために庭を掃き掃除し始め、それを見て、妹も柚那を気にしつつも兄の手伝いを始めるのでした。
●備えあれば憂いなし
「聞いた話から考えると、子供達が隠しているのはエルフのイギリス人だと思うんだけどね。耳が尖ってるって言っても、シフールだとまず羽根に目がいくと思うし‥‥」
「子供達が覚える位何度も異国語で語りかけているなら、日本語は話せないかもな。‥‥俺の妹分のエルフと初めて会った頃の、言葉に苦労していた姿を思い出すなぁ」
アキ・ルーンワース(ea1181)が考えるように言うのに、貴藤緋狩(ea2319)がどこか懐かしそうに笑みを浮かべて言います。
「とりあえずうちは、子供達の後を付けて、川原の小屋か神社のどちらに行っておるのかを確かめるのじゃな」
枡楓(ea0696)が言うのに、少し考える様子を見せる跳夏岳(ea3829)は口を開きました。
「人が異国で子供から食料を貰っているって事になると‥‥一番可能性があるのは行き倒れだよね? いくら子供達から食べ残しやお菓子の差し入れがあるからといっても、正直充分食べているとは思えないし、もしかしたら大分衰弱しているんじゃないかな?」
「もし隠れている理由があるってんなら、それを取り除いてやりゃあ良いって訳だしな」
嵐山虎彦(ea3269)がそう言うと、アキが頷きながら言いました。
「お父さん達が邪魔してる‥‥そう思ってからじゃ、遅いから‥‥」
それぞれが席を立って動き出すと、夏岳は夏祭りの時にお世話になったという療養所の人達に、いざというときには搬入するいう話をしに行きます。
了承を得ると、おにぎりとお茶を用意して神社を調べつつの張り込みです。
夏岳が神社を調べ回っていると、やがて食べ物が一杯入った袋を片手に抱えた嵐山と、一緒にやってくる貴藤の姿が見られます。
神社を調べてみると、軒下に何やら食べ物を包んであったかのような入れ物が幾つか見つけられます。食べかすを運んできてこっそりと処分したのでしょう。
「やっぱり、子供達が隠しているのは、河原の小屋の方みたいだね」
夏岳はそう呟きながら張り込みを続けるのでした。
●子供達の隠す物
「お前、絶対に秘密、守れるか?」
兄妹が遊びに出るといって出かけようとしたとき、大工の奥さんに、柚那を連れて行って上げるように言われたため、渋々といった様子で一緒に出てから、兄の方がそう聞きます。
「もちろん、柚那は秘密を守るのじゃ」
「あのね、あのね、いーちゃんにいっぱいごはん、たべさせてあげたいの‥‥」
妹が小さな声で、神社へと向かう途中で柚那に言います。相変わらず兄の後ろに隠れたままではありますが。
神社へと付いた兄妹と柚那は、入口のところで何やら中を窺っている、同じ長屋の子供達の所へと行くと、怪訝そうに声をかけます。
「何してんだよ、こんなとこで」
「なぁなぁ、坊さんだったら、父ちゃん達とは違って大丈夫だよなぁ?」
「でも、大きいしこわいよぅ」
「でも、くいもんあの兄ちゃんにあげてるぞ?」
兄妹が神社を覗くと、そこには嵐山と貴藤が居ます。
「おう、お前らも食うか?」
子供達へと顔を向けてにっと笑う嵐山の横では、貴藤が何やら迫真の演技でお菓子へとかぶりついているところです。
警戒して近づかない兄妹は相変わらず入口のところで嵐山を見ていますが、他の子供達は嵐山へと近づくとお菓子を渡されて、大事そうに懐へとしまい込もうとします。
「今すぐ食わないのなら譲ってくれ‥‥腹減って死にそうなんだ」
「だめだよ、いーちゃんにあげるんだもん」
「ばか、しーっ!」
貴藤の言葉に一人の子がそう言うと、他の子供が慌てたように止めます。兄妹も警戒した様子ながら、少し嵐山達に近づいて様子を窺っています。
「そいつも腹すかしてんのか? 人事とは思えないな‥‥」
「俺らに話してみちゃどうだ?」
そう言いながら嵐山が子供の一人がこさえている膝の擦り傷にリカバーをかけて治して見せます。驚いたように見る子供達。それまでずっと警戒していた様子のが、それを見て、弾かれたように嵐山に近づきます。
「おっさん、それ、もっとおっきなけがとかでも治せるのか!?」
「おう、怪我の具合にもよるが‥‥」
「いーちゃんとこつれてってみようよ」
「でも、大人だぞ」
「でも、食べものくれたよ?」
そんな風にひそひそと話している子供達ですが、幼い妹がおずおずと嵐山に近づくと、小さく服の裾を引き、目に一杯涙を溜めて言います。
「あのね、いーちゃんけがしてるの‥‥いーちゃん、なおせる?」
妹がそう言ったことにより、子供達は困ったような様子を見せつつも、嵐山達に話してみることにしたようでした。
いーちゃんと会ったのは10日ぐらい前で、河原でぐったりしていたのを見かけ、使われていない小屋へと手を貸して運び込んだこと、怪我をしていて酷く怯えている様子だったので、食べ物を運んで元気になるように、子供達なりに考えて世話をしていたと言うことを話してくれます。
河原にある小屋の前で子供達が声をかけてから入ると、小屋の隅で元からあったらしき布団に寝かされた、衰弱し切っている金髪の人物が見受けられます。
「こりゃ、酷い‥‥」
ぐったりとした様子の人物に歩み寄って様子を見て、貴藤が顔を顰めます。子供達があり合わせの布で押さえた傷などは、とりあえずくっついている、といった感じの金髪のエルフは、うっすらと目を開けて子供達へと目を向けると、かすかに微笑んで見せています。心配をかけまいとしている様子ですが却って見ていて痛々しく見えてしまいます。
「こりゃ、ちゃんとした所に運ばないと危ねぇな‥‥」
そう言って嵐山が二言三言イギリス語で話しかけますが、どうもくぐもっていて聞き取りにくく子供達にも反対されてしまい、食べ物を少し与えてから困ったように息をつきました。
●いーちゃんと一緒
子供達が居ない間、嵐山や貴藤が面倒を見ると約束させられてから、数時間。とっぷりと日が暮れた頃、アキは河原の小屋を見て回りながら、幾つかうち捨てられた小屋があるのに、少し考え込みます。と、そこへ背後から忍び寄る楓が、ふっと耳元へと息を吹きかけます。
「うわっ!? 何するんですかっ!」
「捜し物の小屋はもっと先じゃ。言葉が上手く通じない様子らしいし、行ってみてはどうじゃ?」
楓に案内されてアキが小屋へと向かうと、しつこく言い寄っていた謙を振り切ってやってきた夏岳と遭遇します。それを確認してからアキが小屋へと入っていくと、嵐山達に軽く頭を下げてからエルフへと歩み寄って声をかけます。
『子供達の親御さんから言われてやってきました、ギルドの者です。親御さん達は、子供達のことを心配しています』
アキの言葉に、かすかに頷くエルフ。何とかアキに自分はイーノックというイギリス人であることを伝えます。
療養所に運ぶことも、そこで子供達に通訳付きで説明することも了承するイーノック。それを聞いて、嵐山が夏岳に先導して貰って小屋から運び出していきます。
『ちゃんとした形で子供達の傍に居て欲しい』
そう言うアキの言葉に頷いたイーノック。
アキは貴藤と共に依頼人の家へと向かって事情を説明すると、子供達もいーちゃんが助かるなら、と渋々納得してくれたようです。
数日後、療養所で通訳を通し子供達と仲良く話すイーノックの姿を見ることが出来ます。大工の長屋の人達も、大家さんに掛け合って迎え入れてくれる事を約束した様子で、子供達がそれを嬉しそうに話している姿を見ることが出来るのでした。