捕り物・兇漢研ぎ師
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:1〜4lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 20 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:09月28日〜10月03日
リプレイ公開日:2004年10月05日
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●オープニング
巷でとある武家の主人とその奥方が殺されたという陰惨な事件の話題で持ちきりになっている頃、一人のほっそりとした女性が、薄曇りの空の下、辺りを窺うようにしながらギルドを訪れました。
その女性は端正な面差しに、痛々しい刀傷の跡を頬に残し、その左腕は肘から下がありませんでした。その物腰は至って上品で、高い教育を受けていたことが窺えます。
「お願い致します、なにとぞ、旦那様と奥様を殺した犯人を捕らえて頂きたいのです‥‥」
そう言うと、その女性は暫く迷った様子を見せてから、改めて口を開きました。
「わたくし、今巷で話題になっている事件の生き残りでみそ乃と申します。‥‥旦那様にお情けをかけて頂き、身請けして頂きましてから、旦那様もそして奥様も家人としてそれは大変良くして下さいました‥‥」
そう言うとみそ乃は、手拭いで目元をそっと押さえると、少し声を震わせながら話を続けました。
みそ乃の話では、御用達であった出入りの研ぎ師がいたらしいのですが、みそ乃にしつこく言い寄ったそうです。それを嫌がったみそ乃が研ぎ師を振り、主人も見かねてその研ぎ師をお役御免にして、別の信頼できそうな研ぎ師を探し、刀を頼むことにしたらしいのです。それを恨みに思ったのか、研ぎ師は自身で研いだ刀を手に夜に忍び込み、みそ乃と主人を殺そうとし、みそ乃自身は主人と奥方に庇われて片腕を無くした程度で命を取り留めましたが、庇った二人は助からなかったそうです。
「跡取りの若様は助けに来て下さった為に手傷を負われ、本当に良くして下さったお二人が亡くなられて‥‥。若様には後追いも許されず、生き恥を晒して参りましたが、どう考えても、お二人を殺したあの男、許しておく訳にはいかず‥‥それでいながら、未だ捕らえられていないのかと思うと‥‥」
そう言って声を詰まらせるみそ乃。
殺した男は自身で研いだ刀を手に、未だ逃げ回って江戸内を転々として逃れる機会を窺っているようで、みそ乃は居ても立ってもいられずにやってきた様子でした。
「お願い致します、あの男を引っ捕らえ、わたくしと、お二人のご無念、どうか‥‥どうかお晴らし下さいませ!」
片手をついて、みそ乃は涙ながらに頼むのでした。
●リプレイ本文
●みそ乃
「つらいだろうけど思いつめるのってよくないよ。今回のことには何の責任も無いんだから。みそ乃さんにも、もちろん亡くなった御二人にもね」
天狼寺雷華(ea3843)の言葉にみそ乃は小さく頷きます。白羽与一(ea4536)に言われて共にいる若侍は、傷が深く療養していることに、悔しそうに唇を噛みみそ乃を見ています。
「みそ乃殿も若殿も、ちゃんとお食事を取られていますでしょうか?」
そう言いながら入ってくるのは、使用人を装った与一です。家の使用人が用意してくれた消化に良い粥などを運びながら、与一はそれを若侍とみそ乃の前へと置いてから、みそ乃へと粥を勧めて続けます。
「お二人が命を賭け救った命‥‥粗末にしてはお二人の罰が当たりまする」
「生きてる人間が故人に出来るのはその人を忘れないこと。そして、その人の分まで生きること。この二つだけよ。後追いなんてしたって誰も喜ばないわ」
与一の言葉に雷華も頷きながらそう言い、与一に渡された粥の茶碗へと目を落とすみそ乃。その様子を、屋敷の警護をしていて通りかかった烈牙飛叡(ea6926)が目を留めて、軽く戸口に寄りかかるようにして声をかけます。
「俺たちが絶対仇はとってやるからな‥‥」
その言葉にみそ乃は目を伏せると一筋涙をこぼしてから、そうっと粥に添えられた匙に手を添えるのでした。
●唯一の糸
番所に頼んで手に入れた手配書を受け取ってから他の仲間と別れて人相書きを見ながら、死先無為(ea5428)は、リュミエール・ヴィラと僧兵の高野鬼虎に手を借りて、関所や渡し場に確認をとって、徐々に内側へと場所を移して聞き込みをしていました。
「どうやらこちらの方から江戸を逃れたというのはないようですね‥‥」
一人を連絡に向かわせてから少し考えるように呟く死先。
「となると、暫くは警戒が弛むのを待っているのかも‥‥」
そう言いながら食料品などを扱う一帯を目指して向かう死先。幾つかに聞いて回ってみましたが、食料を大量に頼んだりといったことは、まだ行われていないようでした。
一方、雪切刀也(ea6228)もまた、死先とは反対に位置する一帯から徐々に内側へと移動しつつ聞いて回っていましたが、事件が起きてそんなに経っていないため警戒が厳しく、まだ江戸を出る様子は見せていないようです。
渡部不知火(ea6130)はみそ乃に聞いて、身請け前にいた店の辺りへと足を向け、それに二条院無路渦(ea6844)がついて行きます。
女性同伴のため、訝しげに見られたりしつつも客引きをしている女の所へと入り込む事が出来ます。不知火は身請けされた遊女の話をすると、意外なことにみそ乃のことを知っていたようで懐かしそうに目を細めます。
「みそ乃姉さんは優しくてあたしみたいな女のことも気にかけてくれて‥‥姉さん身請けされたって聞いた時は嬉しかったもんよ」
客ではないのを残念がりながらも茶を入れて2人に出して、嬉しそうにそう言う女。
「姉さん、幸せにやってるんでしょ?」
そう聞く女に不知火と無路渦は目を見合わせます。凶悪な事件は知っていても、誰が被害者か、女の耳には入っていない様子です。案の定、事件に巻き込まれたのがみそ乃であることを告げると、女は唖然とし、やがて顔を怒りで紅潮させます。
「健気だと思わなぁい? 身請けしてくれた旦那様夫婦の仇を討とうとしているんですものぉ」
不知火の言葉に女は少し考えると顔を上げて口を開きます。
「あたしに出来ることがあったら言っておくれ。居漬けの旦那とかでは心当たりはないが、そう言う奴らの耳に入れたいこととかには重宝なのが居るからね。あたしのイロなんだけどさ、そいつお人好しだから頼めば力になってくれると思うよ」
暫くしてやって来た遊び人風の男に事情を話すと、自分の事のように怒り、何か分かり次第訪ねていくと約束をして2人を送り出しました。
一度屋敷に集まって状況を整理する一行。馬籠瑰琿(ea4352)が助っ人シフールのアルマ・カサンドラを肩に乗せ、辺りを警戒しながらそれぞれが聞き込んできた情報を聞いて暫く考え込んでいます。
「少しばかり握らせて聞いてみたが、行方を知っている知人は居ないそうだ‥‥といっても、人付き合いは良い方ではなかったらしいな」
刀也が言うのに死先が考え込むようにして口を開きます。
「僕は『研ぎ師を見かけたら、みそ乃様が丑三つ時に屋敷の門前で会いたいと言っていたと伝えてくれませんか?』と、それとなく当たりを付けて言ってみましたが‥‥」
「俺もみそ乃及び若が冒険者を雇って研ぎ師の命を狙っている、とは流すようにし向けてみたが‥‥」
そう答える刀也。
「家無しさんな姿で橋の下にはいなかったし、酒処や御飯処も空振り‥‥って言うか、ちょっと多すぎて全部は回れないし」
無路渦がお手上げとばかりに言うのに気不味い沈黙が訪れます。と、玄関の方で何やら使用人と若い男が揉めているような声がします。暫くして困った顔でその男を一行の元へ連れてくる使用人
「話ぐらい付けておいてくれよ」
そう言って部屋へと入ってくるのは、不知火や無路渦と顔を合わせていた遊び人風の男です。
「ちょっくら調べてたら、そいつらにちと掴まってな〜。奴らここをまた襲うからってんで、あんたら何人かを誘き寄せるために嘘のねぐら教えて来いって言われてよ」
そう言ってどっかりと座り込む男。気楽そうに言ってはいますが怪我をさせられたようで着物に血が滲んでいます。
「あんまり急な話だってんで、ほんとのねぐらまでは見つけらんなかったけどよ、よっぽどここの姐さん憎んでるらしいな。ここの見張られてるぜ? 俺が出来るのはここまでだがな〜」
男の言葉に各々が手早く戦いに備えて身支度する中、鞘を僅かに抜き刀身を検め刀也が口を開きます。
「俺は、捕殺で行かせて貰う‥‥熱くなるのは主義ではないが、今回は別だ‥‥ッ」
ぱちんと言う音を立て刀を納めると、普段の冷静な様子からは想像できない程怒りに満ちた言葉を漏らす刀也。直ぐにみそ乃と若侍に襲撃に備えるように伝えに行く瑰琿。瑰琿はみそ乃に己の小太刀を握らせます。
「あんたの想いはこの刀に宿った。アイツと戦う時はあんたの想いも一緒だからね」
その言葉に頷くみそ乃と、いざというときのために刀を引き寄せる若侍。それを見て瑰琿は頷き返すと、仲間の元へと戻るのでした。
●研ぎ師襲来
月に雲がかかり薄暗い中、数人の人影が出て行くのを見計らって、屋敷へと忍び寄る者達がいました。先頭を行く男の手にはギラリと光る白刃。
勝手知った様子で庭を進んで部屋へと向かう男達ですが、庭には男達を待ち構える人影に短く舌打ちをします。
「あの男ぉっ‥‥」
欺かれたことに気が付いて忌々しげに呟く男。
「役人を呼びました。このままでは貴方達は研ぎ師を匿った罪に問われるでしょうが、用があるのは研ぎ師だけなので今逃げれば追いません。さあどうします?」
死先の言葉に2、3人が少し表情を変えますが、どうやら引く気はない様子です。
「愛とは分け与えるもの。奪う事しかできぬ、愛の意味を履き違えた下郎‥‥与一は許せませぬ!」
「みそ乃さんの幸せを奪った報い、きっちり受けてもらうわよ!」
与一が手裏剣を構えて言う言葉に、雷華も刀を向けて睨み付けます。
「ぬかせっ!」
女と侮ったか取り巻きの一人が刀を手に走り寄るのに雷華がライトニングサンダーボルトを打ち込み、アルマが放つコアギュレイトが腕の立ちそうな男の一人の動きを封じます。そこへ瑰琿が小太刀と小柄で切り込みます。
「さぁ! いくぜええええええっ!」
飛叡が槍を手に研ぎ師の前に立ちはだかる男達の中へと飛び込みなぎ倒すのを見て、形勢不利と感じ退こうする研ぎ師ですが、その目の前に立ちはだかる者がいます。
「報仇雪恨‥‥! 貴様の犯した罪の報復、嫌が応にも受けて戴く!!」
誘き寄せるために外へと向かい引き返してきた刀也は、怒りを露わにしながら刀を抜きます。それに斬りかかる取り巻きですが、同じく戻った不知火がそれをいなすと横殴りに剣を振り、それに確実に止めを刺していきます。
スマッシュを打ち込んで取り巻きを排除していく刀也の横で、飛叡が研ぎ師と対峙します。と、与一の放った手裏剣が研ぎ師の腕に刺さり、僅かに体勢を崩す研ぎ師へと槍を繰り出しますが、それをぎりぎりでかわして逆に打って出る研ぎ師。
「そう! これだ! 死と相対するこの戦い! 俺を満たせ!」
ぎりぎりでその刀を受けると昂揚した様子で渾身の力を込めて槍を突き降ろす飛叡。その一撃は研ぎ師の着物を引き裂き腕を掠めます。
「ちぃっ! こうなればせめてあの女に一太刀っ!」
そう言って飛叡を振り切って屋敷へと突破しようとした研ぎ師の刀が、左腕を巻き込んで砕け散ります。絶叫を上げる研ぎ師の目に、残酷な色を目に湛えて無邪気に笑っている無路渦の姿が映ります。
その研ぎ師の身体が、後ろから剣と刀に刺し貫かれびくんと大きく痙攣する研ぎ師。
「お前が奪ったものと、その命‥‥等価だとは思うなよ‥‥?」
研ぎ師を刺し貫いた不知火が、背後から研ぎ師の耳元へと呟くように言います。刀と剣を引き抜くと、血を吹き出しながら崩れ落ちる研ぎ師の身体。その目は、徐々に光を失っていったのでした。
●傷が癒える日まで
研ぎ師一味の遺体を役人へと引き渡してから、一行はみそ乃に何度も礼を言われ、報酬を受け取って送り出されました。
与一が腕を治せるかもと言う提案をみそ乃は丁寧に礼を言って断りました。
『この腕を見る度に、旦那様や奥様、そして、皆様のことを思い出すことでしょう。わたくしは大丈夫です、本当に、有難うございます』
そう言ってかすかに微笑むみそ乃を気遣うように、若侍が寄り添い頭を下げていたのでした。