剣豪指南
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 93 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月01日〜10月08日
リプレイ公開日:2004年10月11日
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●オープニング
気の強そうな12、3ばかりの娘と、やる気のなさそうな30程の男がギルドにやってきたのは、ギルドが始まって直ぐの、まだ早い時間帯でした。
「ということでです、父を‥‥この男を、数日の間に鍛え直して欲しいんです」
そう言ってじろりと隣に座っている男を見ます。男と言えば、全く気にしていない様子でだらしなく座り、懐に入れた手で胸元をぼりぼりと掻いていたり、時折大欠伸などをして、やる気のなさを前面に押し出しています。
「あぁ、鍛え直すと言いましても、剣の腕じゃあありませんよ。それなりに、一般人には見せられる腕のはずですし。ただもっと強そうって言うか、何しろこのむささ、やる気の無さ!」
娘は嘆かわしいといった様子で男を指しますが、男はといえば、相変わらずやる気が無さそうに娘が言う様子を、元気だなぁ、とばかりに見ています。
詳しく話を聞いてみると、男は小さな道場を持っていて門弟は2人ほど。男の父がかなりの物を残したし、妻も子供を産んで直ぐになくなったらしく、親子2人・門弟2人でならば十二分にやっていける暮らしをしていたそうです。
「何も生活していく分には十分だろうに、そう目くじら立てなくてもなぁ」
「それだから父上は駄目なんですっ! ええそりゃ、私がなまじ剣豪だ何だと言ったのは悪かったですが、でもでも、悔しかったんです、何とかしたかったんですっ!」
子供だけならいざ知らず、大人げないことをするような人達もいたもので。真面目に父親の手伝いと世話をして頑張っていた娘でしたが、父親のことを馬鹿にされた様子で、娘は我慢できずに『父上は剣豪だ!』と言ってしまったとのことです。
「それで、『剣豪かどうか確かめてやろうじゃないか』と言われて、その期日があと僅か‥‥父上はこの調子でちっともやる気を出してくれません」
そう言って、娘は少し恨めしげに父親を見ますが、父親はと言うと、ただ苦笑するだけです。
「なので私、我慢できなくなりまして‥‥ギルド屋さんならきっと剣豪の先輩や、礼儀作法など叩き込んで下さる方が居るだろうと、こうしてお願いに上がった次第です! お願いします、うちの父を、剣豪に少しでも見えるように、色々と厳しくご指導頂けないでしょうか!」
●リプレイ本文
●師という人
「人柄とか腕前とか‥‥周りからどう見られているのかとかも知りたいな」
「お父様の方はどう周りの方に見られているのでしょう?」
エステラ・ナルセス(ea2387)が言うと、同じく門弟2人に話を聞きに来ていた貴藤緋狩(ea2319)も頷きます。道場で掃除を終えて手を止めた2人の若い門弟は、聞かれた言葉に顔を見合わせると小さく笑いました。
「冴えないとか色々言われているみたいですけど、良いお人ですよ。優しい父親と言いますか‥‥なぁ?」
「稽古は物凄くきつい。渾身の力で素振りを先生が良いって言うまで続けたり。最初の2ヶ月それだけで動けなくなってたけど、今じゃすっかり体力も付いて」
「型を指導とかはないですけど、確実に強くなれる方法を教えて貰えている気がしますね」
そう話す2人の様子は嬉しそうで、余程娘の父親を慕っている様子ですが、やがて小さな溜息をどちらからともなくつきます。
「少し申し訳ないのが‥‥」
「俺らにも沢山食べさせて、しかも気持ち程度の謝礼で教えてくれてるってのがなぁ」
そう言うと、2人は顔を見合わせて溜息をつきます。どうやら武家で跡を継げない二男か三男のようで、半分以上持ち出しにもかかわらず、身体を作る為としっかり食べさせて貰えたり、実の子のように良くして貰っていると教えてくれます。
「お嬢さんが年頃になれば物入りだからと、こっそり楊枝作りの内職してるんですよね」
「時々お嬢さんに内緒で用心棒してたり。髪結いだって、自分でおおざっぱに出来るからって言って、その分貯めてるし。かといって俺らが遠慮すると逆に怒るし」
無駄を省いて居るだけで清潔にはしてるんですけどね、と溜息混じりに言う2人を見て、貴藤とエステラは思わず目を見合わせました。
一方、凪里麟太朗(ea2406)は庭に潜んで娘の父親が通りかかるのを待ち構えていました。やがてゆっくりと歩いてくる父親ですが、ふと隣太朗の潜む辺りへと目を向けて、そのまま踵を返して歩いていってしまいます。隣太朗が訝しげに見ていると、不意に後ろからひょいっと掴まって持ち上げられます。
「っ!?」
「ふむ、まだまだ甘い。ま、不意打ちはいかんぞ、男として」
にっと笑って持ち上げた隣太朗を見る父親。地面へと降ろすとぽんぽんと頭を撫でつつ口を開きます。のんびりと道場の方へと足を向けて歩き出す父親をむっとした表情で見るも、その時初めて隣太朗は、手のひらにびっしょりと汗を掻いているのに気が付きました。
道場に父親がやってくると山王牙(ea1774)と御蔵忠司(ea0901)が待っていました。
「弟子として認めて頂き、どうか剣の手解きなどをお願い致したいのですが」
「‥‥弟子入りと言っても、もう相当の腕で師なんぞはいらんだろう」
山王の言葉に参ったなぁとばかりに頭を掻く父親。そんな父親に御蔵が手合わせをして貰いたいと切り出すと、一瞬射抜くような目つきで見るも直ぐに笑って肩を竦めます。
「いやいや、手合わせだとさっさと降参するから」
そう言って笑う父親ですが、御蔵は鋭い目に心臓を鷲掴みされるかのような殺気を感じ知らずに冷や汗を掻いている自分に気がつきます。
「名など売れずとも、のんびり穏やかな生活さえ出来ればいい。それの方が遥かに価値があるんのだが。あれが不満を抱くのは仕方ないが」
そう苦笑しながら言う父親。申し訳なさそうに山王と御蔵に頭を下げます。
「今の生活を壊したくはない。実力者が形だけでも弟子入りとなれば、否が応でも名を知られ突きたくもない藪を突くことになる。また実力のある方との手合わせは漏れ聞こえ、意外と知れ渡ってしまう。どうかご理解頂きたい」
それを言うと父親は立ち上がり、道場の奥にある小部屋へと籠もってしまうのでした。
●入れ知恵と一芝居
「フフフフフ、君はよほど父上が好きなようだね。それは良い事だよ。いやいや、からかっている訳ではない。私の率直な意見を言わせてもらっただけさ」
デュラン・ハイアット(ea0042)笑いながら言う言葉に、かあっと真っ赤な顔をした娘がお盆を振り上げますが、からかっていないというのに振り上げたお盆の行き場を無くして困ったような顔をしています。
「世話を焼くばかりでは父上もいつもと変わらんよ。ここはひとつ冷たく接してみたらどうかね?」
「冷たくですか?」
「そうだな‥‥」
「そ、そんなことまで‥‥」
「これで中々じわじわと効いてくるものだよ」
デュランに言われる言葉に困ったように見る娘。その策を実行するのは躊躇っている様子が窺えます。
「父がお前の望みどおりに風体等の改善の為に無理をしている様を見たいか?」
デュランが入れ知恵するのを苦笑しつつ聞いていた鷹宮清瀬(ea3834)ですが、他の者から聞いた話を考えながらそう娘へと問いかけます。
「‥‥無理とかは嫌ですけど、でも、もっとしゃきっとして欲しいというか‥‥」
聞かれる言葉に困ったように目を落とす娘に、壬生天矢(ea0841)が声をかけました。
「助力が得られるんだったら、一芝居打つかい?」
夕餉の時間、微妙な空気が夕食の卓に漂います。無言で差し出される小盛のお茶碗に、父親はなんだか寂しそうに小さくなって受け取ると、もそもそと食べ始めます。
「うう‥‥お箸を突き刺して出されなかっただけ良しとするべきだよね、母さん‥‥」
お仏壇に寂しげに呟く言葉に娘が何とか平常心を保とうとしゃもじを握りしめて門弟の一人へのお代わりに御飯を茶碗にぎゅうぎゅうに詰めてよそっています。その様子を見て、笑いを押し殺しているデュラン。
微妙に気まずい夕食を終え、父親が縁側で茶を啜っているときでした。壬生が娘と共に父親に近づくと口を開きます。
「きちんとした格好が嫌だって、娘の気持ちを少しは考えたことはあるかい? ‥‥年頃の女の子ってのはさ、見た目とか結構気にするんだよ‥‥」
言われる言葉に娘は目を落とし、父親は困ったように苦笑します。
「あんたは自分を変える自信がないのかい? それとも自分を変える気がないなら、俺が娘の父親だと名乗ってもいいんだぜ?」
「見た目が良いのが父親の条件だったら、俺の出る幕ぁない」
娘を懐へと抱き込みつつ真剣な表情で見る壬生に、父親は暫く無言で見ていましたが肩を竦めてそう言い湯飲みを置くとゆっくり立ち上がります。
道場へと向かう父親に娘は肩を落として見送るのでした。
●不器用な親子
「‥‥本当にあった、依頼‥‥」
そう言って貴藤は苦笑します。調査の真似事をし、必ず『使い物にならない駄目浪人』と報告しろという物でした。それでいて報酬は冗談のような値段で誰も受ける様子は見受けられません。ギルドの誰それが保証したという、名前だけを借りたいだけのようです。
「父親は名を売りたくないようなことを言ってましたよね」
貴藤から話を聞くと、山王が御蔵に首を傾げながら言います。
「お嬢さん達の為に切りつめられたり、内職し易くと考えられたり。清潔にしているようですし」
「この親子は会話不足だと思います、この機会に話し合って貰いますか」
エステラの言葉に少し考えるとそう言って頷く御蔵。
「‥‥今は未だ平穏な世と言える。現状では剣豪の存在は『保険』で充分だ」
娘の元へと貴藤が向かうと、ちょうどそこでは娘に強い口調で話している隣太朗の姿がありました。
「上に立つ者が堂々と威厳を見せていなければ、下の者が不安を感じる事は分かる。だが、己の才を自慢するような者は必ず権威を振りかざす。自慢する事を恥じない者が刃物を持つ事の方が危険だ」
そう言うと襲撃しようとして軽くかわされたのを思い出したのか、隣太朗は苦笑して続けます。
「要は肝心な時に自信を持って、己の才を充分に発揮出来れば良いのだ」
しゅんとする娘に貴藤が歩み寄るとぽんぽんと軽く頭を撫でて口を開きました。
「ここに通ってる2人に話は聞いた。他人は悪く言うかも知れんが、傍に居る奴はちゃんと父親の良さを理解しているぞ」
言われる言葉に娘は俯いたまま、小さく頷きました。
一方、父親の方にはエステラと貴藤が向かいました。
「理由があってその格好をなさるのなら、お嬢さんと念入りに話し合って下さい。それを面倒くさがるのなら、お嬢さんに愛想を尽かされてしまいますわよ」
エステラの言葉に小さく溜息をつく父親。そこへ鷹宮が口を開きます。
「身形ぐらいは娘の意を汲んでやってはどうだ? あんたの身の回りの事も頑張ってしてくれている娘を労う意味で‥‥そう言っても嫌か?」
2人の言葉に父親は黙り込んで暫く物思いに耽っていました。
●雲泥の差
剣豪かどうか証明するという当日、鷹宮に少し手を借りて正装している父親の姿がありました。無精髭を剃る門弟の1人に頭を整えさせると、髭のない顔にどこか落ち着かないように片手で何度も撫でています。
時間通り道場へと貴藤からの報告書らしき物を手に踏ん反り返りつつやってくる町人が居ます。ここぞとばかりにこき下ろそうと言う様子でやって来て、得意げに報告書を父親に差し出します。
「なりばっか良くしたって、見る人間には分かるのさ」
差し出される物を受け取って父親が小さく吹き出して照れたように言います。
「‥‥相当に腕が立つとはお恥ずかしい。次からは、字が読める人間に確認してもらってから来るのがいいだろう」
密かに報告を出す先日に対峙した貴藤は、実力差があるのを感じ、それをそのまま簡潔に纏めた報告書を提出していたのでした。
腹を立てた様子で立ち去っていく町人達を見送ると、成り行きを見守っていた娘の背を貴藤が軽く押して促します。それに押されておずおずと近づくと、小さくしゃくり上げながら謝る娘と、それを困ったように見ながら頭を撫でる父。そんな親子を見ながら煙管を薫らせながら壬生が眺めているのでした。