祝言の夜

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月01日〜10月06日

リプレイ公開日:2004年10月10日

●オープニング

 巷で裕福な商家が狙われる事件が多発しているある日のことです。
 30手前の品の良さそうなふっくらとした女性がギルドに入ってきたのは、まだ日が高い時刻でした。女性は前に来たことがある様子で、真っ直ぐにギルドの人間へと歩み寄ると、ぺこりと頭を下げました。
「済みません、護衛と言いますか‥‥まだ実際に襲われるかは分からないのですけれど‥‥前の旦那様が‥‥」
 そう困ったように言う依頼人。
 話を聞いてみると、先日、揉め事があった折りに、ギルドに頼んでこっそりと三行半を取り返して貰ったらしいのですが、何故か依頼が終わった直後に相手に気が付かれてしまったそうです。
「なんでも、たくさんの人にやけに話しかけられた次の日から、暫く真夜中に子供らしい笑い声が連夜に渡って起こったとかで‥‥おかしな事がいっぺんに起こるはずがないと、三行半を隠していたところを探してしまわれたそうです。ただ、証拠もないのと、すでに三行半は先方様がまた取られては大変と、大切に倉へとしまわれたそうで其方は大丈夫だと思います」
 そう言うと、女性はほうっと溜息をつきます。
「そんな事がありましたのも全然存じ上げませんで、祝言の日取りが決まって一安心と思っていたのですが‥‥それも束の間、前の旦那様の下で働いてらした、若いお侍様が先方様の御店を襲うのだと息巻いていたと教えて下さいまして。それに、最近では先方様の御店の辺りを伺っている、風体の宜しくない男もいるそうで‥‥」
 女性がその若侍に聞いたところに寄ると、三行半が無くなったことに気が付いた女性の元亭主がやけ酒を食らっていたところに、何やら嫌な目つきの男達が声をかけて、暫く話し込んでいたそうです。話が終わった頃には上機嫌で、若侍に『あの女に思い知らせてやる。新しい亭主とやらにもな』と言ったそうです。
「何かがあってからでは困りますし、先方様とよく話し合った結果、祝言の日を含む数日間、人手を雇ったと装って、護衛をして頂けないかという話になりまして‥‥勿論、そう言う形でなく、調べて頂いて未然に防いで頂けるのならば、とても有りがたく思っております」
 そう言うと、女性は改めて頭を下げました。
「どうか頼まれては頂けないでしょうか?」

●今回の参加者

 ea0574 天 涼春(35歳・♂・僧侶・人間・華仙教大国)
 ea1001 鬼頭 烈(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1285 橘 月兎(37歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea5794 レディス・フォレストロード(25歳・♀・神聖騎士・シフール・ノルマン王国)
 ea6188 リアン・デファンス(32歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea6195 南天 桃(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea7062 阮 幹(20歳・♀・武道家・エルフ・華仙教大国)
 ea7278 架神 ひじり(36歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●再び依頼のその理由
「お姐さん、また元旦那さんの関係者が来たんですか〜。私〜心配でまた来ました〜」
 南天桃(ea6195)の言葉に、依頼人はほっとしたように微笑みかけます。以前世話になった天涼春(ea0574)と桃が居るのに随分と気が楽になったのでしょう、どこか嬉しそうに頭を下げます。
「この度はお受け頂き、有難うございます。何やら聞いた話で、前の旦那様が、夜な夜な笑い声に悩まされ、それで人を使って調べさせ、ご自身も三行半を探してそれが偽物であるのに気が付いた様子で‥‥それを大変に恨みに思ってるらしいのです」
 困ったように説明する依頼人。安全のために、父を伴い今居るこの店へと移ってきたことを店の主人で依頼人の夫となる男性が説明してくれます。
「結婚式を無茶苦茶にしようとは‥‥無粋だな」
「全く下らん男じゃ。いつまでも過去のことに囚われていては新しい未来への一歩も進めんじゃろうて。仕返しなどとはもってのほかじゃ。ここは成敗して反省させるべきじゃな」
 リアン・デファンス(ea6188)の言葉に架神ひじり(ea7278)がふむ、とばかりに息をついてそう同意します。
「自分は事を荒立てぬ方向で、祝言の妨害を阻止致そう」
 涼春の言葉に依頼人は、何度も礼を言いながら一行へと頭を下げるのでした。

●元旦那とごろつき
 桃と阮幹(ea7062)はよく行くと聞いていた酒場へと向かうと、ちょうど昼に合わせて店を開けている所にやって来ます。桃が店主に前の旦那のことを聞くと露骨に嫌そうな顔をして、もう少ししたら昼を摂りに来る若侍に話を聞いてみろと言って注文を聞きます。
 阮も元旦那が来るまで茶などを飲みながら時間を潰しているようです。
 暫くしてすっきりとした身なりの若侍が入ってきますと、店の亭主が桃へとあの若侍です、と言って声をかけます。
 若侍に簡単に事情を説明すると、自分が依頼人へ元旦那の事を伝えたと教えてくれます。詳しく聞くと、店をついでに襲って金品を奪うつもりらしく、それが出来れば大金持ちになれると舞い上がっていたそうですが、若侍からすればどう考えても利用されている用に見えますが、証拠がないために番所などに訴える事が出来ずに困っていたそうです。
「済みません、あまりお役に立てず。もし調べるんでしたら、気をつけて下さい。おだてには弱いですが、物凄く気分屋ですからあの人は‥‥」
 店を出るとき、若侍は言ってから何度か心配そうに振り返りつつ立ち去って行きます。
 夕刻まで調べられる事を調べて戻る桃と、酒場に残って元旦那を待つ阮。
 その頃、レディス・フォレストロード(ea5794)は元旦那の家の側で張り込みながら、元旦那が出て来るのを待っていました。聞いていた様子ではもうとっくに酒場へと出かけているはずなのですが、何やら夕刻まで長屋に閉じこもってやっていたようで、酒場へと向かう頃にはとっぷりと日が暮れていました。
 出来る限り目立たないように元旦那を見張って付いていくレディス。程なく付いた酒場では、待ちくたびれた様子で時間を潰している阮に言い寄るように話しかけているごろつき風味の男と、酒場の常連客で賑わっています。
 元旦那が酒場へと入ってくるのに気が付いたのか、それまでしつこく阮に言い寄っていた男が離れて元旦那へと近づきます。2人が酒を飲みながら話しているのを漏れ聞くと、打ち合わせをしているようで、それも酒場の喧噪に紛れてよく聞こえては来ず、また、聞かれないように注意をしている様です。
「‥‥浮かれて手薄になる‥‥」
「‥‥祝言の夜だ。祝い事で酔ってる所を襲った方が‥‥」
 なんとかそれだけ聞き取ることが出来ますが、辺りを窺うように見ると後で連絡すると告げて、元旦那は立ち上がり男も後を追うように連れだって店を出て行ってしまいました。
 物陰に隠れて元旦那や阮が出て来るのを待っていたレディスでしたが、阮は出て来ずに元旦那と男が現れ、長屋の方へ戻る元旦那と別れて去っていくのにレディスは迷いますが、男の後を追う事にしたようでした。

●用心深い相手
 レディスは男に途中でまかれ見失ってしまい店へといったん戻ってきました。レディスをまいた様子からも、どうやら相手はそれなりにこう言ったことに慣れているようでした。
「まぁ、慎重に動いてこれ以上仲間を増やさないのは仕方ないことだろうな」
 相手に取り入って入り込むのが失敗して戻ってきていた阮に、依頼人を護衛していた鬼頭烈(ea1001)が声をかけます。同じく屋敷内や店を警護していた涼春やかがりも加わり、祝言の夜に襲われるという事についての対策を練っていると、別口を当たっていた橘月兎(ea1285)が戻ってきて口を開きました。
「どうにも‥‥余程こういう事に慣れているのでしょうか、前の旦那さん以外、情報らしい情報や足取りが掴めません。もしかしたら、盗賊達に利用されているのかも知れないですね、前の旦那さんは」
 その言葉に顔を見合わせる一同。
「お姐さんは『再婚で内輪だけの席ですから、一日ぐらいでしたら伸ばす事も出来ますよ』って言ってました〜」
「安全の面から考えたら、その方が良いかもしれないが‥‥相手の方が上手となると、その情報が何時漏れるか分からないからな」
 桃の言葉に考えるように言う鬼頭。結局前日まで情報を集めながら様子を見ることで落ち着きますが、その後も情報が集まるのは元旦那のことばかりで、不自然すぎるほど、元旦那が商家を襲うと言うことだけを聞くことが出来るに留まりました。

●祝言の日
 その日、内輪の席と言うも早い内から親戚縁者が集まり、小宴会が開かれていました。護衛対象が増えるのに恐縮する依頼人ですが、お祝いをするだけのつもりだったのが、涼春が祝言を執り行うと言う申し出に頬を染め嬉しそうに礼を言います。
「ここでお二人の縁が結ばれる事になったのは御仏によるお導きによるもの。新たな伴侶と共に歩まれる事を御仏に宣言するのである」
 和やかな雰囲気で執り行われる祝言。涼春の言葉と共に新郎の親類達に迎えられて幸せそうに微笑む依頼人の姿に、それを見る桃の顔にも自然と笑みが浮かびます。
 だいぶ出席者達に酒が回り盛り上がっていた頃。表を警戒していたリアンとレディスが、数人の人間がふと裏へと回り込むのが見え、庭から裏口へと向かいます。
 物陰に潜んでいた月兎も裏口へと急ぎ足で向かう元亭主に気が付くと、依頼人へと人遁の術で化けて裏へ回り込む前に呼び止めます。
「ふん、お前か‥‥ん? 違う‥‥お前誰だっ!?」
 一瞬聞こえた声に依頼人かと目を向け、それがどうにも可笑しいと感じた元亭主ですが、刀に手をかける前に峰打ちで倒すと屋敷へと引っ張り込んで縛り上げる月兎。
「こんな馬鹿な真似する暇があったら、相手よりも幸せになって自分を捨てた彼女を後悔させてやろうとか考えられなかったのか?」
 月兎の言葉に、忌々しそうに元亭主は唇を噛むのでした。
 その頃、庭の方ではレディスが猫に化け裏口へと集まる数人の男達の側に近づいて聞き耳を立てます。
「あいつ来ませんぜ、お頭」
「この場に置き去りにして身代わりにと思ったが‥‥まぁいい、調べても奴に疑いがかかるだけ。計画に何ら変わりはない。全員揃い次第押し入るぞ」
「手筈通り全員?」
「奴の怨恨と思わせておけば時間が稼げる」
 低い声で言われる言葉を聞くと、レディスは急いで仲間の事へと戻ります。リアンが見張っている間にレディスが各人へと報告をしに行きます。
 裏口では既に人数が揃ったようで、壁を軽々乗り越えて入ってくる男が2人います。1人が辺りの様子を窺い、もう1人が素早く裏口の錠を外して入り込んできますと、見取り図を手に素早く庭を抜けて宴席の方へと向かいます。
「祝いの席に血を流させませんよ」
 宴席より抜け出した桃がリアンに並んで小太刀を構えて立ちそう言い放ちます。直ぐに鬼頭・ひじり・阮が駆けつけます。それを見て低く唸ると頭を庇って一人の長身の男が斬りかかり、その一撃が桃を襲います。
「っ!?」
 その素早い一撃を避けきれずに鮮血が迸り、とっさに身体を引く桃。それを庇うかのように割ってはいるリアン。その背後から矢を投げ打ち込む阮ですが、それをかわす男。
 男の背後では頭を守りつつ他の男達が逃げるために引き返し、負傷した桃へ急ぎ駆けつけた涼春がリカバーで傷を癒します。
 仲間を逃すため男はロングスピアを構えた鬼頭と対峙し睨み合います。鋭く打ち下ろす鬼頭の一撃を受けると、反撃に転じる男。それを何とか受けきると、鬼頭は渾身の力を込めて男に突きかかります。
 鬼頭の渾身の一撃は、それをいなそうとする男の刀を叩き折り、愕然とした表情で目を落とす男の喉元にぴたりと当てられます。
「‥‥」
 仲間を逃がす目的を達したためか、獲物を失った男は手を下ろしました。

●祝言の夜
「依頼人殿が新たな伴侶を得る事が出来たのは、御仏に善行を認められたからである。今や御仏となられたご先祖殿や亡き前妻殿の加護があらんことを祈る次第である」
 涼春の言葉に目に涙を浮かべながら礼を言う依頼人。改めて振る舞われた宴席のごちそうにご満悦のかがりに、宴席には桃の歌声が響いています。どこか満足そうな様子でそれを聞いている鬼頭。月兎は土蔵に捕らえた元旦那と盗賊らしき一味の男の事を報告し、依頼人へと祝いの言葉を述べています。
 一方、土蔵では柱に括り付けられた男と縛られ冷たい床の上に転がされた元旦那の姿。それにもう一人。
「‥‥さて、私は退散致しましょう。この場に似合いませんしね。それでは、お二人が末永く幸せでありますように‥‥」
 そう小さく呟いて、レディスは静かにその場を立ち去ったのでした。