蕩心

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月08日〜10月13日

リプレイ公開日:2004年10月15日

●オープニング

「これが預かってきた手紙と金子でさぁ。どうか宜しく頼んまさぁ」
 そう言って頭を下げるのは、花街でなかなか名の売れた店の名前が入った着物を着て、腰を屈めた痩せた男でした。まだ朝も早いうちからやって来て、そう言って手紙と包みを差し出す男。
「お受けして頂けるかどうか、また後で改めて伺いやす。では、そう言うことで‥‥」
 男は依頼人から頼まれたのだというと、そそくさと帰っていきます。ギルドの人間が中を確かめると、手紙はその店の顔でもある、ほどほど名の売れた遊女からで、内容は居漬けの旦那を何とかして下さい、という一文から始まっていました。
 その旦那は仇持ちだったのですが、この度見事敵を討ち果たし、馴染みのこの遊女も偉く喜んだそうです。しかし、いざ国元で仕官をと思って戻っても、知らぬ存ぜぬで追い返されてしまったと言うことです。
 本来、仇持ちはその本懐を遂げるまでは堪え忍びながら追い、また仇も何処までも逃げ続け、数十年とそれを続けなければならないことも多々あるご時世です。
 その代わり、見事仇を討ち果たせばお家の恥を濯ぎ、晴れて国元で仕官、とこうなるのが通常の流れです。
 しかし、この旦那にはそれが無く、金だけ幾ばくか渡され、行く当てもないまま江戸に戻ってきたそうです。おそらく、上の方の誰かにとって不都合が生じて切り捨てられたのではないかと遊女は書き添えています。
 前まで、苦労しても立派にやってきていた旦那を知っているだけに、今の酒と女に溺れて花街の遊女の元から離れない旦那を見ているのは辛いらしく、何とかしてやりたいと思ってお金と手紙を用意して、店の者に託したようです。
『何かありましたら、手紙を託した男かわたくしの客として訪ねてきて頂ければと思います。大変申し訳ありませんが、なにとぞ、宜しくお願い致します』
 手紙の最後に、美しい文字でそう書き添えられていたのでした。

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea0282 ルーラス・エルミナス(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0901 御蔵 忠司(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1569 大宗院 鳴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2614 八幡 伊佐治(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea6926 烈牙 飛叡(35歳・♂・ファイター・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

●何はともあれ
「さあさあ、こっちへ来てこちらのお侍さんにお酌をしろ」
 気が付けば、デュラン・ハイアット(ea0042)と烈牙飛叡(ea6926)は件の浪人と共に遊女達を集めて賑やかな宴を繰り広げていました。
「貴様も色々大変なんだなあ。まあ、今宵は余計なことは忘れて派手に騒ごうじゃないか。私の奢りだ。遠慮はするな」
 そう言いながら浪人へ杯の乾く間がない程にどんどん飲ませ、また自身も半ば死ぬ気で飲んでいる様子です。一般人を装って浪人へと近づこうとしていた飛叡は浪人と話そうとして、必然的にこの乱痴気騒ぎへと巻き込まれてしまいます。
「俺ぁね、この年月がなんだったのかと思うと‥‥ううっ」
「泣くんじゃないっ! 漢ってのはなぁ‥‥」
 何やら熱く語る飛叡と遊女に酒を注がせながら既に酔いも手伝って、へべれけになりながら遊女にちょっかいをかけているデュラン。
「漢の生き方ってのはなぁ!!!」
「おや、兄さん何やら熱く語ってるじゃないか。私は嫌いじゃないよ、そう言う男」
 熱く語りかける飛叡に長い銀髪を高く結った幼い顔立ちの遊女が屈み込むようにして飛叡の腕に手をかけ、その顔立ちからはなかなか想像できないほど妖しく笑います。一瞬にして、それまで熱弁をふるっていた飛叡が固まり、見る見る顔が赤らんでいきます。
「どうしたんだい? 兄さん‥‥顔が赤いよ? ‥‥私の部屋で、二人っきりで呑み直さないか?」
「う‥‥いや、なんだ‥‥こういうのは苦手だな、やっぱ」
「良いじゃないか、さ、きなよ」
 遊女は半ば強引に腕を取って飛叡を連れて部屋を出ていき、その様子を見送っていた浪人も、直ぐにデュランと共に他の女達に取り囲まれることとなりました。

●奴らはどこに?
 2人以外の人々はと言うと、それぞれ自分の考えに乗っ取って奔走していました。
「出来たらでいいんですが知ってる事全部話してください。御礼は、最近夢中になってる船宿の女中さんとの事は綺麗サッパリ忘れますから」
 乱痴気騒ぎより数刻前、どこか似非臭い爽やかな笑顔で己の上司に脅し‥‥もとい、交渉しているのは名物男・鷲尾天斗(ea2445)です。その言葉にそれまで邪険に扱っていた上司の顔が引きつります。
「ふ、船宿のなどとんと覚えは‥‥」
 そう言いかけながらも言葉を詰まらせ暫し鷲尾を凝視する上司。やがて何とか息をつくと苦虫を噛みつぶしたような顔で口を開きます。
「で‥‥その件の何が聞きたいんだ?」
 リーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)は、遊女の店の近くにある茶屋や酒場を当たっていました。国元の事情などを出来うる限り知っている人に聞くと、どうやら浪人には仇討ち本懐を遂げる為にと後ろ盾が居たが、仇の場所を突き止める少し前当たりから完全に手を引かれ、孤立無援で仇討ちを続けていたと言うことが分かります。
「と、まぁ、そういう男を捜しているんだが、心当たりは無いかの?」
「ん〜‥‥時々来てる先生なんかはそのクチかしらねぇ」
 八幡伊佐治(ea2614)が遊女相手にその達人技な口説きの術を使って聞き込んでいると、だいぶかかって漸くそれらしき情報を聞き出すことが出来ます。
「ほら、こういう所だと、更生した例の方が少ない訳だし?」
 そう笑いながら言う遊女。とある道場に、若い頃に恥を濯いだにもかかわらず落ちぶれ荒れたことがある男が居たと遊女から聞いて、伊佐治はそこに尋ねていきますと、身なりをさっぱりと整えた壮年の男性が門弟達に稽古を付けているところでした。
「‥‥という訳なのじゃが、力になってもらえんか?」
「ふむ‥‥お話は分かりました。こちらから出向けば宜しいですかな? 今日明日は少々立て込んでおりますが、その後で宜しければ‥‥」
 約束を取り付けると伊佐治は礼を言ってその場を後にしました。
 御蔵忠司(ea0901)は遊女の所へ向かいつつ、件の浪人の話を聞き込んでいました。その評判は上々どころか、荒れる前はそれこそ芝居か何かの主格でもあるかのような、それはもう偉い人気っぷりで、件の遊女と良い仲でいずれは、と噂されていたそうで、今の様子にがっかりしていたり憤りを感じている人間が多々居るようです。
「僕の名で、何とかしてあげられれば良いのですけど‥‥」
 そう言いながら幾つか心当たりを考える御蔵ですが、ふと、何かが足りないことに気が付いて首を傾げます。
「‥‥そう言えば、鳴さんは‥‥?」
 それまで先を歩いていた御蔵の姿を見失った大宗院鳴(ea1569)は、不思議そうに首を傾げていました。
『花街には初めて行くので、迷わないようにしないといけませんわね』
 そんな決意と共に聞き込みに参加していた鳴ですが、艶やかと言うより少々ケバい遊女の装いや、鳴の目には奇天烈に見える男達の姿に興味深げに辺りを見回しているうちに御蔵とはぐれてしまったようです。
 漸く来ていた店の前へと入ろうとして止められるのにきょとんとした様子で店の人間へと問いかけます。
「どうすれば入れるのですか?」
 思わず目を見合わせてからにやっと笑って裏口を教える呼び込みの男達。直ぐに裏口から店へと入ると、明らかに働きに来ているのとは違うと気が付きながらも、面白半分で艶やかな色彩の着物と化粧を手に集まる手の空いていた女達。『こちらの仕事着を着れば問題ないでしょうか』と言う発言を肯定しながら着せ替えられると、遊女の客と聞いて落ち着いた様子の女が手を引いて目的の部屋へと連れて行きます。
 途中で粉をかけようとする男をその笑顔と攻撃で悶絶させると目的の部屋へと入る鳴。それに気が付いて、酔っぱらいながらも爆笑するデュランと場違いな様子にあっけにとられる浪人。
「お酒や遊びなどは楽しくするものだと父が申しておりました。何もすることがないようでしたら、冒険者になって人々の喜ぶ顔を見るのはいかがでしょうか」
 その素直な様子にはっとしたように息を飲んで手の中の杯へと目を落とすと、ぐっと飲み干し、浪人は深い息をつくのでした。
 騒がしい声を聞きながら、紅茶を優雅に飲むリーゼがいました。その前には情報収集を終えて静かに手の中の杯を揺らす鷲尾の姿があります。
「‥‥あらかた予想通りね‥‥」
「‥‥酒の席に仕事の話は無粋だぞ」
「そう、だな‥‥」
 そう言うと聞こえてくる声に目を細めるリーゼ。鷲尾が来るまで他愛のない話をして笑っていた遊女達を思い出したのでしょう。
「私は彼女達嫌いじゃないわ。一生懸命生きていこうとしてるんだから」
 その言葉に口元に笑みを浮かべると、鷲尾はくいっと酒を飲み干すのでした。

●これからの道
 伊佐治が連れてきた男性の話を、二日酔いで重い頭を抱えながらも浪人はじっと聞き入っています。目が覚めたときに広い部屋にぽつんと一人で取り残され、沈んでい浪人の所に、伊佐治は男性を連れてきていたのでした。
 男性が帰って呆けたように座り込んでいる所に、リーゼと鷲尾がやって来ると、調べた内容を話します。
「‥‥そうですか‥‥御家老の遠縁だったのですか、あの男は‥‥」
 鷲尾の話を聞いてがっくりと肩を落とす浪人。討ち果たした仇は家老の遠縁で、それの影響で後押ししていた人も手を引き、仕官も手を回されて果たせなかったと言うことです。
「今のあんたの境遇には同情はする。だが、だからといってこのままだったら惨めだぞ」
鷲尾の言葉に顔を上げる浪人。
「武士として『義』に生きろ。『義』は美と我との合成したもの。何を成すか決め、決めたら意地を張り通せ。それが美しい生き様だ。だが武士としてのその道は死と隣り合わせの道。その覚悟が無かったら生まれ変わって町人になれ。それもまた立派な『義』だ」
「仕官したいなら、故郷である必要はないでしょう。いっそ、この機会に仇討ち前に自分のやりたい事というものは何だったのか、思い出して見なさい。自分の可能性は、自分にしか決めれない。やる前から諦めている事は可能性を狭めている事でしかないのだから」
 鷲尾とリーゼの言葉に項垂れる浪人。鷲尾達が帰った後、御蔵が様子を伺いにやってきます。
「今後、何になりたいのですか?」
 幾つか心当たりを伺って、それなりに色よい返事を受け取ってからやって来た御蔵は浪人へとそう問いかけます。冒険者になるにしろ、仕官するにしろ、と言う御蔵の言葉に考え込むと、少しだけ待って欲しいと答える浪人。それに頷いて御蔵は部屋を後にしました。
 ルーラス・エルミナス(ea0282)は自身で買ってきた酒を手に、遊女に案内されて部屋へとやって来ます。さりげなく酒を勧めて世間話がてらに愚痴を聞き出すルーラス。
「上の方は、市政の民を守るは苦手なようですね、聞けば江戸を守ったのは冒険者の方と聞いています。冒険者として、名を上げるのも良いのかも知れませんね、口ばっかりなお上より余程、腕を生かせるのかも知れません」
「‥‥ん、そうだな‥‥」
 暫くして緩く息をついて酒を飲み干した浪人の表情は、ずいぶんとすっきりした物になっていました。

●何時も通り
「遊べず完全に裏方か‥‥つまらんが、これが一番じゃろうな」
 そう呟く伊佐治。
 一行は浪人が冒険者になることを決心したという事を遊女から聞かされ、成功報酬を受け取っているところでした。
 完全に固まって遊女の所に拉致されていた飛叡も無事に救出され、遊女達になんだか可愛がられていた鳴も無事に合流します。
「毎度どうも」
 そう言いながら愛想良く鷲尾が受け取った報酬の包みをひょいと取り上げる女店主。
「ちょ、ちょっと待て、それは俺の報酬‥‥」
「あら〜、嫌ですわ、ツケの一部を頂いただけですわ。‥‥お忘れ?」
 女店主がいうのに言葉をなくす鷲尾。
「結局、花町とは、何をする場所か分かりませんでしたわ」
 大騒ぎをしている鷲尾を見ながら、鳴は不思議そうに首を傾げました。