愛娘奪還作戦発動!

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月28日〜07月03日

リプレイ公開日:2004年07月05日

●オープニング

 その依頼はなんだか訳が分からないものでした。
『愛娘を娘から取り戻してください。名付けて愛娘奪還作戦です!』
 そう言う風に依頼が申し込まれたらしく、依頼を出した本人も何やら興奮していて訳が分からないらしいのです。
 とりあえずと話を聞きに依頼主の屋敷へと行くと、年の頃40辺りの立派な身なりの侍が茶を下働きの娘に出させながら出迎えました。
「儂の愛娘を取り返してくだされ。もう、目の中に入れても痛くないぐらい可愛がっておりましたのに‥‥あの馬鹿娘が攫って、駆け落ちの軍資金に身代金を払え、と‥‥」
 そう静かに言いながらも、男の顔は赤らんでこめかみには血管が浮き出ています。放っておけば良い感じに血管が切れてぽっくりと逝ってしまいそうな勢いです。
「儂の可愛い娘は黄色い房の紐を首に巻いて、艶やかな黒い流れるような毛にピンと立った愛らしい尻尾‥‥」
 そこまで言って怪訝そうな顔をしている様子に気が付いたのか、男は一つ頷いてから言った。
「あ、ちなみに愛娘とは黒い仔猫のことですぞ。間違っても『彼と一緒に志士になって名を挙げるの♪』などと言って出て行った娘ではありませんぞ。だいたい勝たせてやろうと手を抜いてまで、勝てなかった様な男について行ったような娘など。勝手に家財道具をかっぱいで行けばよいものを、現金が良いなどと言って儂の生き甲斐を‥‥」
 どうやら連れてきた男に儂を倒したら娘をやると言っておいて、あまりの弱さについ反撃をしてしまったため、娘が拗ねて怒って駆け落ちを目論んだと言うことらしいのです。倒してしまった負い目もあり、男は家財道具や家の者を持っていっても黙認するつもりはあったのですが、娘は現金に換えるつてがないからと、男の可愛がっていた仔猫を人質として連れ去ってしまったらしいのです。
 ぶつぶつと言うと、男は向き直って頭を下げます。
「どうか、儂の愛娘を連れ戻して欲しいのです。身代金を払わないとは言いません。ただ、儂自身が行くと打ち倒されると思っているらしくて‥‥代わりの者に持って来させろと。ただ、息子は今江戸におらず、家の者は金を持っていっても戦えないため、金だけ取られて儂の仔猫が帰ってこない可能性があるのです。そのため、儂の代わりに行って愛娘を取り返してもらえんでしょうか」
 男の話では江戸を出て少しのところにある茶店の、少し行った先にあるお地蔵様前に5日後の正午、言われた金額の入った財布を持って来るように、とのこと。
「駆け落ちするほど好き合っているのならば、貧困に喘いでもやって行くであろうに、事もあろうに抵抗もできん仔猫を人質に取るなど、許せることではありません。きついお灸を据えるもそのまま金を渡して行かせるもお任せします。とにかく、儂の愛娘を無事取り返してくだされ」

●今回の参加者

 ea0062 シャラ・ルーシャラ(13歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea0452 伊珪 小弥太(29歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea0853 陣内 風音(27歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0908 アイリス・フリーワークス(18歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2751 高槻 笙(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3865 虎杖 薔薇雄(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4128 秀真 傳(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●発進! 作戦会議
 廃屋に一行が着いたのは、引き渡し当日のまだ十分に早い時刻でした。途中の茶店で荷物を預かって貰ったので、予定よりは遅れたようでしたが。
 一行は役割を確認するために顔を合わせると、交渉役と逆に男を人質として捕まえる山賊役に別れるのを改めて確認します。
「ふっ、完璧なまでに美しく山賊を演じきろうではないか」
 薔薇を手に1人悦に入っている虎杖薔薇雄(ea3865)が言うのを、どこかげっそりした様子で伊珪小弥太(ea0452)が見ています。
「あと、山賊役はあたし伊珪、結城、それにアイリスね」
 陣内風音(ea0853)がそう言うのに、アイリス・フリーワークス(ea0908)は元気に笑い、結城友矩(ea2046)は心得たと言いながら、それぞれ頷きます。
「シャラはいらいにんさんと、むすめさんがくるのをまちますね」
 シャラ・ルーシャラ(ea0062)がそう言うのに、秀真傳(ea4128)が高槻笙(ea2751)に顔を向けました。
「そしてわしとおぬしが交渉役じゃな。では各々、参ろうか」

●潜伏・交渉! そして薔薇雄山賊団!?
 山賊役の面々は程良い時間まで茶店で時間を潰してから、アイリスが調べた潜伏場所に隠れていますと、なにやら騒がしく二頭の馬でやって来る者がいます。
「頼む、こんな事辞めてくれ。一緒になりたいんなら、俺、頑張って腕を磨いて認めて貰うまで通い続けっから」
「嫌。第一、猫に甘い顔して。ちょっと前までは私のことが一番だったのにっ! それに、ゆー君が強くなるまで待っていたら結婚出来ないもの」
「‥‥てめぇ、俺のこと嫌いだろ」
 そう言う男はしっかりとぐるぐる巻きにされて馬に荷物のように乗っけられながら絶叫しました。
「いい加減馬鹿やってねぇで、この縄を解かんかいっ!」
「‥‥もしかして、あの2人組だよなぁ‥‥」
 そう呟く伊珪はどこか沈痛な面持ちです。
 2人は隠れている薔薇雄達に気が付かず、娘と男を乗せた馬はやがて、秀真と高槻のいる地蔵前までやって来ました。
 馬に乗った娘と括られている男が見えるのにも、秀真は僅かに片眉を上げるも、とくに動じた様子も見せずに2人が目の前までやってくるのを待っています。
 ふと、だいぶ近くに来たところで、娘が馬を止めちらりと辺りへと目を配ります。秀真が用心の為に地蔵にかけておいたウィンドレスに警戒しているようです。
「同じ志士として参った。此方も事を荒げたくないゆえ予め場に魔法を施しておるが了承されたい」
 秀真の言葉に、娘はとても警戒しています。
「ここに、貴女のお父上からお預かりしましたお金も持参しております」
 そう穏便な様子で語りかけながら素早く娘達の様子を窺うも、どうやら猫は連れて来ていない様子です。
「‥‥なら貴方、1人でこちらに持ってきなさい」
 娘は迷う様子を見せ、刀に片手をかけながら高槻へと言い放ちます。その後ろで、不満げにもがもがと男が馬の上で暴れています。
「分かりました、そちらへ持って行きます」
 敵意がないことを見せようとしながら、ゆっくりと高槻が馬の所まで近づいた、その時です。
「何を揉めてるか知らんがここは拙者達の縄張りだ。命が惜しければ有金全て置いて行け」
 高らかに声を上げる結城に続いて、ずいっと薔薇雄が前に出てその金色の髪を掻き上げて口を開きます。
「ふっ、そう言うことなのだよ。さぁ、私に是非、金目の物を渡したまえ。あぁ、この様なことを言う私もまた美しい‥‥」
 薔薇雄達の闖入に娘はと言うと、結城の言葉にとっさに刀を抜きかけ、薔薇雄の姿と言葉に口をあんぐりと開けてあっけにとられています。
「ぬっ、山賊か!?」
 娘に自分たちは敵ではないと印象づける為に秀真は娘と庇うように馬の前に立ちます。その隙にアイリスのスリープが飛び、薔薇雄のその派手ななりに気を取られていた男も、あっさりと眠りに落ちたようで馬の上で大人しくなっています。
「うしっ、取ったっ!」
 伊珪はアイリスが魔法をかけているあいだに間を詰め、馬から男を引きずり下ろすと肩に担いで一目散に廃屋へと走り出し、はっと我に返った娘との間に、すぐに薔薇雄と結城が割って入ります。伊珪の背とアイリスを守るように風音と結城はすぐ後ろをついて走り、更に薔薇雄が刀を手に足止めです。
「ちょっ、ゆー君攫ってどうしようってのよっ! それなりに売れそうな子だけどっ!?」
 この場合は自分を攫うだろうとでも言いたげな様子で馬で追おうとする娘の前で、ちらりと秀真に目配せをされた高槻がぽろっと財布を落として中身をぶちまけます。
「あんたもなにしてんのよっ! さっさと拾いなさいっ!」
 完全に頭に来ているようで、そう喚きながら娘が腹立ち紛れに薔薇雄に馬で突進しようと手綱を引くのに、さりげなく高槻が躓いたように馬の横腹を叩き体勢を崩します。馬が蹌踉けているうちに、薔薇雄はひらひらと髪をたなびかせながら廃屋へと走り出しました。

●対決! 女同士の熱き戦い
 廃屋ではシャラと依頼人が黙って仲間が戻ってくるのを待っています。暫く迷っていたようですが、意を決してシャラは口を開きます。最初に顔を合わせた時に交わした一言二言で、顔のわりに怖くはない人だったのがシャラの背を押したのかも知れません。
「あの‥‥ですね。やっぱりむすめさんとは、もう一回お話した方がいいと、シャラは思います。むすめさんだって、きっと‥‥」
 目を向ける依頼人に、シャラはぎゅっと手を握って少し小さな声で続けます。
「シャラ、かってなこと言って‥‥すいません。でも‥‥きっと家族はだいじだと思うんです」
 ふと厳つい依頼人の目が、どこか懐かしいことを思いだしたかのように優しいものに変わります。手を伸ばして娘に接するかのようにシャラの頭を撫で頷きました。
「ああ‥‥だが、いずれ離れて行く‥‥。シャラ殿は、余程良い人々と出会ってきたのだな」
 依頼人は騒がしくなってきた外へと再び目を戻し、シャラもそれにつられるように外を見ました。
 山賊役の人が戻ってきたようで、伊珪がぐるぐる巻きにされた男を担いで戻ってきたのを見ると、作戦は滞りなく進んでいる様です。
 伊珪は開けられた戸に、男を中へと転がします。依頼人が男をまじまじと見る様子に、間違いなく相手の男を連れてきたことが伺えます。
「やはり私は完璧だ。山賊を演じる姿もまた美しい‥‥馬から下りるのも待ちきれないで熱く迫ってきたくらいだからね」
「やかましいっ! 遊んでねぇでさっさと来いっ!」
 金髪をたなびかせ悦に入った表情でくねくねとしている薔薇雄に、伊珪は思わず声を上げます。
 すぐ後ろの方から娘が馬で駆けて追ってくるのが見えたからです。
 シャラと依頼人以外は廃屋の前で待ち構え、馬で駆けつけた娘と馬にまとわりついて足止めをしている秀真・高槻の姿も見えてきました。
「人の彼を攫っておいて、あんた達何様のつもり?」
「男を攫うは卑怯か‥‥なら猫を攫うはどうなんだ?」
「もう感づいているだろうが。拙者達は貴殿のお父上の意を受けて動いている」
 娘の言葉に伊珪が鋭い目つきでそう聞き返し、結城も続けて口を開きます。
 娘を囲むように各々が武器を構えるのに、風音が前に出ました。
「あたしにやらせて。話を聞いていた時から興味があったのよ」
 そう言いぱちんと指を鳴らし、娘へと向き直って笑います。
「あたしが相手をしてあげるわ。まさか一対一の勝負で魔法は使わないわよね? あたしもオーラを使う気はないわ。掛かってきなさい」
「いいわ‥‥相手してやろうじゃない!」
 馬を下りて刀を抜く娘と対峙する風音。
 最初に動いたのは娘の方でした。鋭い太刀筋で斬りつけるのに、間一髪避けますが、すぐに二刃三刃と迫ってきます。間一髪で避けたかに見えましたが、風音の頬にぴっと薄く細い、赤い筋が浮かび上がります。
「へぇ‥‥なかなか強いみたいだけどまだまだね」
 そう言いながら再び睨み合う2人。激しい攻防が幾度となく繰り広げられましたが、形勢は明らかに風音の方が不利です。
 しかし追いつめられた風音は、一瞬、勝利を確信した娘の隙を見逃しませんでした。
「ぐっ‥‥」
「心を折る左拳、魂を打ち砕く右拳。あたしの必殺の一撃は右でも左でも放てるのよ」
 胸元へと抉るかのような衝撃を受け膝を付く娘に風音はにっと笑ってそう言い放ちました。

●終決! 結局訳の分からん父娘
 秀真の縄で縛られた娘とその彼は、一行の前に引き立てられていました。アイリスは、猫が一行が休んだ茶店に預けられていると聞いて迎えに向かい、猫を連れ戻ってきます。
「盗み強請りは無論、親の情を忘れての行為、志士の名を辱めるものじゃ。わしはぬしらを志士とは認めぬし神皇家よりも切腹の沙汰あるじゃろう‥‥心して待つが良い」
「待ってくれ、こいつは何もしちゃいない! 俺が勝手にやったことだ!」
 明らかに首謀者は娘であるにも関わらず、縛られたまま娘の前にでて庇う男に、廃屋から姿を現した依頼人は高槻に財布を出して貰えるように頼みます。
 財布を受け取ると、依頼人は秀真の前に出るように立ちましたので、てっきり娘を庇ってそのまま仲直りとなるのだろうと思われたのですが。
「この金はくれてやる。世間で揉まれて来いっ!」
「‥‥‥‥は?」
 一行が事態を飲み込めていないうちに、財布を娘へと強引に持たせてそう言い放つと、依頼人はぎろりと男へ目を向けました。
「お主もだっ! 根性や性根だけは認めてやるが、そんな腕で世間に出せるか! 一から鍛え直してやる!」
 言って男を掴むと馬へと乗せ、彼の愛娘を抱きしめているアイリスへと歩み寄ります。
「無事に戻ったな? 早く帰ってお前の好きな煮干しにしような」
「みゃうん♪」
 仔猫は嬉しそうに鳴くと、アイリスへとごろごろ擦り寄っていたのでした。