腹穢い夫婦が残した物は‥‥

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月11日〜10月16日

リプレイ公開日:2004年10月20日

●オープニング

「本当に、あの子には困った物で‥‥」
 そう言ってギルドへとやって来たのは、品の良い、どこかおっとりとした様子の若い夫婦でした。夫はどうやら職人のようですが、その頭には包帯が巻かれていて、腕にもどうやら隠してはいるものの怪我をしている様子です。
「あの子と言いますのは、私どもの姪で、先日弟夫婦が亡くなって、一人になってしまった子なのですが‥‥」
 そう言って頭の包帯が気になるのか、手で押さえながら、夫はどう説明しようか悩んでいる様子です。
「この人の弟夫婦は小間物屋をやっていました。しかし、何か揉め事に巻き込まれたのか知りませんが、殺されてしまい、下手人はお役人様が捕まえて下さいました。それで、たった一人残ってしまったこの姪を、一人では大変だろうから、今後どうしたいかを聞こうとして訪ねていきましたところ‥‥」
 そう言って、妻は気遣うように夫を見ます。
「元々、その小間物屋は父の物で‥‥遺言で私に任されたのですが、その、弟が『商売は兄さんに向かないだろう』と言って‥‥それがあったために、姪は『お父さんお母さんのお店を乗っ取ろうとしてきた伯父夫婦』と見たらしく‥‥」
 溜息混じり話す夫。詳しく話を聞くと、弟夫婦に小間物屋を無理矢理奪われ追い出されて、この夫婦は随分苦労しながら、夫が手に職を付けてやって行けるようになったそうです。
 それで良い出来の小間物を作るようになったら、弟夫婦は、今度はただ同然でそれを奪い取って店に出すというようなことをしていたらしく、兄夫婦を見下すように暮らしていた両親を見ていたためか、姪もすっかりこの夫婦を下に見て居ると言うことです。
「いくらもう15、6と言った辺りの娘とはいえ、一人ではあまりに危なかろうと言った時でした。『一人じゃないもん』と言って、風体のよからぬ男達を数人奥から呼んできて‥‥私は妻を庇うので精一杯で‥‥」
 そう言うと肩を落とす夫。
「あのような男達があの子の言うことを聞いているというのも、何か裏があるような気がして、心配なのです。でも、わたくしは幼い時には商売を今は小間物を作って居るような男です。あの子に何もしてやれず‥‥」
 悲痛そうに言う夫に、それを気遣うように寄り添いながら妻が頭を下げます。
「お願いします。あのような男達と関わっていましたら、あの子が駄目になってしまいます‥‥それが不憫でならず‥‥何とか、あの子の目を覚まさせて下さい」

●今回の参加者

 ea0204 鷹見 仁(31歳・♂・パラディン・人間・ジャパン)
 ea5979 大宗院 真莉(41歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5980 大宗院 謙(44歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5989 シャクティ・シッダールタ(29歳・♀・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea7078 風峰 司狼(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7237 安堂 嶺(29歳・♀・僧兵・ジャイアント・華仙教大国)

●リプレイ本文

●苦戦
 こんな筈ではなかった、これがその時に一行の頭に過ぎった言葉でした。
 想定していたより相手の戦力が多く、想定していたより味方の戦力が少ないという事態に手間がかかったと言うより他有りません。
 依頼人夫婦を守る為に仲間の一人を置いてきたことも、娘のいる店へとやって来た一行は苦しい戦いを余儀なくされた理由のひとつかも知れません。
 大宗院謙(ea5980)は互角とは行かないまでも腕の立つごろつき一味の浪人2人を相手にし、ぎりぎりで攻撃を避けると目で妻や他の仲間が無事な様子を確認します。
 フェイントアタックで確実に攻撃を当てて相手を一人減らして何とか息を付くと、部屋の隅で怯えたように震えている娘へちらりと目を向けます。
 同じようにごろつきを相手していた風峰司狼(ea7078)も一人を叩き伏せて、持ち逃げしようとしていた倉の鍵を取り返して残った男達に向き合います。
 もうひとつの誤算としては、ごろつきの中に思ったよりも腕の立つ男達が居たと言うことです。
 娘には大宗院真莉(ea5979)と安堂嶺(ea7237)が側について守っていましたが、がたがた震えて襲いかかってきたごろつきへと目を向けています。
 謙へと更に斬りかかるごろつきを咄嗟に真莉の唱えたアイスコフィンが捕らえて氷の中へと閉じ込め、謙も暫く相手にしていた一人を漸く切り伏せると、他を相手にしている司狼の助太刀に入りながら闘っていました。
 何故こんな事態になったかというと、話は数日前に遡ります。

●姪の為に出来ること
 依頼を受けて、長屋の狭い部屋で茶などでもてなされながら話をしている一行の姿があります。
「わたくしにも娘がおりますので、その気持ちよく分かります」
 同情を込めて言う真莉の言葉に心配げに顔を見合わせる夫婦。娘の名が『とよ』であることを聞き、店の場所を教えて貰えます。
「とよ殿はどんな素敵な女性か楽しみだ」
 そう楽しそうに言う夫を冷ややかな目で見ると、真莉は店の場所や、今の経営状態など、知っている範囲でで良いので、と聞き出します。
「経営状態自体はあまり良いとは言えないと思います。何より子供ですし、やはり、その‥‥今まで他に納品していた方達も、手を引いたり‥‥。あの店が持っているのは、とよの両親がそれだけの物を残していったからでしょう」
 辛そうに目を伏せる夫の言葉に嶺は何かを考えている様子です。話を聞いてから、司狼は夫婦に向き直って口を開きました。
「娘一人、俺達がごろつきを追っ払っても他の連中がまた群がるだけだ。それに俺達とて、所詮は雇われ。そうそう雇う金もないだろうし、毎度律儀な奴が来るとも限らない。本当に、無償であの娘を守れるのはあんたらだけさ」
 一度で良いから厳しくしかりつけたらどうかという言葉に、夫婦は考え込むようにしていましたが、やがて躊躇いがちに頷きます。
「今あんたは店に品物を納めてはいないんだろう?」
「はい、私ども夫婦を、店を奪いに来たのだと固く信じていますようで‥‥」
 嶺が尋ねる言葉にそう言って頷いて夫は答えるのでした。

●傲慢娘とごろつき共?
 街中をごろつき引き連れて歩いていた娘・とよに、謙が近づきますと、お約束に肩をごろつきがわざとぶつけて来るのを避けず、掴み掛かるごろつきを簡単にのすと、謙はとよに笑いながら声をかけます。
「はぶりがいいね。どうだい大人の付き合いをしないか」
「‥‥ふぅん、腕は立ちそうね。良いわ、相手してあげなくもないわ」
 とよは傍目にはなかなかの可愛らしさですが、我が儘そうな性格が顔に良く出ているように見受けられます。
 まんまと小間物屋に入り込んだ謙ですが、肝心の情報収集に苦心します。肝心のごろつきがやたらと警戒して謙と関わりを持とうとしないのです。そうこうしているうちに、ごろつきの数人が気が付いたときには入れ替わっていて、浪人者が増えてしまいます。
 入り込んだ謙とは別に、嶺は一人で娘の小間物屋にやってくると客を装って品物を見て回ります。嶺の読み通り、ぱっと見は派手で見栄えのするような物が多いのですが、細工や飾りの出来が、依頼人夫婦のところで見た物と比べて格段に劣ります。
「何かお探しかしら?」
 商いをする者にあるまじき、尊大な口調で嶺にそう言って話しかけるとよ。それを溜息混じりに見ると、嶺はぼやくように呟きます。
「あ〜あ、残念だねえ。仕入先が替わっちまったかねえ‥‥二代目は見る目が無いねえ」
 手に持っていた物を元の並んでいたところに置いてそう言うと、怒りで唇を震わせているとよをちらりと見てゆっくり店を出て行きます。
 店を出て暫く様子を見ていますが、どうも追ってくる様子がないのに小さく息を付くと、嶺は依頼人宅へと足を向けました。
 また、真莉が華やかな装いでやって来ますと、とよにニッコリと笑いかけながら声をかけます。二言三言言葉を交わしてから、真莉は切り出します。
「わたくし、以前からここにお店をだしたかったのです。宜しければ譲って頂けないかしら? 勿論、それなりのお礼はします」
 そう言う真莉の言葉に娘が言うより早くにごろつき達が真莉を追い出しにかかります。どうやら真莉の言葉に何か焦ったかのような様子を見せているのに気が付いて、真莉はその場を立ち去るのでした。

●ごろつきの目的は‥‥
 動きがあったのは、その次の日でした。
 ごろつきから情報を得ることが出来ないままにいた謙の耳に、何やら相談する声が聞こえてきます。様子を窺うと、店に詰めているごろつき達が、裏口へと尋ねた来た商人らしき男と話している様子です。
「‥‥そろそろ良いんじゃないのか?」
「もう少し評判を落としてからを旦那様としては希望されていると‥‥」
「もう十分だ、あんな小娘に良いように使われるなんざ、腹の虫がおさまらねぇ。金や倉の鍵やらの隠し場所はもう見つけたんだ、餓鬼のままごとに付き合っちゃいられねぇよ」
「今夜にも片を付けてやるから、約束のものは‥‥」
 そこまで言いかけてごろつき達は更に声を落とすのに、謙は直ぐに依頼人の元にいる仲間にそれを伝えに行きます。
 急ぎ店へと向かってから、待ち伏せる為に店の中へと潜り込んで貴重品類を納めている部屋に隠れる謙・真莉・嶺の3人に、取り逃がさないようにと店の外で待ち構える司狼。じっと息を殺して一行はごろつき達を待ち構えていました。
 やがてやってきたごろつき達が辺りの様子を窺いながら進むのを追っていた司狼ですが、問答無用で刀を抜いて乗り込んでいくごろつき達の姿が目に入り、手近にいた酒を呑みに出ていた為にふらついていた町人を捕まえ役人を呼ばせると自身も刀を手に加わるのでした。
 中では、謙が何とか持ちこたえながら切り結んでおり、真莉と嶺がとよを庇うようにして立ち、ごろつきの一人が手に鍵を握って逃れようとして司狼に近づいてきているところでした。
 ごろつきを相手に闘っている姿を、目を見開いて熱病にでもかかったかのように青い顔で震えながら見ているとよに嶺が口を開きます。
「見たかい。ああいう連中は所詮強そうなモンや金のあるモンに見境無く尻尾を振る野良犬なんだよ」
 とよは嶺の言葉に唇を震わせながらですが、違うとでも言いたげに嶺を睨み付けて僅かに口を開きますが、感情が高ぶっているのかそれ以上言葉にならない様子です。
 何とか残りを倒してから、謙と司狼は真莉や嶺が付いているとよの方へと歩み寄ります。
 嶺がそれを見てから震えるとよへと手を貸して立たせている間に、司狼が呼ばせた役人が漸くやって来て、ごろつき達をしょっ引いていくのを一行は見送るのでした。
 後で知ったところでは、倉の鍵と金目の物を奪い、店を乗っ取る目的を持った人間が居たそうで、とっくにごろつき達にとよは見放されていたのでした。

●有るべき姿に
 とよのことで、依頼人夫婦が呼ばれてやってくると、空いている部屋で一行と共に顔を合わせます。とよに心配そうに声をかけようとして手を伸ばした妻ですが、その手をぴしゃりとはたいて激高したように依頼人夫婦へとお前の所為だと詰るとよ。
 とよが言うには、一行が現れた所為で全部上手く行かなくなったとのことで、それを言われると依頼人夫婦は悲痛そうに顔をゆがめると目を伏せます。
 ぱしんっと、短く鋭い音がするのにはっとしたように顔を向けた依頼人夫婦の目に、きつい表情でとよの前に立つ真莉と顔を押さえてへたり込んでいるとよの姿が。
「あなたの様にお金持ちでない依頼人さんがお金を払ってまでとよさんを心配しているのに何故分からないのです。これぞ、親の心、子知らずです」
 真莉の言葉に顔を押さえて唇を噛みしめるとぼろぼろ泣き出すとよに、近づいて手拭いでその涙を拭う妻に、とよは堰を切ったように泣き出し、依頼人夫婦はじっととよが泣きやむまで背をさすったりしながら寄り添うのでした。
「本当にありがとうございました」
 そう言って礼を言うのは相変わらず小間物を作り続けている様子で、作業着を着てたまま出で立ちです。
「あの子も私たち夫婦と暮らしていくのを了承してくれて、店は妻とあの子が、売り物は私が作って細々とやっていくことになりました」
 娘の我が儘には手を焼いているようですが、とよは一件以来、今度は夫婦にべったりのようで、甘えから来ている我が儘のようです。
「鳴にどれだけ、その様な醜態を見せないように努力したかわかりますか。鳴が今回の様な状況になったらどうするおつもりですか」
 店の奥から妻と一行をのぞいていたとよが、控えめに手を振るのを見てにやける謙に気が付いた真莉が怒ったようにそう言って背を向けて歩き去ろうとするのに、慌てたように謙が後を追います。
「真莉、これは、演技だ、演技!」
 そんな様子を見てくすくす笑うとよを、依頼人夫婦は優しく見守っているのでした。