●リプレイ本文
●怪しい隣人
「隣同士は互いに配慮して仲良くが基本なのに、それを守らないとは不逞な奴らだ」
西中島導仁(ea2741)は、そう言うと小さく息を付きます。相手を知らないため、まずは様子を見なければ、と溜息混じりに付け足すのに、南天桃(ea6195)が少し考えるように口を開きます。
「私も〜隣の人たちがどの様な方なのか気になってきました〜。毎日宴会するなんてお金持ちです、もしかして盗賊さんですか〜?」
「盗賊とかだったらギタギタだね」
近頃世間をにぎわせている盗賊を思い出してか、桃の言葉にレグルス・アウストリヌス(ea7516)はそう言うと、ちょうど部屋に入ってきた天涼春(ea0574)へと目を向けます。
依頼人に差し入れの握り飯を出してグットラックをかけて来てから戻ってきた涼春は、座ると僅かに眉を寄せて小さく溜息をつきます。
「己の行いが相手に煩わしい思いをさせるという事が理解できれば良いのであるが‥‥」
相手が盗賊の場合、余程の事情がない限り理解させることも改善させることも難しいのが容易に想像できるからです。
「なんにせよ、懲らしめて依頼主が安心して作業に打ち込めるようにしてあげないとな」
李雷龍(ea2756)が言う言葉に頷く一行。
依頼人の家の反対隣を抑えて貰い、其方から隣人を監視することとして、3交代になる面々。
導仁は見張りを交代して手が空くと、酒場へと向かいました。酒場に隣人のことを聞いてみると、あまり人付き合いが良くないことと、敷地内へと入ってくることに、神経質な程反応するらしく、一度、隣人達のうちの一人に刀をちらつかされ、家に近づくなと脅された人がいるなどを教えてくれます。
「大体昼過ぎにやってきて、酒なり食べ物なりを近所の酒屋に家まで運ばせてるらしいけど、家の裏口で待たせるんだってさ。なんか知らないけど随分用心深い奴らだよな」
「中の様子などは何か分からないだろうか?」
「あぁ、駄目駄目、裏口はしっかり閉まってて、覗こうとして偉い剣幕で怒られたって話だからな」
そう言うと、男は肩を竦めます。導仁は話してくれた常連の男に礼を言うと酒場を後にしたのでした。
桃が酒屋で話を聞いたのは、長閑な昼下がりでした。店の主で人の良さそうな初老の男性に、桃が隣人について尋ねると奥へと通されて茶を振る舞われます。
「残念ながら詳しいことは分かりませんが、とても高価な酒や珍味と呼ばれる食べ物などを買い込んであの家へと届けさせるのですが、とてもあんな大金を持っていそうには見えないような男達ばかりだと店の者も訝しんでおります」
「そうなのですか〜。それは怪しいですね〜」
落ち着いた様子で言う店主にほうっと息を吐いて言う桃。少し考えるように店主は黙り込むと再び口を開きます。
「確かに結構なお代を支払ってくれるお得意様ではありますが、あからさまに可笑しいことには代わり有りません。お手伝いできることが有れば、言って下さい」
その言葉に、桃はにこっと笑って礼を言うのでした。
●隣人の狙い
「羽振りのいい連中にろくな奴はいないよね」
レグルスはそう小さく言うと、そっと辺りを窺ってから、上空からそっと近づいて隣人宅を窺います。まだ早めの時間にも関わらず、男達はしこたま酒を飲んで騒いでいる様子で、そうっと家の中を覗いて見ると、ちょうど一人の男が立ち上がって、何やら包みを手に外へと出て来ようとしているのに気が付いて、慌てて上空へと移動します。
「何をしている連中なんだ?」
そう不思議そうに呟くレグルス。その男はレグルスに気付いた様子もなく、裏口から出て行って、出来うる限り人の通らない場所を選んでやっていくと、とある小さな家に、裏口から入っていきます。
なかなか中を確認できないレグルスですが、なんとかしてちらりと見ると、中では高価そうな反物を熱心に鑑定している商人風の男と、レグルスがつけてきた男と向き合って話しています。
「‥‥なるほど、これはなかなか‥‥お約束通り、引き取らせて頂きますよ。ところで、次はと言いますと、今度は何を?」
「良い物が手に入りそうなんですよ、これを終えたら暫くは上方にでも行ってほとぼりを冷ますつもりですので、大きな仕事をと思いまして‥‥」
そう言いながらひそひそと耳打ちする隣人の一人に、商人風の男は満足げに頷きます。大金の入った包みを男に渡して送り出すのに、レグルスは見つからないようにその場を離れると、家へと戻るのについて、仲間の元へと戻るのでした。
涼春は依頼人が息を吐いて手を止めたのに気が付いて、茶と甘い茶菓子をお盆へと載せて作業部屋へと入ってきました。それに気が付いて汗を拭いながら礼を言う依頼人。その前には途中とはいえ見事な出来映えの物が作業台へと載せられています。
「もう一息であるな」
「ええ、どうしても後一歩、一番細かい場所を失敗しないようにと手を付けられませんが‥‥」
そう言いながらも、自身で満足できる作品として仕上がりつつあるのを、その表情で表しながら繍箔師はゆっくりと茶を啜ります。
「自分は隣室にて控えてる故頼み事があればいつでも申しつけよ。必要であれば家事も承るぞ」
涼春の言葉に嬉しそうに笑って何度も礼を言う依頼人。隣人の事で少し不安定になっていた依頼人でしたが、一行に依頼したことでだいぶ楽になり、その気遣いにとても支え荒れているようです。
「本当に有難うございます。わたくしは何としてでも、良い作品を作り上げて見せます」
休憩をしてから仕事を再開する頃には、依頼人はどこか自信に満ちた様子を窺わせているのでした。
雷龍は自身の見張りの時間に、そっと隣人宅へと忍び込んでいました。じりじりと建物へと近づくのでしたが、人の気配に咄嗟に空いていた倉へと潜り込むと、その光景に息を飲みます。
何時でもそのまま旅立てるようにとでも言うかのように荷造りされている物のひとつから、高価そうな染め物などが顔を覗かせています。どれもこれも、鑑定する能力が無くても、それらの品物が如何に高価で良い物かが分かるような、そんな物ばかりです。
近づいてくる声に物陰に隠れると、入口付近でひそひそと話し合う声が聞こえてきました。
「あとは‥‥そろそろ隣の奴の物が出来上がる頃だな‥‥あれを手に入れて売れば、とんでもない値になるだろうな」
「いっそ遺品となってしまえば、それこそ値は跳ね上がるだろう」
「遺作となれば、完成していなくても‥‥」
微かにそこまで聞こえますが、男達は倉に何かを運び込むと再び話しながら遠ざかっていきます。それを確認して、雷龍はそっと倉を抜け出すと、見張り用の家へと向かうのでした。
●迎撃
「現行犯逮捕が一番だね」
情報をやり取りすると、レグルスはそう言います。襲撃を受ける可能性を考えて依頼人の家へと一行は移ると、涼春と桃が依頼人へと付き、レグルスは見張りを、導仁と雷龍は襲撃に備えて守りを固めていました。
そして、夜。依頼人はあと一息で作品が出来上がると、夜通し作業をと言うことで、奥の方へと作業部屋を移して仕事を続けています。
「泥棒っ!!」
レグルスは隣人達が塀を乗り越えてやってくるのに気が付くと大声で合図を送ります。庭で迎え撃つ導仁と玄関へと回った人間を抑える雷龍。多い数を相手する事になる導仁ですが、上空からレグルスのライトニングサンダーボルトの援護を受けて手早く雑魚を片付けていきます。
一人の男が導仁に斬りかかるのに咄嗟に刀で受けると反撃へと転じる導仁。素早く繰り出す攻撃をぎりぎりで凌ぐと鋭い突きを繰り出す男に、何とか身体を捻って受け流すと、導仁は男の腕を薙ぎ払います。峰打ちとはいえその一撃に刀を取り落とすと腕を押さえて引こうとする男に、導仁は一撃のもとに男を叩き伏せるのでした。
雷龍は玄関から廊下にかけての狭い空間を生かしつつ、相手を一人、また一人と減らしていきます。刀を持った人間はどうしても回りが邪魔になって上手く攻撃を仕掛けられない事も相まって先へと進めない様子です。
その上、オーラパワーがかかっている雷龍に次々と倒される様を見て身を翻して逃げ出す者まで現れます。
玄関側の人間を撃退すると、雷龍はゆっくりと息を吐いて奥へと向かいました。
庭の方からなんとか何人かの男達が入り込み、依頼人の部屋へと押し入ってきますが、そこには小太刀を構えた桃と警策を手にした涼春の姿があります。
「真夜中に騒ぎとは何事であるか! そなたの名は何と申す? この者に何の用であるか?」
涼春の言葉に睨み付けながら短刀をちらつかせる男達ですが、近づこうとするのを桃がアイスチャクラで食い止めます。
「夜中に家に押し寄せてくるなんて非道は許しませんよ〜」
そう言う桃は小太刀をぎゅっと握りしめて依頼人とその品を守るように立ちます。
「この品は依頼主さんの魂の分身、私の歌と同じ匂いがします。簡単には触れていいものではないですよ」
「うるせえっ、どきやがれっ!」
桃の言葉に逆上して斬りかかる男達ですが、一人は桃が小太刀でそれを受け、涼春へと向かった男は割って入った雷龍の一撃を受けて倒れ込みます。
斬りかかられた桃は小太刀で応戦して傷を負わせると、男は逃げだそうとしますが、駆けつけた導仁に退路を断たれて観念したように短刀を降ろすのでした。
●最高の仕事
一行は役人を呼んで捕らえた男達を引き渡すと、依頼人が仕事を終えるのを待っていました。程なく、疲れ切りながらも満足げな様子で依頼人が一行を部屋へと呼びます。
そこには、出来上がった作品が美しく輝きながら一行を迎えます。
「これを作り上がられたのも皆様のおかげです。‥‥皆様のおかげでわたくしは、最高の仕事が出来たのだと思います。本当に有難うございました」
そう言うと繍箔師は深く頭を下げるのでした。