椋鳥の宿

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月18日〜10月23日

リプレイ公開日:2004年10月27日

●オープニング

 12、3ばかりの少し醒めた様子の少年がギルドを訪れたのは、昼下がりでした。
「冒険者って用はなんでも屋っしょ? ちょっとの間で良いから、うちの宿に手を貸してくれないか母ちゃんが聞いてこいって」
 その少年は物珍しそうにきょろきょろとギルド内を見ながらそう言います。
「うちは『椋鳥』の宿って言われてて、郊外にある安宿。主に飯屋でやってきてるんだけど、この時期になると地方から椋鳥たちで一杯になるんでそう言われてるんだ」
 そう言って得意げに胸を張る少年。
 『椋鳥』とは雪が降って農閑期になったときだけ江戸に出てきて働く、いわば冬の期間だけの出稼ぎ労働者です。その様子がまるで椋鳥のようだとして、そう呼ばれています。
 どうやら少年の家はこの労働者達がこの時期に滞在する宿らしく、これからがかき入れ時なのだそうです。
「なんだけど、今年は姉ちゃんが嫁に行っちゃっうわ、父ちゃんが旅に出てるのを良いことに働いてた奴らが母ちゃんから金をせびって居なくなるわ、言葉の分からない異国人が安い宿だからって紛れ込むわ、いろんな理由で人手が足りなくてさ」
 そう言うと少年は頭を軽く掻きます。
「そんな状態で宿を続けるのも微妙だって思ったけど、母ちゃんは『毎年うちの宿に来てくだすってる人達は、今年どこに泊まれば良いの?』って言うもんでさぁ。迎え入れる準備とかさえ何とかなれば、後は毎年のことだし、その間に新しく人を雇って準備すれば、何とかなるんだけど、突発的に人手をってのがどうしても間に合わなくって、誰か、料理できたり宿のお客さんの相手をしてくれる人、お願いできないかなぁ」
 少年は困ったようにそう頼むのでした。

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea0404 手塚 十威(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0908 アイリス・フリーワークス(18歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea2319 貴藤 緋狩(29歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2700 里見 夏沙(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2722 琴宮 茜(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5980 大宗院 謙(44歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●打ち合わせ
「家事などはそれなりできますで、それらの手伝いをさせてもらいます‥‥」
「ん‥‥」
 大宗院透(ea0050)がそう言って仲居をすると言うのに少し考えると、宿の息子・裕太は仲居用の藍色でこざっぱりとした着物を探してきて差し出します。
「こういう宿は時として冒険者にとっても役に立つ場所だ。潰すわけにはいかんな」
 そう言うデュラン・ハイアット(ea0042)は宿の中を軽く見渡します。少し古くはありますが、作りのしっかりとしたなかなかに立派な建物です。
「こんな時に、あなたをほおっておく夫など気にせず、私と今夜どうであるか」
「申し訳ないですが、私にはそう言うのは興味がありませんので」
 大宗院謙(ea5980)が女将であるゆいの手を取ってそう言うと、ゆいはのんびりとした様子でその手を簡単に振り払ってにっこりと笑います。その様子が、返って手厳しい拒絶と感じられなくもありません。
 そんな謙の背後ではなかなかに凶悪な目つきで裕太が睨み付けていました。
「俺は主にお掃除を担当しますね」
「んじゃ、俺は男手ということで力仕事全般を請け負う事にするな」
 手塚十威(ea0404)の言葉に貴藤緋狩(ea2319)はそう言いながら、建物内の修繕などを考えてか辺りを見渡します。
「ん、俺は主に台所に参戦だな」
 そう言いながら、自前の前掛けを着込む里見夏沙(ea2700)。その横では、張り切った様子でアイリス・フリーワークス(ea0908)が小さい可愛らしい雑巾を手に握ってにこにこと笑っています。
「お部屋や廊下のお掃除をするです。高い所や、狭い所は任せるですよ〜」
 そうにこやかに言うアイリスに、シフールをあまり見慣れていないのか、裕太は興味深げにアイリスを見ているのでした。

●椋鳥たちが来る前に
 朝早くに起き出した手塚は、たすきがけして廊下を雑巾で水拭きしていました。やがて起き出してきたアイリスも飾り物や棚の上など、細かい部分を綺麗に雑巾で磨き上げていきます。2人が一通り終わらせて手を止めると、ふと2階の部屋の窓から裕太が新しく雇った娘さん達を相手に基本的な仕事や、洗い物、洗濯などを教えている様子が窺えますが、相手を子供と侮ってかそもそも熱心にやるつもりがないのか、おしゃべりをして聞いていない娘達の姿が見えるのに眉を寄せます。中にはそれを止めようとしている娘さんもいるのですが、どうにも押され気味で、裕太自身はどうしようかと思案している様子でした。
 貴藤は薪割りをしに庭へと出て来ると、どうにも騒がしい娘達とそれを止めようとする娘さんが2人程、それに考え込んだ様子の裕太の姿が目に入ります。
 裕太は顔を上げると、止めようとしていた娘を除いて帰れと言い、それにくってかかる娘も居たのですが、慣れた様子であしらって追い返してから改めて残った2人に仕事を教え始めるのを見て、感心したように見てから薪割りを始めるのでした。
 厨房は、比較的穏やかな朝を迎えていました。
 毎朝御飯を食べに来ている人達もどうにもすっかり馴染みの人達らしく、混み合いはするものの、急かされる雰囲気などはありません。今日辺りにはそろそろ椋鳥たちが集まり始めるため、明日の朝から厨房は戦場となるのは分かり切ったことではありましたが。
「こちらの味はどうでしょう?」
 そう聞きながらゆいさんに味を見て貰うのは琴宮茜(ea2722)です。ゆいさんは味を見ると微笑んで頷いて、もう少しだけお塩を入れると味が引き立つと教えてくれます。
 茜と並んでさっと野菜を煮て下拵えなどを行っているのは里見です。ある程度準備が出来たのを聞くと、礼を言うゆいに味付けを教わりながら料理を作る里見。ひょっこりを中を覗き込んで聞く貴藤に、里見はうっかり塩を入れ過ぎたと感じた大根の煮付けを、躊躇することなく貴藤の口の中へ押し込みます。
「!?」
 熱さと塩辛さで悶絶する貴藤。それを見つつ、里見は再び鍋へと向き直るのでした。
『貴様もジャパンで身を立てるつもりなら、ジャパン語はしっかりマスターしておくべきだ。良い教師でも紹介してやろうか?』
 ノルマン語で話されるデュランの言葉に縋るように見る、年若い冒険者が居ます。ここは宿の2階一番奥にある一部屋です。そこでは毛布にくるまって座って寝ていた冒険者が居たので、ついでにとばかりに布団を敷いて使うことなどを説明して居たところでした。
「‥‥‥‥」
 謙は宿の客達を見て少々遠い目をしています。見事なまでに女性客が居ないうえ、宿で働くどの女性も仕事で忙しく走り回っている為、全く粉をかけることが出来なかったからでした。
 と、一人の小柄な仲居さんが異国の冒険者の部屋へと食事を届けに上がってきたのを見て早速歩み寄って今夜私と、と声をかけるのですが、それに対して仲居さんは冷ややかな目で見返します。
「ナンパなどせずに手伝ってください‥‥」
「‥‥‥おぉ、息子じゃないか。10年ぶりだな」
「‥‥食事が冷めます、邪魔しないで下さい‥‥」
 そう言って懐かしそうに話しかけようとする謙ですが、その横をすり抜けて奥の部屋へと食事を運ぶ透を、謙は何となく頭を掻きながら見送るのでした。

●団体様いらっしゃい
 穏やかに始まった朝は、昼から入り始めた椋鳥と言われる労働者達が宿へと集まり始めたことにより夕食が始まる頃には戦場と化していました。
 忙しく厨房の中を走り回って居るのは手塚です。食堂からはアイリスが演奏する笛にどっと盛り上がる賑やかな笑い声が聞こえてきます。
「おい」
厨房に食器を片付けに来た裕太に気が付いた里見は声をかけると、ほどよく冷ましておいた大根の煮物を裕太の口へと放り込みます。
「んぐっ!? ん‥‥んむんむ‥‥んまい‥‥」
 驚いた様子を見せた裕太でしたが、それを飲み込むと一瞬目を細めて笑います。食器を流しへと置いてから新たな料理を手に再び出て行く裕太は、心なしか上機嫌に見えました。
 椋鳥たちではありませんが、夜の時間になると酒飲み達がただ五月蠅く騒ぐのに、事があります。長旅で疲れた椋鳥たちにとってはえらい迷惑なのですが、出稼ぎに来ているという意識から隅っこで小さくなっています。
「もっと大人しく飲めないのか」
「‥‥‥‥」
 料理を椋鳥たちに出しに出てきていた透と酒を運んできた裕太が騒いでいる男達の前に立つと、裕太は徳利を少し乱暴に置きつつ睨み付け、透はじとっと無言で男達を見ています。
「っ‥‥し、辛気くせぇ店だなっ。二度とこねぇぞ、こんな店っ!」
「二度と入れるかよっ!」
 裕太はそう言って大騒ぎをする男達にぱっと塩をふりかけて入口を閉じると、厨房へと戻って酒の肴を幾つか見繕い他の客へ詫びとして振る舞います。そんな姿を見ながら貴藤と里見は何かを話しています。
「後片付けくらいできるだろ」
 里見が厨房用の前掛けをぐいと貴藤に押しつけると手早く支度をして出かけて行きます。走り去る馬の蹄の音を遠くに聞きながら、貴藤は前掛けを身に付けると、そろそろ片付けの始まった厨房へと入っていくのでした。

●椋鳥の宿
「具合はいかがですか?」
「はぁ‥‥お陰さんでずっと楽さなったす」
 そう心配そうに聞くと、返される答えにほっとしたように息を吐く手塚。椋鳥の一人が、長旅の疲れからか体調を崩していたようで、それに気が付いた手塚に勧められるままに部屋へと入って横になっています。そこに水桶と手拭いを茜が運んできて手塚に渡し、心配そうな様子で見ています。
 やがて、冷やした手拭いを額に当てられると、男は眠りへと落ちていくのでした。
 貴藤は旅の疲れを癒している椋鳥たちと話しながら国元の家族の話を聞いていました。
「そいつんとこにゃ赤ん坊が生まれたばっかでよ、こんれがまった‥‥」
 そう言いながら仲間の一人の頭をぐりぐり撫でる男。そう言われるのは比較的若めの男で、照れたように鼻を掻きながら目を細めます。
 その様子に目を細めて笑う貴藤。閉鎖的な村の生活を思い出してか愚痴を零す男も今したが、そろそろ雪に閉ざされる村を思い出してか緩く笑います。
「童達の為にも、うんっと働いで、土産さいっぺ買って帰るんだぁ」
 どの顔も少しの寂しさを浮かべるものの、帰ったときに喜ぶ様を思い出しているようで、どこか楽しげな様子を滲ませていました。
 その頃、宿へと馬を走らせる姿があります。
 里見の後ろに乗った男は、しっかりと掴まりながら、見えてくる宿に嬉しそうな色を浮かべます。あれから出先で夜を明かした里見は、目的の人間を見つけると、少しぶっきらぼうで口数少なく宿に戻るようにと告げられます。
 ちょうど仕事に一段落がつき休暇を与えられていたためか、別段抵抗する様子もなく連れて行かれる男。
 宿では、入口をのんびりと掃き掃除するゆいと、のれんを出している裕太の姿が見えます。
「まぁ、お前様、どうなさったのですか?」
 驚いたように店の前で降ろされる男を見て声を上げるゆい。それに笑いながら男が里見を振り返ります。
「この御仁に忙しいことになっていると聞いてな。なに、仕事はちょうど休みになったところだ、心配いらねぇよ」
 そう言いながらゆいに笑いかけ、裕太をひょいと抱き上げる父親。照れたようにそっぽを向く裕太と嬉しそうに微笑んでいるゆいを見ながら、里見は厩へと馬を繋ぎ、厨房へと居る貴藤の元へと向かうのでした。
「皆さん、本当に有難うございました」
 最終日、ゆいと裕太を傍らにこの宿の主が頭を下げます。ゆいも同じように頭を下げ、裕太も照れたようにそっぽを向いていましたが、里見に小さく礼を言います。
 新しく雇った娘さん達もだいぶ仕事を覚え、仕事の方も持ち直したとのことで、もう心配はいらないようです。
 体調を崩した人も持ち直し、宿で世話になった人達も窓から一行を見送ってくれるのでした。