値銀のきのこ

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月20日〜10月25日

リプレイ公開日:2004年10月30日

●オープニング

 30程度の恰幅の良い商人が10程の丁稚の少年を連れてギルドへとやって来たのは、とある晴れた昼下がりでした。
「美味しいきのこ御飯をお腹いっぱいになるぐらい食べたいとは思いませんか?」
 にこにことそう言いながら言う商人に、丁稚の少年は醒めた目で見ています。
「そのきのこ、舞茸と言いまして、北国では献上する為に銀を褒美に探させるぐらい珍しいきのこでしてね。まぁ、多少匂いは強いですが、とにかく色々な薬効がありまして、またこれが美味」
「そんなのお腹一杯食べさせるなんて、あからさまに怪しいし」
 自信たっぷりに言う商人に、傍らの少年が冷ややかに言います。むう、とばかりに眉を寄せて暑くもないのに扇子を取り出してぱたぱたと扇いでから、小さく溜息をついて、扇子で内緒話でもするように口元に添えて商人は続けます。
「いえ、ここだけの話ですけどね? 美味で薬効が有れば必ず買い手はつく筈なんですが‥‥きのこですからその、それに見た目がひらひらですし、何より知名度が‥‥これがまた美味しいという話さえ広まれば、売れるでしょうに、何よりもお値段が‥‥」
「聞こえてますけど。それにここだけにする必要ないし。違うでしょ、旦那様が食べたこと無いからその様子に怖じ気づいて、冒険者に毒味して貰いたいって思ってるんでしょ?」
 丁稚の少年がやれやれとばかりに肩を竦めて商人に突っ込むと、決まり悪げに笑いながら手拭いで出てもいない汗を拭って商人は口を開きました。
「ま、あれですな、異国の言葉で『でもんすとれぇしょん』とでも言うんですかな? とにかく、値銀の舞茸を工夫して美味しく調理して食べて、宣伝して欲しいと、そう言うわけですな」
 そう言うと、困った顔をして笑いながら商人は頭を下げました。
「ま、建前は置いて置いて、どうかあの茸を、美味しく食す方法を考えて、ついでに宣伝でもして貰えないでしょうか?」

●今回の参加者

 ea0264 田崎 蘭(44歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2160 夜神 十夜(29歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2387 エステラ・ナルセス(37歳・♀・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea3547 ユーリィ・アウスレーゼ(25歳・♂・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea7676 アップル・パイ(22歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea7677 レモン・パイ(22歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea7742 ヴィヴィアン・アークエット(26歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)

●リプレイ本文

●ますは試食
「‥‥ところでマイタケって‥‥美味しいのだ??? 実はオイラ、どんな味なのか、知らないのだ。」
 張り切って宣伝をすると言っていたユーリィ・アウスレーゼ(ea3547)は、ふと首を傾げてそう言います。
「ジャパンの料理って、まだ食べたこと無いモノが沢山あるのだ‥‥」
「他人に食わせる前に、自分らがその味をしらなきゃ宣伝しようにもその土台がつくれねぇ。‥‥ってことで、作戦開始前にみんなで舞茸の試食といこうじゃねぇか」
「賛成っ!」
 う〜ん、とばかりに首を傾げるユーリィを見て言う田崎蘭(ea0264)の提案に、いち早く反応するアップル・パイ(ea7676)。実物の舞茸はひらひらとして何も知らなければ少々グロテスクにさえ見えるかも知れませんが、何よりも目を引くのはその大きさです。
 実際の食材としてみせられる舞茸は、人の頭程の大きさがあり、手に持つとずっしりと重く、少々強い匂いがします。高価なきのこを好きなだけ、と言うのが随分太っ腹な話ですので、商人自身が食べてみたいと思っているという事実を知らなければ何を企んでいると疑われそうではあります。
 依存がなさそうな様子に蘭が試食の準備を始めたのに、一行は宣伝の打ち合わせをしながら徐々に漂ってくる舞茸の香りに目を細めます。食欲をそそる香り、とでも言うのでしょうか、調理場から漂う香りは、まさにそれでした。
『ワタシ舞茸なんて食べた事ありませんから楽しみですわぁ♪』
『うん、おいしそうだよねぇ、早く食べてみたいなぁ』
 同郷の人間に思わず母国語で話しかけるヴィヴィアン・アークエット(ea7742)に、アップルの双子の妹、レモン・パイ(ea7677)もにこにこしながら頷いて同意します。
 蘭が料理を作り終えたのに気が付くと、エステラ・ナルセス(ea2387)が卓へと運ぶのを手伝って試食となりました。
「まぁ、夜神にはかなわねぇけどな、身内だけで食うもんだし」
 そう言いながら多めに炊いた舞茸の炊き込み御飯をおにぎりにしながら言う蘭。天麩羅もお吸い物も、舞茸御飯もいわゆる家庭の味で、どことなくほっとした感じを受け、また、その家庭の味に舞茸は良く合います。
「ん〜っ、美味しいのだ♪」
 口元に御飯粒をくっつけながらにこにこ笑うユーリィに、蘭もまんざらではないようで、僅かに目を細めると、自身もお吸い物を口にしてその味を堪能するのでした。

●宣伝本部長?
 ヴィヴィアンは軽やかに歌いながら街中を飛び回っていました。
 その声や曲に不釣り合いな題材、舞茸を宣伝する歌ですが、それが却って良かったのか、あちこちで興味深そうに手を止めて聞き入る人達が見受けられるのでした。
「明日は君のために、この腕を振るって美味しい料理を作るよ」
 20程のすらりとした立ち姿の、整った顔立ちでなかなか美人といえます。その娘さんの胸元にじっと熱い視線を向けながらいう夜神十夜(ea2160)の言葉に、娘さんは視線の合わない目元を涼しげと感じたか、手をぎゅっと握られても抵抗せずにぽっと赤くなります。
 その時夜神の目がきらりと光ったかどうかは分かりませんが、好機と見るやすっと手を伸ばして胸をむぎゅっと揉むのに、娘さんの顔は見る見る赤く染まっていきます。
「〜〜〜〜っ!?」
「ふむ、なかなか‥‥」
 声にならない悲鳴を上げる娘さんですが、口元に笑みを浮かべる夜神に、口をぱくぱくさせることしか出来ず、しっかりと胸の感触を楽しまれてしまったようです。
 一方、街を歩き回って主婦達の井戸端会議へと加わると、エステラはきのこについての意識や懐具合を聞きます。やはりと言ってはあれですが、一般家庭に舞茸を普及させるのは、値段などの関係で無理そうです。
 ただ、傾向として上手くて薬効があるとなれば、そこは江戸っ子、初物に群がるのと同じように買う可能性はあるだろうとのことです。
 程良い時間まで宣伝を行ったところ、演奏で楽しませ事もとても効果的で、どうやらなかなかに評判は良い様子です。
 それを確認し、エステラからの情報を聞いた夜神は、蘭に手を借りて明日の為の仕込みを始めます。
 手際よく味付けをして、じっくり煮込む始める夜神。直前にやった方が良い作業を除いて手早く済ませてしまうと、次の日が重労働になることを見越してか、早めに休みます。
 蘭と、それに手を貸す丁稚の少年とで、店内の品物をキッチリと仕舞い込み、2人は遅くまで店内を試食会場として使えるように卓を設置していくのでした。

●冴え渡る腕
 朝一で炊かれた宣伝用の炊き込み御飯を籠に詰めて、アップルとレモンは2人で協力しながらぱたぱたと江戸の街を飛び回っています。美味しそうな匂いに釣られてか、シフール2人に釣られてか、子供達が大きな声を上げながらぱたぱた着いて走り回っています。
「格好のおもちゃにされちゃうんだもの‥‥子供って嫌いよっ!」
 アップルが小さくむくれながら言うのをレモンがおっとりとした様子で宥めると主婦達や、小腹の空いた街の人間が着いてくるうちに増えたのを確認してから、特設会場となった依頼人の店へと向かいます。
宣伝の為に商人の店の店先ではユーリィが楽しげに三味線を弾いています。その肩に腰を下ろして、邪魔にならないように気をつけながらも、三味線に合わせて笛を吹くヴィヴィアン。
「とっても美味しい舞茸の試食会をおこなうのだ〜♪」
 賑やかで本当に楽しげな様子に、こういう賑やかな物が好きな町人達が集まって楽しそうに眺めています。
「へい、いらっしゃい! 美味しいマイタケの試食会なのだ♪ よってらっさいみてらっさい〜♪」
「美味しい美味しいマイタケですよ〜♪」
 2人の様子に釣られたように店内へと踏み入れる人達が徐々に増えていきます。
「時季を得て収穫した茸は本当に美味しいですわね‥‥」
 上品ななりでうっとりと呟くエステラを見て、入ってきた男達は早速出されてきた御飯やお吸い物を書き込むと言っても可笑しくない程の勢いで食べていくと、思わずその旨さに相好を崩します。
「む、良い感じの乳発見‥‥」
 そう言って30手前の美女へと歩み寄ると、自らよそった御飯とお吸い物、それに盛りつけた天麩羅をもって女の所へと出向いて、対応ついでに胸を揉む夜神。大人の余裕か笑って流す女に、昨日の娘がやってきて、衝撃を受けたように夜神を見ます。
「うう、大人の女の人と比べられると切ないわ‥‥」
「何を言う、俺は胸を差別はしないぞ。胸は皆等しく良い物だ」
 どこか論点がずれたことをきっぱりと言い切る夜神に、娘はどこか遠い目をしながら舞茸御飯を食べるのでした。
「‥‥‥大盛況ですねぇ‥‥良い感じに食欲をそそります」
「この際懐具合は考えない方向なんですね」
「‥‥‥」
 丁稚の少年のつっこみを、遠くを見ることで受け流すと、依頼人は夜神に促されるままに、料亭などの者が疲労回復から始まる素晴らしい薬効の数々を披露しながら、買い入れた舞茸をさくさくと売りさばいていきます。
 時折、目は若い女性達の胸元に釘付けにさせながらも、料亭の人間と上手い調理法について話し合う夜神。特にこつのいる天麩羅や強打した料理以外の調理法など色々と話し合い、場合によっては目の前で上げて見せたりしていて、こちらはとりわけ好調のようでした。
 食べに来ている客は大部分が実際に客になるとは言えない人々ばかりなのですが、子供達がはしゃいで食べる様や、具合の悪い家族へと頭を下げて持ち帰る人々も目の当たりにして商人は溜息混じりに呟きます。
「もっと、庶民に手に入りやすくなると良いんですけどねぇ‥‥」
「ま、多少の損を覚悟に何度かこういう場を作れば良いんじゃないですか?」
 どこか投げやりに聞こえかねない言い方をする丁稚の少年の言葉ですが、商人はふむ、とどこか納得したような顔で考え込むのでした。
 試食会場が大盛況な様子を、片付けものをしながら横目で見て、縁の下の力持ちとして裏方を一手に引き受けていた蘭はどこか満足げにと笑うのでした。

●値銀の旨いきのこ
「いやぁ、美味ですな。素晴らしい、異国の言葉で『でりしゃす』とか言うんでしたかな?」
 上機嫌で用意された食事を食べながら商人は言いました。その隣ではその味を気に入ったのか、ひたすら黙々と、商人を突っ込むことも忘れて丁稚の少年が舞茸料理を消費していきます。
 試食会は大盛況のうちに終わり、用意した大量の料理も普段ならば手の届かない人達が満足ゆくまで食べることができ、仕入れた舞茸も高価にもかかわらず、料亭やら裕福な人達やらが買っていきで、商人はほくほく顔です。
 例の意味を込めて、酒やらその他のご馳走まで用意して一行をもてなします。
 中でも、夜神がまだあった舞茸をさくっと上げた天麩羅は絶品で、商人の用意させた蕎麦などにも良く合います。
「ジャパンには美味しい料理が一杯なのだ〜」
 嬉しそうにそう言って御飯をぱくつくユーリィ。
 料理が盛られた卓の隅では、牡蠣と舞茸を炭火で焼いて薄味を付けたものを恐る恐ると言った様子でエステラが口元へと運んで食べています。直ぐにその味にほうっと頬に手を当てて幸せそうに目を細めて微笑んでいます。
「残ったもの、おみやげに貰っていきたいわね」
「はっはっは、構いませんよ、今の私はなんでも許せてしまいそうです」
「‥‥お店の権利以外で、にしてくださいね」
 アップルの言葉に上機嫌で応える商人へと、お吸い物を飲み終えた丁稚の少年が、お椀を卓へと置きながら釘を刺します。
 そんな様子を見て笑いながら、ヴィヴィアンは満足ゆくまで食事を楽しんだ後に、部屋の隅で自慢の美しい緑色の髪を梳かしていました。
 賑やかな酒の席を隣の部屋で眺めつつ、蘭はくいっとお猪口を傾けて酒を飲んでいます。蘭と共に酒を飲むのは夜神。
 賑やかな夜は、こうして更けていくのでした。