捕り物・夫殺新婦

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月28日〜11月02日

リプレイ公開日:2004年11月06日

●オープニング

 泣き腫らした目をした老人がギルドを訪れたのは、肌寒い、雨の日の朝でした。
「あの女を‥‥息子を殺したあの憎き女を見つけ出して、裁きを受けさせたいのです!」
 そう言う老人はげっそりとやつれて傍目から見ても酷く弱っています。
「息子は先日30になりまして、5つ下のあの女と祝言を挙げて、本当に幸せそうでした。儂や家内もあの女がどんな性悪かを知らずに実の子と思って可愛がっておりました」
 そう言うと悔しそうにやせ衰えた腕で自分の膝を口惜しそうに叩きます。その様子は端から見ても痛々しく、哀れに見えます。
「あの女は嫁に来てそう経たないうちに男を引き込んでいたとも言われておりましたが、儂らも息子もあの女を信じて疑うことすらしておりませなでした」
 そうして暫くそのことに触れずに数日経った頃に、息子が刺し殺される事件が起きたそうです。滅多刺しにされ懐にあった大金が盗まれ、そして嫁が賊が押し入ったのだと大騒ぎをしていたそうで、直ぐに役人を呼んで嫁の話を聞いていたそうですが、何を聞いてもすらすらと落ち着いて答えていたそうです。通常ならば可笑しいとも感じたでしょうが、依頼人も動揺していた為か疑うこともせずに居たそうです。
 役人が色々と取り調べている時に嫁が、押し入った男の名を挙げ、その男に注意が向いているうちに姿を消したそうです。
 ちなみにその男は、女が密通していたと言われる男で、息子殺しに関しては全く関与していないことが分かります。
 よくよく調べてみると丁稚の少年に、息子が殺された時の説明を繰り返し練習する姿を見られていたことも分かり、直ぐに手配が回ったのですが、行方はようとして掴めなくなってしまったのです。
「あの女の身内と言えば、あまり良い噂を聞かない博奕好きの浪人である兄が一人‥‥この男の行方も知れないので、一緒に行動していると思われます」
 そう言うと老人は涙ながらに頼むのでした。
「お願いします、あの女をひっ捕らえ、儂らの無念を晴らして下され!」

●今回の参加者

 ea1472 聖津 亜玲(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea3914 音羽 でり子(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea6764 山下 剣清(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6982 レーラ・ガブリエーレ(25歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 ea7675 岩峰 君影(40歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea7901 氷雨 雹刃(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●兄の行方
「少しお話いいでしょうか?」
 にこりと微笑んで尋ねる聖津亜玲(ea1472)に、尋ねられた娘はぽっと顔を赤らめて亜玲を見ました。娘は亜玲が手配中の女の行方を知りたがっているのを知ると、申し訳なさそうに謝って自分は知らないことを告げて立ち去ります。
 先ほどから成果はあまり無いようで、男女構わず声をかけて話を聞こうとしているものの、女の行方どころか、酷い場合は手配中の女の事すら知らない者までいる始末。
 軽く頭を掻く亜玲の背後では、ちょっとした人だかりが出来ています。笑わせ師をしている音羽でり子(ea3914)が同じく情報を聞こうと通行人に声をかけていますが、気が付けばでり子が口を開けば道行く人が立ち止まって笑う、といったことを繰り返しています。
 どんなときでも笑いを取る姿勢は流石芸人。情報収集と言うより、街の人々に笑いを提供している風にも感じますがそこはご愛敬です。
 同じ頃、あちこちの賭場を手分けして回っていたのは岩峰君影(ea7675)と氷雨雹刃(ea7901)です。
 岩峰は名のある一家の賭場や、見知った者がいる賭場などを幾つか回っていますが、女の兄と繋がる者は見あたらず、小さな賭場にいるのではないかと言うことを聞きます。
 氷雨は手配書で女と兄の顔を確認してから、岩峰とは違う賭場を見て回ります。前もって兄が目撃された辺りで賭場を見つけるのですが、来る日はまちまち、確実にいつ来るかというのは分からないそうです。
 暫くその賭場に留まることにしながら、氷雨は兄を待つことにしたのでした。

●男達と女
「初めての依頼は不届きな女を捕らえる依頼じゃん!」
 レーラ・ガブリエーレ(ea6982)は依頼人のお店の前でぐっと拳を握ると、休業中の店の前を、肩を落として掃除している丁稚の少年に近づきます。
「いなくなった女が引き入れてたっていう男について聞きたいんじゃん!」
「えっと‥‥どっちの男のことですか? 最初に引き入れてた男ですか? それとも後に引き入れてた方ですか?」
「え? 同一人物なんじゃん?」
「いえ一人じゃありませんでしよ。あ、でも、僕も詳しいことは知らないんです。僕が店にいたときに、2人ほど見たことがあるってぐらいで‥‥」
「‥‥話を聞けば聞くほどムカつくぜ‥‥こんな性悪女は成敗だぜー!!」
 少年の話を聞いて、うがーっとばかりに怒るレーラ。少年から捕まった男は元々真面目な大工で、結構早い内に来なくなってたらしいこと、最近出入りしていた男は柄が悪く、若旦那に男のことを聞かれた女が、兄の友人だと言ったことなどを教えてくれます。それを聞いてレーラは奉行所へと向かいます。
「男についての情報を教えてくれやがりませんか?」
 奉行所から出てきた男を捕まえてそう言うと、胡散臭そうにレーラを見た男はにっと笑うとがっしりと肩を捕まえて奉行所内へとレーラを引っ張っていきます。
 レーラが開放されたのは、既に日もとっぷりと落ちた頃。それまで誤解されてこってりと油を絞られ、漸く事件を請け負った冒険者と理解して貰ってのことです。
 山下剣清(ea6764)は近所の女達に話を聞いていました。はじめは言い辛そうにしていた彼女たちですが、山下が起きた事件に対して怒りを覚えている様子が分かると、おずおずと知っていることを話し始めてくれます。
「付き合いが悪い人だから詳しくは分からないけれど‥‥上方の方から来たとか言っていたわ、若旦那‥‥」
 そう言うと話した娘は涙ぐみます。どうやら若旦那は穏やかな人柄で好かれていたようで、皆口々に女を何とか捕らえて欲しいと、改めて山下に頼むのでした。
 レーラが奉行所に捕まって絞られた話を聞いて一通り笑った後、それぞれが調べた情報を持ち寄って確認していました。
 流石に捕まって時間を取られた甲斐があってか、捕まった男は女が姿をくらます為と、女のの本性に気が付いて縁を切った大工に対しての逆恨みも込めて濡れ衣を着せられたこと、事件前に女の所に行っていた男が女の兄と博奕仲間であることなどを知ることが出来ました。
 でり子や亜玲が聞き込んで分かったのは、女の方から若旦那に貞淑なフリをして近づいたのが元で結婚したこと、周りは女を好いている人間はいなかったということ。若旦那は酒も博奕もやらず、至って健康で力も強い方だったと言うことぐらいでした。
「あと、浪人者の兄っての、えらい腕が立つらしいで?」
 でり子の言葉に山下が軽く眉を上げます。
「逃走路としたら上方に向かうと見るのが妥当だな。これからの季節だと、北へ向かうとも思えないからな。手は色々打つつもりだが‥‥」
 そう言いかけて岩峰は少し考えるようにして呟きます。
「氷雨さんの方が上手くいくか、だな」

●取り入り
 氷雨が怪しまれないように合流せず賭場へと入り浸り、3日が過ぎようとしていました。連絡は亜玲が夕刻の後架へと出る氷雨から首尾を聞いて戻るといった状態でした。
 その夜も、男は現れないかと思いかけたときでした。ひそひそと何やら話している男達に気が付きます。入口から入った様子はありませんが、いつの間にか女の兄と見た目が優男風のヤクザ者、それに明らかにごろつきと分かる男の3人です。
「‥‥昨日一人やられたらしい。シマ荒しやがってとかなんとか斬りかかられて逃げてきたらしい」
「早いとこ出た方が良いいんじゃないですかい?」
「あぁ、明日の夜だ。お前の妹とは言え、俺ぁあんな女の為に死にたかねぇ」
 優男が兄に言うのに、ごろつきは下卑た笑いを浮かべ口を開きます。
「酷ぇお人だ。散々愉しんだ挙げ句に旦那殺して金を奪うなんて言うことそそのかしておいて」
「やったのぁあの女さ。それに殺すのを持ち出してきたのは女だ」
「あの馬鹿はいい、ごたごたの所為で手が足りんが仕方がない、明日抜ける。今夜のうちに思い切り遊んでおけ」
 そう言うって2人に金を握らせる男。氷雨はそれを見て初めて気が付いたかの風を装って近づくと声をかけます。
「羽振りが良いねぇ? ツイてるお人は何かが違うぜ‥‥なぁ旦那? ちょっくらカネ貸してくんねぇか? 今日明日には此処を出なきゃなんねぇってぇのにこのザマだ。礼はきっちりするからさ‥‥な?」
 卑屈っぽく言いながらわざと空にした財布を軽く振る氷雨に、一瞬射るような目で見る男ですが、にやりと底冷えするような笑みを浮かべると口を開きました。
「‥‥良いだろう、礼は江戸を出てからたっぷりとして貰おう」

●捕り物
 江戸から兄妹が抜け出す夜、一行は待ち伏せの為、江戸を出て直ぐの街道脇の草叢に身を伏せていました。穴を掘って潜む事を提案した岩峰は、網が一味の上から落ちる仕掛けを作ると穴に潜り込みますが、左側にでり子右側に亜玲という、微妙に嬉しいんだか嬉しくないんだか分からない状態に苦笑しています。
 それぞれ草叢の3人よりも手前にある木の陰に隠れたレーラと山下は、数人の足音が近づいてくるのに気が付くと、通り過ぎるのを待ってちます。岩倉の設置した網にかかるごろつき数人とそれをぎりぎりでかわした兄や優男、それに女と氷雨。それを確認した山下とレーラが退路を塞ぐように飛び出し、草叢の3人も彼らの行く手を塞ぐように飛び出します。
「懺悔の時間だ」
「お祈りは済んだか?…神様が裁いてくれる前にちと痛い目見てもらうじゃん!」
 山下の低く発せられる声とレーラの言葉に、いっせいに武器を構える者達。その中に混じっていた氷雨も女を庇うような位置で刀を構えます。
「覚悟はできたか? ‥‥今までの行いを償え」
 山下の言葉に兄が刀を構えて対峙し、優男は岩峰へと向かいます。先手必勝とばかりに打ち込まれるソニックブームを間一髪でかわして山下へと打ちかかる兄。その一撃を何とか受けきると両者睨み合います。
 優男は思いがけずに素早い動きで短刀を使って岩峰の攻撃をかわしつつ、兄の退路を開こうと躍起になっている様子に見受けられます。
 それに乗じて女を人質に取ってと、一味への裏切りを敢行しようとした氷雨は、咄嗟に繰り出される小太刀をぎりぎりで受けきって跳び退ります。
「甘く見て貰ったモンだね。アタシが大の男を滅多刺しにしたって事、お忘れかい?」
 そう言って更に踏み込んで繰り出される小太刀の鋭い一撃をかわしきれずに深々と突き立てられ、氷雨の口から小さな呻きが漏れます。
 そこへ斬りかかったでり子を避ける為に女が身体を引くと、すかさずレーラがリカバーを飛ばして氷雨の傷を癒します。
「なんで一緒になろう思た人を手にかけたりするんや!」
「はんっ、あんな冴えない男、金でも持ってなけりゃアタシが相手するわけないだろう?」
「っ! アンタは人として、女として最低やっ!」
 怒りに満ちたでり子の声とともに、レーラと亜玲が駆けつけ、レーラのコアギュレイトがその動きを封じ、亜玲が直ぐにでり子から縄を受け取り妙に慣れた手つきで縛り上げると妖しい目つきで笑い、でり子が怒りを押し殺した声で女を見下ろします。
「ふふふ‥‥その悔しそうな顔‥‥そそりますね」
「殺しはせん。‥‥生きてアンタのダンナと、義父さんに謝罪の気持ち表せ。‥‥楽して償おうと思うなや」
 亜玲の様子に女が捕らえられたのに気が付いた男達は、兄は山下から離れると岩峰を抑えている優男の脇を突破し、レーラのホーリーを食らいつつも、生い茂った林の中へと姿を消してしまったのでした。

●その後‥‥
「本当にお礼の言葉もございません」
 涙ながらに一行に頭を下げる依頼人。兄は取り逃がしてしまいましたが、女と元凶とおぼしき男、それに加わったごろつきを一網打尽にし、無事に依頼を終えることが出来たようです。
「これで息子も浮かばれることでしょう。本当に有難うございました」
 そう言って、老人は何度も何度も一行に頭を下げ続けているのでした。