初孫のお宮参り

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月01日〜11月06日

リプレイ公開日:2004年11月09日

●オープニング

 その老人がギルドにやってきたのは、秋の長閑な、ある晴れた昼下がりでした。
「孫というのは可愛いもんで‥‥実はうちの孫も、そろそろお宮参りなんですよ」
 そう言うとでれっと笑う老人。細身でちゃきちゃきとした雰囲気の老人なのですが、何と言いますか、浮かれているとでも言った方が良いのか、やけにでれでれとした笑顔で言います。
 お宮参りとは、その土地に住む『氏神さま』に赤ちゃんが生まれた事を報告する儀式。氏神さまにその土地の子‥‥つまり氏子と認めてもらい、守ってもらえるようにお祈りするものです。薬師がどうしても高額になることが多い為、これはとても大切なことと思われています。
 大抵男の子は生後31日目、女の子は生後32・33日目辺りに行くのが一般的で、老人の孫もそろそろ31日目が近づいてきているらしく、とても楽しみにしている様子です。
「お宮参りに行くのには、儂の家内と嫁が揃って行く訳で、本日こちらに窺ったのはそのことでなのですが‥‥」
 そう言うと、老人は酷く心配そうな顔になると眉を寄せます。
「近頃は物騒な事件が多いじゃありませんか。嫁も家内も女の身。なにかに巻き込まれてはこります。何より初孫で我が家の跡取りに何かあっては大変です。ですので、いっそ護衛を雇ってしまえ良いと思い立ちましてこちらへと窺わせて頂いたしだいです」
 そう言うと、老人は少しはしゃいだ様子で続けます。
「儂もこっそりお宮参りの様子を見ておきたいと考えているので、儂について下さる方もいればありがたいですが‥‥」
 そう言う老人は何度も依頼を受けて貰えるように頼むのでした。

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea1011 アゲハ・キサラギ(28歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2319 貴藤 緋狩(29歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2387 エステラ・ナルセス(37歳・♀・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea2406 凪里 麟太朗(13歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2751 高槻 笙(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4112 ファラ・ルシェイメア(23歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea6161 焔衣 咲夜(29歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●孫の名前
「未来を紡ぐ良い名ですね」
 高槻笙(ea2751)の言葉に相好を崩す依頼人。孫の名前は『凛太』と言って、凛々しく、逞しくと言う願いが込められているそうです。
「その名に込められた意味や願い‥‥素敵ですわね」
 嬉しそうに話す依頼人へと優しく微笑みながら頷くのは焔衣咲夜(ea6161)です。依頼人が由緒ある商家のご隠居であることを知ると、デュラン・ハイアット(ea0042)の目がきらりと光りました。
「私はデュラン・ハイアット。今回の仕事、一切の心配も要りません。万事お任せ下さい」
 そんな様子を聞きながら、ファラ・ルシェイメア(ea4112)はお宮参りへと向かう一行へと目をやりつつ、依頼人の言葉に相づちなどを打っていました。
「祖父殿にこんなに愛されていて幸せ者だな、坊主」
 そう言って笑いながら頭へと飛ばした手を、その手前で止めて、恐る恐るといったように指で赤ん坊の頬を突くのは貴藤緋狩(ea2319)。指に伝わるぷにぷにとした感触を楽しんでいると、ぷっくりとした小さな手でその指をきゅっと握ってにこぉっと笑う凛太。
 そんな凛太を抱いた祖母を愛馬の黒皇へと乗るように促してから、凪里麟太朗(ea2406)は轡を引きながらも、黒皇の首筋を撫でて歩きだします。前もって昨日の打ちに場所を確認していたエステラ・ナルセス(ea2387)が先に立って歩き出すと、一行はゆっくりとお宮参りへと出発です。
「お宮参りなんて初めてだから、なんだか楽しみ♪ ‥‥けど、何でお母さんじゃなくてお祖母さんが赤ちゃんを抱いてるの?」
 アゲハ・キサラギ(ea1011)が楽しげに話していますが、ふと疑問に思ったのか口を開くのに、ゆっくりと馬の横を歩くお嫁さんが笑いながら説明してくれます。
「この国ではお産は汚れと考えられているのです。汚れを払うまではと‥‥でも実は、産後の身体に負担をかけさせない為とも言われているのですよ」
「へえ、ジャパンの文化ってスゴイ」
 アゲハが言う言葉に嬉しそうに笑うお嫁さん。江戸から半日ばかりの距離の神社へと向かっていますが、一行はゆっくりとした足取りで向かいこまめに休憩を挟むので、ちょっとした小旅行気分で進むのでした。

●お宮参り
 貴藤は凛太が泣くことを心配していたようでしたが、その心配には及ばなかったようでした。むしろ、きゃっきゃきゃっきゃと嬉しそうに笑いながら一行へと手を伸ばしたりしていて、麟太朗が拾って綺麗に拭いた木の実などを渡すと、ご機嫌でそれを小さな手で抱え込んで眠ったりしています。
 とにかく長閑な道行きで、江戸を出てから辺りに広がる景色は赤く色付き始め、目を楽しませます。
 エステラや貴藤が、時折死海に入る風体の宜しくない人間と孫達を庇う位置に入ることによって、不届きな考えを持つ人間達も見送るより他はないと言った様子でした。
 一方、依頼人一行はと言いますと、依頼人が生まれてこの方の凛太の様子を嬉々として語りつつ、離れた位置から見る孫達の一行と人がすれ違うたびにはらはらとして様子で目を向けたりしています。
「そうですか、故郷に帰る依頼をお待ちですか」
 依頼人は、デュランがにこやかに冷たい目でごろつき風の男に話しかけて退散させているのを見てから、ファラへと目を向けてそう言います。
「うん、イギリスへの月道の依頼が出るのを待っているんだけどね‥‥この分だと、当分帰れそうもないや‥‥」
 苦笑するファラ。なるほど、と依頼人が頷く横では戻ってくるデュランを高槻と咲夜が迎えています。
 そうこうするうちにそろそろ夕刻と言った頃に、目的の神社へと辿り着くお宮参り一行と、少し離れたところにいる依頼人一行。依頼人一行は神社直ぐ近くの旅籠で早めに部屋を取り、お宮参りの護衛は神社の境内の一角で御抹茶とお餅などを頂きながらのんびりまっています。
 ふと社へと目を向けると、社前ではお嫁さんが待っています。お嫁さん自体は忌みが明けていないので社へと入れないのだそうです。祖母が凛太を抱いて連れて行くと、暫くして、中からぎゃんぎゃん凛太の泣く声がします。
 暫くして出てきた祖母は、ぐずっている凛太をあやしながら護衛の一行と共に旅籠へと向かいます。
「何で赤ちゃん、泣いてるの?」
「お宮参りの時にはね、社前で泣かせて、神様に印象づけて守って貰おうといって、こうしてわざと泣かすことがあるのですよ」
 あやしながら微笑んで言う祖母。一行は旅籠で一晩休むと帰途へとつきました。

●宴だ!
 帰りの行程は何事もなく、依頼人家へと戻ると既に宴の用意が出来ていました。
 宴の席で依頼人が嬉しそうに孫を抱きつつ親類達や、ご近所様へとお披露目しているようです。
 先ほどから、宴の席ではアゲハの見事な舞と、咲夜の管弦士としての腕が場を大いに盛り上げていました。
「ジャパンのお菓子は甘くて好きだな♪」
 舞を終えて甘いお餅やお団子を幸せそうに食べているアゲハに、あちこち注いで回ってたらしい高槻が、一献とお猪口を差し出して徳利の首を摘んで笑います。だいぶお菓子やら好きと聞いて用意された蕎麦やらを沢山食べた為か、変わりに差し出されるお団子は控えめに食べながら、物凄い勢いで杯を呷るアゲハにお酒を注ぎ続けています。
 数瞬後、アゲハにぎゅむっと抱きつかれたまま眠られてしまい、喜んで良いのか悲しんで良いのか微妙な様子で遠くを見る高槻の姿がありました。
「子供は日々成長しますから‥‥これから大変ですわよ」
 エステラが依頼人の息子が七輪でしめじと鯛を薄味で味付けした物を焼いて差し出されるのを受け取りながら、微笑んで言そういいます。依頼人の息子夫婦は言われた言葉に照れくさそうに笑って顔を見合わせます。エステラ自身、愛児が7歳になったことなどを話すと、夫婦は子供の話を聞きたがり、話は盛り上がります。
「わたくしなど、旦那をど‥‥こほん‥‥たしなめる為、旦那様の両親に預けて冒険に出たのは良いのですが‥‥パラという事を差し引いても好奇心旺盛だから、御義父様や御義母様を困らせていないか心配で‥‥」
「うちの子も男の子ですし、同じ悩みを抱えそうですね」
 頬に手を当てて、ほぅ、と溜息をつくエステラに息子は笑いながらそう言うと、ふと、近づいてくる咲夜に気が付いて顔を上げます。
「エステラさん、私のことを覚えておいででしょうか? 以前、貴女に助けて頂いた者です。出発前慌ただしくて、声をかけられなかったのですけれど‥‥」
「覚えておりますよ、死熊の時にご一緒しましたね」
 依頼は時に嬉しい再会をさせてくれる場でもあるようです。咲夜に柔らかな微笑みを向けながら、きのこと野菜の煮付けを『ご一緒にいかがです?』と進めるのに、咲夜が微笑みます。
 冒険者の暮らしに興味を持った様子の依頼人夫婦に求められるままに、体験談などを話す二人。エステラと咲夜は、暫く依頼人夫婦も交えて話に花を咲かせた様子でした。
 料理はそこそこに祝いの為に出された日本酒を、依頼人の店で働く女性にお酌して貰ってじっくりと味わっているデュランがいます。
「やはりジャパンの酒は素晴らしい風味だな。建築物や装飾品と同じで、職人の技で作られている」
 目を細めて呟くデュラン。それもそのはず、その年の出来が悪ければ捨てられてしまう程拘り抜かれた一品のため、味は格別のものでした。
 何気なくデュランが辺りを見渡すと、ファラが窓際で酒を飲む手を止め、雪景色に見立てられた豆腐の料理や、目に鮮やかな色彩の和菓子や栗御飯を楽しみつつ口元へと運んでいるのが見えます。顔が赤くなっては居ますが、様子は普段と変わらず静かに料理を摘む様子に、時折料理を運ぶ家人も、静かに料理を楽しんで貰おうと考えた様子でした。
 貴藤と麟太朗は、依頼人に孫を抱いた祖母と話しながら酒や料理を楽しんでいました。
「麟太朗様と、うちの凛太は名前が似ておりますなぁ。麟太朗様のように、丈夫で元気に育ってくれるとありがたいですな」
 そう言いつつ寿司を勧める依頼人。肝心の凛太はと言うと、余程気に入ったのか先ほどから上機嫌で飲んでいる貴藤の膝の上を陣取り、髪をちっちゃな手できゅっと握っては、嬉しそうに笑います。首が据わっていない凛太に祖母は心配げに見ています。
「しかし、麟太朗様、本当に好き嫌いなどはございませんので?」
 依頼人が感心したように聞くのに、麟太朗はどこか虚ろに笑いながら遠くを見つめてぼそっと言葉を吐きます。
「幼少の頃、好き嫌いを示すなら『偉業を成し遂げるまでは、侍が贅沢するな』と、母上に滝へ放り投げられるという躾を受けていたからな‥‥師匠が勧める酒を拒んだら、簀巻き状態で滝へ放り投げられるという仕置きを受けていたので、酒も飲めるぞ」
 黄昏れて乾いた笑いを浮かべながら、鯛の頬肉を突く麟太朗に、流石に依頼人も目を瞬かせます。
 何とかアゲハを危なくないような隅っこに運んで上着を掛けてから逃れてきた高槻は、貴藤が作る場所に腰を下ろすと、それぞれにお酒を注ぎつつ話に加わります。
「そう言えば、過去に父親が可愛がる猫を誘拐した志士の女性がいましたよ。あのご家族も、孫が出来れば円満になるのかも知れないですね」
 依頼人へと冒険譚をしているときに、ふと思い出した話をしながら、高槻はしみじみとそう言うのでした。

●お別れの笑顔
「本当に有難うございました。また何かあったら、冒険者ギルドに行くことにしましょう」
 上機嫌で言いながら頭を下げる依頼人。
 一行は無事に依頼を終えて凛太ともお別れです。
 祖母に抱かれた凛太は、貴藤に頬をチョンチョンと突かれ、きゃっきゃっと笑います。
「じゃあ、またな」
 別れを惜しむようにゆっくり引かれる指をきゅっと握ると、凛太は言葉の意味も分からぬまま、にこぉっと笑うのでした。