菊見・菊盗人
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 44 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月04日〜11月11日
リプレイ公開日:2004年11月13日
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●オープニング
秋と言えば『紅葉狩り月見の舟に菊見の宴』といったところでしょうか。紅葉狩りはどちらかと言えば詩歌人やら書道家やら、絵師にお茶の先生、それにお坊様などのどちらかと言えば教養人や、黄昏時に近くなった武家の者などが好んだ遊び。
逆に菊見は遠出も必要なく、植木職人が手塩をかけた菊の花を楽しみながら、場合によってはちょいと一杯という楽しみのある、気楽に参加できるものでした。
「冒険者の皆様には退屈なお仕事かも知れないのですが‥‥」
そう言って困った顔をする初老の男性。この男がギルドへとやって来たのは、良く晴れた秋の日の昼下がりでした。
「実は今年も菊見を華やかに行いたいと思っているのですが、少々困った問題が起こりまして」
そう言う男は少し疲れ切った様子を見せています。何やら落ち着か無い様子で事情を説明しようとするところに、若い職人らしき男が駆け込んできます。
「おやじ様、やられましたっ!」
その若者の言葉を聞くと、がっくりと肩を落とす男。深く息を吐くと、どこか擦れた声で小さく事情を話し始めます。
この男は庄右衛門と言って何人もの菊職人を抱えている、そこそこ名の知れた人物なのですが、近頃弟子入りした男が一人いました。
その男は家人の生活習慣を調べると、人がちょうど菊の側からいなくなるのを見計らって人を呼び込み、今回の菊見で目玉となる菊をごっそりと盗み出してしまったそうです。
そのまま出て行った男は、とあるヤクザ者の所に身を寄せ、その屋敷にある菊は全て自分の所から盗まれた菊だから返せと、ヤクザ者を使い脅しをかけていたそうです。
目玉となるような菊を盗まれただけでも大きな痛手でしたが、その辺りを担当しているはずの岡っ引きは既に金で抱き込まれていて、庄右衛門は逆に軽く痛めつけられて逃げ帰る始末。
それでも庄右衛門は残った者達と、何とか残った菊で菊見に来る人達を楽しませたいと考え、職人達に危害を加えられないように護衛を頼む為に来たそうです。
「おやじ様が出て行かれた直ぐ後でした。俺らの職人のまとめ役と言っていい兄貴が『おやじ様の方が心配だ』と止める間もなく出て行って‥‥」
心配しながらも待っていると、懇意にしていた武家のお客さんからその職人が斬られて、寺に担ぎ込まれたと言うことを聞きます。
「これ以上はもうたくさんです、お願いします、菊を取り戻してくれなどと無理なことは言いません。せめて、せめて菊見が終わるまで、うちの職人達を守ってやって下さい」
庄右衛門は額を擦り付けんばかりに頭を下げるのでした。
●リプレイ本文
●過激な看病
「大丈夫ですか?」
そう心配そうに職人へと声をかけるのは、ファルマ・ウーイック(ea5875)です。
手当をされながら、その若い職人は悔しそうに唇を噛んでいます。そんな職人の傷の具合を見て、運び込まれたときの処置が良かった為か危険を脱しているのにほっとしながらリカバーをかけるファルマに、職人は何度も礼を言うと、身体を起こそうとしていました。
「きちんと休まれませんと‥‥酷い怪我だったのですから」
「ありがとうございやす。‥‥ですが、俺ぁじっとしちゃいられねぇ」
苛ついたように身体を起こして言うのを見ながら、何とか宥めて再び横にならせるファルマに、気は急くものの、大人しく言うことを聞いて休む姿に、ファルマはほっと息を吐きます。
ファルマが今居る屋敷ですが、思った異常に手薄になりつつあった為か、屋敷の中はすこしピリピリしています。そう言った部分が余計に、職人の男に落ち着いて休め無くさせているのかも知れません。
「さ、お上がり下さい。しっかりと身体を治しませんといけませんよ」
そうたしなめる世に言いながら、クリエイトハンドで用意した粥を食べさせるファルマに、恐縮しまくりで食べる男を、仲間の職人達がほっとした様子で見ているのから見ても、男は職人達にとって、大切な存在であることが窺えます。
「それにしても、ジャパンの武士とは、血の気が多いんやなぁ」
看病する様子を眺めながら、ハロルド・ノートン(ea8222)が苦笑気味に呟きます。騎士であるハロルドは、騎士道と少々違う様子の仲間達に少し戸惑い気味の様子でした。
「くっくっくっく、さて、相手のヤクザ屋さん達、生きて明日の朝日を拝めれるでしょうかねぇ‥‥なにせ維新組の方々は、手加減が下手そうですからねぇ。くっくっく‥‥」
黒部幽寡(ea6359)が不気味に笑いながら言う言葉に、思わず振り返ったファルマは、ハロルドと目が合うと、互いに顔を見合わせて、少し心配そうな表情を浮かべます。
「大変です、奴ら、屋敷の門を打ち壊して庭に入ってきますっ!」
慌てた様子で部屋に飛び込んでくる男の言葉に、ハロルドと黒部が動くより早く布団をはねのけて飛び起きる職人に、ある意味予想の範疇だったか、ファルマが小さく息を吐きます。
「っ!?」
「きちんとお休みになって下さい」
ファルマのコアギュレイトでぴたっと止まった自分の身体に、焦った様子を見せる職人。そんな彼へとファルマは声をかけて横になるように黒部に手を借り寝かしつけている間に、ハロルドがごろつきを追い払いに部屋を出て行きます。
「‥‥‥‥伊東さんと維新組の皆さん、あまり無茶をしないといいんですけど‥‥」
心からそう思いながら、ファルマは小さく呟くのでした。
●過激な交渉
ファルマが心配そうに呟いていた頃、伊東登志樹(ea4301)と維新組の面々は交渉に勤しんでいました‥‥彼らなりの交渉でではありましたが。
交渉をしに行くことになってから、小坂部太吾(ea6354)率いる維新組の中の一人、凪風風小生(ea6358)は庄右衛門やファルマに看病されていた職人などに話を聞いて、近頃少しずつ名前が売れてきたヤクザ者の集まりに参加して、美味しい思いをしているとかしていないとかを聞き出してきます。聞き出した微妙な噂を聞いて、凪風は何とか場所を特定してきたのでした。
特定した場所へと5人で向かうと、凪風は裏へと回り、じっと息を殺しつつブレスセンサーで様子を窺います。
「維新組、検めです。 ここの責任者は、速やかに出てきてください」
正面に回って正々堂々とヤクザ者の所へ訪問した4人。維新組の水の志士である海上飛沫(ea6356)が言う言葉に、とりあえずはと言う感じで通される一行。
案の定、押しかけて行ったときに突きつけた条件で、早速尋ねていた面々と険悪な雰囲気になる、ヤクザ者達の若い元締め。
「こちらに匿われている菊職人と、盗み出した菊を返して貰おうか」
「もし身柄を引き渡し、盗んだ菊を返還したなら、お主らが関わったことは不問にし、役所からの追求も無いよう取りはからおう」
「言いがかりはよして貰いましょうか、うちやぁ真っ当に菊を作ってるんです。盗んだっていんだったら、証拠を見せて貰いましょうかい」
伊東、小坂部が口々に言うのに、煙管を薫らせながら鼻で笑うヤクザ者の元締め。
「職人も元からいる職人。そいつを引き渡せだなんてとんでもない。むしろ菊を盗まれて大損しているのはこちらの方。‥‥‥お引き取り、頂きましょうか」
そう凄む元締めに、飛沫はきっと鋭い表情で睨むと口を開きます。
「下手な恫喝や脅しは、我々には逆効果です。また、間違っても菊職人の方々に危害を加えることの無き様に願います。もし、この忠告に応じることが無ければ、あなた方は、以後、我ら維新組を敵にまわし、眠れぬ夜を過ごすことになると心してください」
飛沫の言葉にヤクザ者でも血の気が多そうな者達が立ち上がりかけ、一瞬触発になりました。
●過激な防衛
時を同じくして、庭の門を打ち壊して入ってくる男達を防ぎに、ハロルドと黒部は庭へと急ぎます。相手側は甘く見ていたのか、堂々と菊を運び出しにかかっていて、そこに2人が駆けつけると、浪人者が前へと出て刀に手をかけます。
「お前らも斬られたいのか? 大人しく引っ込んでおれ」
浪人が言う言葉にロングソードの柄を握って向き合うハロルド。背後で菊を運び出そうとする人間に黒部のダークネスが飛び、菊を駄目にしないように慌てた様子で下に置いて何とか頭を覆う黒いものを振り払おうと躍起になっています。
「逃がさへんで!」
ロングソードを相手へと向けるハロルド。斬りかかる一撃を身体をかわして避けると、逆にロングソードを振り抜くハロルド。ぎりぎり避けきれず腕に受けて後ろへと飛び退る浪人。そこへ、黒部のダークネスが再び飛ぶと、がむしゃらに闇を振り払おうとする浪人へと飛びついて押さえ込むハロルド。
押さえつけて、黒部に手を借りてロープで縛り上げると、浪人はは観念したようにがっくりと項垂れます。
「あっ! お前は‥‥」
恐る恐る様子を見に来ていた職人達が、菊を運び出そうとしていた男に気が付いてさっと顔を怒りで赤く染めます。
「おやおや、もしかして、この方ですか?」
そう聞く黒部の言葉と共に、ハロルドがもう一人を引き立てると、職人達は頷きます。
「これで、後は菊さえ戻れば‥‥‥」
しみじみと職人達は呟くのでした。
●過激な戦闘
一転、再び元締めの方へと戻ります。
「なるほど、よぉっくわかりました‥‥お引き取り頂きましょう」
男の言葉と共にいっせいに襲いかかるヤクザ者達。郷地馬子(ea6357)が小坂部と飛沫をストーンアーマーをかけてからその身体で庇うと戦いの火蓋は切って落とされました。
「オラッ! 雑魚には、用はねぇ! とっとと、強ぇの出せ!!」
そう言いながら殺さないように加減しながら斬りつける伊東。維新組はと言うと、馬子が立ちはだかり、刀で攻撃を受け流します。
その背後では身体に炎を纏う小坂部に、手の中に氷の法輪を作り上げてゆく飛沫。
軽くあしらわれ、叩き込まれる魔法や攻撃に、とても陰険で暗い目をしながら立ち上がり、じりっと下がる元締め。
「っ‥‥せっ、先生、出てきておくんなさいっ」
奥の部屋へと声をかける元締め。ヤクザ者をあらかた片付けて近づく伊東ですが、元締めに呼ばれて出てきた男を見て足を止めると、険しい表情で睨み合います。
背景で馬子のグラビティーキャノンが炸裂していたり、下っ端が悲鳴を上げて逃げ惑っていたりする中、二人の周囲だけは、まるで切り離された空間のように緊迫しています。
「‥‥‥主、なかなかやるな‥‥」
低い声で言う壮年の用心棒。
次の瞬間繰り出される素早い刀に、かろうじて身体を捻り避けると、直ぐに切り返しとばかりに踏み込み放つ連撃を何とか受けきる用心棒に、微かに伊東の口元に笑みが浮かび、汗が頬を伝います。
「くっ、このっ離しやがれっ」
と、その空気をいきなり断ち切ったのは元締めの声でした。
用心棒、伊東共に刀を互いに向けつつ目を向けるも、思わず言葉をとぎれさせます。
よく見ると、襟首を掴まれてぶらんと揺れている元締めに、それを持ち上げている馬子。
それを見た用心棒は、軽く肩を竦めて刀を納めます。
「ふむ、依頼主が人質ではどうしようもないな‥‥」
「ちょ、ちょっと先生っ、そりゃ無いでしょう!?」
「‥‥‥だから、ケチらずにあと2、3人雇っておくなり、単独行動させるなと言ったのだが‥‥」
ぼそりと呟きつつ、潔く投降する用心棒にいささか拍子抜けしながらも、菊を確認しに小坂部と飛沫が奥に入ると、そこでは思い鉢に一人で菊を運び出せずにじーっと仲間を待っていた凪風の姿がありました。
●平和な菊見
庄右衛門の菊の評判は、素晴らしいと言うことに尽きたそうです。
お礼の席を設けられて、酒やご馳走が振る舞われる一行。ファルマの看護の甲斐あって、まだ少し傷跡が残っては居ますが、すっかり元気の良くなった職人達が、少し遅れてですが、自分たちの菊を菊見の場に運び込んだときには、事情を知っていた者も、知らない者も一様に溜息をついたそうです。
「本当に有難うございました、目玉にと思っていた菊たちまで取り返して頂いて‥‥感謝の言葉もありません」
そう言う庄右衛門は誇らしげで、本当に嬉しそうに笑うのでした。