仇討ち助太刀・とある少年の場合
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 20 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月08日〜11月13日
リプレイ公開日:2004年11月18日
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●オープニング
一人の少年がギルドを尋ねてきたのは、気落ち良く晴れた秋の日の午後でした。
「僕は仇を討つ為この2年、ずっと一人の男を追っていました。そして漸く行方を突き止めたのですが‥‥」
そう言うとと悔しそうに自分の膝を叩きます。少年は彦右衛門といい、つい先日12になったばかりだそうで、8つの時に父親が浪人となり、10になる直前に浪人者の息子である八之丞に殺されたと言うことらしいのです。
父親が殺された顛末はおぼろげにしか覚えていないそうですが、元々同じ主君に仕えていた男がいて、その男がことごとく少年の父と張り合い、ことごとく破れていたために逆恨みをしていたそうです。
そんな男ですから、浪人暮らしも性に合わず長屋連中とも仲良くできなかったわけで、結局病に倒れても誰一人助けようと言う人はいませんでした。
その男が、今際の際に一人息子を呼んでこう遺言したそうです。『憎きあの男を殺せ、今の境遇にあるのは全てあの男の所為だ』と。
そんなこんなで、逆恨みも良いところなのですが、少年の父親は内職などで世話になっていた御店の人といるところを襲われ、その人を庇って逃がしているうちに討たれてしまったそうです。
「亡き父がそれまで必死の思いで僕たち家族の為に稼いで貯めたお金も奪われ、母や妹は、母の実家へと戻りましたが、わたくしは父と縁のあった方のご厚意で、その方の道場に居候させて頂き修行を重ねました。そして、漸く居場所を突き止めたのですが‥‥まさか、まさかこんな障害があるだなんて‥‥」
そう言って少年はさめざめと泣き出します。やがて、小さくしゃくり上げながら少年は顔を上げて訴えます。
「まさか、花街で堂々と豪遊生活を送っているだなんて、あんまりじゃありませんか!? 花街じゃ、どんなに事情を話そうと、僕は入れて貰えないし入れないんですっ! 『子供の来る所じゃないよ』って!」
そう言うと、少年はどこか縋るような様子で頼み込むのでした。
「花街内じゃ騒ぎは起こせませんし、僕は入れません。ですから、お願いします、何とか、何とかあの男を、八之丞を花街から外におびき出して、僕の仇討ちを手伝って下さい!」
●リプレイ本文
●仇討ちとは‥‥
「仇討ちなんて、できればしてほしくないのですが」
大宗院真莉(ea5979)の言葉は、ある意味子を持つ母親としてだけみれば当然の反応かも知れません。しかし、彦右衛門はその言葉に顔を顰めます。
「仇討ちは当然のこと。父は騙し討ちを受け、金品を八之丞によって強奪されました。また、僕は仇討ちの許可を得ています」
仇討ちが無秩序に起こってはいけないと言うこともあり、仇討ち自体は許可を得て行うのが通例。手順を踏んで公の場で行わねば行けないという許可もあれば、仇討免状に『出合い次第討ち留むべき』旨の記載があれば、町で出会い頭に斬る許可を与えられてます。
彦右衛門の場合、助太刀を得る許可も得ていますし、届け出た仇討ちですから『討ち留められた仇敵』の親族が復仇‥‥またがき、つまり仇討ちをやり返す許可は降りません。
「仇を持つ身は、仇討ちを成就しなければ、そもそも真っ当な、人と同じ普通な生き方は許されないのです」
彦右衛門の言葉に、真莉は溜息を吐きました。
●その浪人
「ちょちょいっと頑張っちゃうんだから!!」
辺りをきょろきょろしつつ、迷ったのではないかと少しおろおろとした橘狛子(ea8233)は、小さく呟くと目的の場所に向かっているのを確認してほっと息を吐きました。
先ほどから花街を調べ回っていたのですが、あられのない姿で酒を手に騒いでいる者や呼び込みの声など、喧噪に少々気圧されてしまいます。そんな中でも狛子は目的の店へなんとか辿り着くと、中を窺いました。
好み等はよく分かりませんが、ずっとその男が入り浸っているところを聞き出すと、狛子は大急ぎで戻って皆へと連絡をするのでした。
花街で遊びながら情報収集を始めた桐沢相馬(ea5171)が一人の浪人者に声をかけられたのは、ろくにまだ金を使っておらず、狛子から店を聞いて足を踏み込んだ直後でした。ある人が遊んでいるので、それに付き合え、と言うことらしく、案の定連れて行かれるのは八之丞の所でした。
「よぉ、にぃさん腕が立ちそうじゃねぇか。ひとつ仲良くしないか? なぁに、金の心配はイラねぇ」
にたりと笑う八之丞は、見た目はどこにでもいそうな人物ですが、雰囲気から品性の卑しさ、目つきから狡猾さが滲み出ているようです。取り巻きはそこそこ腕の立ちそうで、ごろつきというかなんというか、とにかく不快感を感じさせる男ばかりです。
純粋な腕だけで言えば彦右衛門の方がずっと上でしょうが、実際相対するときに、この男の狡猾さを考えると、なおのこと上手く誘き出さなければいけないことを桐沢は痛感します。
「今回は依頼だ、依頼で行くんだ」
そう妻の真莉を言い含めて早速花街へと繰り出した大宗院謙(ea5980)は、八之丞の借りている部屋近くで遊女と楽しげに大人の会話をしつつ八之丞について探っていました。
「あの人、あたし大っキライ。ほんっとうに野暮で陰険で、あたしはもう二度とあのお座敷に行きたくないわ」
「あの客はここに居漬けか? 贔屓の女でもいるのかな」
「特に贔屓って言うのはないみたいよ。専らお酒を飲んで、適当にその時にいた遊女を呼んで、厳つい兄さん方と大騒ぎするのが多いわ。なんでも、あの人達を雇ってるんですって。『腕が立つのは大歓迎』とか言って」
気のない返事をしつつ遊女に膝枕をして貰おうと横になった瞬間、ぴしゃっと襖が開けられて、真莉が冷ややかな眼差しで夫を見下ろしていました。
「あたしの女装もまあまあでしょ♪」
遊女の華やかな装いをして袖を軽く持ってにっこり笑うのは仔神傀竜(ea1309)。律儀にお姉さんと呼べと言ったときに、本当にお姉さんと呼んできた依頼人を思い出してくすっと笑うと、仇討ちの心意気に何とか報いて上げようと思う仔神に、少々禿と言うには大きい感はありますが、御蔵沖継(ea3223)が可愛らしい着物に身を包んで仔神の言葉に頷いて歩を進めます。
二人は八之丞の居るお座敷へと向かっている途中でした。先にレテ・ルシェイメア(ea7234)が入り込んでいるはずです。
座敷の前で、二人はアミー・ノーミス(ea7798)と鉢合わせます。先に沖継に代筆を頼んだ手紙を忍ばせたアミーは、別口から入り込んで座敷へと呼ばれた様子です。
座敷の中では八之丞が陰湿な笑みを浮かべながら、レテに演奏をさせつつ桐沢を相手に遊戯に興じているところでした。
演奏が始まって間もなく、八之丞は店の者に耳打ちをされて宴を一時抜け出しますが、理由を付けて抜け出すことが出来ず、一同は取り巻き達と待つこととなりました。
●下策
八之丞が呼ばれていった先はには、真莉が待っていました。
へらへらと笑いながら真莉の向かいへと腰を下ろすと、真莉は口を開き、つらつらと彦右衛門が八之丞の居場所を突き止めて来ていること、自分は雇われたが仇討ちに対しては素直に同意できないことなどを話します。
「あなたも侍の息子なら、彦右衛門さんに会っていただけませんか。わたくしは彦右衛門さんだけでなく、八之丞さんにも心の楔をはずしていただきたいのです」
「‥‥断る。‥‥そして、わざわざ良いことを教えてくれてありがとうよ、一番知りたかったあの餓鬼の出方を教えて貰えて感謝するぜ」
陰湿な笑みを浮かべた八之丞は、真莉にそう言うと、後は興味を無くしたかのようにして他の者を呼び、真莉をつまみ出すように言って奥へと戻っていきました。
八之丞が部屋へと戻ってくると、偉く上機嫌で食事を振る舞い、時折取り巻きにひそひそと耳打ちをしてどこかへと出かけさせていきます。
八之丞がが彦右衛門の父親を討ち取って、ため込んでいた懐の大金を奪い取った話を取り巻きにさせて悦に入っているときでした。こっそりとアミーは手紙を八之丞へと渡すことに成功します。
『いつも遠くからお姿を拝見させて頂いています。
拝見するだけではもう私の心は耐えられなくなりました。
是非一度お逢いしてお話がしとうございます。
花街の外れ、大門の向かいの茶屋の袂で待っています』
席を立ってそう言う文面の手紙を読んだ八之丞は、底冷えするような笑みを浮かべると店の者を呼んで何やらすらすらと手紙をその場でしたためて、金を握らせて出かけさせてから戻ります。時折差し入れを貰いながらずっと身を潜めていた狛子は、その様子を見て不安を覚えるものの、人払いなど、出来ることを一生懸命こなしていました。
「いやぁ、今日は本当に良い日だ‥‥」
低くくぐもった、不快感を与える声で八之丞は笑うと、レテが歌う歌へと耳を傾けます。
『異国の月を望む者よ
さぁ我が手を取れ
一度の快楽を欲するならば
夜の静寂を我と共に歩まれよ
供は要らぬ
お一人で
さすれば至上の夢の一夜をお約束いたしましょう‥‥』
呪歌で好意を向けさせようとしながら歌うレテ。仔神が誘惑でもするかのように笑いかけて、外へと促すように耳元で囁くと、誘い出されるままに、しかししっかりと刀を握りしめて立ち上がる八之丞。
そのまま店を抜けて彦右衛門が待つはずの、花街の外へと向かうのでした。
●対面
一行は彦右衛門の姿がある辺りへと来てさっと血の気を失います。
辺り一面に漂う血の匂いと、あちこちへと残る血の跡‥‥。明らかにそこで斬り合いがあったという証です。
「くっくっくっ‥‥親切な女性もいたものでねぇ‥‥不届きな小僧がつけねらっていたので、ちょっと排除しただけ‥‥残念だな、あんた方も仲間なんだろう? 気に入っていたんだがなぁ」
笑いながら飛び退くと、密かに着いてきたらしき男達の元へと急ぎ足で歩み寄る八之丞。
「‥‥み、皆さん、これから先は、僕がやります‥‥」
擦れた声が聞こえ、右腕を布できつく縛った彦右衛門がのろのろと出来てます。深手を負っているらしく、痛々しい様ですがどうやら襲撃は撃退していたようでした。
「取り巻きは任せろっ」
咄嗟に彦右衛門に斬りかかる取り巻きを、刀を抜いて対峙する桐沢に彦右衛門を庇う様に前へと出て、攻撃を避ける沖継。アミーが彦右衛門の背後に回り印を結んでマントで身体をぎゅっと隠します。
援護を受けて、彦右衛門がぎゅっと刀を握ると、怪我をしているのを見て有利と取った八之丞が勢いに任せて斬りつけます。
それを刀で受け、そりの部分に怪我をした右手を添えてぎりぎりと押されるのに耐え、押し返すと斬りつけ返す彦右衛門ですが、怪我の所為か思ったように斬りつけられず、受けられて鍔迫り合いへと持ち込まれてしまいます。
次第に押される彦右衛門に、アミーが咄嗟に背後へと回ってマントを脱ぎ捨てるのと、互いに押し合ってから離れ、刀を繰り出すのはほぼ同時でした。
「ぐぁっ!!」
アミーが自身へとかけたダズリングアーマーに目を眩まされ僅かに剣先が鈍るも、互いに繰り出した刀の勢いは止められず、お互いの身体を貫きます。
「父の‥‥父の仇っ! 思い‥‥し、れ‥‥」
確実に胸を貫いた彦右衛門の刀に崩れ落ちる八之丞。腹部を深々と刺されてた彦右衛門は、微かに笑みを浮かべると、そのまま八之丞の上に倒れ込むのでした。
●目覚めない少年
「彦も満足しているでしょう」
そう言って横たわったままぴくりとも動かない彦右衛門を見て、彼を預かって剣の手解きをしていた初老の男性は、一気に老け込んだような様子でそう言いながら微かに笑いました。
「八之丞は死に、取り巻きは逃げ、彦はかろうじて生きてこうして戻りました‥‥本当なら、無事で戻ったらこの道場を、と思っておりましたが‥‥」
そう言って老人は首を振ってから報酬を差し出します。
「せめてもの気持ちです、何も言わずに受け取って下さい」
そう言って辞退しようとする者の言葉を遮るかのように、報酬を差し出して言う老人の目は、微かに濡れていたのでした。