男性の尊厳

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月28日〜07月03日

リプレイ公開日:2004年07月07日

●オープニング

「もー、許せませんっ。お願いします、僕の受けた屈辱を、3倍‥‥いえ、10倍にして返して下さいっ!!」
 その依頼人は派手で安っぽい着物を着せられ口に紅をひかれ、強く酒の匂いを漂わせながらギルドの受付で大騒ぎをしていました。よくよく見ると中性的な雰囲気をもつ20代の男性で、顔を真っ赤にして泣きながらまくし立てています。
 ここ数日、江戸ではおかしな事件が起きていました。
 酒場で良いトコのお坊ちゃんを狙って酔い潰し、身包み剥いだ挙げ句に女装をさせて河原にほっぽり出すという、何とも微妙な事件です。
 恥ずかしさや世間体、家の名誉などで泣き寝入りをする場合が多かったのですが、この男性、どうやら自分の中性的な容姿に劣等感を抱いていたようで、完全に怒りに火がついてしまった様子でした。放り出された河原から、直接その足で依頼をしに来たのでしょう。
 ギルドの人間に宥められ隅の席でえぐえぐと泣いている姿は、滑稽ですがなんだか哀愁を誘います。
「僕は‥‥商人と飲んでいたのだと思います‥‥けど、顔が全く‥‥地味というか、記憶に残らないんです。可笑しかったことと言えば、厠に立つ回数が、少し多かったぐらいで」
 詳しく話を聞こうとすると、だいぶ落ち着いたのか着物の袖で涙を拭いながらぽつりぽつりと話し始めました。
「話した内容はほとんど覚えていませんが、いつも以上にお酒もまわるし、話していて面白かったのでついつい深酒をしてしまい‥‥。次に覚えているのは、男が3人だったということぐらいで‥‥3人とも僕と同じぐらいの歳で、一人はなんだか刀を持って、おっかない感じだと思いました」
 そう言うと再び目にいっぱい涙を浮かべて唇を噛みしめます。
「完全に目が覚めたのは河原です。こんな成りにされた上に、そこで通りすがりの子供たちに『変なにーちゃんが女装してる』って‥‥棒で突っつかれてかれて‥‥うわ〜〜んっ」
 思い出してわっと泣き伏す依頼人。
 ちまたに流れる情報とほとんど一致しているので、同一犯なのでしょう。ちなみに、他に分かっていることとして、発見された時間から割り出すと放り出されるのは明け方、長い距離を移動させれば目撃されているはずと言うことで、河原の近くなんじゃないかな〜と噂されていることです。
「このままじゃ、悔しくて夜も眠れませんっ。お願いします、こんな目に遭わせた犯人を捕まえて下さいっ。キビシイ寺に放り込んで精神鍛錬させるんですっ!」
 依頼主がそう言うと、ギルドの人間が『どうする?』とばかりに首を傾げていました。

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea0176 クロウ・ブラッキーノ(45歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea1151 御藤 美衣(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1233 桜澤 真昼(26歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1398 滅炎 雷(26歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2476 南天 流香(32歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2900 河島 兼次(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3834 鷹宮 清瀬(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●聞き込み
「はい、とりあえず紅を落としますから落ち着いて下さい」
 依頼人の青年を着替えさせ、化粧を落とているのは桜澤真昼(ea1233)です。桜澤は青年が落ち着くまで根気良く泣き言を聞いていますが、漸く落ち着いた青年に改めて訊ねます。
「聞きたいことは二点。何処の河原のどのあたりに放り出されていたのか、そして、何処の店で酔い潰されたのでしょうか?」
 青年は店の場所と河原の場所を教えてくれます。思ったよりもギルドに近い河原です。
 現場の河原へと向かった桜澤は青年から聞いた辺りでグリーンワードを使い確認したところ放り出されるのは大体同じ場所だと分かります。
 桜澤からその情報を聞いた河島兼次(ea2900)は、他の被害者に当たってみることにし、軽く聞き込みますと、人の口に戸は立てられない、噂好きの長屋のおかみさん連中に捕まって、大抵の被害者のことは聞き出すことが出来ました。
 河島は長屋のおば様方に大人気の様で、そこから被害者へと聞き込みに行くのはだいぶ骨が折れたようです。
「そ、そのことはもう‥‥手前共も商売に差し支えるので‥‥」
 言い渋る被害者の1人はそう話を終わらせようとしますが、根気よく訊ねる河島に諦めたかのように溜息をついて酒場の場所を話してくれます。どうやら依頼人の青年とは違う酒場のようです。
「ん〜〜、依頼とはいえ、こんな事わざわざ金出して頼むなんてねぇ‥‥女々しいよね?」
 そんな風に言いながら、幾つかの酒場を回っているのは御藤美衣(ea1151)です。ちなみに彼女は『中身を磨いたら?』と先ほどざっくり依頼人にトドメを刺してきたばかりです。
 彼女の行く先は幾つかの酒場。目的は古株そうな老人に話を聞くことでした。
「無茶な飲み方するもんじゃないと声をかけたんじゃが‥‥爺は引っ込んでろと言われてのぅ」
 若い女性に酌をして貰ってご満悦で爺様は、思いだしたことを洗いざらいぶちまけたようで、犯人らしきのは酒場自体に2人、1人外で煙管を蒸かしている浪人者が居たので恐らくその者達であると言うこと、1つの酒場で数回繰り返した後、他の酒場に移るらしいこと、つい先日まではこの酒場だったが、次の事件が起きたのは別の酒場に移ったらしいことを話してくれました。
 一方、その頃滅炎雷(ea1398)はと言いますと‥‥二十代前後の刀を持った男を探し‥‥あまりの多さに途方に暮れていました。

●恐怖、異界と化した酒場
 その日その酒場は異様な雰囲気を醸し出していました。それはいかにも悪酔いをするような、悪夢の光景。
「右向けば俺様〜、左向けば俺様〜、孤立無援・八方塞・四面楚歌〜♪ あぁ俺様〜、俺様崇拝教〜♪」
 ちゃかちゃかと算盤を鳴らしながら酒場の入り口で歌っているのはクロウ・ブラッキーノ(ea0176)。あまりの怪しさに常連客は遠巻きにクロウを見ています。
 情報を合わせ、やはり青年が潰された酒場でまだ仕事をするだろうとあたりをつけ、酒場の主には事情を話して協力して貰うことになったからですが‥‥胃の辺りを押さえて苦しそうにしているのはきっと気のせいでしょう。
 大宗院透(ea0050)はお店の主人の姪としてお酒や料理を運んでいます。
「お酒の飲める依頼だなんて、し・あ・わ・せ♪」
 透が運んでくるお酒を飲みながら、しみじみ言うのは南天流香(ea2476)。少し離れた席には河島、また別の席には犯人達が来るまで潰れない様水と中身をすり変えて貰っている鷹宮清瀬(ea3834)の姿があります。
 雷、美衣、そして桜澤は外で張っています。
 程なく店先へとやって来た3人組はクロウを目にしてしばしあっけにとられているようでしたが、クロウは曰く『同じ匂い』のする3人組にすすすと近づいていき声を落として話しかけました。
「私、俺様崇拝協会という事業を世界展開している商人ですョ。この辺りでヤリ手の三人組の噂を聞きまして、ジャパン支社設立にあたり是非お仲間に入れて頂きジャパンでの『裏』商売の勉強をしたいのですョ。」
 あまりの怪しさにしばし顔を見合わせる3人。しかし、どこか危なげな香りを感じ取ったのか、同じく声を潜めて商人の格好をした男が口を開きました。
「なるほど‥‥異国の商人って言うのはみんなあんたみたいに危なそうなのかい? まぁいい、それはそれで面白そうだし、ここで断ったら、なんだかあんたが騒ぎ出しそうだ、いろんな意味で」
 そう言うと、商人風の男はちらりと刀を持った男に目配せをして表で待たせ、クロウを伴って店内へと足を踏み入れます。
「お近付きの印にとっておきの情報をお教えしましョう。酒場に居るあの男性、鷹宮清瀬サンという方なのですが結構なお家柄の方でしてネェ‥‥実は今日が酒場デビューらしいですョ。飲めない酒を前に一人で可哀想なので、私達がお友達になってあげましョう?」
「ほう、異人さん、なかなか良い目の付け方だねぇ。お前の方はどうだ?」
「へい、あの線の細そうなのもいいですが‥‥個人的にあそこのおっさんなど、不名誉だと届け出はしないと思いやす」
「う〜ん、だがそれで腹でも切られちゃやり辛れえぞ? まぁ、勝手に死ぬ分にはかまわねぇがな。よし、異人さん、あんたのお薦めの奴にいってみようか」
 あっさりと仲間として認められているクロウ。商人風の男は厠へと入っていくと、出てきた時には別の穏和そうな顔になって戻ってきて、透に酒を頼むと受け取った酒を手に、鷹宮に近づきます。
「お一人でございますか? 手前などと一献、如何でしょう?」
 商人風の男がそう言って鷹宮に近づくのを、もう1人の男は空いた席に腰を下ろして辺りを伺っています。なぜかクロウが商人風の男と共に鷹宮に酒を勧めようとしているのは、恐らく故意でしょう。
「商人か? 構わないが‥‥」
 言うが早いか隣へと腰を下ろすのに、反対側にクロウが腰を下ろし、鷹宮のお猪口へと酒を注ぎ入れます。鷹宮が見たところ、男の顔を見ても今ひとつ人物を読むことが出来ません。とくに薬が入っている様子はありませんが、とにかく男の話術の巧みなこと、ほぼ一方的に飲まされます。途中、男が何かを気にするように再び厠へと行って戻ると言うことがありましたが、透の見たところ、中で怪しまれないように人遁の術でも使っているのでしょう。
 やがて酔い潰れた鷹宮を介抱する振りをしながら肩を貸して店を出て行く商人とクロウ、そして仲間の男にその場で張っていた者達は、後をつけるため立ち上がりました。

●お仕置きの時間
 鷹宮を連れて急ぎ足に進む3人組とクロウ。彼らが尾行に気が付かなかったのは、クロウの怪しい鼻歌などで気が散っていた所為でしょう。故意にやっていたのかと言えば疑問は残りますが。
 やがて彼らは被害者が放り出されるという河原の側にある、長屋の一軒へと入っていきます。
「そろそろ江戸での仕事を終えて、他の場所に行くかな。あんたも来るかい?」
 そんなことをクロウに聞きながら、押入から安っぽい女物の着物を引っ張り出して。古着屋あたりから手に入れてきた着物を置くと、化粧道具を用意しています。
「良いトコの坊ちゃん連中、しかも真面目そうに見えるって言うのはね、金を持っていて、その上自尊心が強いのさ。女物の服着て化粧して人目についただけで恥ずかしくて出るトコに出ねぇんだよ。ただ下手な人選をすると、武士の情けってなっちまうから要注意だ」
 男が商人の服から動きやすい服に着替えながら得々とクロウに話しています。先ほどの商人の顔とは違う、顔に傷のある、凄みのある顔つきです。
 3人組は慣れた手つきで鷹宮を脱がして女物の服を着せていきます。
「それにしても酔って頬を染め肌がはだけた東洋の男性というのは‥‥そそられますネ。‥‥大丈夫です、俺様崇拝教は心が広いので男もオカマも問わず教祖である私へ愛を捧げる権利が与えられているのですョ。ウフ。」
 舐めるような目つきで鷹宮を見るクロウの言葉に、訝しげな顔をするの3人組。続く言葉に異人は変わっている、などと言いながら着替えと紅を差し終えると鷹宮を抱えてこっそりと裏口から出て河原へと運んで行きます。
 河原に着いて、ぽいと鷹宮を放り出そうとした時でした。
「そこまでだ! 酒に酔った者を女装させ、その上河原に捨てるなど、いたずらにしては少々度が過ぎるぞ! 今すぐその者を放してやれ、さもないと痛い目に遭うことになるぞ」
「何奴!? そう簡単に捕まるかっ」
 刀を持った男が前に出ると、残り2人の男は鷹宮を放り出して逃げ出そうとします。
「待ちなさいっ!」
 桜澤のダガーが逃げる男を襲います。それを受けながらも逃げようとする男に、雷のダガーでの絡め取るような攻撃にどうっと倒れます。
「逃がしませんわよ?」
 もう1人の男にも、走り寄る流花がライトニングソードで斬りつけ、足を止めたところに透の手裏剣が襲いかかります。
 刀を持った男は河島・美衣とじっと対峙していましたが、河島の刀自体の腕が自身より格上と見るや、逃げだそうとして美衣に容赦なく斬りつけられて昏倒しました。
「これで、もう逃げられませんよ」
 そうにっこり笑う桜澤の横で、透が縛られた相手を問いつめます。
「『女装』をさせるのは『上層』階級のみとはこれいかに‥‥」
 ぴしっ。空間が凍り付く音を全員が聞いたのはきっと気のせいでしょう。
 河原の隅では、かろうじて意識の戻った鷹宮にクロウが珍しく優しく励ましています。『‥‥あなたは高く売れますョ』と。

●全て世は事も無し
「‥‥有り難うございます、これですかっとしました。気分爽快です!」
 依頼人の青年は、馴染みのきつい寺に本当に彼らを放り込んで来たらしく、清々しい顔で一行に頭を下げます。
「これからは酒に気をつけて、日々暮らしていこうと思います。本当に有り難うございました」

●ピンナップ

大宗院 透(ea0050


PCシングルピンナップ
Illusted by 犬と猫*小夏