舟遊び

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月13日〜11月18日

リプレイ公開日:2004年11月21日

●オープニング

「舟遊びでもどうですか?」
 こんな事を言うのは、どこぞの商家の番頭さんです。その番頭さんがやって来たのは、朝も早く、ギルドが開く前から、暖かい格好をして待っていたようでした。
「いえね、うちの若旦那様がこういう催し物が好きなお方でして‥‥忙しさで月見の舟が出せなかったのを偉く悔しがられましてね? それで私めに段取りをと、こうなったのでございますが‥‥」
 そう言うと、番頭さんは手拭いで汗を拭き拭き続けます。
「あれでございますよ、ぱあっと賑やかな宴にしたい言うのは分かるのですが、なにぶん、若旦那の様な人がそういうものを開くと、中には現れるのですよ、ご相伴にあずかろうと入り込んで、金持ちは気に入らんと暴れ回って宴席を壊すような輩が」
 そう言うと、番頭は溜息をつきます。世間一般では、そこそこに稼ぐ商人などは、いわれのない妬みや嫉みを受けるもの。番頭の勤める商家は真っ当な商売を若旦那が頑張って繁盛させているような所です。
「たいていの場合、若旦那は『皆捌け口が欲しいのだろう』と笑って済ませておりましたが、昨年の月見舟はそれは酷いものでした。若旦那様は多勢に無勢、川に放り投げられ、宴席の食べ物も、意匠を凝らした器達も、そしてその日の資金さえも当たり前のように奪い取られたのは、あれは何にも勝る屈辱です」
 当然それは十分に犯罪行為ですが、それをやったのは庶民、しかも酒の上での事と周りの人間が彼らを庇って逃がし、証言をして貰えなかった為に泣き寝入りとなったようです。
 若旦那は四季折々の催し物などを、たくさんの者と分け隔て無く共に愉しむ人だったのですが、昨年のことがあってから、周りの者がそれを許さなくなり、催し物は身内だけで楽しむものになっていたそうです。ですが、若旦那が、やはり隔てなく参加できるような催し物をしたいと言い出したそうです。
「そこで、そうするのだったら、護衛などを雇えば安心ではないかと、私めは考えたわけで‥‥恐らく昨年来たような輩も現れると思いますので、その方々さえ大人しくさせて頂けましたら、後はご一緒に舟遊びを、とこう言うわけです」
 そう言うと、番頭は、恐る恐るといったようで『如何ですか?』と聞くのでした。

●今回の参加者

 ea4518 黄 由揮(37歳・♂・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 ea5171 桐沢 相馬(41歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5979 大宗院 真莉(41歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5980 大宗院 謙(44歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea7234 レテ・ルシェイメア(23歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea7514 天羽 朽葉(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea7742 ヴィヴィアン・アークエット(26歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea8337 八卦 百足(28歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)

●リプレイ本文

●情報収集
「これは一種の狩りだな」
 黄由揮(ea4518)は、自分の言葉に若旦那が目を丸くしたのを思い出します。狩りという例えは吃驚されたようですが、確かに間違っていません。
 由揮は酒場に来て、昨年に問題を起こした人間を探し出す為に来ていました。酒場では舟遊びの話で持ちきりです。
 多少時期がずれたものの、舟で遊ぶのは江戸っ子にとって楽しみであり、粋で、しかもそれが施しではなく、楽しみを良く知った若旦那の立案となればそれまで参加していた者達にしてみれば嬉しい知らせです。
 それに苦虫を噛みつぶしたような顔をしたり、何かを企んだ様子で話している人間など、限られていた為か、怪しそうな人間を見つけるのは容易いことでした。
「あの者達は?」
 由揮が聞くと、苦笑しながら店主は口を開きます。
「本人達は歌舞伎者のつもりで粋がってるんですが‥‥まぁ、若い衆が憧れる、悪ぶった奴ですから‥‥去年の若旦那の舟遊びは、あいつらがやったんです。まぁ、若者のやること、大目にみましょうや」
 こともなげに言う店主は、さもそれが自慢のことであるかのようににやりと笑いながら声を潜めます。若旦那に悪い印象はないようですが、そこはそれ、妬みも手伝って咎めるどころか便乗して笑っているようです。
 あくまで丁寧に話を聞く由揮に気を良くした店主は、ぺらぺらと若者達の素性などを喋ってしまいます。
 同じく酒場で情報収集に来ているのは八卦百足(ea8337)。由揮に店主を任せたまま、つと近づいていって若者達にお銚子を振って見せます。
 酒を持ってきたことで百足を歓迎する若者達を確認したところ6人で、中心になっている様子の青年はひねこびた性格を顔に良く出していますが、他の5人はそれぞれ、自分たちのやろうとしていること、やったことの重大さなどに気が付いていない様子です。
「自分、そんなんしいへん方がずっと素敵やと思うんどすけど‥‥」
 若旦那の舟遊びをぶちこわしにすると言うようなことを聞いて神経質に辺りを気にした青年が席を立ったのに、そっと付いていき近づいて話しかける百足。百足の言葉に何か言いかけるも、どうにも否定されたことで落ち着きなく辺りを見回して、急用が出来たからと慌てて出て行く青年を見送って微かに笑む百足。
 まずは一人、と言ったところでしょう。
 百足が若い衆と話していると、大宗院謙(ea5980)が一行に近づいてきて声をかけます。さっと緊張したように見る若い衆。
 自分たちより幾つも上の侍に声をかけられたのに身体を硬くするのは当然。しかし他愛もない話をしているうちに緊張も解けたのか、昨年の話に自慢げに話し始めます。
 若い衆は行動を共にするのは断り、中心の青年はにやにやしながら『食い物ぶちまけられて、また河に放り込まれる若旦那を見て笑ってりゃいいのさ』と言うのに、へらっと笑って手持ちの杯を飲み干すと戻っていくのでした。

●事前警備
レテ・ルシェイメア(ea7234)は若旦那と依頼を持ってきた男に話を聞いてみますが、男達に心当たりはないということです。
「若者の悪戯ではありますが、少々度が過ぎて居ますよね。来て下さった方々に不快な思いと多大なる心配をお掛けしてしまって、心苦しい限りですね、昨年の舟遊びは」
 そう言って溜息をつく若旦那。自分が川に投げ込まれたことよりも、集まってきてくれた人達に対して申し訳ないと思っている辺り、人柄が窺えます。
「それよりも、あれですね、舟遊び当日は、ごたごたさえ何とかなりましたら、楽しんでいって下さいね。それにあれです、異国の歌などにも、とても興味がありますので、楽しみです」
 そう言って笑う若旦那。何やらはしゃいだ様子で飛んでくるシフールのヴィヴィアン・アークエット(ea7742)は、若旦那とレテの所へとやってくると、指で自慢の髪を弄りながら嬉しそうな様子で口を開きます。
「舟の上で宴会だなんて風流ですねぇ〜。私たちシフールはお祭り事が大好きなんですよぉ!」
 舟の準備している様子を見てきたのか、少し興奮気味のヴィヴィアン。それもそのはず。当日は若旦那の舟遊びに便乗して舟を出して遊ぶ人達も、もっと居るらしいと言うことらしく、準備の時点で既にお祭り騒ぎに近いものがあります。
 若旦那へと嬉しそうに言ったうヴィヴィアンは、再び舟の警備の方へ嬉しそうに戻っていきました。
「舟底など、大丈夫のようだな?」
「そのようだ。だが、一番危険なのは人気が無くなった時であろうから、警戒は続けていかねば‥‥」
 桐沢相馬(ea5171)が舟底を確認していた天羽朽葉(ea7514)に問いかけると、朽葉は頷いてから、思案する様子で付け足します。
 先ほど積み込まれる荷物やらを確認して居たのですが、今のところは目立って何かをやられる様子はないようです。もっとも、目立つところで用心棒とばかりにうろついてみせる桐沢の姿があればこそなのかも知れませんが。
「しかし‥‥商人など禄なことをしない、などと言っておきながら、仕返しもないであろう若旦那殿を選ぶなど、笑止」
 朽葉の言葉に頷く桐沢。上手く見張りを入れ替えて休みつつ、当日までこの調子で悪戯を牽制することが出来れば、後は当日に押さえるだけとなる為、先ほどから朽葉・ヴィヴィアンと協力して上手く休みを取りつつ見回っています。
 謙の妻、大宗院真莉(ea5979)は普通の姿をして、舟などの辺りを怪しまれないようにと見て回っていますが、見た感じ、あまり悪戯を仕掛けようといった様子の者は見かけられません。当日まで何もしないのかも知れないなどと考えながらも、真莉は辺りを窺いつつ歩き続けるのでした。

●舟の上の戦い
 当日の昼下がり、良く晴れていて、これから一日舟遊びをするのに楽しみな宴となることが容易に想像できます。
 結局、護衛をしていて、酔っぱらって舟に近づいた者以外、朽葉と桐沢に見つかるなどして騒ぎを起こした人間は殆ど居ませんでした。それだけ、良く考えられた行動のお陰で、若い衆や、妬んだ人間達が悪戯をしている余裕がなかった、とも言えますが。
 当日、若旦那やそれぞれが乗り込むと、舟は出発します。
 中には由揮が呼んだ数人も乗り込んでおり、彼らは面白いことがあれば話のネタに、と虎視眈々と狙っている様子です。
 川をのんびりと進みながら、早速賑やかな宴が始まるのに、ヴィヴィアンとレテがそれぞれの舟で軽やかに演奏を始めます。
 件の若い衆は4人が若旦那をじろじろと陰湿な目つきで見ていますが、一人は乗り込む時点で怖じ気づいたのかもう一艘の舟へと乗り込み、百足が声をかけた青年はそもそもこの場へとやって来ませんでした。
 いつでも若旦那を庇える位置に控えながら、青年への警戒の為に酒を飲まずに茶を啜っている桐沢。ちらりともう一艘へと目を向けると、朽葉が不審人物が居ないかを調べ終えて、こちらの舟は平気だと合図するのが見えます。
 その側でレテが奏でるジャパン特有の曲に、馴染み深い曲だと大喜びで盛り上がる舟。それを見て気にくわなかったのでしょう、ひそひそと何やら話してから、ざっと立ち上がって小さなお膳を蹴り倒して、ちょうど酒を上機嫌で呑もうとしていた老人が吃驚して身体を引きます。
「楽しんでいる方に迷惑をかけるのはやめて下さい!」
「あぁ? 俺らに何偉そうな口きいてんだ? お前」
 若旦那が言うのに笑いながらそう言って若旦那の方へと足を踏み出して、桐沢がすっとその前へと出るのに、中心となった青年は舌打ちをして懐へと手を入れます。
「うぎゃっ!?」
 と、後ろから情けない声がしてちらりと目を向けた青年は、仲間の一人が床とお友達になっているのを見て慌てたように振り返ります。
「てっ、てめぇ何しやがるっ!」
「おぉ、すまぬなぁ。酒の席だし大目に見てくれ」
 酔っぱらった様子でもう1人を殴り倒す謙に、その横で何事もなかったかのように起きあがろうとした若い衆を踏みつけて、その上にどっかり座る由揮。踏みつけられた拍子に顔を打って青あざを作った若い衆は、既にべそをかいています。
「ふざけやがって、この野郎!」
 逆上した様子で短刀を取り出す若者に峰打ちを叩き込む桐沢。倒れ込んだ青年を引き立てると、若旦那へとどうするかを問いかけるように目を向けます。
「‥‥この人達も痛い目を見ましたし、それぐらいで勘弁してやって下さい。また、何かあったときには私の方が気をつければいいことですし」
 そう言う若旦那に、どこか満足げな表情を浮かべた桐沢は目を回してしまっている、中心となった若者は危ないのでと捕まえたままにしてありますが、それぞれ宴に戻るようにとし向けます。
「いや、本当に有難うございます」
 ヴィヴィアンの演奏が再開され、頭を下げる若旦那に、桐沢は首を振ります。
「礼など不要。天に月、省みれば水月。そして旨い酒と笑いがあればそれでいいじゃないか?」
 その言葉に嬉しそうににっこりと若旦那は笑いました。

●次の宴の時も
 ヴィヴィアンとレテが曲を合わせて演奏するのに、どちらの舟の面々も、酒を酌み交わしながら、11月の月を楽しんでいます。
 若旦那の提案で、船頭が危なくないように気をつけながら出来る限り2艘の舟は近づいて、互いに宴を楽しみつつ言葉を交わしている様子でした。
 若い男性に絡んでいる真莉の姿が見えるとこれ幸いとばかりにこちら側の舟で隠れて可愛らしい娘さんに声をかけている謙。
「にしても若旦那はん、ええ男‥‥」
 ぽっと赤くなる百足に、良く聞こえなかった為か首を傾げる若旦那。
「若旦那はん?また舟遊び呼んでおくれやす〜♪」
「そうですね、舟遊びも良いですし、他にも色々‥‥次の宴の時も、遊びに来て下されば嬉しいですよ」
 そう言って、若旦那は賑やかな曲を聞きながら、目を細めて月を見上げるのでした。