会いたい気持ち
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月13日〜11月18日
リプレイ公開日:2004年11月21日
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●オープニング
「この手紙とこの根付けを、私の両親へと届けて欲しいのです」
そう言って見事な獅子の細工を施した根付けと手紙を置いて頼む男。
齢30ほどのこの男がギルドにやってきたのは風が冷たくなってきたものの、天気が良く明るい日差しの秋の昼下がりでした。
「その、どうしてもこれを受け取って貰いたいので、くれぐれもお願いします」
そう言う男に話を聞いてみると、どうも男が住むのもまた届け先も江戸内で、そのことを聞かれると、男は困ったような顔で目を伏せます。
「まぁ、良くある話です。根付けの細工を学びたくて跡を継ぎたがらず、結局家を飛び出してしまいましてね。父は頑固ですから、会いに行っても会っては貰えないでしょうし、母には泣かれ、今頃跡を継いでいる弟には迷惑をかけることになります」
そう言うと男は溜息混じりに今にも動き出しそうな獅子を指でそっとなぞりながら目を伏せます。
「当然、両親や弟と会いたい気持ちは強く、時折幸せそうな家族の姿を見ると、その夜は眠れないという事もあります。ですが、根付けの細工を掘ることに生き甲斐を感じているのも事実」
そう言うと男は苦笑します。
「この度、師匠の跡を継ぐ事が決まり、お嬢さんを嫁にという話も出ておりますが‥‥」
やはり飛び出した家のことが気になるのでしょう、少し返事を待って貰っているそうで、思い悩んだ末にやってきたようです。
「せめて、せめて母に心配はいらない、元気でやっていると伝えたく思い筆を執りました。ただ、普通に出しても受け取って貰えないと思い、縋る思いでここへと来ました。なにとぞ、この手紙、届けて頂けないでしょうか」
そう言うと、男は深く頭を下げるのでした。
●リプレイ本文
●父親
傍らでちびりちびりと酒を飲む老人の小さな姿を見ながら、貴藤緋狩(ea2319)は干した杯に酒を注いでやっていました。
周りは相手にしなくて良いと止めましたが、貴藤は老人の話に耳を傾けます。
それまで出来の良い自慢の跡取りが『根付けを〜』と言いだしたのを、当時どうしても許せず、二度と家の敷居もまたがせない、顔を見せれば許さないと言って追い出してしまった、と肩を落として老人は話します。
「儂はどうしても許せずあれを打ち据え、妻やあれの弟にまで当たり散らし‥‥儂を許せんじゃろうの」
小さく鼻を啜って言う老人に、貴藤が口を開きます。
「俺も家をおん出た口です。俺を子供扱いして刀を持つのを嫌がる人がいたが、俺は強くなりたかった。しかし結果はこの通り、未だ何者でもありません。ひとかどの人物を目指そうとも、認められたい相手はこの世から去った後。居れば張り合いもあったのでしょうが」
貴藤の言葉をじっと聞き入る依頼人。貴藤が依頼人から借りた、練習に彫った根付け付きの巾着を卓に置くと、直ぐにその根付けをじっと見つめて、許しを取ってから指で触れる老人。
「見事な細工でしょう。俺もこんな佇まいを持つ人間になりたいものです」
貴藤の言葉に、老人は何度も小さくですが頷きました。
次の日、菊川響(ea0639)は仲間が手紙を届けに行く前に屋敷へと向かうと、取り次ぎを願い出ます。
中へと通されると、矍鑠とした老人が出てきます。姿こそ小柄になっているものの、頑固で厳しいのが窺える顔つきで、後から部屋へと来て後ろにひっそりと控える真面目そうな青年も、直ぐに茶を運びつつやって来る母親らしき女性も老人へと意見できない理由が何となく分かります。
案の定、依頼人と会って欲しいと切り出すと、その顔にさっと血が上って他人の家のことに口出しは無用、と強い口調で言います。
「貴殿が育てられたご子息を誇りに思ってはもらえませんか。その意志を貫く強さを讃えてやってはくれませんか」
菊川の言葉に怒りとも悲しみとも付かない表情を浮かべて言葉に詰まる老人。
「それを告げろとは言いません。ただ、譲れない思いのために全てを否定していたのでは貴殿も家族も辛い思いをするだけではないですか」
「貴様のような若造に何が解るっ!」
「父上、おやめ下さいっ! お客様に‥‥」
「五月蠅い、離さんかっ!」
カッとしたように踏み出し掛ける老人を慌てて青年が押さえ、何か宥めようとしているのに、菊川は席を立ちます。
「主人は上の息子のことになると‥‥お気分を害されましたら、本当に申し訳ありません」
そう言って、頭を下げる奥方に見送られて菊川は屋敷を後にしました。
●けじめ
「報告したいなら、許して欲しいなら、なんで自分で行かない? なぜそんな大切な手紙を赤の他人である俺らなんかに頼む?」
里見夏沙(ea2700)の言葉に、依頼人は項垂れてぎゅっと手を握りしめます。。
「なぜそんな大切な手紙を赤の他人である俺らなんかに頼む? ケジメ、つけたいんなら、しっかり自分でぶつかれよ。正面衝突避けて、何が伝わる? 許して欲しいなら、認めて欲しいなら、それくらいの根性は持て。そしてその姿、嫁になる人に見せてやれよ。それがあんたの決意だって。『自分はこの道で生きていく覚悟を決めたんだ』って」
どこか辛そうに眉を寄せる依頼人に、そこまでいった里見の表情がふっと軟らかくなります。先ほど酒場で良く言葉を交わす六道寺鋼丸(ea2794)と、華国の僧侶・天涼春(ea0574)が手紙と共に持って行った根付けを思い描きながら続けます。
「‥‥あるから、こんな素晴らしい根付が作れるんだよな? 今のまんまじゃ、誰も彼もが苦しいままだ。現状を打ち破るには、やっぱり本人の力が必要だ。俺らはきっかけをつくるので精一杯」
里見の言葉に頷く依頼人。その決意したかのような意志の強い顔に、里見は何となく呟くように言いました。
「ところでさ、あんたとあんたのおやじ殿、良く似てるとかいわれねぇ?」
「‥‥不本意ながら、良く‥‥」
やっぱり、と小さく呟く里見。何となく顔を見合わせる依頼人と里見ですが、本所銕三郎(ea0567)がつかつかと依頼人に歩み寄ったことにより、会話が中断します。
半ば有無も言わずに依頼人の首根っこをつかんで歩き出す銕三郎。
「挨拶に行くぞっ!」
「‥‥え?」
「手紙なら飛脚に頼んだ方がよっぽど確実に届けてくれよう。それよりも‥‥こういった事は御自身が直接お知らせするのが筋ではないか」
銕三郎の言葉に、目を瞬かせる依頼人。引きずられながら突然のことでぴんと来ていない様子の依頼人に、銕三郎は当たり前のこととばかりに続けます。
「この先、師匠の後を継ぎ、弟子を取り、伝統を守って行くのだろう? 礼儀や筋道を立てられんようでどうする!」
そう言うと銕三郎は依頼人を連れて屋敷へと向かいました。
●会いたい気持ち
「わざわざ済みません‥‥今度こそ、主人に読んで貰えますよう、私どもも、ようくお願いしてみます」
そう言うのは髪に白いものが交じり始めた品の良い女性でした。母を気遣うように控える弟は真面目そうで、兄は様子が父親に似て、母親に似たのは弟、と容易に想像できるような、穏やかな物腰の青年です。
「今まで何度も兄は手紙を下さいましたが、父上が怒って破り捨てるので、仕方なく飛脚に駄賃を握らせて持ち帰って貰っていたのです。兄も尋ねてくれば私や母が偉く叱られると解っているのでしょう、一度だけ、人をよこして私たちの安否を気遣って下さったのですが‥‥」
そう言うと青年は溜息をつきます。
話を聞いて、涼春と六道寺は頼んで何とか待たせて貰うことにします。
「年月が経てばご隠居殿も貴方の兄上を許して下さるでしょう」
涼春の言葉に涙ぐむ母。手紙を読ませて下さいと弟は断ってから開くと、家族のことを案じ、いつか許して貰えることを望みながらしたためられた手紙を読み始めて目に涙を溜め、声を震わせながら母へと読み聞かせています。
「依頼人さんが今では立派な職人になっているのって‥‥それは家こそ継がなかったけれど、家族にとって誇れることじゃないかな‥‥?」
「‥‥はい、兄上、今までも、そしてこれからも、私にとっては自慢の兄です」
六道寺の言葉に袖で顔を覆いながら声を押し殺して無く母親。弟は擦れた声を発しながら、何度も頷きました。
先に家人を休ませると、涼春と六道寺はじっと老人の帰りを待つのでした。
●酒場の一幕
まだ辺りが茜色に染まる時間まで戻ります。老人は酒場で相変わらずちびりちびりと酒を飲んでいます。店には常連と、酔いつぶれはしないものの、それなりに酔っぱらった様子をわざと見せている岩峰君影(ea7675)の姿がありました。
依頼人の代わりに依頼人の許嫁を話の聞こえるところへと隠れさせてから、何食わぬ顔で入ってきたのは三菱扶桑(ea3874)。
話しかけると無愛想な様子ながらも、貴藤のときのように酒を飲む老人と話していますが、頃合いを見て勘定をと言いながら財布を取り出し、根付けを不自然とならないように見せると、まじまじと老人は根付けを見つめます。
「根付けがどうかしたか? これは最近江戸で知られ始めている細工師の物だが」
そう言うと、何かを言いかけて口をつぐむ老人に、辛抱強く待つ三菱。やがて、ぽつりと出て行った息子に会いに行ったが今更どんな顔をしてと思い戻ってしまったこと、母や弟が兄に会いたがって泣くとしかりつける為、屋敷内では兄のことに触れてはいけなくなってしまったなどと話します。
「これからもずっと後悔して生きて行くならそれでも構わないが、今一度話し合っておいた方が良いと思うぞ」
最後まで聞いた三菱の言葉に今更、と短く言う老人。それを聞いていた岩峰が短く笑って立ち上がると、ゆらりと近づいてきます。
「あんた。跡継ぎ息子に逃げられたんだって? ま、カビの生えたような仕事だ無理もねぇ。でもよーよりによってそれでなったのが根付師? いやぁ、笑わせてくれるねぇ」
岩峰の言葉にさっと顔色を変える老人に、岩峰は更に追い打ちを掛けます。
「親が馬鹿なら息子も馬鹿だ。こんなつまらん物を作って喜んでるなんてなぁ‥‥おおっと悪い悪い」
三菱の根付けを手に取ってから手の中にある別の根付けを床へと落とすとぐりぐりと踏みつける岩峰に、手を伸ばして掴み掛かって殴りつける老人。
喚きながら床に落ちた、砕けた根付けを拾い集めて泣き崩れる様を見て、岩峰は酒場を後にして、手の中の依頼人の根付けを見るのでした。
●時間はかかっても
「腹が減ったか? 俺はついこの間まで貧乏だったのでな。コレ位の事は慣れっこだ」
とっぷりと夜も更けた頃にそう言って保存食を差し出す銕三郎に目を瞬かせると、漸く微かに笑みを浮かべる依頼人ですが、しゃくり上げる許嫁の娘と三菱に手を借りて帰ってくる父親の姿に顔色を変えて飛び出します。
屋敷へと運び込まれて涼春や母親に手当をされる父親が、飲み過ぎてのことと聞いてほっとしたように息を付くと、口添えもあってか酒が過ぎたか、落ち着く間もなく嗚咽を漏らす老人に息子も涙を流して廊下から父親に向かってはいつくばって頭を下げています。
「‥‥‥貴様の好きにせぃ‥‥」
微かにですがそう呟いた老人に、改めて涼春の手から手紙と根付けが渡され、その根付けを見て老人ははっと持っていた砕けた根付けと見比べて、参ったとばかりに顔に手を当てます。
そんな老人に、涙ながらに今の生活と、これから連れ合いになる娘を紹介する依頼人。
数日後行われた祝言に、それを手伝う涼春とむっつりとした様子のまま参加する老人、そして世話になっている人間に渡したいと、依頼人に鴨と獅子の根付けを予約をしている里見の姿があるのでした。