愛猫を探して‥‥
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月19日〜11月24日
リプレイ公開日:2004年11月28日
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●オープニング
「お願いします、どうか、どうかあの子を見つけて下さい」
そう涙ながらに頭を下げるのは、大工をしている男でした。
男がギルドへとやって来たのは、もうギルドが閉まろうとしている時刻で、ちょうどギルドの人間が店仕舞いをしようとしているときに駆け込んできたのでした。
「確かに心配性と言われればそれまでですが、あの子は、あっしの所為で目が潰れかけていて、とてもとても一匹でどっかに行けるような状態じゃねぇんでさ」
落ち着き無く大の男がそう言って泣くのに、何とか宥めて茶を飲ませると、詳しく話を聞くことにしました。
「申し訳ありやせん、あっしは銀太っていって大工で喰っている男で、嫁の来手があるわけもなし、腕は親方が可愛がってくれたお陰で、一人じゃあ十分すぎるほど稼げるようになっていやした。‥‥なので、あっしは捨てられてた、生まれたばっかの子猫を拾ったときに、こいつがあっしの子供だと、立派に、うんと愛情込めて育ててやろうと、そう思ったんです」
猫にありふれた名ではありますが、みぃと名付けて、それはそれは偉い可愛がりよう、みぃも母猫に甘えるかのように銀太に甘え、銀太が仕事の時は家でよい子にお留守番をして、銀太が帰ってくると必ず玄関まで出迎えたそうです。
「そりゃぁもう可愛くて、毎日おみやげに魚を買って行ってやるようにしてやしたが、あっしは少し前に目の回りが膿んで、目が開けなくなってしまいやして‥‥」
見たところ、目の周りに少し痣のようなものがあるぐらいで、そんなに酷いようには見えません。
話を促すと、銀太は啜り泣きながら話を続けます。
「みぃの奴、それであっしが働けなくなって、蓄えも尽きて好物の魚も買ってきてやれなくなってしまった為に不憫でならず『なんにも食うものを買ってやれずに、ひもじいだろう、すまんなぁ』と謝った晩に‥‥」
銀太がうとうとと眠りかけた頃、まぶた辺りに感じるざらざらとした感触に目が覚めた銀太は、そのまま眠ったふりをして、みぃが何をしたいのか、やはりひもじいのだろうかなどと考えていますうちに、再び眠りへと落ち込んだそうです。
朝になって、まだみぃが舐めているのが哀れになり起きあがろうとしたとき、開かなかった目が開き、自分の視力が戻ったことに気が付いて、みぃのお陰と目を向けた銀太。
しかしみぃは銀太の膿んでいたものを舐めていたせいか、銀太が暫く見ていなかったせいか分かりませんが、すっかり目の辺りに目やにが一杯たまり、ろくにものが見えていないのに気が付くと愕然としました。
「あっしはみぃがあっしの目を治してくれたのだと思い、急いで親方のところに行って仕事を貰って、好物の魚を買って、これまで以上にみぃを大切にしてやろうと、そう思ったんですが‥‥」
戻ったとき、みぃは出迎えず、慌てて家の中を調べ、軒下も見ましたが、みぃはどこにも居なかったそうです。
「みぃはあっしにとって、我が子同然‥‥お願いします、どうか、あんな目で一人で居たら、みぃは死んじまう‥‥どうか、みぃを見つけて下さいっ」
そこまで言うと、銀太は涙ながらに頭を下げるのでした。
●リプレイ本文
●みぃの姿絵
「今回も乳は揉めない‥‥なんて、言ってる場合じゃねぇな」
そんな言葉を口にした男に笑いながら、その女性は口を開きます。
「こんな感じやね」
頬に墨を付けたままにんまり笑う音羽でり子(ea3914)は、顔を上げて薄い木版から顔を上げました。
「出来たか、見せてみろ」
「なんだか、やけに早いな?」
でり子の夫である夜神十夜(ea2160)が手を差し出して木版を受け取ろうとしている横では、月代憐慈(ea2630)が不思議そうに首を傾げています。
「でり子、ちょっとは似せようとする努力をしろ!」
「なんだ、この生き物は‥‥」
夜神がつっこむのに、木版を手に途方に暮れた様子で頭を掻く月代。ちぇ〜っと言いながらも笑って新たな木版に筆を走らせるでり子。
すらすらと鼻歌交じりに絵を筆を走らせると、直ぐに出来た絵を見て、にんまりと笑ってこっそり夜神に絵を見せます。
「ふむ、これは‥‥」
「ちょっと待てお前ら。それ見せてみろ」
木版を見て月代へとちらりと視線を向けるのに、夜神に見られた当人がそう言って木版を取り上げて見てみると、そこにはなかなか良くできた月代の似顔絵と、拾って下さいの文字が。
「ちょっと待て! これ俺の絵じゃないか!」
「え? そうなんか?」
木版を見て声を上げる月代に笑いながらしらばっくれるでり子。つらつらと、今度こそ猫の絵を描き始めるでり子ですが、部屋の壁に筆を伸ばすのは、流石に夜神に『壁はやめろ』と止められたようです。
賑やかな3人の横では、依頼人にみぃの特徴を聞きながら筆を薄い木版に走らせている鷹見仁(ea0204)の姿が見られます。みぃが三毛猫と聞くと、色の様子などを聞きながら人数分の絵を描き上げていく鷹見。その横には、依頼人が大工だから手に入れるのが容易だったのでしょう、薄い木版が沢山あります。
依頼人はでり子が出来たと言ったからでしょうか、でり子の方へと歩み寄って覗き込みますが‥‥。
「ぶわははははっ‥‥ごほっごほっ‥‥けほけほ‥‥いや、失礼」
何と形容して良いのか分からない、でり子の芸術的な絵を見てしまった依頼人はその絵の珍妙さに吹き出すと、慌てた用に咳払いします。
「笑ってた方が気持ちが楽になるやろ?」
目が赤い依頼人のその様子を見て、でり子はそう言ってにかっと笑うのでした。
●子猫の行方
依頼人の長屋からさほど離れていない寺は、小さくてひっそりと静まりかえっていましたが、微かに、子供の泣き声が聞こえます。
「大丈夫だからな?」
そう言って小さな女の子の頭を撫でているのは貴藤緋狩(ea2319)です。しゃくり上げながら女の子が傍らの木を見上げると、その木の上では、みーみーと子猫が小さく鳴きながら居るのが見られます。
「もう大丈夫よ」
鳴いている黒い仔猫へと手を伸ばしてからそう言って猫を抱きかかえるのは琴宮茜(ea2722)です。茜はフライングブルームに乗って子猫の場所まで近づくと、注意を払いながら何とか子猫を抱えて地面へと戻ると、その子猫を女の子に差し出します。
「ありがとう、おにーちゃんおねーちゃん♪」
そう礼を言う子供。
女の子に話を聞いてみますが、大工の目が見えなくなる前に少しその猫を見ただけと言うことと、男の子達は悪気はなくても猫が動かなかったら石を投げてぶつけたりして遊ぶことがあるので、あまりここにその仔猫がいて欲しくないという話をします。
「みぃちゃん、ほとんどおそとにでてなかったから‥‥おうちののきしたとか、そういうばしょにいたりするほうがおおいんじゃないかなぁ?」
女の子はそう言うと、見かけたら教えてくれる約束をして帰っていきます。
女の子と入れ替わるようにやってきたのは潤美夏(ea8214)。美夏は長屋の辺りを聞き込んでいたのですが、みぃが居なくなった日ですが、皆揃ってみぃが出て行ったのには気が付かなかったと言ったと伝えます。
「みぃの好物はお煮干しだそうですので、すこし頂いてきましたわ」
そう言って依頼人から受け取ってきた煮干しを見せる美夏。
「『猫は人に死に際を見せない』そんなこともあるので、悲しい結末になる前に猫を見つけましょう」
「ええ、そうですね、事は一刻を争います。急いで探しましょう」
美夏の言葉に頷く茜。
貴藤と茜も、聞き込みで長屋の人達から有力な情報が聞けなかったことを伝えると、それぞれが建物の陰や軒下などを覗き込んでいます。
「主人とこの先も仲良く暮らせるように‥‥生きていてくれよ‥‥」
貴藤は、祈るような思いでそう小さく呟くのでした。
「あぁ、その猫だったら、今頃どっかで野垂れ死にしてるんじゃないかな?」
「けんの石が、ばっちり当たって、寺の軒下に逃げ込んだんだもんなぁ」
子供達がさも当たり前のようにそう笑いながら言うのに、鷹見は唖然とした様子で子供達を見回します。
みぃの姿絵を描いて、それを子供達へ見せて事情を話して手助けをと頼んだのですが、子供達は悪びれた様子もなくそう言って笑いました。
「だってさ、あの猫顔ぐっしゃぐしゃできったねぇのな〜」
「すげぇ『みぎゃあっ』とか大きな声上げてやんの、わらっちまったよなぁ」
そう言ってまた笑う子供達。
「大体、猫なんて幾らでもいるじゃん、代わりが居るんだし、好きこのんであんな汚いの連れ帰らなくてもいーじゃん」
「そうそ、居なくなったときだって、うちの父ちゃんと母ちゃんに見かけたら教えろとかやってて、それでも見かけてないんだから、きっと今頃死んでるよな」
悪びれた様子もなく笑って去っていく子供達に信じられない物でも見るような表情で見送る鷹見ですが、一人残されていた小さな男の子がおずおずと近寄ってきて、見かけたら教えてくれると言うのに、頼むとしか言うことが出来なかったようです。
●寒い夜に‥‥
一同は顔を見合わせると情報を交換しますが、どれもこれも楽観できるような情報が見あたりません。
あちこちに探索の許可など、根回しをしてから馬で見て回った夜神は、徹底的に寺の人間にも数人手伝って貰って探したことを、また、猫のものかは分かりませんが、血の跡が少しだけ残っていたことを伝えます。
鷹見が子供達から聞いてきた話の裏付けともなりかねないのに、一同は気が重くなってきて小さく息を付きます。
寺を徹底的に見て回ったので、次は河原を探してみようという相談をして別れる一行ですが、何とはなしに河原へと足が向いた様子です。
とりあえず、手分けして少し探して、続きは明日、と言うことにして探し始めますが、なかなか探すのを中断する木になれず、なかなかの時間をうろつき回る事となります。
貴藤と茜、美夏の3人は河原の草が生い茂った辺りを、鷹見は橋の上からそれらしい者は見かけないかと見下ろし、月代と夜神夫婦は、月代のブレスセンサーを主体に、端から順々に見て回っていました。
ふと、本当に微かな、小さな生き物の呼吸を感じ取った月代は、橋の下の茂みの辺りを見つめると、ゆっくりと歩み寄ります。
それに気が付いた夜神も、でり子に静かにするように合図を送ってからそろそろと月代の後を付いて歩いていきます。
「‥‥‥‥いた、みぃだ‥‥‥‥‥」
そうっと手を伸ばして小さなみぃの身体を抱き上げる月代に、夜神が預かっていた依頼人の衣服を引っ張り出して差し出し。それに月代がみぃをそうっと置いてゆっくりと包み込むと、促すように月代を見、月代は他の仲間に見つかったことを伝えに行きました。
でり子はそれを覗き込んで、みぃが息をしているのを見てほっと息を付きます。
程なく集まった仲間はみぃの状態が酷く弱り、更に怪我も酷いことに気が付くと、直ぐに月代が寺院で手当をして貰えるように頼むために先に向かい、貴藤は依頼人を呼びに急ぎ足でこの場を後にします。
酷く目やにが溜まりろくに開かない目に、そのふわふわの筈の毛並みは身体のあちこちにある小さな傷口から出たであろう血で汚れてべたつき、それでも美夏の持つ煮干しの匂いに反応したのか鼻をふんふんさせて、消え入りそうに小さな声で、『みゅー』っと鳴くのでした。
●大切な大切なみぃ
依頼人は、ぬるま湯に浸したさらしで、注意深く丁寧にみぃの目やにを拭い取ると、心配そうにみぃを見ました。
依頼人の着物にすっぽりと包まれ、どこか幸せそうに喉を鳴らして目を細めていたみぃは、自分の主人が心配そうに眺めているのに小さく首を傾げます。
あれから、寺院に運び込んだみぃは、本当に危ないところだったんだどうですが、今では完全に元通りとは言わないものの、再び思い切りご主人に甘える日々だと言うことです。
見つかったときのみぃは、腕も折れ、目も目やにで潰れかけ、あと少し放って置けば、間違いなく助からなかっただろうと、後で寺院の方から説明を受けたそうです。
「それにしてもすごい猫さんですね、まるで身代わり地蔵みたいです」
しみじみそう思ったのか、茜が言う言葉に依頼人は頷きます。
「本当に‥‥これからはみぃを今まで以上に大事にしますよ」
そう言うと、本当に嬉しそうに笑う依頼人。
目の掃除が終わってそっと畳の上に降ろすと、みぃは嬉しそうに側にいた茜やでり子にまだ細い尻尾をピンと立ててすり寄ります。
そんな様子を見て、後ろから微笑ましげに見ている貴藤も、指でみぃにちょんと触れます。 みぃが、自分を助けてくれた冒険者達に懐く様子に笑いながら、依頼人は河原には行かないこと、自分を探して出てきたと言うよりは、本能的に助からないと感じて出て行ってしまったのかも知れないと言うことを話します。
「みぃが死なずに無事に戻ってきたのは、皆さんのおかげです。本当に‥‥本当に有難うございました」
依頼人はみぃを大事そうに抱き上げて撫でると、そう言って一行へと頭を下げるのでした。