幇間医者

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月20日〜11月25日

リプレイ公開日:2004年11月29日

●オープニング

 その美人とも言える女性がギルドにやってきたのは、まだ日が高い秋の日でした。
「えぇえぇ、憎たらしいったらありゃしない‥‥あの幇間医者っ!」
 腹の虫が治まらないといった様子で言う20代前半ぐらいの目鼻立ちの整った、すらりとした女性。
 幇間とは、ほうかんと言って、太鼓持ちを表す言葉です。幇間医者と言えば、本業である医者をそっちのけで仲人役を買って出るような町医者のこと馬鹿にしたり、蔑んだりして言う言葉です。
 結婚するには仲人が欠かせないこのご時世、仲人は持参金の1割を貰うと言う風習があるので、上手く煽てて金持ちを嫁がせることが出来れば、大金が簡単に転がり込むといった塩梅です。
「持参金欲しさに親や相手を煽てて嫁がされ、嫁いでみれば相手は本当にろくでなしで、結局実家に戻ることに‥‥結構そう言う娘達が多いと聞くけど、女が家を出て実家に戻った方が悪い、こらえ性がないと‥‥」
 相当いびられて辛い思いをしたのでしょう、口惜しそうに言う依頼人。
「にもかかわらず、またその医者に再婚の為の見合いを親が頼んでしまいまして‥‥また上手いことを言ってそのままうちの両親や先方が丸め込まれてなどとなったら堪ったもんじゃありません」
 おまけにその医者はいやらしく、よっぽど気に入られた娘は逆に縁談が成り立たず、お見合いした相手と互いに好き合っても、その医者によって仲介されずに引き裂かれてしまうこともあるそうです。
「実際に何かをされたわけではまだ無いので、それ以上どうこう言えないのですが、私の妹など、話がまとまりかけていたものをあの医者に壊されかけ、しかも妹にしつこく付きまとっている様子。いい加減我慢ならなくって」
 そう言うと女性は顔を上げて必死に頼み込みます。
「お願いします。あの医者をこっぴどく懲らしめて、もうこんな事をしたいと思わなくなるようにして下さい。手段はお任せします」
 そう言うと女性は何度も頭を下げます。
「そうして溜飲を下げてやりたいし、なにより妹が可哀相でなりません。お願いです、あの幇間医者を、どうにかこうにか懲らしめてやって下さらないでしょうか?」

●今回の参加者

 ea5011 天藤 月乃(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea5960 リュミナ・アイアス(32歳・♀・バード・シフール・ノルマン王国)
 ea7234 レテ・ルシェイメア(23歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea8337 八卦 百足(28歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea8484 大宗院 亞莉子(24歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●件の医者
 依頼人の妹の所へ件の医者が押しかけてきたのは、依頼として天藤月乃(ea5011)が妹へと付いて直ぐのことでした。
 親切そうな顔をして上がり込みつつも、妹の部屋へと入ってきてやたらと手を取ろうとする医者に、冷ややかに目を向けつつさっさと叩き出す月乃。
 月乃に部屋を追い出されて悪態を付いていた医者ですが、そこに八卦百足(ea8337)が、女性が相談に乗って欲しいのだと言うことを告げ、その相手が依頼人であること、もう一人女性が居ることを話して、二人が待っているというと一も二もなく付いてきます。
 百足が別の部屋へと医者を連れて行くと、リュミナ・アイアス(ea5960)に付き添われた依頼人が顔を隠すようにして相談に乗って欲しいと言いました。
「実は斡旋先で酷い折檻を受けて、肌に取り返しのつかないほどの痣が出来てしまって‥‥再婚の為の見合いと聞いて、どうして良いのか分からなくなって‥‥」
 しおらしく言う依頼人に、思いを寄せる娘の姉だからでしょうか、猫撫で声で痣を見せてごらん、と言われるのに肩から首を、着物の襟元を広げるようにして見せると、リュミナが気が付かれないようにとファンタズムを使って見るも無惨な青黒い痣を映し出します。
 直ぐに恥ずかしいと言って隠す依頼人に、首筋に映し出されてた青黒い痣を気にする様子もなく、むしろ好色そうな目で見回すのにリュミナは駄目だとばかりに小さく首を振ると、何者かと言われるのににこやかに前の嫁ぎ先のことを見合い相手に説明するために付き添っているというのに、医者の目がきつく細められます。
「痣の事を言いふらしはったら、ご自身の信用にも傷が付きますよって内密にしてくれはりますなぁ?」
 医者が依頼人宅を立ち去るとき、リュミナがそう言うと、射殺さんばかりの勢いで、リュミナを睨み付けているのでした。

●一芝居
 正面から良心に訴えるのが無理と聞いてから、レテ・ルシェイメア(ea7234)は着替えて、頭巾を使って耳を隠すと医者の元を訪れました。
 考えがあるようで、月乃と妹さんを連れて行き物陰に潜ませます。
「私は異国の者ですが、ある商家の若旦那と将来を約束しました。ですが、やはりご家族の方が猛反対しておりまして‥‥難しい縁談ですが、何とか上手く纏めては頂けないでしょうか‥‥」
 たおやかな物腰のレテがそう言って頭を下げるのに、医者の目がふと柔らかくなりますが、それは明らかに優しさなどと言ったものでないのがよく分かるのは、その目がレテをなめ回すように見ているからだと思われます。
「馴れ初めを聞いて宜しいかな?」
 もっともらしい落ち着いた声と表情で言う医者ですが、その目が嫌らしい様子で見回しているのを、レテは何とか我慢して話を続けます。
 レテの作った話は、自分の歌を聴いた若旦那に見初められたのだと言う簡単な話を、それに気持ちを込めて話したためか、疑う様なところはありません。
「ほぅ、そんなに見事な歌ならば、一度聞いてみたいものですなぁ」
 穏和そうな様子を見せてうんうんと頷く医者に、レテは柔らかな笑みを見せながら軽く首を傾げます。
「よろしければ、お医者様も私の歌を聞いて下さいませんか?」
「おぉ、是非。歌を知っていれば、その分先方様へも話を付けやすくなりますからの」
 そう言って笑う医者に、レテは三味線を取り出して音を調整すると演奏を始めます。
『げに恐ろしきは女の妄執
死してもなお仇の元を訪れる
永久の眠り誘う者はすぐそこに
ゆめ忘るるな
亡霊は盾でも防げぬ
悔い改めよ
明日の光を迎えたければ‥‥』
 レテが歌い始めた歌はメロディーがかかっており、ぞくっと背筋に冷たいものが走ったかのように、身体をびくっと震わせる医者。
 歌が止まると打ち合わせされていたためか、そっと妹の背を押して促す月乃。
 庭の隅に居るためか、メロディーの範囲ではなかったのでしょう、妹は平気な様子で、むしろその手に持って貰えるように頼まれたレテのダガーに恐る恐るといった様子が窺えます。
 庭の隅に立って刃物に目を落としている妹の姿と、いまレテから聴いた曲に血の気を引かせながらレテへと目をやる医者。その間に、月乃が妹を連れてその場を立ち去り、レテはにっこりと笑って口を開きます。
「少しは控えませんと、いつか、今見た光景が現実になりますよ?」
「っ‥‥か、帰ってくれっ! 儂は気分が悪うなったっ! とっとと帰れっ!!」
 言われる言葉に立ち上がると、レテは歌を口ずさみながらその場を立ち去ります。
『恥を知れ
汝は他者の血を吸う寄生虫
呪われてあれ
医師の名を汚す者 』
 レテの歌が響く中、部屋では青い顔をして震えながらも、苛ついたように何やらぶつぶつと呟く医者が一人残されるのでした。

●十分な脅しとお仕置き
「‥‥‥めんどくさい」
 月乃がぼやくのも無理はありません、恐怖心に呷られはしたものの、後一押し足りないような気がするのに、月乃はレテやリュミナに依頼人と妹を任せると出かけていき、百足のその後を追います。
 レテとリュミナは、ふと、一緒に仕事を請け負った大宗院亞莉子(ea8484)の姿がないことに不思議そうな顔をしますと、依頼人に、妹の様子や医者の好みなどを調べて出かけていって居ると言うことを伝えました。
「なんでも、『幇間医者なんてぇ、私の魅力でいちころってカンジィ』とおっしゃって」
 そういう依頼人に、レテとリュミナは顔を見合わせました。
 月乃は医者が屋敷を出かけるのを待ち伏せると、路地裏手前で医者を引っ張り込みます。実際、あまり大柄ではなく初老の医者ですから、なすすべもなく壁に押しつけられ、百足が辺りの警戒して見ています。
「あんたはやってはいけない事をやってはいけない人にやっちゃったようだね‥‥」
 後ろから低い声で言われる医者はびくっと縮こまり、ひとつひとつ月乃が上げる自分の悪事に、何をされるのかとどんどん恐怖心が高まってきたのでしょう、しゃくり上げながら助けてくれと小さく繰り返します。
「あんたは運がいい。依頼人は心が広い方で殺さなくて良いと仰られたからね。まあ殺さなくていいってだけなんだけどね」
 一瞬意味ありげに空けられた間にびくつきながらも、医者は命ばかりは、と泣きながら繰り返します。
「まあ、あたしも依頼人にあやかって1回目は警告だけにしておいてやるよ。これに懲りたら仲人や仲介した女に言い寄るのは止める事だ。2回目はどうなるかわからないからね」
 押しつけていた壁から月乃会社を離すと向き直らせますが、医者が顔を見ようとする前に叩き込まれた一撃で、医者は昏倒します。
 その場に医者を捨て置いて、月乃は立ち去り、百足の急いだ様子でそこから離れるのでした。
 医者が目を覚ましたとき、そこには女性が一人居ました。
 亞莉子が好みの女性をあちこちから聞いて回って人遁の術を使って化けたのですが、誘き寄せる前に昏倒していた医者を見て、直ぐにヤクザ者らしき女性へと人遁の術で変身し直していたのでした。
 昏倒していた医者を見つけた亞莉子は、まずは縛り上げてから医者を起こし、直ぐに木簡を目の前に突きつけて口を開きます。
「は〜い、これにぃ、私利私欲で仲人しましたぁ、って書いてねぇん。書かなかったらぁ、どうなるかしれないってカンジィ」
「な、何を言う、儂は知らんぞっ、め、迷惑だ、とっとと離してくれっ!」
 声が震え、先ほどもしこたま脅されたのですが、どうも話し方が変わった様子の相手なのに、反抗する気力だけはあったようです。
「ふぅん、言うこと聞かないなんて、ムカツクって言うかぁ」
 そう言いつつ医者の服を剥ぐ亞莉子。
 春花の術で眠りへと誘い込むと、その医者を通りへと運んでその間、うっかり起こしてしまったときには寝かしつけ直して、『私は女の敵です』と言う札を上にのっけてから、亞莉子はめんどくさそうに伸びをします。
「つまらない男を相手にしてたらつかれちゃったぁ。ダーリンに癒してもらうってカンジィ」
 知人にでも教わっていたのでしょうか、夫のことを異国の言葉で呼びながら、亞莉子はそのまま家へと向かって帰って行くのでした。

●逃げ出した医者
 その日、まだ一応依頼の期間中だったこともあり、依頼人宅で亞莉子を除いた面々は茶や菓子を振る舞われながら、寒くなりつつある中暖を取りながら話していました。
 ぱっと身だけならば女性だけの中なので、それなりに話も盛り上がっていたのでしょう、賑やかな様子に依頼人の妹と、尋ねてきていたお相手の若旦那が顔を覗かせて、少しの間話をしていました。
「そう言えば、皆さんご存じでしたか?」
 若くてにこにことした様子の若旦那は、ふと思い出したように口を開くと首を傾げて聞いてみます。
「ご存じって、何をです?」
 リュミナがそう聞き、レテや百足も頷くと、若旦那は少し声を落として続けます。
「あの幇間医者、居なくなっちゃったそうですよ、夜逃げって言いますか‥‥」
 言われる言葉に顔を見合わせる面々。
「なんでも、彼女から聞いた、医者を驚かしたっていう話の後に、何故か通りに縛られて服を剥がれ転がされていたらしいんですよ、『私は女の敵です』っていう札を乗っけて」
 医者を脅した月乃と百足ですが、自分たちではないと首を振り、この場にいない亞莉子だろうか、などという話をしながら、しばしの間は居なくなった医者について話しているのでした。