●リプレイ本文
●旅路
「紅葉狩りとお酒か‥‥小娘の用心棒をしていれば良いのだな。これは結構楽しいかも知れんな」
そんな理由で参加してきたのは神田雄司(ea6476)。用心棒の仕事が一区切りして、少々懐具合が寒かった事もあり渡りに舟と言ったところのようでした。
「腕に自信ある者ばかりかな。これはますます楽ですな」
そう呟いてふと辺りを見、舞い落ちる葉を見ながら何やらにやにやと笑みを浮かべる神田。
「紅葉狩りにお酒‥‥楽しみですねっ」
「え‥‥そ、そうですね‥‥」
楽しそうに小都葵(ea7055)へと話しかけるのは倉城響(ea1466)です。響に声をかけられて顔を赤らめつつおずおずといった様子で頷きながら答えると、葵はふと気が付いたように前を行く娘さんへと目を向けます。
「そう言えば‥‥娘さんと、その御祖父さまのお名前‥‥お聞きしていませんね‥‥」
きちんと挨拶をしておかないと、と小さく言う葵に、響は笑いながら頷きました。
「楽しい依頼じゃないか。娘さんよろしく」
「はいっ、宜しくお願いします」
そう言って依頼人である娘に微笑みかける時永貴由(ea2702)に、娘は嬉しそうに笑って頭を下げます。
「ふふ、思いきり紅葉狩りが出来ちゃうお仕事なんて嬉しいですね」
「そう言って頂けると私も嬉しいです。今の時期ですと、祖父の家の辺り一面、赤く染まっていて綺麗なんですよ」
手塚十威(ea0404)の言葉に嬉しそうに言いながら軽く首を傾げる娘さん。娘さんの言葉に手塚は笑いながら頷いて、ふと気が付いたように明るい表情のまま再び口を開きます。
「明日か明後日、お弁当を作って外で紅葉を楽しもうと思うんですけど、貴女もどうです? お祖父さんもお誘いしようと思うんです」
「まぁ、素敵ですね、それは」
「それでですね、お弁当を作るのを手伝って頂けませんか? 1人でたくさん作るのは大変だし‥‥。もしお料理出来なくても重箱に詰めるだけとかちょっとした事だけでも良いんですけど‥‥」
どこか悪戯でも思いついたかのように目をきらきらさせて笑いながら言う手塚に娘さんも釣られたようにくすっと笑って頷きます。
「護衛‥‥というのも口実程度かな?」
「そうだな。まぁ、多少の警戒は必要だろうが‥‥」
そんな様子を微笑ましく見ながら、天螺月律吏(ea0085)が呟くのに、笑いながら貴由は頷き、娘さんに疲れたら言うように、と声をかけたりしてました。
辺りを警戒しつつ、ゆっくりと後ろを歩いているのは山本建一(ea3891)です。山本はつい最近、無理をしてちんぴらを装い、それがあっさりとばれてしまっていたことに傷心気味でしたようで、街道を行きながら辺りを見れば、赤く色付く木々の様子など、どこか心慰められる風景にほうっと緩く溜息をついていたりしているのでした。
娘さんの祖父の家に着く頃にはとっぷり日も暮れていて、辺りは家々の明かりで漸く道が見える程度になっていました。
家では早速嬉しそうに出迎える老人。娘さんと祖父の名前を改めて聞く葵に、うっかりしていましたと言って、娘さんはさえと言い、祖父が重吉というと紹介してくれます。
重吉は思った以上に大人数が尋ねてきたのをとても嬉しそうに出迎えて、通いで手伝いに来るおばさんに腕を奮ってくれと頼むと、上機嫌で一行を中へと迎え入れてくれます。
山の幸をふんだんに使った夕食などを頂くと、一日移動してきたせいか、その日はゆっくりと休むように勧められるのでした。
●紅葉狩りへ
次の日の朝になると、明るくなって改めて家の周りは、一面赤く染まった木々に囲まれていてまるで別世界のようです。
朝食の後に手塚とさえは紅葉を見ながら明日に決まった紅葉狩りに何を用意しようかと楽しそうに相談しています。さえも料理を嗜んでいるとのことで、二人で沢山お弁当と作ろうと約束すると、村で手に入る食べ物や、運ばれてくる物などを検討し始めました。
同じように葵も村の中で魚などを飛脚に送らせるなどの手段でではありますが、明日、新鮮な鯵が手に入るように手配することが出来ました。
貴由は娘さんが江戸を経つ際に懇意にしている商人から舞茸を貰っているのを聞くと、それを使って何かを考えている模様です。
それ以外にもかぼちゃなどを近隣の農家に相談してお裾分けをして貰った貴由は早速台所を借りて何かを作り始めるのでした。
そして、翌日、気持ち良いほどに空は晴れ、風も冷たいものではなく、絶好の紅葉狩り日和となりました。
「今日は晴れてる事ですし、外に出て紅葉を肴にお酒など如何でしょう? 秋の空気と紅葉を満喫しつつ、飲むお酒も中々オツだと思いますよ♪」
「そうですよ、行きましょう、沢山お弁当も用意しましたし」
「ね、御祖父様、行きましょう?」
響・手塚・そして孫娘のさえに口々にせがまれた重吉は、思わず目尻を下げて嬉しそうに笑います。
「そうさのう、じゃあ、皆で行くかの?」
そう言ってどっこいしょ、と立ち上がるのを響と手塚が手を貸して、その間にさえは重吉の上着を取りに向かいます。
結局、お酒はお弁当をいっぱい持って、総出で直ぐ裏の山へと入っていく一行。少し奥まったところ、なかなかに綺麗な場所なのですが、そこで休もうとする一行に、重吉老人が少しだけ考える様子を見せて森の中へとはいる方向に一行を誘います。
「この村の、老人連中しか入らん所じゃがの」
そう言いながらひょこひょこと、確かな足取りで落ち葉に埋もれ、気をつけなければ見落としてしまいそうな細い道を、迷う様子もなく歩いて行く重吉について行くと、少し歩いて辿り着いた先は、開けて木々に囲まれた広場になっていました。
紅葉が敷き積もり、赤い絨毯のようになったその光景はとても美しく、また、木々の間からの木漏れ日が暖かく心地良い場所です。
敷物を敷いて腰を下ろすと、早速お弁当やお酒、そして、貴由が用意したかぼちゃなどの和菓子が並びます。舞茸のおにぎりなどを出されると、その食欲を誘う香りに重吉の顔が綻びます。
「こちらはさえさんと俺で作ったんですよ」
そう言って煮物や稲荷寿司の詰まったお重を見せる手塚に嬉しそうににこにこ笑いかけて、稲荷寿司を一つ取って頬張って何度も頷く重吉。
「うむ、美味い。儂は、こんな美味い稲荷寿司を食べたことはないのう」
そう言って幸せそうに笑う重吉に、手塚は頬を赤らめて嬉しそうに笑います。
「紅葉を見ながらのお酒は良いものですね」
そう言って燃えるような木々から手の中の杯へと目を移す山本に、お銚子でお酌をしながらさえは微笑んで頷きます。
「きれいな紅葉ですね‥‥この依頼のおかげで綺麗な紅葉をみれました」
「そう言って頂けると嬉しいです。本当は、ちょっとだけ、冒険者さん達に頼むのが怖かったのですけれど‥‥思い切ってギルドに行って良かったです」
山本がそう言うと、娘さんは嬉しそうににっこり笑ってそう答えました。
「ああ、京の伏見の酒を思い出すなあ‥‥」
重吉の秘蔵のお酒を頂きながらほろ酔い加減でそう呟くのは神田です。神田はゆっくりと立ち上がると刀を手に、一歩皆から離れた場所へと足を踏み出します。
ふとそちらへと一行が目を向けるのに、はらりと舞い落ちてくる紅葉のひとひらを見て、すっと目を細める神田。
ちん、と小さな音を立てて神田が刀を鞘に戻す動作をしたかと思うと、その目の前ではらりと2つに別れて落ちる紅葉を見ると、ほうっと誰とはなしに溜息が漏れます。
律吏や葵が綺麗な紅葉の葉を集めたり、酒やお茶、お菓子にお弁当と、爽やかな秋の日の午後を思う存分に、一行は満喫するのでした。
●秋の宵
紅葉狩りも終えてかえってくると、のんびり風呂につかったり改めて、ゆっくりと酒を燗にして呑み始めたりとしています。
重吉と差し向かいで酒を飲んでいるのは律吏です。葵に気をつけて飲んで欲しいと告げられていたためか、重吉もゆっくりと飲むように気をつけている様子です。
その直ぐ側の卓に響と神田、縁側でお酒を飲んでいるのは貴由。各々、重吉の出してきたとっておきのお酒の、爽やかな口当たりの良さを堪能している様子で、月明かりに浮かぶ美しい紅葉を眺めながらのんびりとしています。
卓の上には響が簡単に、在る物で作った野菜の煮物や炙った魚が置いてあり、それを摘みながらのんびりと酒を楽しんでいたり、律吏などは重吉に土地の話などを聞いて、なるほど、とばかりに頷きつつ杯を傾けています。
と、葵が台所の方からやって来て、小鉢に盛りつけた、鯵のなめろうと、ごま風味の衣で上げたという紅葉の天麩羅を入れてそっと卓に出して勧めます。鯵を細かく切り大葉などを混ぜて味噌を入れ、それを粘りが出るまで叩くというこの料理、酒に良く合い、重吉がご満悦で食べるのを、葵は嬉しそうに微笑み、律吏など、その風情ある天麩羅を楽しんだ模様。
少し風が冷たく感じるのに、貴由は重吉に丹前を羽織らせ、月を眺めながらそっと微笑みを浮かべて、皆の話を聞いていたのでした。
●またおいで
「お仕事とはいえお世話になったんですから、家のお掃除させてもらいますね! それから今日もお料理作っておきますから、後で食べて下さいね」
手塚がそう言って一生懸命掃除をしているのを、どこか名残惜しげに、しかし目を細めて嬉しそうに見ている重吉。
重吉は律吏に声をかけられてそちらへと行くと、そこではさえと律吏が作っていたであろう、紅葉を糊で貼り付けて作っている絵があります。
律吏の薦めで重吉も加わり、間もなく完成した絵に重吉もさえも目元を僅かに潤ませて別れを惜しみます。
「本当に楽しかった‥‥また‥‥また、おいでなぁ、皆さん」
江戸へと戻るために暇を告げた一行に、重吉は僅かに鼻を啜りながら、別れを惜しみつつ、そう言っていつまでも見送っているのでした。