捕り物・冤罪少年

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 80 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月01日〜12月06日

リプレイ公開日:2004年12月10日

●オープニング

 巷では、貧乏人から金を搾り取れるだけ搾り取ると言われていた極悪な夫婦者が刀で滅多刺しにされて殺されたと言う事件に、人々が『いつかはこうなるだろうと思っていた』などと噂をしていたとある冬の日。
 その、まだ年若そうな夫婦が血相を変えてギルドへと飛び込んできたのは、冷え込みが厳しくなってきた、曇り空のとある昼下がりでした。
「冤罪なんですっ! あの子は殺しちゃいませんっお願いです、犯人はあの浪人だって、みんな解っているのに、何であの子がっ」
「落ち着くんだ、おさえ、事情をお話ししなきゃ、助けてもらえんだろう」
 半狂乱にギルドの人間に訴えかける女性に、それを抱き留めて押さえつつも、真っ青な顔をした夫が、震える声で事情を話し始めました。
「私は浪人をしておりまして、妻と、息子が二人‥‥兄は19でして、何とか扶持を得る‥‥つまり、侍としてとある家へと勤め始めています。そして、先ほど妻が言ったあの子、というのは下の息子で、今13の、利発で本当に孝行者の優しい子なのですが‥‥」
 そう言って言葉を詰まらせる夫に、夫に取りすがって泣く妻。
 なんでも身分の高い親戚がこの夫婦に居るらしく、その親戚が先だって殺された極悪人の夫婦者から金を受け取って、無理矢理に下の息子を養子として引き渡してしまったそうです。
 幾ら泣いて頼もうと、何としても親戚の受け取った金を返すと言っても息子を帰して貰えず、下の息子は兄や両親のためと、辛い境遇に耐えて養父母となった夫婦にどんなに酷く扱われようと必死で尽くしていたそうです。
「ですが、あれだけ恨みを買っていた夫婦です、あんな殺され方をしてしまいましたが、あの夫婦が殺された日、私どもは食べるものも与えられずに働かされてやせ細ってしまったあの子が不憫で、先方に手紙を送り、数日間でも良いから、しっかりと食べさせてやって、休ませてやろうと家に呼んで留めておりました‥‥」
「刀であの夫婦を殺すだなんて、とてもとても出来る事じゃありませんっ。なのに‥‥なのにっ!」
 妻が泣き叫ぶのに、ギルド内のあちこちから、気まずそうな視線がちらちらと向けられます。
「あの子はあの夫婦が殺されて直ぐにお役人様に連れて行かれてしまって‥‥動機もあり、その日だけ実家に来ているのは不自然だ、と‥‥」
 その後、何かの間違いだと、上の息子とこの夫婦は必死で聞き回り、そこここで聞かれる、夫婦を殺したであろう犯人の名を知ることが出来たそうなのですが、それを役人に訴え出たにもかかわらず、聞いては貰えなかったそうです。
「お役人様は、それだけ恨みを持っていたんだろう、15歳以下の子だから死罪にはならず、あの夫婦の親族に15まで預けられ、その後も遠島だけで済ませられると決まったのだ、これ以上お上の手を煩わせるな、と‥‥」
 そう言って、わっと泣き伏す妻に、悔しそうに唇を噛んで、妻の肩を抱く夫。
「お願いします。あの浪人を捕らえて、お役人様へと突き出せば、きっと、きっとあの子の疑いは晴れますっ! どうか、私たちの息子を助けてやって下さいっ!」
 そう言って、夫婦は何度も何度も頭を下げるのでした。

●今回の参加者

 ea0660 鎮樹 千紗兎(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3810 ラティエル・ノースフィールド(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea7514 天羽 朽葉(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8526 橘 蒼司(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8793 桐生 純(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea9038 青川 始(33歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●囚われの少年
「本当はいけないんだがな」
 そう言いラティエル・ノースフィールド(ea3810)を牢の前まで連れて行くのは、壮年の、役人らしき男性でした。
 牢番に何度も頭を下げて会わせて貰えるようにと頼んでいた所へ、やって来たこの武士に訳を聞かれ、『あの一件か‥‥』などと言った男性は牢番に幾ばくか握らせて見ぬふりをさせ、自ら付き添ってラティエルを中へと迎え入れます。
 牢番などの対応からその男性はだいぶ地位のある人間らしく、もし本当に冤罪で証拠などが見つかれば、疑いを晴らすのに協力しようと約束します。
 ラティエルが連れて行かれた先の牢は薄暗く、中に痩せて弱っている様子の少年が隅でうずくまって怯えた目を向けました。
「‥‥誰?」
「貴方のご両親から、貴方の疑いを晴らすように依頼された者です」
 ラティエルの言葉に顔を上げる少年。よろよろ這って格子戸の所まで来ると、小さくしゃくり上げながらラティエルを見上げます。
「神は常に真実をご覧になっています。あなたに神のご加護あらば、きっと疑いは晴れることでしょう。ですから、もう少しだけ‥‥ご辛抱下さい」
 ラティエルの言葉に何度も小さく頷いて、少年は目元を擦って、微かに微笑むのでした。
「犯行当時に居なかった子が犯人と考えるとは不思議な頭の構造をしているようだ」
 そう言うのはのは橘蒼司(ea8526)です。一行はまず調べたという事柄を家族の口から聞こうと尋ねてきていました。
「子供の為に最善を尽くそう」
 夫が茶を出して迎える横でずっと泣き通しの妻に向き直ると、橘が力強く約束し、それを聞いて袖で目元を押さえながら宜しく頼みます、と頭を下げる妻。
「ふぁぁ‥‥眠い‥‥けど、放っとくと寝覚めが悪そうな話だしな‥‥」
 そう欠伸混じりに言いながら軽く伸びをして、青川始(ea9038)はちらりと少年の両親と兄に目を向けて再び口を開きます。
「で‥‥その浪人の氏素性はどうなっているんだ‥‥?」
「その浪人者の日常の習慣など、分かることがありましたら教えて下さい」
 鎮樹千紗兎(ea0660)もそう言いながら顔を向け、天羽朽葉(ea7514)もじっと家族を見つめて一言も聞き漏らさないようにとしているようでした。
 一行が話を聞いて依頼人宅を後にしようとしたとき、桐生純(ea8793)は振り返り、依頼人へと口を開きます。
「えっと‥‥初めての依頼だケド、精一杯やる、の‥‥。‥‥冤罪なのは明白なのに、あの子が罰を受けてしまうのは、絶対に間違っている事だから‥‥」
 その言葉を聞くと、少年の家族は頭を下げて見送るのでした。

●探索
「皆さんはご存じないかも知れぬが‥‥少年は、役人にも『夫婦者から酷い扱いを受けていた』と認められる程の状態であったそうだ」
 そう殺された夫婦者が住んでいた近隣の者に語るのは朽葉。何人かが気まずそうに目を背ける中朽葉は続けます。
「真の犯人は件の夫婦と連んで悪さをしていた浪人者と聞く」
 その言葉に顔を見合わせる者や驚いたように朽葉をまじまじと見る者がいるのを確認して、朽葉はゆっくりと一同を見渡します。
「――私は少年を助けてやりたいと考えておる。もし何か知っておるのならば、以前の証言は撤回し、目撃した事を話しては頂けまいか」
 その言葉に暫く迷ったように顔を見合わせていた一同ですが、一人の娘さんがそうっと手を挙げます。
「その、もしかしてその浪人者って長身で、無精髭の、厳つい感じの‥‥?」
 朽葉が家族から聞いた特徴と当てはまるその浪人の様子に頷くと、少年はその日見ておらず、代わりに浪人を見たという者が何人か、そのうち先ほどの娘を含む3人程が、浪人が当日の夜に逃げ去る様子を目撃していたことを話し始めるのでした。
 橘は奉行所を尋ねると、自身のことと用件を伝えて担当の同心に取り次ぎを求めました。
「何用かな。こちらは忙しい、手短に頼もうか」
 出てきたのは年若い同心で、不機嫌そうに橘を見るとそう切り出します。
 夫婦が殺されたのは夜中で、争うような物音があり、目撃者はいないうえ、その日だけ家族の元に行っていたなど信じられん、生家なのだから当然嘘を吐いてでも庇うだろうなどと横柄な態度で答え、遺体の様子などを何とか聞き出すと、もう良いだろうとさっさと席を立ってしまいます。
 橘が殺された夫婦の棲んでいた家の辺りへとやってくると、朽葉がちょうど詳しいことを話し始めてくれた者達と話をしていたところで、合流して判明した事柄を上げて話し合います。
 やはり近隣の者は浪人が夫婦とつるんで悪さをしていたことを知らなかったために、庇うという風になっていたことが分かり、もし役人にきいて貰える機会があるのならば証言するという約束をこぎ着けます。
 一方、ラティエル・純・青川の3人は浪人の足取りなどを追っていました。
 純は少年の兄から聞いた浪人の長屋へと行くも、人の気配がないのにそうっと戸を開けて中を覗くと、数日間留守にしている様子で室内は散らかし放題になっています。
 隣近所に聞いてみると、何やら事件のあった夜に一度戻って、それから出かけていったまま帰ってきていないそうです。
 何やら軒下に放り込んでいたらしいことを聞いて覗き込むと、燃えかすらしい物が見え、それを引っ張り出すと、それは男物の上着で、燃え残った部分には黒い染みが幾つか付いています。
「何か見つかったのか?」
「はい、これをみつけたのデス」
 着物の燃えかすを手にしている純にそう問いかけるのは、朽葉と情報を交換してから浪人の足取りを追ってやって来た橘です。純は頷いてその着物の燃えかすを橘へと見せ、それを証拠として確保すると、改めて長屋の住民に、ここ最近の浪人の羽振りや行きつけの店、どこに出かけていったかなどを尋ね、一人の大工がつい昨日偉く羽振りが良い様子で酒場に入り浸っていたことなどを話します。
「あの野郎、本当にいけ好かない最低の男よ。この長屋じゃあ嫌われ者でね」
 大工はそう言って男が脅しや強請で金を荒稼ぎしていたことなどを興奮した様子で話すのでした。

●その浪人
 その浪人を見つけたのは、青川が浪人が入り浸っていたという噂の酒場へと向かう途中の事でした。
 酔っぱらって上機嫌の様子で酒場へと入ってくる浪人は、すっかり安心しきった様子で、、ツケが堪っているから溜まった分を払ってからでなければ帰れと言う店主に、不釣り合いなほど細かな装飾を施してある豪奢な財布を取り出してぽんと金を放って、酒を出すようにと言いつけます。それを確認してから店を出る青川。欠伸混じりに店の側の路地から様子を窺っていると、同じく行きつけの酒場などを調べていた千紗兎が通りかかり、そこにいることを伝えます。
 他の仲間に浪人の居場所を伝えてから、千紗兎は女物の着物にうっすら化粧をして酒場へととって返すと、中へと足を踏み入れ、件の浪人者へと歩み寄ります。
 しなを作るようにして浪人へと相席をと言うと、浪人は好色そうな目つきで千紗兎を眺めつつ顎でしゃくって席を勧めます。
「羽振りが良さそうね?」
「まぁな、ちっとばかし運が向いてな」
 そう言ってにやりと笑う男に、酒を頼んで男へと酌をしながら煽てて次から次へと杯を干させる千紗兎。
「こんなに飲んで大丈夫なの?」
「なぁに、金のしんぺぇならいらねぇよぉ、がっぽり金ぁ入りやがったわ、変なくそがきが罪おっ被って代わりに流されっことが決まったはで、えれぇ、めでてぇんだよぉ」
 べろんべろんに酔っぱらって、むしろ自分が何を言ってるかも分からない状態で絡んでくる男にそう聞くと、男はにたにたと笑いながらそう言い、金なら問題ないと再び言って、ちらりと浪人には不釣り合いなほどの豪奢な財布を見せて自慢げに、極悪人を退治して手に入れた金だからな、などと得意げに言う浪人。
「じゃあ一躍正義の味方ってことですかぁ‥‥」
 千紗兎の言葉にそう言うこと、などと言ってからそろそろ女の所に戻る、などと言って立ち上がってよろよろとしながら金を払ってのろのろと店を出て行く浪人。
 青川から連絡を受けた一行は浪人を捕まえるために路地の陰に潜み待ち受けていたのですが、浪人が店から出ると、捕らえようとするのに刀に手をかけるのを見て、そのまま青川がスタンアタックを叩き込み、浪人を昏倒させます。
「‥‥あぁ、面倒臭い‥‥でも、ここであんたを逃がすともっと面倒になるんだよな‥‥」
 欠伸混じりに純や朽葉に縄で縛り上げられている浪人を見下ろしながら、青川は面倒臭そうにそう言って欠伸をかみ殺します。
「あんたが恨み持ってる人間を殺るのは勝手だよ。でもな、そのせいで子供が罪を着せられて島流しってのはどうかと思うぞ。第一、そんなんじゃロクな夢が見られないだろ」
 引き立てられて意識を取り戻した浪人に、青川はそう言い放つのでした。

●良く晴れた空の下で
「貴様はちゃんと供述も取らず先走りおってっ」
 激昂したように若い同心をしかりつけるのは、ラティエルを牢に通してくれた壮年の男性です。
 一行が出した証拠の衣服に浪人の持っていた、殺された夫婦の財布、そして付近住民の証言で牢から出された少年は、助け出してくれた一行の中にラティエルの姿を見ると、手を取って、言葉にもならない様子でその手に額を擦りつけて泣きじゃくります。
「いくら面倒な事だからって、貴重な証言を聞き流す事はオカシイでス。その所為で真実が曲がってしまったら、後悔する人や悲しむ人が少なからず出てきてしまうから‥‥だから、出来たらそこは改善して欲しいでス」
 そう言う純の言葉に頷いて約束する壮年の男。
 千紗兎は家族の元に送り届けて受け取った報酬を生活に役立てて欲しいとそのまま少年へと握らせます。
「本当に、皆様、ありがとうございました」
 そう言って、何度も礼を言うのでした。